考察シリーズの「ロイエンタールの叛乱 その動機と勝算」を読みました。非常に面白かったのですが、以来、気になって仕方の無いことがあります。
それは、ベルゲングリューンの最期の台詞です。
ラインハルトに対する痛烈な批判、ですよね、あの台詞って。
どうして、オーベルシュタインやラングに対する批判じゃなかったのでしょう?
どう考えても、ロイエンタールの叛乱に対して、ラインハルトが他のどんな対処ができたとも、思えないのですけれど。ベルゲングリューンの台詞って、まるでラインハルトがロイエンタールを排除するために、策謀を練っていたかのような口ぶりで、どうにも腑に落ちません。
ロイエンタールの叛乱の動機は私「ラインハルトに対する八つ当たり」だと思っていたので、一層疑問なのです。絶対ロイエンタールが出頭すればラインハルトは許したと思うんですよね。ロイエンタールもいわば被害者みたいなものですから。なのに、敢えて勝算の無い叛乱に踏み切ったのは、ウルヴァシーから新帝都に逃げ帰ってしまったラインハルトに対する当てつけとしか。
そんな訳で、ロイエンタールの叛乱に対して、ラインハルトには一切非が無いと思うのです。なのにベルゲングリューンったら、酷すぎる。武器を携えずに皇帝の元へ赴こうとロイエンタールを諭した人とも思えません。ロイエンタールが亡くなって、逆上していたとも思えないのですけれど。
皆様、どうか、よろしかったら、ご意見をお聞かせください。
「皇帝陛下にお伝えしてくれ。忠臣名将をあいついで失われ、さぞご寂寥のことでしょう、と。次はミッターマイヤー元帥の番ですか、と。功に報いるに罰をもってして、王朝の繁栄があるとお思いなら、これからもそうなさい、と」
(9巻220ページ上段)
批判というのは「功に報いるに罰をもってして」というくだりですね。
さて、ここで問題となるのがベルゲングリューンが何を念頭において「功と罰」と言っているかです。
単純に叛乱討伐を罰と言っているとは思えません。
出頭を勧めたのは他ならぬ彼ですから、討伐は分かりきったことです。
それをわざわざ「功に報いるに罰をもってした」と批判するようでは矛盾です。
寧ろこれは懲罰の「罰」を意味しているのではなく、
何らかの比喩と考えた方がよさそうです。
ここで浮かぶのが、オーベルシュタインとラング、特にラングです。
今回の叛乱事件で、裏で糸を引いていたと思われていたのがこの両者です。
ベルゲングリューンから見れば、
今回の事件は、功臣を差し置いて走狗を重用したことが原因だと。
つまり、臣下に対しての「罰」を取り仕切っていたのが、
オーベルシュタインとラングであり、
これらを重用したことを「功に報いるに罰をもってした」と批判しているのではないでしょうか。
特にラング。百歩譲ってオーベルシュタインは認めるにしても、
ラングは私心丸出しで自らの出世のために「罰」を利用していたのは明らかですから、
そういう佞臣を重用して臣下に対しての「罰」を取り仕切らせていたことを「功に報いるに罰をもってした」と。
>絶対ロイエンタールが出頭すればラインハルトは許したと思うんですよね。
>ロイエンタールもいわば被害者みたいなものですから。
両者の間に壁が無ければロイエンタールも迷わずそうしたでしょう。
ですが現実には両者を分かつ壁があった。オーベルシュタイン・ラングという名の。
奴隷として生きるか、人間として死ぬか選択を迫られた場合、後者を選ぶ人間がそんなに特殊とは思えません。
Merkatzさま
丁寧なレス有難うございます。
> 批判というのは「功に報いるに罰をもってして」というくだりですね。
> さて、ここで問題となるのがベルゲングリューンが何を念頭において「功と罰」と言っているかです。
> 単純に叛乱討伐を罰と言っているとは思えません。
> 出頭を勧めたのは他ならぬ彼ですから、討伐は分かりきったことです。
> それをわざわざ「功に報いるに罰をもってした」と批判するようでは矛盾です。
> 寧ろこれは懲罰の「罰」を意味しているのではなく、
> 何らかの比喩と考えた方がよさそうです。
> ここで浮かぶのが、オーベルシュタインとラング、特にラングです。
> 今回の叛乱事件で、裏で糸を引いていたと思われていたのがこの両者です。
> ベルゲングリューンから見れば、
