山本弘トンデモ資料展
2009年度版15-A


このコンテンツの
年度別一覧ページへ



山本弘のSF秘密基地BLOG
2009年11月29日 13:56

『超ミステリーの嘘99』






 東京怪奇現象研究会編『超ミステリーの嘘99』(双葉社)という本が出ている。
 巻末の主要参考文献には、僕も書いているASIOS『謎解き超常現象』(彩図社)が挙げられている。実際、多くの項目が『謎解き超常現象』を参考にして書かれているようだ。
 まあ、引用されるのはいっこうにかまわない、と言うか大歓迎なんだけど……。
 明らかにこの著者たち、題材に興味を持っていない。UFOや超常現象が好きな人間なら絶対に犯さないはずのミスを何箇所も犯しているのだ。
 たとえば、【03 ロズウェル事件狂想曲の真相① 発生から40年間も事件は忘れ去られていた!!】には、こんな記述がある。
(前略)事件発生から実に40年もの間、何故かロズウェルは人々から忘れられることとなるのだ。これは不自然だろう。
 ところが突如としてロズウェル事件は発掘される。1984年のことだ。ロサンゼルスのTV番組プロデューサーであるジェィミー・シャンドラの元に匿名の手紙とフィルムが届く。手紙には「MJ12に関する概要説明書」(P24参照)という書類が添付されており、ロズウェル事件を“秘密裏に処理した”というMJ12委員会(マジェスティック12)という謎の謀略機関の存在とその構成メンバーが詳細に記されていた。

 おいおい、ロズウェル事件発掘のきっかけがMJ-12文書って(笑)。順番がまるで逆だろ。
 ウィリアム・ムーアとスタントン・フリードマンが1978年からロズウェル事件の再調査を開始し、さらに1980年、チャールズ・バーリッツとムーアの共著の『The Roswell Incident』(邦訳『ニューメキシコに墜ちた宇宙船』〔徳間書店・1981〕が出て、ロズウェル事件が一気に有名になった……なんてことは、UFOマニアなら常識なんだけど。
 だいたいなんで「40年」なんだ? 1947年から84年じゃ、37年だろう。
【63 FBIに「超能力捜査官」など存在しない!! 米ソ超能力研究は「成果なし」で終了していた!!】

 ここは明らかに『謎解き超常現象』の僕の担当した文章を参考にしている。しかし、トンデモないことが書いてあった。
「FBI超能力捜査官」という肩書きも、マクモニーグルが勝手に名乗っているだけだ。アメリカ大使館占拠事件を解決したのは彼ではなく特殊部隊デルタフォースだし、田村裕の父親の居場所が見つかったというストーリーもスタッフのヤラセだという。

 デルタフォースはアメリカ大使館占拠事件を解決してません!(笑)
 僕が『謎解き超常現象』に書いた文章はこう。
 イランのアメリカ大使館占拠事件では、アメリカは特殊部隊デルタ・フォースを送りこんで人質を救出しようとしたが、作戦は途中で中止された。しかも撤退の際にヘリコプターが輸送機と衝突、8人の死者が出る惨事になった。結局、人質は事件発生から444日も経って、イラン政府によって解放された。

 こんなひどい誤読をするとは、よほど急いで書いたんだろうか。
 それに「FBI超能力捜査官」と名づけたのは日本テレビのスタッフであって、マクモニーグルじゃないんだけど。(まあマクモニーグルがそれを黙認しているのは確かだが)
 これも僕は、
(前略)「FBI超能力捜査官」というのは、日本テレビのスタッフがつけた呼称にすぎないのだ。

 と、ちゃんと書いているのだが。
【76 太陽系が「フォトン・ベルト」に包まれるという人類滅亡説は似非科学だった】

「フォトン」とは、陽子と電子が衝突する際に生まれる素粒子だ。(後略)

 フォトン・ベルト本にはよく、フォトンは「電子と陽電子が衝突した際に生まれる」と書かれている。この説明自体は間違いではない。このライターは陽電子という言葉を知らず、「陽子」の誤植と思ったのだろうか?
(前略)フォトンといってもただの「光」だ。フォトンが危険だというならば、電磁波もX線も赤外線も電波も、目に見えなければすべてが危ないように思えてしまう。

