映画「クラウド アトラス」感想
映画「クラウド アトラス」観に行ってきました。
アメリカ・ドイツ・シンガポール・香港の4ヵ国共同合作で、トム・ハンクス等の有名俳優が多数出演している作品。
今作では、作中に様々なバイオレンス・セックス描写に加えてゲイ描写までもがあるためPG-12指定されています。
内容的にはR-15でも違和感がなかったシロモノでしたが(苦笑)。
映画「クラウド アトラス」の舞台となる時代は、1849年・1936年・1973年・2012年・2144年・2321年の6つであり、それぞれに事情が異なる6人の主人公とそれに付随するエピソードが存在します。
1849年の奴隷貿易が華やかりし時代、南大西洋でアメリカへ帰る途上にある弁護士アダム・ユーイングの話。
1936年のイギリス・スコットランドで、映画のタイトルにもなっている幻の交響曲「クラウドアトラス6重奏」を完成させる作曲家ロバート・フロビシャーの話。
1973年のアメリカ・サンフランシスコで、かつてのロバート・フロビシャーのゲイ友達だったシックススミスが出会う、芸能ジャーナリストのルイサ・レイの話。
2012年のイギリス・ロンドンで、殺人事件を起こした作家ダーモットの著書がヒットしたことから荒稼ぎをするも、そのために生命を狙われた上に老人施設に監禁されることになってしまう、編集者ティモシー・キャベンディッシュの話。
2144年の元韓国・ソウルの上に新たに築かれているネオ・ソウルで、クローンでありながら革命家への道へ進んでいくソンミ451の話。
そして2321年、文明が崩壊し汚染された地球で、人食いを生業とするプレシエント族の脅威に怯えながら質素な暮らしを営むヴァリーズマン・ザックリーの話。
これら6つの時代の6人の主人公が織り成す6つのエピソードが、6つ全て同時に進行していくという破天荒な形で、映画の物語は繰り広げられていくことになります。
ひとつの時代のエピソードが終わったら次の時代へ……という形ではないんですね。
また、今作に出演している俳優さん達は、6つの時代のそれぞれで全く異なる役柄を担当しており、「ウォーリーをさがせ!」的なノリで彼らを探していくのも楽しみのひとつに入るかもしれません。
何しろ、彼らが演じる役柄の中にはチョイ役・端役的な人物どころか、作中に登場する写真の中に顔が写っているだけなシロモノまであるのですから(^_^;;)。
エンドロールでキャストと共にその全容が紹介されているのですが、「正解」を知った時は心の中で思わず唸ってしまったものでした。
細かいところで非常によく作り込んでいる作品だなぁ、というのがアレを見た時の感想でしたね。
登場人物達の設定も時代背景も全く異なり、一見全く無関係かつバラバラに展開されているかに見える各時代のストーリーは、しかし色々なキーワードや後代の視点などを駆使することで相互に関連性を持たせていますね。
たとえば、1936年のロバート・フロビシャーは、作曲を行う際に1849年のアダム・ユーイングの手記を探しており、その内容が途中で切れているのに不満を漏らしたりしています。
そのロバート・フロビシャーが作曲した「クラウドアトラス6重奏」は、1973年の主人公であるルイサ・レイがレコード店で手に取っていたり、2144年におけるネオ・ソウルのクローン喫茶?で奏でられていたりします。
逆に後代の視点から前時代の筋書きが明かされたり、ある時代の登場人物の台詞を別の時代の登場人物がそのままなぞっていたりと、各時代のエピソードとの相互関連性を示す要素が作中にはふんだんに盛り込まれています。
また、全時代共通と特徴として、各時代のエピソードを担う主人公達には、身体のどこかに彗星の痣が刻み込まれています。
これが何を意味するのかは作中では具体的に語られることがないのですが、各時代のエピソードを比較する限りでは、「彗星の痣がある人物=共通の魂を持つ存在」というわけではなさそうな感じではありますね。
