ここではあの未完の大作アルスラーン戦記を取り上げてみたい。
まあアル戦についてはいろいろ言いたいことはあるが、もっとも鼻につくのは「主要人物以外はみんなアホバカ無能」という設定だ。
これはアル戦に限らず田中芳樹の悪癖といってもいいが、銀英伝の場合はラインハルトとヤン・ウェンリーというライバル同士の対立が軸に描かれ、また創竜伝の場合には「個人対国家権力」という図式があるためかろうじて(かろうじてだが)物語が成立しているが、アル戦の場合はアルスラーン率いるパルス軍とルシタニア軍他その他大勢との能力の差がありすぎるため、物語が完全に弛緩しきってしまってるんだよね。
大体田中芳樹っていう人は「普通の人間」っていうのがちゃんと書けないんだよね。主人公をみんな「名将」とか「天才」とかそんな人間ばっかりにしてしまうから、それ以外の脇役や敵役を不必要に貶めることでしか物語を進められなくなってしまい、結果的に息詰まってしまうんだよ。
要するにアルスラーン戦記というのは、田中芳樹の「三国志コンプレックス」が最悪の形であらわれた小説だと俺なんかは思っているが皆さんの意見や如何?
> これはアル戦に限らず田中芳樹の悪癖といってもいいが、銀英伝の場合はラインハルトとヤン・ウェンリーというライバル同士の対立が軸に描かれ、また創竜伝の場合には「個人対国家権力」という図式があるためかろうじて(かろうじてだが)物語が成立しているが、アル戦の場合はアルスラーン率いるパルス軍とルシタニア軍他その他大勢との能力の差がありすぎるため、物語が完全に弛緩しきってしまってるんだよね。
> 大体田中芳樹っていう人は「普通の人間」っていうのがちゃんと書けないんだよね。主人公をみんな「名将」とか「天才」とかそんな人間ばっかりにしてしまうから、それ以外の脇役や敵役を不必要に貶めることでしか物語を進められなくなってしまい、結果的に息詰まってしまうんだよ。
第2部に関してはその通りですが、第1部ではパルスやアルスラーンが絶望的な状況に追い込まれていたので面白かったですよ。
第2部の欠点の最たるものはザッハークがラスボスに設定されていることでしょう。作者はこの手の悪役を成功させたためしがありませんから、第2部が駄作になることは約束されています。征旗流転までは良かったんですが、妖雲群行あたりからオカルト色が強くなるのに比例して面白くなくなってきてます。
> 第2部の欠点の最たるものはザッハークがラスボスに設定されていることでしょう。作者はこの手の悪役を成功させたためしがありませんから、第2部が駄作になることは約束されています。征旗流転までは良かったんですが、妖雲群行あたりからオカルト色が強くなるのに比例して面白くなくなってきてます。
俺もザッハークを出してしまったのは、おそらく田中芳樹の全作品の中でも最大の失敗だといっても過言ではない思っている。
どうせこの先続編が書かれる可能性は限りなく皆無に近いとは思うが、それでも作者があの後始末をどうつけるつもりなのか小一時間くらい問い詰めてやりたい。
王弟にして将軍たるギスカール公爵。
このキャラが、非常に惜しいところまで行っている気がします。
かなり優秀なキャラクターなのに、それでもナルサスの掌の上というのが痛い。
結局二流の謀略家というイメージで語られてしまう存在なんですよね。
能力的にナルサスと同格とまでは望みませんが、
自分を一歩引いて自嘲気味に眺めるようなキャラに設定していれば、
もっと魅力が出たような気がします。
優馬です。
> >俺もザッハークを出してしまったのは、おそらく田中芳樹の全作品の中でも最大の失敗だといっても過言ではない思っている。
> どうせこの先続編が書かれる可能性は限りなく皆無に近いとは思うが、それでも作者があの後始末をどうつけるつもりなのか小一時間くらい問い詰めてやりたい。
同感です。全然怖くないザッハーク。迫力もないし、どうすんだろ?!と思いますよね。
ただ、「妖雲群行」では妙にヒルメスが格好良くなってませんでしたか? それまではヒステリックに喚くばかりのお坊っちゃまくんだったのに。このへん、ひょっとしたら作者の物語への「てこ入れ」ではないかと思うのは、私の深読みでしょうか。
と、ここまで書いたところで、たまさか「アルスラーン読本」を見つけて「ヒルメス」のところを読んでみたら・・・、「ヒルメスは非常に重要なキャラ」という作者発言が!
