エントリー

映画「リアル ~完全なる首長竜の日~」感想

ファイル 964-1.jpg

映画「リアル ~完全なる首長竜の日~」観に行ってきました。
乾緑郎の小説「完全なる首長竜の日」を原作とする、実写版「るろうに剣心」の佐藤健および「ひみつのアッコちゃん」の綾瀬はるか主演のSFミステリー作品です。

今作の主人公である藤田浩市と和敦美は、小学校時代の幼馴染で、現在は恋人同士の関係にあります。
同棲生活をしていて結婚まで視野に入れた付き合いをしていたであろう2人の関係は、しかしある日突然、和敦美の自殺未遂によって突然断ち切られてしまいます。
和敦美は自殺未遂から1年もの時間が経過してもなお意識が戻らず、また自殺した理由自体も全く不明。
何とか和敦美を目覚めさせたい藤田浩市は、和敦美が入院している病院の医師から「センシング」と呼ばれる先端医療機器の使用を提言されます。
「センシング」とは、昏睡状態となった患者の脳に他者が直接アクセスし、互いの意思疎通を可能にする最先端の医療機器技術のことを指します。
「センシング」の使用に際しては、患者と患者にアクセスする人間との相性も問われるようなのですが、幸いにして藤田浩市と和敦美の相性は良好だったのだとか。
今回の「センシング」の目的は、和敦美が自殺した理由と原因を明らかにすると共にその問題を解消し、和敦美が目覚める方向へと誘導すること。
そして藤田浩市は「センシング」を使い、和敦美との第1回目のコンタクトを図ることとなるのでした。

「センシング」で患者とアクセスできる時間は最大でも数時間程度。
その記念すべき最初の「センシング」で、藤田浩市は無事に和敦美の意識の中にダイブすることに成功します。
そこで彼が見たのは、住み慣れた2人の住居で一心不乱にマンガを描き続ける和敦美の姿でした。
意識の中における彼女は、自身が連載しているマンガの執筆に行き詰っているようでした。
藤田浩市は早速、和敦美に自殺未遂を図った理由について問い質すのですが、彼女は完全に自分の世界に浸りきっていて、藤田浩市の質問に回答を与えようとしません。
そして、自分が抱え込んでいるスランプを抜け出すために、幼い頃に描いた「首長竜の絵」を見つけてきて欲しいと藤田浩市に依頼するのでした。
「首長竜の絵」を見れば、和敦美の意識が戻るかもしれない。
そう考えた藤田浩市は、現実世界と「センシング」の双方で「首長竜の絵」の探索に乗り出すことになります。
しかし、「首長竜の絵」を探す過程で、藤田浩市の周囲では次々と不可解な事象が発生し始めるのです。
謎の怪現象に翻弄されつつ、藤田浩市は事の真相に迫ろうとするのですが……。

映画「リアル ~完全なる首長竜の日~」で重要なツールとして登場する「センシング」という先端医療技術は、ある種の人々にとってはまさに夢のような存在と言えますね。
何しろ、意識不明の重体にある人間の脳に直接アクセスし、様々な情報を引き出すことができるときているのですから。
意識不明の状態にある親族を長年にわたって看病・介護し続けているような家族などにとっては、喉から手が出るほどに欲しい技術ではあるでしょう。
それだけでなく、患者が暴力・殺人未遂事件等の当事者であった場合は犯罪捜査にも役立ちますし、また本人確認が必要不可欠な遺言などにも力を発揮するであろうことは確実です。
意識不明の患者だけでなく、精神病を抱え込んでいる患者相手にも「センシング」はかなりの威力を発揮しそうです。
作中の描写を見る限り、無意識の深層意識なども投影されているようなので、患者の心理状態や過去の事象を探ったりするのにはうってつけのツールと言えますし。
一方で今後の課題としては、患者および患者とアクセスする人間との間で相性が良いことが相当程度の割合で求められることにあるでしょうか。
作中でも、「センシング」が成功したというだけで周囲の医師達一同がわざわざ一斉に拍手していたりするくらいですから、アクセス者は誰でも良いというわけではなく、また成功率もあまり高くないであろうことが伺えますし。
まあ患者側からすると、全く知りもしない人間がズカズカと自分の意識の中に入ってくるというのは、プライバシーその他の問題に抵触する等の様々な問題や弊害を引き起こしかねない事態ではあるのでしょうけど。