今作は「輪廻転生」や「時代が変わり、何度生まれ変わっても同じ過ちや行動を繰り返す人間」というのがテーマにあるようなのですが、「彗星の痣がある人物」は各時代毎に全く共通項のない人生を送っているみたいですし。
作中描写から見た限りの設定としては、各時代で同一俳優が演じている登場人物が「輪廻転生」の関係にある、と考えるのが妥当なのではないかと。
作中で成立している恋人関係なども、同一の俳優さん同士の組み合わせが時代を超えて成立していたりもしますし、逆に1936年における主人公のゲイ関係や自殺のエピソードなんて、他の時代のどこにも共通項が存在しないですからねぇ。
6つの時代の物語は、2つが主人公死亡というバッドエンド、4つが将来に希望を見出すトゥルーエンドという形で終わっているという違いもあるのですからなおのこと。
とはいえ、全時代の主要登場人物に刻まれている「彗星の痣」が全くの偶然で存在するということはいくら何でもないでしょうし、こちらはこちらで「輪廻転生」とは全く別の意味が何かありそうな感じではあるのですが……。
個人的に気になったのは、2144年から2321年のエピソードの間に、如何にして人類の文明が滅亡し、ソンミ451が女神として崇められるようになったのか、という点ですね。
作中における2321年は「地球崩壊後106回目の冬」なのだそうで、これから逆算すると、地球における人類の文明が滅びたのは2215年前後ということになります。
ソンミ451が活躍する時代から文明崩壊までは、まだ70年以上の歳月があることになりますし、作中の2144年当時は統一国家が成立していたようなので、国家間による全面核戦争で文明が崩壊したとは考えにくいところです。
2321年のエピソードでは、過去の歴史を知るメロニムについて「地球は毒されている」と評していることから、核戦争レベルの地球全体の汚染が伴うような大破局が発生したであろうことは確実です。
致死性ウィルスによる疫病の大量発生程度のことでは、人類の人口激減は発生しえても地球全体の汚染まではさすがに伴いようがないのですし。
となると、2144年時点でも旧ソウルが水没するほどに進んでいた「地球温暖化による海面上昇」がさらに進行し、それと共に世界的規模で原発事故のごとき地球を汚染する大破局が発生し文明が崩壊した、ということにでもなるのでしょうか?
2321年に現存している旧文明の「海を走る船」には核融合エンジンが搭載されているとのことですし、そんな環境で今更原発に頼るのか、という問題もありますが(苦笑)。
あるいは、ソンミ451やチャン・ヘチュが所属していたレジスタンス組織のような存在が他にも大量に勃興し、レジスタンス組織と政府軍による内戦状態から核の応酬のごとき戦争にでも発展したのでしょうか?
これだと、ソンミ451が「レジスタンスの象徴」として崇められる理由もできますし、それが後代に神格化されて宗教信仰にまで発展したという筋書きにもある程度は納得がいくのですが……。
しかしいずれにせよ、ザックリーに過去の歴史について問われたメロニムも、「人類の欲望が知恵が追いつかないほどに大きくなった」ことが滅亡の原因だと述べただけで、具体的な理由や真相については結局触れず終いでしたからねぇ。
人類の文明が崩壊し地球が汚染された真相とは一体何だったのか?と色々想像力を掻き立てられる話ではありますね。
作中には一応カーチェイスやアクションシーンなどもあり、その手の描写が好きな方の要求にも対応した構成になっています。
ただ、今作最大の特徴である「6つの時代の6つのエピソードの同時進行」という形態は、やはりその分かりにくさから「観客を選ぶ」という一面があるのはどうにも否めないところですね。
実際、アメリカ国内では1億ドルの映画製作費に対して、かろうじてその4分の1を超えた程度の興行収益しか稼げていないようですし。
世界総合の興行収益では何とか黒字を達成したようなのですが。
単純明快なストーリーではなく、複雑な構成の物語を楽しみたい、という方にはオススメの映画であると言えるかもしれません。