 X線も赤外線も電波も電磁波の一種なんですけど(笑)。「目に見えなければすべてが危ない」というのも、何が言いたいのかよく分からない。
 これも僕はこう書いている。
 そもそも、フォトンというのはただの「光」である。厳密に言えば、光を含めた電磁波である。太陽から発する可視光線や赤外線や紫外線、人体から発する赤外線、テレビやラジオや携帯電話の電波、レントゲン撮影で用いられるX線……これらはすべてフォトンなのである。

 科学をぜんぜん知らないライターが、僕の文章をものすごく不正確に要約したのが分かる。
 繰り返すけど、引用するなら正しくやっていただきたい。
 
 他にも、「いくらなんでもそれはない」という記述がいろいろ。
【44 世界中で目撃される怪鳥ビッグバードだが…古代の翼竜は飛べなかった説が有力だった!】

 ちっとも「有力」じゃありませんって(笑)
 東京大学の佐藤克文氏が唱えた説のことだろうが、そもそもこの人の専門は海洋生物学で、古生物学は専門外なんである。
 ちなみにその主張は、「体重40キロ以上の鳥は、風速ゼロの環境下では離陸するのに十分なだけの羽ばたきができない」というもの。しかし、翼竜がはばたいて飛んでいたんじゃなく、もっぱら滑空していただろうというのは、古生物学の世界で何十年も前から言われていたことである。「はばたいて離陸できなかった」と「飛べなかった」はまったくイコールではないのだ。
 実際、40キロを超えるハンググライダーがいくらでも飛んでいる。翼竜だって同じで、崖の上や斜面からでもジャンプして滑空すればいいだけのことだ。
 僕もビッグバードはいないとは思うけど、否定するのにそんなトンデモ説を持ち出されてもなあ。
【67 「ノストラダムスの大予言」は複雑な散文形式 原文を読めばなんとでも解釈可能なポエムだった!!】

 ノストラダムスの予言は「散文」じゃない。
 かの有名な「恐怖の大王」の出てくる第10章72番の詩を見ても明らか。1行目の末尾と3行目の末尾、2行目の末尾と4行目の末尾が韻を踏んでいる。

L'an mil neuf oens nonante neuf sept mois,
Du ciel viendra un grand Roy d'effrayeur,
Resusciter ie grand Roy d'Angolmois,
Avant apres,Mars regner par bon heur.


 この詩についての『超ミステリーの嘘99』のライターの解釈は、「大雨や竜巻を指しているだけかもしれない」というお粗末なもの。一番有力なフランソワ一世説に触れてないのは落第である。
 さらにこのライター、「通称『ノストラダムスの大予言』と呼ばれる著作『諸世紀』」なんて書いている。『諸世紀』という題が誤訳であることもご存じないらしい。

【82 「赤穂浪士=四十七士武士道の鑑」にあらず 英語圏では「47人のテロリスト」だった!!】

 だが彼らは、英語圏では「47 terrorists」(47人のテロリスト)として知られる。いくら主君の無念を晴らすためとはいえ、謀議をめぐらせてテロ攻撃を仕掛けたことに変わりない。(後略)

「"47 terrorists"+kira」とか「47 terrorists"+ronin」とかで検索したけどヒットなし。ほんとにそんなこと言われてるの?

 いちばん笑えたのはこれ。
【94 ペットボトルや古紙リサイクルは環境に優しくない!! ゴミは分別しないほうが「エコ」だった!!】

(前略)実はペットボトルをリサイクルするためには、新品を作るときの3.5倍もの石油が必要となる。(中略)実際のところ、製品として再び使われているペットボトルは3~4%に過ぎない、残りのペットボトルは、リサイクルするふりをしながら埋め立てや焼却処分に回されているのだ。

 うわあ、こいつ武田邦彦教授の言ってること信じてやがる!?(笑)
 あれは捏造だって言ってんのに。
 翼竜の件もそうだけど、オカルトやニセ科学を批判する本でニセ科学を広めちゃだめだよなあ。