プラスマイナスいずれにせよ、色々な事態や利益・問題が生じ得る画期的な技術ではありえるでしょうね、「センシング」という存在は。
他人の意識や夢の中にダイブして情報を引き出したり植え付けたりする、というコンセプト自体は、過去の事例でも2010年公開映画「インセプション」がありましたが、技術的にはこちらの方が現実味があるのではないかと。
「インセプション」の方は、どちらかと言えば「職人芸」的な側面の方が強調されていましたし、その使用用途も「犯罪行為を遂行するためのツール」でしかなく、汎用性が高いとは正直言い難いものがありましたから。
あちらはあちらで、今作のような使い方ができないわけではないと思うのですけどね。

今作は前回観賞した映画「オブリビオン」と同じく、物語前半と後半で主人公の立場が大きく変わることになります。
物語前半の展開全てが、実は事故で入院していた藤田浩市が外界から得た情報を元に構築した妄想の世界だった、というのは何とも凄まじく強引な展開ではありましたが(苦笑)。
ただ、その妄想世界に登場する自分以外の人物達は、外面だけで中身のないフィロソフィカル・ゾンビではなく、どう見ても普通の人間のごとき外見で意思も感情もあったわけなのですが、アレを藤田浩市は一体どうやって現出させていたのでしょうか?
作中前半の描写を見る限り、意識の世界では、人間は本人以外だとフィロソフィカル・ゾンビしかいないみたいな演出だったのですが……。
もっとも、後半判明する逆転の事実から考えると、実は「フィロソフィカル・ゾンビ」という概念自体が藤田浩市の頭の中で作り出された妄想の産物だった、という可能性も否定できないのですが。
マンガ家として自身が執筆していた猟奇作品辺りに出てきても不思議ではなさそうな設定ではありますからねぇ、アレは。
他の患者の「センシング」で同様の存在が出現している、というのであればまだしも、作中では藤田浩市以外の「センシング」実施例がないわけですし、作品世界における「フィロソフィカル・ゾンビ」の実在性については作中の描写や設定だけでは判断できないですね。

あと、物語終盤で藤田浩市と和敦美は、首長竜を相手に逃走劇を披露することになるのですが、ただ逃げるだけでなく「戦う」という選択肢はなかったのですかね?
物語前半では、和敦美(の妄想体?)がどこからともなく拳銃を持ち出してフィロソフィカル・ゾンビを撃ち殺しているシーンがあったのですから、それと同じように重火器の類を作り出したり、自分達に超人的な力を付与したりして、正面から首長竜を打ち倒すことも不可能ではなかったのではないかと。
和敦美(の妄想体?)が主張していたがごとく、所詮は「何でもあり」の意識の世界でしかないのですからねぇ。
まあ、藤田浩市にとっての首長竜は「幼少時のトラウマ」が形になったものでしたし、戦うこと自体が最初から不可能だった、ということなのかもしれませんが、あの時点では和敦美も隣にいたのですし、対抗できないこともなかったように思えてならなかったのですけどねぇ。
首長竜の形をしたトラウマに対し、藤田浩市は結局最後まで反撃どころか逃げることすらもできず、ひたすら無為無力を露呈していただけでしかなかったですし。
この辺りは、自力だけでの更生が極めて難しい精神医学の限界を表現した者でもあったりするのでしょうかねぇ。

SFミステリーと言っても、SF映画にありがちな派手な演出は全くありませんし、どちらかと言えばミステリー的な面白さを追求した映画であると言えるでしょうか。

ページ移動

トラックバック

リアル〜完全なる首長竜の日〜 from 佐藤秀の徒然幻視録

センシングは姉弟愛公式サイト。乾緑郎原作、黒沢清監督、佐藤健、綾瀬はるか、中谷美紀、オダギリジョー、染谷将太、堀部圭亮、松重豊、小泉今日子。タイトルは「リアル」なの ...

  • 2013/06/12 00:10:00

「リアル〜完全なる首長竜の日〜」意識の世界を彷徨った先にみたあの事件の後悔で生まれた首長竜の本当の正体 from オールマイティにコメンテート

「リアル〜完全なる首長竜の日〜」は乾緑郎原作の「完全なる首長竜の日」を映画化した作品で意識不明に陥った漫画家の女性を救おうと彼女の意識に入り込んで自殺に至った経緯など ...