> 今回の事件は、功臣を差し置いて走狗を重用したことが原因だと。
> つまり、臣下に対しての「罰」を取り仕切っていたのが、
> オーベルシュタインとラングであり、
> これらを重用したことを「功に報いるに罰をもってした」と批判しているのではないでしょうか。
> 特にラング。百歩譲ってオーベルシュタインは認めるにしても、
> ラングは私心丸出しで自らの出世のために「罰」を利用していたのは明らかですから、
> そういう佞臣を重用して臣下に対しての「罰」を取り仕切らせていたことを「功に報いるに罰をもってした」と。
なるほど、比喩でしたか。
つまりベルゲングリューンはラングを重用していたことを批判したということですね。
それでしたら、よく判ります。
> >絶対ロイエンタールが出頭すればラインハルトは許したと思うんですよね。
> >ロイエンタールもいわば被害者みたいなものですから。
>
> 両者の間に壁が無ければロイエンタールも迷わずそうしたでしょう。
> ですが現実には両者を分かつ壁があった。オーベルシュタイン・ラングという名の。
ラインハルトはラングを嫌っていましたし、対してロイエンタールには絶対の信頼を寄せていましたから、ラングが壁になったかどうか、疑問は多少あるのですけれど。
願望かもしれないですけれど、オーベルシュタイン・ラングは障害ではなかったと思うのですよ。
障害はむしろラインハルト・ロイエンタールの矜持の高さではないのか、と。
互いに自分に非は無いと信じて、妥協を頑なに拒んだ結果だったのではないか、と。
それで私一層ラインハルトに同情的な感想を抱いてしまったと言うか。ベルゲングリューン酷いと思ってしまったんですよね。
> 奴隷として生きるか、人間として死ぬか選択を迫られた場合、後者を選ぶ人間がそんなに特殊とは思えません
同感です。ですから私ロイエンタールが凄く好きなんですよね。
ベルゲングリューンにあれだけの言葉を言わせたのは、純粋な怒りと悲しみだと思います。
自分の仕えた偉大な、「神の領域に席を列する。」(全艦出撃3より)上官を二人もラインハルトのミスによって殺されたのですから。
そして、周りはそのラインハルトを偉大と讃えるのですから、怒りも湧くでしょう。
結局、軍としては勝利であっても戦死した本人や家族、友人にとってはその人しか居ない。
帝国軍はアスターテで15万人も戦死してるんですよ。
と言うわけで戦争は現実にはない方がいいのでしょうが、血を流してでも守らなければならない物も有るのも確かです。
佐々木さま
レス有難うございます。
> ベルゲングリューンにあれだけの言葉を言わせたのは、純粋な怒りと悲しみだと思います。
> 自分の仕えた偉大な、「神の領域に席を列する。」(全館出撃3より)上官を二人もラインハルトのミスによって殺されたのですから。
> そして、周りはそのラインハルトを偉大と讃えるのですから、怒りも湧くでしょう。
> 結局、軍としては勝利であっても戦死した本人や家族、友人にとってはその人しか居ない。
初めは私もその様に考えていたのですけれども。
考察シリーズを読んでみるとですね、ロイエンタールが叛乱を起こした動機がどうも判り難いというか。
叛乱を起こさなければならない必然性も、叛乱が成功する勝算もないというか。
必然性も勝算も無い戦いに身を投じるなんて、自殺の様じゃないですか。
ラングを重用して策謀を未然に防げなかったことに関しては、確かにラインハルトのミスかもしれませんが。
だからといって、ロイエンタールがラングの策謀に乗ってやる義理はないでしょう。
ですから、一見ロイエンタールはラングに嵌められたように見えますけど、
自主的に叛乱を起こしたのでは、と思いまして。
ロイエンタールが自主的に起こした叛乱の責任をラインハルトに求めるのは
筋が違うのじゃないの?と思ったのでした。
キルヒアイスはともかく、ロイエンタールの死までラインハルトのミスとしてしまうのは、
あまりにロイエンタールの主観を無視した意見のような。
ロイエンタールは嵌められた自分を認めたくないが故に、
自ら叛乱を起こしたのだというスタンスを貫いて死んだのでしょう?
ロイエンタールの反乱は、ラングにとっては思う壺でも、
ラインハルトにとっては、したたかな平手打ちだったと思うのです。
有能で信頼のおける側近に裏切られて、堪えない主君なんています?