なになに・・・本来ヒルメスは「簒奪者によって王位を追われた王子さまが流浪の末に復讐を果たす」という「貴種流離譚」の主人公にあたる人物であると。で、本来であればヒルメスにアンドラゴラスが打倒されるというのが、「貴種流離譚」のあるべきストーリー。(そういえば「ライオン・キング」ってまんま「貴種流離譚」なのね。)そのときに「ついでに」殺されてしまう可哀想なキャラである簒奪者の息子・アルスラーンを主人公にして「貴種流離譚の相対化」を試みたのだとか。
へえぇ、と言うしかないんですが、アルスラーン戦記が「アルスラーンVSヒルメス」という軸でできているかというと、「沢山あるうちのひとつ」としか言えないわけで。相対化のしすぎじゃないかと。
私のこの物語に対するイメージは、アルスラーン王子の「わらしべ長者」的サクセス・ストーリー&ユーモア架空歴史物語なんですが。(作者の意図とは違ったところで、好きな作品です。)
>なになに・・・本来ヒルメスは「簒奪者によって王位を追われた王子さまが流浪の末に復讐を果たす」という「貴種流離譚」の主人公にあたる人物であると。で、本来であればヒルメスにアンドラゴラスが打倒されるというのが、「貴種流離譚」のあるべきストーリー。(そういえば「ライオン・キング」ってまんま「貴種流離譚」なのね。)そのときに「ついでに」殺されてしまう可哀想なキャラである簒奪者の息子・アルスラーンを主人公にして「貴種流離譚の相対化」を試みたのだとか。
田中芳樹は、どうにも相対化ということが出来ない作家なのではないかと思います。「相対化」というならば、最後は正義と正義のぶつかり合いにならざるを得ず、「アルスラーンがヒルメスに勝ったけど、なんか後味が悪いなぁ」的ストーリー展開になりそうなものですが…
現状では、ヒルメスはアルスラーンの禅譲を正当化するための「ネガ」にしかなっていないと思いますね。
それが最悪に出たのが創竜伝で、「俺達は正義じゃない」と言葉だけでは相対化しているものの、実際は敵の思考程度は田中芳樹(竜堂兄弟)の考えている「正義のネガ」に過ぎず、やっていることと言えば水戸黄門ばりの勧善懲悪ですからね。もし、あれで敵役にもっと深刻な正義があれば、あそこまで薄っぺらにはならなかったでしょうに…
> 王弟にして将軍たるギスカール公爵。
> このキャラが、非常に惜しいところまで行っている気がします。
> かなり優秀なキャラクターなのに、それでもナルサスの掌の上というのが痛い。
同感ですね。もともとダリューン・ナルサスの飛車角が強すぎて、アトロパテネの大惨敗でもハンデが足りなすぎるくらいですからね。
ルシタニア側は、まるでヤンがいない同盟状態ですし。
田中芳樹のあとがき風に言うなら、「スープはもとの材料の味が読めてしまうことがあるものの、ベースのダシの配合は悪くない。しかし具とスパイスの配分を間違えてしまった」という感じかと(笑)
第一部5巻までをを要約すると。
パルス軍はルシタニア軍との決戦に破れ、首都を占領される。 残存勢力は王太子アルスラ-ンを旗頭にペシャワール城に集結。
しかし、すぐに首都奪還に向けて行動を起こすことは出来なかった。シンドゥラの内戦に干渉し、トゥラーンの侵略を退けるも、その直後王都を脱出した国王の手によりアルスラーンは追放、この時ダリューン、ナルサスと言う得がたい人材をパルス軍は失う。
こう書くとなんでパルス軍が王都を奪還できるのか判りませんな。
6巻:南方の街ギランを瞬く間に勢力下に収めたアルスラーンはギランの財力を用いて兵を挙げる。
7巻:王都奪還、アルスラーン軍対ルシタニア軍による最終決戦のリアリティーのなさは特筆モノ。三方ヶ原で家康が信玄に勝つようなもの。
6巻~7巻のアルスラーン軍って金で集めた烏合の衆だと思うのですが。作者は「勇将の下に弱卒なし」の一言で済ませているのでしょうか?