 不思議なのは、巻末の参考資料リストの中に、と学会や山本弘名義の本が1冊もないこと。
 皆神龍太郎・志水一夫・加門正一『新・トンデモ超常現象60の真相』は入っているのに(「龍」の字が間違っているうえに、なぜか加門正一氏の名が抜けているが)、なぜか『トンデモ超常現象99の真相』はない。
 それどころか、『「環境問題のウソ」のウソ』も『超能力番組を10倍楽しむ本』も『トンデモノストラダムス本の世界』も『人類の月面着陸はあったんだ論』も入っていない。武田邦彦氏の本は3冊もあるのに(笑)。すごく不自然なセレクトのように思えるのだが。

 最大の問題は、対象に対する愛情がまるで感じられないこと。UFOやUMAや超常現象にまるで関心のないライターが、仕事を依頼されて、適当に資料を集めて適当に引用して作った……という感じがする。
「好きこそものの上手なれ」というやつで、やっぱり好きでない人間が書いても良い本にはならんのだろうな。
この記事へのコメント
「好きこそものの上手なれ」…よく使われる言葉ではありますが、至言ですよね。

私が山本先生のファンである大きな理由の一つは、小説からもエッセイからも、溢れんばかりの「SFへの愛」がひしひしと伝わってくることです。
私のような「SF命」の人間には、これが心地良くてたまりません。
また、その「愛」が、必然的にご著作の高い完成度にも反映されていることは明確です。

それにひきかえ、某「黒豹…」やら、SFのみならず、まともに本を読んだ経験のほとんど無い素人が書いてしまった西暦3000年の未来を舞台にした小説の酷さときたら…おっと、これ以上は罵詈雑言が止まらなくなってしまうので自粛しておきます(笑)
Posted by ポコイダー at 2009年12月01日 00:50
笠倉出版の「超奇怪X-ファイル108」というムックのシリーズもと学会やASIOSの本を参考文献に上げながら無理矢理オカルト的結論を導き出してます。コンビニ売りのムックだとそういうのが多いですね。
Posted by 猫遊軒猫八 at 2009年12月02日 16:31
 どうも、この本で書かれていることは、「裏の真実」について触れられていないのが明白である。もともと、「ミステリー」というものは、科学でなんでも解けるほどちゃちいものではない。著作者は、どうやら大きな間違いを犯してしまっていることにまるで気付いていないようだ。
 私が言いたいこと。それは、「科学は万能にあらず」,「真実は裏にあり」ということである。物事は何でも「表裏一体」。このことを深く頭に留めておいてもらいたい。光あれば闇がある。表と裏。真実は、常に「裏の闇の中」にある。
 これを「東京怪奇現象研究所」とやらに面と向かって訴えたいものである。
Posted by 嘘の裏の嘘 at 2009年12月03日 13:54
初めてコメントさせていただきます。あくまでトンデモ本シリーズなどは初心者向けに概要を分かりやすく解説した入門書でしかない訳で、もっと詳しいことを知って面白い本を書きたいと思ったらそれこそさまざまなジャンルの本を読み漁って研究しなければいけないというのに… 
どんなジャンルにもいえるのですが中途半端な知識をひけらかして得意気になっているとそれこそ矢口(笑)みたいにウザがられるだけかと 
トンデモ本シリーズの良い所は読み終わった後
「やべぇ俺どんだけ頭悪いんだよ…もっと勉強しないと笑われるぞ。」
と無性にNewtonや日経サイエンスを立ち読みしたくなる点ですね。これからも応援しています。
Posted by 鮎方 at 2009年12月05日 15:10
これ、調べてみたらいわゆるコンビニ本ですね。(1コインで買えるやつです)

正直な話コンビニ本に質を求めちゃいけないような気がします。


あと某所のレビュー…(´・ω・`)ショボーン
Posted by Xbeta at 2009年12月05日 20:09

このコンテンツの
年度別一覧ページへ

殿堂入り作品一覧へ 奇説珍説博物館
トップページへ
部門別トンデモ特別賞へ