それを、ラングを処罰する口実を見つけられずにいただけで、
それほど悪し様に言われてしまうのは、なんだか可哀想な気がしまして。
それで腑に落ちない、と。
ベルゲングリューンの悲しみや怒りが理解できない訳ではないのですけれどね。
一部以前の書き込みの繰り返しのようになってしまいました、長々とすみませんでした。
ロイエンタール自身は、自分の意志で反乱を決意したにしてもベルゲングリューン以下幕僚たちにはロイエンタールがはめられて、このような自体になったとの思いがあったでしょう。
そして、ロイエンタールをはめるほどの人物は、ラングごときでは駄目なのです。
ロイエンタールはラングごときにはめられるような男ではない以上、その責任はオーベルシュタインかラインハルトしか居ないわけです。
キルヒアイスが死んだのもこの二人のせい、そして彼が死んだときにより重大なミスをしたのはラインハルト。
だkら、今回もラインハルトの方が悪い。
言いがかりに近いけど、自らの精神安定のためには他になかったのでしょう。
こちらこそ、有難うございます。
キルヒアイスを失ったラインハルトが強大な黒幕の存在を求めたのと同じ心理ですね。
やはり、そう考えるのが一番腑に落ちるのでしょうね。
それにしても、ロイエンタールも罪な人ですね。
はじめて投稿します。
ここに気付いたのは半年前で、しかも田中作品とは無関係のヤフー検索でひかかったのがきっかけ。
まるで、ハイネセンのガイドブック片手に観光してたら、クーデターで監禁されたビュコックのところへ来てしまったかのよう(笑)
これまた久しぶりに来たのでついカキコ気分になりました。
そのきっかけとなったのが、「ロイエンタールの叛乱」です。ここはほぼ全てを以前にさらっと読みました。ここで、叛乱が作家のこじつけや無理があるとの意見が多くて、少しびっくりしたのを覚えています。
というのも、私は登場人物で、ロイエンタールが一番好きですが、その理由が、あの場面が最も共感できたからなのです。私が当人であれば、同じ行動をしていましたし、部下であれば、ベルゲングリューンより能動的に動いていたでしょう。
しかし、これでは、私が現実にクーデターや叛乱を起こそうにも実行以前に頓挫してしまうではありませんか!(笑)
彼ほど、才幹も自負心も野心もないので、無理して起こす必要はないんですけどね。
ついでに、銀英伝はかなり上位に好きな作品です。
矛盾について色々意見がありますが、科学・物理の分野は私はさっぱりですが、人間の能力や心理はリアリティが欠けるほど逸脱を感じません。
それを言うなら、身の回りや歴史上の人物の方がもっとブレがひどいと感じますね。あ、これは自分も含みますね(笑)
ただの蒸し返しだったらごめんなさい。
確か、ここのベストにロイエンタールの反乱についてがありましたよね。(すばらしい議論です!!)
私、はこのページを知って日が浅いので、当時とニュアンスが違うかもしれませんが、全体的には以下のような展開だったと思います。
ロイエンタールが凡人ならともかく「帝国の双璧」と呼ばれるほどの名将という設定になっている。その割には感情に流され、無謀な(戦略的イニシアティブを相手に取られた形)反乱を起こしてしまうなんて、始めに反乱ありき、っていう作者の露骨な作品構成はよくない。という意見と
名将といっても人間なんだから、感情に流されるときもあるし、ロイエンタールの刹那的な生き方や、誇り高い性格からあのような選択をすることが理解できる。
という意見に分かれていたと思います。
それが、では「名将とはなんぞや」というように展開していったような気がします。
では私見を述べさせていただきますと、前者(確か不沈戦艦さんなどの意見だったと思いますが・・・)に分があると思います。
まずロイエンタールは名将ということにしましょう。
名将がときに感情的になったり、情勢を読み違えて謀略にはまって殺されてしまうのはよくある話です。(斉王韓信とか)
時に感情に流されるにしろ、時に簡単な謀略であっさり死んでしまうことがあっても、そういう人も名将である可能性はあります。
何より、作品で名将といっているんだから、名将ということにしないと、共通理解ができません。
でこの問題のやっかいなところは、名将がどの程度感情的になるか、という程度論だということです。
極論を言えば
「ロイエンタールはそこまで馬鹿か?そんなはずはないだろう」っていう考えと「人間として理解できる」っていう解釈の違いは、うめることは不可能です。
それは、前者の人が「これまでの彼の知識・言動から見て反乱は考えられない」といっても、「時として名将も愚かしくなく場合もある」と抗弁してしまえば、これまでの作品展開からの推測は意味をなさなくなるからです。つまり共通理解の作りようがない。