> それが最悪に出たのが創竜伝で、「俺達は正義じゃない」と言葉だけでは相対化しているものの、実際は敵の思考程度は田中芳樹(竜堂兄弟)の考えている「正義のネガ」に過ぎず、やっていることと言えば水戸黄門ばりの勧善懲悪ですからね。もし、あれで敵役にもっと深刻な正義があれば、あそこまで薄っぺらにはならなかったでしょうに…
銀英伝の面白さは主人公が両陣営に配置されているってところですよね。
七都市やタイタニアも同様で、そのおかげで善悪二元論のドツボにはまっていない気がします。
創竜伝でも「魅力的な敵役」というのは当然田中氏は考えたと思います。
田中氏のストーリーテリングの能力は十分ですから、
逆に思いつかない方が不思議です。
それでもなお出てこないのは、ひょっとすると
「右翼で軍国主義者のかっこいい役を作りたくない」という感情や、
「ためしにセリフを吐かせてみたら説得力がありすぎてこりゃやばい。」
といった事情があったりするんじゃないかと愚考する次第です(^^;
しかし、アルスラーンの敵役に優秀なキャラがいないのは謎です。
敵が強くて身内に裏切り者がいたりするマヴァール年代記は
けっこう緊張感がありましたし、
アルスラーン戦記でも敵にナルサスに匹敵する軍師がいたほうが
面白くなるのは間違いないと思うんですが。
> 7巻:王都奪還、アルスラーン軍対ルシタニア軍による最終決戦のリアリティーのなさは特筆モノ。三方ヶ原で家康が信玄に勝つようなもの。
確かにあれもひどかった。2万5千かそこらの軍勢で10万の兵に勝っちゃうんだから。いくらルシタニア軍が弱いからってあれはやりすぎだろう。
まだしも追いつめられたギスカールなりヒルメスなりによってザッハークが解放されるという展開にしておけば、あそこまで物語が破綻しなかったと思うが……。
アル戦においては伏線の処理の仕方のまずさも目立つと思われ。
アルスラーン戦記において敵側に有能な人材が居ない理由ですが、1人でも有能な敵が居たらパルスは滅亡していたからだと思います。そのくらい当時パルスのおかれていた状況は絶望的でした。
創竜伝に関しては勧善懲悪をやりたかっただけかなと思います。相手にも正義があることを理解した上で創竜伝を書いても重苦しくて爽快感がないと思います。
深みのある作品だけじゃなくて軽い作品があってもいいんじゃない?理性をうまくごまかして読むぶんには面白い作品ですよ。
> 深みのある作品だけじゃなくて軽い作品があってもいいんじゃない?理性をうまくごまかして読むぶんには面白い作品ですよ。
という蜃気楼さまのご意見に同感です。実のところ、私はアルスラーンは高校時代に「ああ、よかった。めでたしめでたし」とすっきり読み終わってからほとんど読み返していませんでした(--;
情景描写とかはすごく良かったと思いますよ。エクバターナやらギランやらの繁栄は目に浮かぶように伝わってきましたから。
あくまで私個人の印象ですが、この作品は田中先生ご自身も軽いノリで描いていると思います。銀英伝のような重大なテーマもなく、単に勧善懲悪を基調に「アーサー王伝説のオマージュが書きたい」ってだけで、筆の進むままに書き連ねた、というところが真相ではないでしょうか。
ついでに言えば、アトロパテネの前後にパルス国内の
保守派や、穏健派の優秀な人材って皆殺しにされたとしか思えません。
奴隷解放なんて政策が内紛も起こらずに一気に進めれるとは思えないのですが。
> あくまで私個人の印象ですが、この作品は田中先生ご自身も軽いノリで描いていると思います。銀英伝のような重大なテーマもなく、単に勧善懲悪を基調に「アーサー王伝説のオマージュが書きたい」ってだけで、筆の進むままに書き連ねた、というところが真相ではないでしょうか。
御言葉を返すようだが、軽いノリで書いた作品ならなおさらさっさと完結させてくれてもいいんじゃないか。「軽妙な作品」とやらを終わらせるのにいったい何年かかっていると思っているんだ。(こんなことおたくに文句をいってもしょうがないが)
> 田中芳樹のあとがき風に言うなら、「スープはもとの材料の味が読めてしまうことがあるものの、ベースのダシの配合は悪くない。しかし具とスパイスの配分を間違えてしまった」という感じかと(笑)
確かにアル戦は設定自体は悪くないと思うんだよ。王国再興というのはまあありがちなテーマだとは思うけど、それにザッハーク復活が絡んできて書きようによっては面白い作品になったと思うんだ。
ところがそうした設定を生かしきれていないところがこの作品のネックなんだよね。
ギスカールにせよ、ヒルメスにせよ、魔導師たちにせよ、ことごとくナルサスにしてやられるだけのピエロに過ぎないし、それにこの作品の2つの大きなテーマ、「王国再興」と「ザッハーク復活」がバラバラで物語の中で全然つながってこないというところに最大の問題点があると思うのだが。
いや、全く同感で(^^)
まぁ、多分飽きが来たんでしょう。軽いノリだからこそ、自分が書いていてつまらなくなったらポイッてことで。自分の衝動の赴くままに書き連ねて、書きたいシーンを一通りやっちゃったら、もう満足でございます、なんでしょう。
読者はたまりませんが。