  • 2013/06/12 01:29:00

黒沢清監督『リアル~完全なる首長竜の日~』佐藤健、綾瀬はるか : 主演 from 映画雑記・COLOR of CINEMA

注・内容に触れています。2011年に発表の乾緑郎の原作を、黒沢清監督が映画化した。『リアル~完全なる首長竜の日~』主演は佐藤健と綾瀬はるか。共演は中谷美紀、オダギリジョー、染谷将太、小泉今日子、堀部圭

  • 2013/06/12 01:51:00

リアル ~完全なる首長竜の日~ from うろうろ日記

試写会で見ました。 【私の感覚あらすじ】意識不明の相手の脳内に入り意識を覚醒させ

  • 2013/06/12 02:10:00

【リアル~完全なる首長竜の日~】完全なる前半ホラーの日 from 映画@見取り八段

リアル~完全なる首長竜の日~     監督: 黒沢清    出演: 佐藤健、綾瀬はるか、中谷美紀、オダギリジョー、染谷将太、堀部圭亮、松重豊、小泉今日子、青木綾平、川島鈴遥 公開: 2013年6月1日 2013年6月5日。劇...

  • 2013/06/12 04:11:00

リアル〜完全なる首長竜の日〜 from 映画情報良いとこ撮り!

リアル〜完全なる首長竜の日〜淳美は、自殺未遂をして、1年も目を覚まさないで居た。恋人である浩市は、先端医療・センシングで、淳美との意思の疎通を試みる。しかしこのセンシングを繰り返して行くうちに、不思議...

  • 2013/06/12 05:52:00

劇場鑑賞「リアル ~完全なる首長竜の日~」 from 日々“是”精進! ver.F

意識の中に、ダイブ…詳細レビューはφ(.. ) http://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201306060001/映画 リアル~完全なる首長竜の日~オリジナル・サウンドトラックサントラ SMD itaku (m...

  • 2013/06/12 06:12:00

「リアル~完全なる首長竜の日~」 from 或る日の出来事

小泉今日子さんが出ているから観る。

  • 2013/06/12 07:02:00

リアル 完全なる首長竜の日 : やっと出てきた首長竜 from こんな映画観たよ!-あらすじと感想-

 昨日は時間も取れ、映画の日ということで行ってきました。しかし、先日紹介した「体脂肪計タニタの社員食堂」、私が訪れた映画館では体重100Kg以上は無料とのことでした。正直、

  • 2013/06/12 12:36:00

リアル 〜完全なる首長竜の日〜 from 象のロケット

1年前、漫画家の淳美は自殺未遂により昏睡状態に陥ってしまう。 幼なじみで恋人の浩市は、淳美を目覚めさせるため、“センシング”という最新医療によって彼女の意識の中へ入っていく。 「なぜ自殺したのか」と問...

  • 2013/06/12 17:31:00

リアル~完全なる首長竜の日~ from とりあえず、コメントです

乾緑郎著の小説「完全なる首長竜の日」を黒沢清監督が映画化したSFファンタジーです。 キャラクターの設定を原作とは変えて佐藤健&綾瀬はるか主演で綴られる物語は どんな展開になるのか楽しみにしていました。 黒沢...

  • 2013/06/12 22:59:00

「リアル〜完全なる首長竜の日〜」 償いと赦しと救い from はらやんの映画徒然草

原作である「完全なる首長竜の日」は「このミス」大賞を受賞したということで出版され

  • 2013/06/12 22:59:00

リアル〜完全なる首長竜の日〜 from 悠雅的生活

閉ざされた出口。夢の残骸。首長竜の絵。

  • 2013/06/13 00:32:00

「リアル~完全なる首長竜の日~」☆『このミステリーがすごい!』がすごい! from ノルウェー暮らし・イン・原宿

選考委員満場一致で決まった『このミステリーがすごい!』大賞に選出された作品「完全なる首長竜の日」が原作。面白い「このミス」作品とかが映画化されると、たいてい「小説で読むときっと面白いんだろうねぇ」とな...

  • 2013/06/13 16:59:00

リアル〜完全なる首長竜の日〜 from 花ごよみ

原作は乾緑郎の小説「完全なる首長竜の日」監督は黒沢清。佐藤健、綾瀬はるかが主演、共演は中谷美紀、オダギリジョー、染谷将太等意識の中へ入り込みことができる「センシング」という、最新医療技術がキーポイント...

  • 2013/06/13 20:27:00

“雨の日の逢瀬”の利点は…(ハヤテのごとく!とか言の葉の庭(映画)とか) from アニヲタ、ゲーヲタの徒然草(仮)

【聖闘士星矢Ω 第60話】雨垂れ石を穿つ、の巻。強固な防御力を誇る相手に対して一点のみを辛抱強く集中攻撃し、最終的にその防御を打ち破る…というのは、大抵は主人公側が敵側に ...