ただ、私はロイエンタールの反乱という展開は作品としての盛り上がりに必要だったと思いますし、そのように作品を作る以上、ラインハルトもロイエンタールもお互い悪くないけど、でも戦っちゃった。っていう展開にしなくてはならず、両者有能で理解力があって柔軟な思考の持ち主という設定なので、そういう展開に持っていくのはやはり無理があると思いました。
> でこの問題のやっかいなところは、名将がどの程度感情的になるか、という程度論だということです。
>
> 極論を言えば
> 「ロイエンタールはそこまで馬鹿か?そんなはずはないだろう」っていう考えと「人間として理解できる」っていう解釈の違いは、うめることは不可能です。
> それは、前者の人が「これまでの彼の知識・言動から見て反乱は考えられない」といっても、「時として名将も愚かしくなく場合もある」と抗弁してしまえば、これまでの作品展開からの推測は意味をなさなくなるからです。つまり共通理解の作りようがない。
ま、この件に関しては、この結論で決着していますから、これ以上私から付け加えることはありません。
> ただ、私はロイエンタールの反乱という展開は作品としての盛り上がりに必要だったと思いますし、そのように作品を作る以上、ラインハルトもロイエンタールもお互い悪くないけど、でも戦っちゃった。っていう展開にしなくてはならず、両者有能で理解力があって柔軟な思考の持ち主という設定なので、そういう展開に持っていくのはやはり無理があると思いました。
もちろん、田中芳樹は最初から「ロイエンタール元帥の反乱事件」を作中で発生させるつもりでキャラクター造形をしているのでしょうから、反乱事件が起こること自体は構わないんですけど、どうせやるなら「他者の底の浅い陰謀に流されて、ズルズルと反乱することになってしまった」なんてやりようより、「ロイエンタールの断固たる意志による、主体的・計画的な反乱事件」とした方が、「名将の反乱事件」としては説得力があるのではないか、と私は考えている訳です。
そういうことですね。
過去ログをさらっとですが、読み直しました。
それでですが、
いちおーの私も理由を言っておきます。反対意見への論破のつもりはありませんが、討論の場の結論に基づいてしまうとどうも私は逆切れ中坊っぽくなるような気がするので(笑)。それにやっぱりクーデターなり叛乱なり起こす際に協賛者がいたほうがやっぱいいかなと思いますしね(笑)。
ですので、掲示板のことも踏まえる部分もあろうかと思います。
まず前提として(このエピソードだけではありませんが)、ロイエンタールの叛乱について考えるのに、9巻の状況だけを考えるわけにはいかないことです。これは論争のところでも幾人かの人が触れられてますよね。
さて。
それでですが、
ラインハルトの知己を得て、彼の野望を知り、忠誠を誓ったことによって、早い栄達と新時代の道を歩みつつあったロイエンタールに大きな事件が訪れます。
それは第二巻の後半です。リヒテンラーデ公一派粛清直後のラインハルトとの会話とともに、重要なのが多くの人に慕われた好漢ジークフリード・キルヒアイスの死です。
これは何もロイエンタールだけに影響を与えたわけではありませんが、ここで指摘したいのは、キルヒアイスの死にオーベルシュタインがかなり影響を及ぼした事実です。
他者から見れば、決して断ち切れぬと思った主君ラインハルトと無二の親友キルヒアイスとの関係に亀裂を与えたオーベルシュタインという人間に、(この件だけが原因ではないにしても)程度の差こそあれ誰もが嫌悪、薄気味悪さ、畏怖といった感情を抱くのはごく当然でしょう。
これは推測というより空想ですが、よりドラマチックに言えば、ロイエンタールはこの三者の関係(ラインハルト、キルヒアイス、オーベルシュタイン)とその後の影響を誰よりも敏感(もしくは過敏)に感じ取っていたのかもしれません。回廊の戦いで、皇帝がキルヒアイスが夢に出てきたと言いましたが、記述にあったヒルダが感じた臣下の感性の揺らぎが、あの場で最も大きかったのがロイエンタールというのは面白いかもしれませんね。
ま、それはともかく。
さらにロイエンタールという人間にはもう一つの伏線、もしくは見逃せない要素があります。
野心家、梟雄としての面です。
これはラインハルトとの邂逅、粛清報告の際のラインハルトとの言葉によって漠然としながらも形となり、時間の経過とともにより具体化していきました。
オーベルシュタインへの嫌悪・敵意については度々の言動で容易にわかります。そして、どなたかが指摘していましたが、謀略家としてのいささか過大な評価です。ヤンの暗殺後の言葉でもそれはわかりますが、果たしてこれはロイエンタールだけの突出した認識と言えたでしょうか?
