はじめまして、玉虎(ぎょっこ)と申します。
『銀英伝』は高校時代にハマり、以来年一回は必ず全巻読んでます。
アニメ版も通して五回は見ております。
『銀英伝』以外では『タイタニア』ぐらいしか読んでませんでしたので、
田中氏は「良作をものした小説家」というぐらいの認識だったのですが…
このサイトにであって認識を新たにしました。
とりあえず、近所の図書館へ行って『創竜伝』を借りて読んでます。
ところで、アニメ版『銀英伝』について前から気になっていることがあります。
「ヴェスターラントの虐殺」は小説版では周知のとおり、
派兵して虐殺を止めようとするラインハルトに
オーベルシュタインが放置するよう具申し、
これをラインハルトが是として虐殺が実行されています。
ところがアニメ版ではこれが微妙に異なっているのです。
オーベルシュタインの具申に対し、ラインハルトは決定を保留し、
とりあえず派兵はしておき、止めるか否かの決断を先延ばしします。
そしてラインハルトが知らぬ間に虐殺は実行されてしまい、
オーベルシュタインが主君を出し抜く形で偵察艦のみを先行させていた…と。
なおこの後、キルヒアイスがラインハルトを追及する場面では、
当然ラインハルトはオーベルシュタインのオの字も出さず、
責任を全面的に認めており、ストーリー全体への影響はありません。
とはいえ、このラインハルトの決断は善かれ悪しかれ覇道への大きな一歩であり、
後の「もっとも多く、あの男の進言にしたがってきたような気がする」
という述懐の重みが失われてしまいますので、脚本家の意図を疑いますね。
なおこの後、アンスバッハによるラインハルト暗殺未遂の場面にも
微妙な改変があります。アンスバッハがラインハルトに発砲した際、
オーベルシュタインはラインハルトの前に立ちはだかって盾となっているのです。
結果的にはキルヒアイスの妨害によって凶弾はそれ、
オーベルシュタインは傷ひとつ負っていないのですが、
自らが参画して完成させつつあったローエングラム独裁体制を
身を挺して守る覚悟を描き、原作を補完しています。
原作では死間の犠牲に自らをも擬する発言はあっても、ここまで
直接的に行動で示した例はありませんでした。最期にしても、
計算づくの殉職であったかは謎のままでしたし。
ごく短い描写ですので気づいてない方もわりといるのではないでしょうか。
直後にあのシーンが続いてますし…
玉虎さん、はじめまして。
>ところがアニメ版ではこれが微妙に異なっているのです。
(中略)
>後の「もっとも多く、あの男の進言にしたがってきたような気がする」
>という述懐の重みが失われてしまいますので、脚本家の意図を疑いますね。
う、するどいですね。
私もそこは違和感をずっと抱いていました。
最終的な決を下さなかったので、ラインハルトに責任があると言えばそうも取れますが、
やはりあれではラインハルトの苦悩が大きく削がれてしまいます。
なぜあのような演出に変えたのか、今もって不可解です。
>なおこの後、アンスバッハによるラインハルト暗殺未遂の場面にも
>微妙な改変があります。
(中略)
>ごく短い描写ですので気づいてない方もわりといるのではないでしょうか。
>直後にあのシーンが続いてますし…
私的には前者よりこちらの方こそより重大な破綻(もはや改変という言葉では済ませられない)と思います。
なぜならこのシーンはミッターマイヤーやロイエンタールといった陸戦の勇者ですら一歩も動けず、
ただキルヒアイスのみが動きえたことに重大な意味があるのです。
ヴェスターラントの件で不仲になったにも関わらず、
キルヒアイスはラインハルトを守った。
何の躊躇も無く行動した。
一人として動くことのできなかった中で、
ただキルヒアイスだけが動きえた。
それはラインハルトとキルヒアイスの計り知れない絆を、
この両者が真に一心同体の存在であることを印象付けるのです。
だからこそキルヒアイスの喪失がより大きなものとして読者に感動を与えるのですが、
アニメ版はなぜかオーベルシュタインを動かしてしまった。
おそらくオーベルシュタインが身を挺して守る覚悟を言いながらも、
それを見せる機会が意図的か偶然かわからないという原作に対して、
アニメ脚本家の解釈を示したのだろうと思いますが、
しかしその為により大きなものをぶち壊しにしてしまった。
アニメのシナリオは多くの場合、銀英伝ワールドをより一層深みのあるものにしているのですが、
玉虎さんご指摘の二点(特に後者)は、数少ない過ちの一つだと思います。
> 私的には前者よりこちらの方こそより重大な破綻(もはや改変という言葉では済ませられない)と思います。
> なぜならこのシーンはミッターマイヤーやロイエンタールといった陸戦の勇者ですら一歩も動けず、
> ただキルヒアイスのみが動きえたことに重大な意味があるのです。
> ヴェスターラントの件で不仲になったにも関わらず、
> キルヒアイスはラインハルトを守った。
> 何の躊躇も無く行動した。
> 一人として動くことのできなかった中で、
> ただキルヒアイスだけが動きえた。
> それはラインハルトとキルヒアイスの計り知れない絆を、
> この両者が真に一心同体の存在であることを印象付けるのです。
> だからこそキルヒアイスの喪失がより大きなものとして読者に感動を与えるのですが、
> アニメ版はなぜかオーベルシュタインを動かしてしまった。
> おそらくオーベルシュタインが身を挺して守る覚悟を言いながらも、
> それを見せる機会が意図的か偶然かわからないという原作に対して、
> アニメ脚本家の解釈を示したのだろうと思いますが、
> しかしその為により大きなものをぶち壊しにしてしまった。
私はアニメのほうが好きになれましたですけどね。
キルヒアイスとオーベルシュタインはラインハルトにとって、
方向は正反対だが等距離にある人物と捉えているので。
この二人こそが他のミッターマイヤーなどと比べて、
特別な存在であり、その両者の対立に面白さを見つけています。
ラインハルトにとって、正の方向への導き手であるキルヒアイス、
逆にメフィストフェレスとしてのオーベルシュタイン、
この2者を等価値にしたこの演出は私は好きですね。