  • 2013/06/13 23:49:00

黒沢清監督らしい作品。『リアル〜完全なる首長竜の日〜』 from 水曜日のシネマ日記

自殺未遂で昏睡状態になった恋人を救うため最新医療技術を通じて彼女の意識下に潜入した青年の物語です。

  • 2013/06/16 20:20:00

『リアル〜完全なる首長竜の日〜』 from ラムの大通り

----これって、カリスマ的な人気を誇る黒沢清監督の作品だよね。『叫(さけび)』『LOFT ロフト』などのホラー映画でよく知られているけど…?「原作はホラーというよりもミステリー。なにせ、あの 『チーム・バチスタ...

  • 2013/06/16 21:11:00

リアル〜完全なる首長竜の日〜 from いい加減社長の映画日記

最初は観る気はなかったんだけど、予告を観るうちに観たくなって・・・「オフィシャルサイト」【ストーリー】幼馴染みの恋人・淳美は理由も告げずに自殺を図った。昏睡状態の彼女を救うため、浩市は眠り続ける患者と...

  • 2013/06/16 23:38:00

★リアル〜完全なる首長竜の日〜(2013)★ from Cinema Collection 2

きみを救うため、ぼくは何度でもきみの<頭の中>へ入っていく。上映時間 127分 製作国 日本 公開情報 劇場公開(東宝) 初公開年月 2013/06/01 ジャンル ドラマ/ロマンス/SF 映倫 G 【解説】 第9回『このミステリーがすご...

  • 2013/06/17 00:02:00

リアル 完全なる首長竜の日 ★★★ from パピとママ映画のblog

第9回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した乾緑郎の小説「完全なる首長竜の日」を、佐藤健&綾瀬はるか主演、黒沢清監督で映画化。浩市と淳美は幼なじみで恋人同士だったが、淳美は1年前に自殺未遂で昏睡状態...

  • 2013/06/17 20:02:00

リアル〜完全なる首長竜の日〜 映像はいろいろ実験的だったが from 労組書記長(←元)社労士 ビール片手にうろうろと〜

【=32 うち今年の試写会5】 富士山に登ってみたいなって思うのだ。せっかく近くに住むようになったから。天気のいい日は波乗りしながらいつも美しい富士山を眺めているし。やっちゃおうかな。 自殺未遂が原因で1年も...

  • 2013/06/18 09:24:00

愛は蘇生もできます?!(^^;〜「リアル〜完全なる首長竜の日」〜 from ペパーミントの魔術師

たとえば、こんな機械ができたとしたら話がしたいよね・・・人の心の中に入り込んで精神科医や心理学者が難しい言葉で語るなんたらを5歳の子供にでもわかるように見て感じられたら。昨日まで楽しく一緒に食事してた...

  • 2013/06/21 10:00:00

リアル 完全なる首長竜の日 from だらだら無気力ブログ!

綾瀬はるかが可愛かった!

  • 2013/06/23 00:13:00

リアル〜完全なる首長竜の日〜 from 映画的・絵画的・音楽的

 『リアル〜完全なる首長竜の日〜』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。(1)黒沢清監督の作品と聞いて(注1)、映画館に出かけてみました。 本作の冒頭では、マンションの部屋で、浩市(佐藤健)と淳美(綾瀬はるか)とが...

  • 2013/06/29 20:00:00

リアル〜完全なる首長竜の日〜 from いやいやえん

前半のホラー映画っぽい仕上がりは何のため?ミステリー・ファンタジー・SF・ロマンと色々ごった煮の本作、ただ単に綾瀬はるかと佐藤健のために観た人は「むむ?」となるんじゃないのかなー。ちなみに原作では姉弟の...

  • 2013/12/28 05:38:00

トラックバックURL

https://www.tanautsu.net/blog/index.php/trackback/964

コメント

  • コメントはまだありません。

コメント登録

  • コメントを入力してください。
登録フォーム
名前
メールアドレス
URL
コメント
閲覧制限

ユーティリティ

2024年11月

- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ページ

  • ページが登録されていません。

ユーザー

新着画像

新着トラックバック

Re:デスクトップパソコンの買い換え戦略 ハードウェア編
2024/11/19 from ヘッドレスト モニター 取り付け
Re:映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」感想
2014/11/27 from 黄昏のシネマハウス
Re:映画「プリンセストヨトミ」感想
2014/10/22 from とつぜんブログ
Re:映画「ひみつのアッコちゃん」感想
2014/10/19 from cinema-days 映画な日々
Re:映画「崖っぷちの男」感想
2014/10/13 from ピロEK脱オタ宣言!…ただし長期計画

Feed