「ヤン・ウェンリー暗殺を仕組んだのは、冷徹犀利な軍務尚書オーベルシュタイン元帥」
証拠がないまま本気で信じる人は少ないでしょうが、「奴ならやりかねない」と思うのは普通の感情だと思います。
話しが前後しますが、一回目の謀叛疑惑についても俎上に載せないわけにはいきません。
この時は、ミュラー提督の尋問、続いて、皇帝による尋問とロイエンタール自身による弁明によって、ただの言いがかりとして解けました。
そして、締めくくりとしてロイエンタールは、皇帝によって新領土総督なる重職を与えられたわけです。
ここで大事なのは次の三つだと思います。
第一に、ロイエンタールにとってこれは全くの言いがかりであり、証拠とされるものはあまりに薄弱で、彼は事実としても潔白であった。
第二に、皇帝ラインハルトのロイエンタールへの信頼は(あるいは未だ)強固なもので、一部の側近による怪しげな蠢動によって揺らぐものではなかった。
第三に、恐らく最も重要だと思いますが、これがオーベルシュタイン(・ラングラインによる)、初めての(公になった、自陣営での)政敵排除行為であったことです。これまでロイエンタールとオーベルシュタインは、個人間では嫌い合い、意見は度々激しく対立しましたが、権限に基づいて一方が一方を排除しようということはありませんでした。
弾劾書に司法尚書の名があったことで、見落としがちですが、オーベルシュタインの敵意を見せ付けられたわけです。
どれほど本気かは不明ですが、オーベルシュタインの行いが冗談といって易々と撤回する程度とは思えないでしょう。
そして、いよいよロイエンタールは正式に新領土総督となるわけですが、本編にもあったように、当時のロイエンタールが実質的に「宇宙第二の実力者」であり、この表現が誇張ではないことは誰もが認められると思います。
はっきりと明示はされておりませんが、あのキルヒアイスさえ死に追いやった、「NO.2有害論」を、オーベルシュタインは撤回していたでしょうか? そして、ロイエンタールはそれを忘れていたでしょうか? キルヒアイスの存在を危険視する事に躊躇いがなかったオーベルシュタインが、皇帝の親愛の情が故人に比べてあからさまに見劣りするロイエンタールを危険視することに躊躇いなどあるわけがありません。
事実、ロイエンタールは、
トリューニヒトが赴任してくると、一連の経緯からオーベルシュタインによる何らかの悪意の兆しあるいは種では?と疑っています。
ついでに言えば、ロイエンタールは非凡な洞察力を持ち合わせている上に、楽観主義者でもお人よしでもありません。さらに、彼は(自身の裡では)潔白ではないとの自覚がありました。
これにラングの策動が加わり、
皇帝の病臥と、オーベルシュタイン・ラングの専横の噂がロイエンタールの耳に届きます。
これも二つの要点があります。
一つは、ラングの策謀による噂が、ロイエンタールのみに限定してピンポイントかつダイレクトに届けられているわけではないことです。
二つは、皇帝の病臥を知っており、尚且つ皇帝が衰えていくことに深刻に絡み合った憂慮と(恐らく)期待の感情がロイエンタールにあったことです。
ここで思い出してほしいのは、
新領土総督は、他の閣僚と同じく皇帝にのみ責任を負うとされていることと、
(嫌疑の際に見られたように)皇帝とロイエンタールの関係が個人的なつながりによって維持されていることです。
ラングの策動による噂はその土台を崩すものではないでしょうか?
総督就任直後にあった警戒感を上塗りするように、ロイエンタールが敵意や危機意識を抱いたのは自然と言え、その真偽ほどを確かめるために皇帝に招請状を送ります。
この時点での彼の認識は、噂は事実であろうということであり、肝心の関心は、それがどの程度であるか? ということだと思います。
即ち、自分が統帥本部総長として傍にいた頃より皇帝の意思力に若干の低下が見られるだけなのか、あるいは文字通りただの木偶人形に成り下がったか。応じたとして、との展開で彼は故事に基づいた警戒意識を持っていますが、これは被害妄想でしょうか? 専制国家に仕える巨大な武勲と武力を持った重臣、そして、訪れた平和とそれによって影響力を拡大する文官や君主の側近グループ、彼らによる重臣の排除や粛清。ゴールデンバウム王朝でも数多に起こっていたであろうことが、どうして、ローエングラム王朝でないと断言できましょうか?
そして、『ウルヴァシー事件』が起こります。
ロイエンタール管轄下の新領土ウルヴァシーにて、『事件』が起こり、
皇帝が行方不明になった。
ここでこれをお読みの方にお尋ねしたいのですが、
ロイエンタールの立場からして、これはどのような事態から発生したと考えられるでしょうか?
可能性としては、以下があると思います。
A.同盟軍の残党及びイゼルローン政府の関係勢力による策謀・テロ
B.帝国内の叛乱勢力による策謀・テロ
C.地球教徒による策謀・テロ
D.自身を貶めるための陰謀
E.事故などその他
この辺りが妥当なところではないでしょうか?
この中で、A、C、Eはウルヴァシーの地理、軍事基地という性格上容易に排除されると思います。
Cは真実なのに、排除とされることは意外でしょうか?
ですが、キュンメル男爵事件後、ワーレンによる本拠壊滅、ケスラーによる弾圧によって地球教は打撃を受けています。
その後、ヤン・ウェンリー暗殺を除けば際立った活動をしていないのです。
おまけにグリルパルツァーが、その証拠となるべきものを秘匿し続けていました。
ロイエンタールに与えられた時間と、それによって知り得た事象を積み上げただけでは、地球教徒によって行われたという正解に辿り着くのはまずもって不可能だと思います。
ところで、討論の場で、影武者や皇帝の不在でブリュンヒルトのみの出立の可能性についてまで推察を進めて論じられていましたが、これは実現する可能性についてではなく、もっと単純に違う面から考察する必要があります。即ち、ロイエンタールが何を知り得ることができたかということです。
結論から言えば、ロイエンタールは何も知り得ませんでした。
彼自身の生が終わるまでです。
皇帝の健康状態、君主としての力量が今尚、力強く精彩を放っていたか、あるいは衰えてオーベルシュタインの傀儡と成り果てているか、その他、ブリュンヒルトには影武者がやってきたか? あるいはブリュンヒルトしか来ていないのか? これらは何も確認できていないのです。後者二つについては、通信手段で可能と思われるかもしれませんが、そもそもそれでは意味がないからこそ、ロイエンタールは皇帝に直接目通りするために招請状を送ったはずではありませんか。
皇帝の乗るブリュンヒルトが行方不明の期間、帝国政府も総督府も皇帝の安否も、何が起こったかもわからない状態で、互いに悪意と猜疑は当然の積み重なっていきます。
その間、ルッツの死という国家の重臣を死においやった失点もはっきりつきました。
このウルヴァシーの事件が、ただの偶発的な独立した出来事と考えるのはあまりに楽観的というのに異論はないと思います。
何者かの悪意、陰謀だと普通は考えませんか?
そして、ロイエンタールであれば……思考の軌跡がどこに辿り着くかは本編の通りです。
ベルゲングリューンの進言について、受け入れるか否かは判断と個性の分かれ目だと思います。
前提として、ロイエンタールには高い矜持があり、それを裏付ける自他共に認める才覚と強烈な自負心がありました。
オーベルシュタインやラングに頭を下げることは当然ながら彼にしてみれば耐えられません。
何故、皇帝ではなく彼らに対してなのか? についてですが、
繰り返しますが、ロイエンタールは例の噂を信じており、その真偽を確かめる機会を失っているのです。
さらに、これが彼に向けられた悪意による陰謀であれば、許しを請うだけで終わりとなるでしょうか?
嫌悪・軽蔑する人間に命乞いをして最後を迎える。
その可能性が多少とはいえない確率である時、彼のような野心と才覚と自負心を自覚する者がそれを選べるでしょうか?
「一時的な予備役編入が妥当」とは、少なくとも皇帝の無事、地球教徒によるテロ、皇帝の英邁さが損なわれていない、ことを知っているという条件があって初めて言えることです。三度、繰り返しますが、ロイエンタールはそれを知ることができなかったのです。
ゴールデンルーヴェを旗艦に持っていったのも、ラインハルトがそれに相応しい人物であるかをついぞ確認することができなかった証明の一つと言えないでしょうか。だから、自分こそは、との感情があったはずです。
彼のもう一つの一面、梟雄の部分がさらに彼を一定の方向へ導きます。
果たして、これを逃して以降も、あくまで乱世の武人として傲然と覇を唱える機会が訪れると考えられたでしょうか?
陰謀に屈して悲運の人に仕立て上げられるより、
あくまで自負心に基づいて剣を選んだ。
となりましょうか。
言うまでもないことですが、成功するか否か、それが世間大多数に支持・賛同を得られるかどうかは別次元の問題であります。
長々とした上に話しが前後して読みにくくなったとすみませんが、
以上が私の結論であり見解です。
駄文・長文に付き合ってくださってどうもです。
ロイエンタールの叛乱についての考察を読ませていただきました。
若輩者の私が言うのもなんですが、ロイエンタールがオーベルシュタインに頭を下げる、と思考をしたのは彼が『軍人』であるからではないでしょうか。
ロイエンタールはノイエ・ラント総督として位は各尚書と同格ですが、軍人をやめたわけではありません。軍の最高司令官は皇帝ラインハルトですが、軍務全般は軍務尚書であるオーベルシュタインが行っています。つまり、軍のトップはラインハルトで、ナンバー2は軍務尚書オーベルシュタインということです。
ここでロイエンタールの役職を整理すると『ノイエ・ラント総督兼銀河帝国軍元帥』となります。つまり、軍人としてはただの『元帥』であり、軍の内部では同じ元帥である、オーベルシュタイン、宇宙艦隊司令長官のミッターマイヤーの更に下と言う事になります。
何か問題を起こした場合、その上の上司に頭を下げるのは当然のことです。つまり、ロイエンタールは軍の上司であるオーベルシュタインに頭を下げることになり、このことがロイエンタールをしてオーベルシュタインに頭を下げる、と思考したのではないでしょうか。
> 何か問題を起こした場合、その上の上司に頭を下げるのは当然のことです。つまり、ロイエンタールは軍の上司であるオーベルシュタインに頭を下げることになり、このことがロイエンタールをしてオーベルシュタインに頭を下げる、と思考したのではないでしょうか。
旧軍の話ですけど、陸相と参謀本部総長、海相と軍令部総長は同格で、仕事が違う(大臣は軍政、総長は軍令)だけではなかったかと。陸軍は参謀本部が優位で、海軍は海軍省の方が優位だったりします。銀河帝国についても、軍務省と統帥本部の関係は同じようなものでしょう。
ローエングラム朝銀河帝国の場合は、皇帝ラインハルトが現役の軍人で「前線に出て指揮を取る」タイプで、部下も似たようなのが多いのですから、軍務省の「お役所の仕事」の方が、優位とは言えないのではないでしょうかね。統帥本部総長経験者のロイエンタールが、オーベルシュタインより格下で部下とは、とても言えないと思います。元帥3人のうち、実戦部隊の指揮官でしかない(軍の統帥や戦略、人事などに直接の権限がない)宇宙艦隊司令長官のミッターマイヤーなら、「格下」と言えるとは思いますが。
それに、「新領土総督は各尚書と同格」とされているのに、「軍内部では軍務尚書どころか宇宙艦隊司令長官より下」という意見には無理があると思いますよ。
新領土総督就任時には、軍人としてはあくまで、前統帥本部長であって、現軍務尚書より下に置かれるべきと思いますが。
まして、軍務に関わることについて、一無任所元帥が皇帝に奏上するに当たって、軍務尚書に仲介を頼むのは当然で、それをいやがるのは問題だし、違う問題なら、そもそもオーベルシュタインには全く関係ない話なので、頭もなにもないと思うのだけど。
もちろん、皇帝病臥と言う状況で、オーベルシュタインが専横を恣にしているという情報が入ったからでしょうが、そんなのは無視して、総督として、皇帝に直接面談を要求するもよし、国務尚書に奏上文を託すもよし、なんとでもなったんですよね。
軍務尚書は、軍政以外には口出しできないのだから、新領土の民政に関して、総督が皇帝に直接言わなければならない重大問題とか言っても良いし。
> 新領土総督就任時には、軍人としてはあくまで、前統帥本部長であって、現軍務尚書より下に置かれるべきと思いますが。
> まして、軍務に関わることについて、一無任所元帥が皇帝に奏上するに当たって、軍務尚書に仲介を頼むのは当然で、それをいやがるのは問題だし、違う問題なら、そもそもオーベルシュタインには全く関係ない話なので、頭もなにもないと思うのだけど。
>
> もちろん、皇帝病臥と言う状況で、オーベルシュタインが専横を恣にしているという情報が入ったからでしょうが、そんなのは無視して、総督として、皇帝に直接面談を要求するもよし、国務尚書に奏上文を託すもよし、なんとでもなったんですよね。
> 軍務尚書は、軍政以外には口出しできないのだから、新領土の民政に関して、総督が皇帝に直接言わなければならない重大問題とか言っても良いし。
想定しているのは自由惑星同盟型(というかアメリカ型)の文民統制でしょ?
なるほど、自由惑星同盟なら、あなた方の言っていることも分からないでもない。軍人は文民政治家である国防委員長の部下ということになる。国防委員長自身は、トップの軍人にああせいこうせいと国家の方針を命令できるが、個々の軍人に直接細かい命令する権限まではないにしても。
しかし、銀河帝国は文民統制ではないでしょう?軍務尚書は軍人で、文民政治家として軍人全体の上に立っている訳ではない。軍務省という「お役所」、すなわち「軍の一組織」のトップに過ぎません。もちろん、その地位と権限は軽いものではありませんが、特に火山氏が想定している「軍務尚書こそが軍のトップで、銀河帝国におけるナンバー2」というのは、「銀英伝世界における銀河帝国の実情」に合っていないのでは。だいたい、「ナンバー2排除論」を座右の銘にしているオーベルシュタイン本人が「ナンバー2」というのは矛盾していませんか。
銀英伝の10巻の話で、暴発して襟首を締め上げてしまったビッテンフェルトが典型ですが、オーベルシュタインと一緒にハイネセンに派遣された提督連中、相当むかついていますよね。なぜなら、「こともあろうに、大嫌いな軍務尚書の部下扱いにされてしまったが、皇帝の命令なので文句も言えない」からではありませんか?それはすなわち、彼らが「制度的にも心情的にも、自分たちは断じて軍務尚書の部下ではない!」と確信しているからでしょう。軍務尚書の部下ではないのに、皇帝の命令で一時的に部下にされてしまったから不愉快がっている訳です。普段から彼らが、「自分たちは制度的には軍務尚書の部下にあたる」と認識していれば、ここまで反発しないでしょうよ。艦隊司令官である彼らは、宇宙艦隊司令長官に対する部下であっても、軍務尚書に対しての部下ではないのですから。「銀河帝国に文民統制はなく、軍唯一のトップはいない。トップとして君臨するのは皇帝だけ。軍人は、軍務の違いによって地位が与えられているに過ぎず、銀英伝を読む限りにおいては皇帝ラインハルトは3人の元帥を同格(同時に地位を贈っていますので、当然先任やら後任の優劣もない訳です)として扱っているから、誰それが格上で格下という序列付けにさほど意味はない」のですよ。
ましてや、ミッターマイヤーに対しても下云々に至っては、更に無理筋です。帝国軍の組織は宇宙艦隊だけではありません。例えばですが、憲兵や装甲擲弾兵は常態として宇宙艦隊の指揮下(戦時に、宇宙艦隊の司令官が作戦部隊の総司令官として憲兵や装甲擲弾兵の指揮権が委ねられることを否定している訳ではありませんので注意。1944年のマリアナ攻略戦や1945年の沖縄戦で米軍の総司令官は海軍のスプルーアンス大将で、指揮下に陸軍部隊も入ってはいても、スプルーアンスが陸軍に対して常時指揮権があるという訳ではないのと同じです。逆に、フィリピン攻略戦の時は、陸軍のマッカーサー元帥の指揮下に、海軍のキンケード中将の第七艦隊が入っていますが、キンケードが常時マッカーサーの部下という訳でもないのも同様)にありますか?明らかに違いますよね。同じ帝国軍にしても、別の組織です。憲兵総監のケスラーがミッターマイヤーの部下ではないのと同じように、宇宙艦隊の統制から離れているロイエンタールはミッターマイヤーの部下ではありません。「新領土総督の指揮下にはガンダルヴァ星系の駐留艦隊があるではないか。だから総督は宇宙艦隊司令長官の部下だ!」と反論したくなるでしょうけど、総督の権限は艦隊の指揮だけじゃないでしょう。軍務以外に行政官としての権限があり、艦隊以外の軍も憲兵や装甲擲弾兵の指揮権だって与えられて(地上兵力がゼロの訳がない)いるはずです。その中の艦隊だけを取り出して、「新領土総督は宇宙艦隊司令長官より格下で部下にあたる」と主張するのは無理です。
「無任所元帥は軍においては軍務尚書の部下で宇宙艦隊司令長官の部下」というのは、いずれも無理な主張です。銀河帝国においては軍務尚書の部下は軍務省の人間、宇宙艦隊司令長官の部下は宇宙艦隊に所属する人間だけであり、軍全体に対する「上官」としての指揮権は誰も持っておらず、そんな権限があるのは皇帝だけだということが、妥当な結論だと思われますがいかがでしょうか?
>そんなのは無視して、総督として、皇帝に直接面談を要求するもよし、国務尚書に奏上文を託すもよし、なんとでもなったんですよね。
これには私も賛成です。「ロイエンタールはオーベルシュタインを過剰に意識しすぎていた」と考えていますので。