前に私は「フェザーンは成立する筈が無い」と言いましたが、10巻最後の「バーラト星系自治政府」の方がもっと成立しませんよ。そりゃ皇妃ヒルダも、生き残った7元帥も、先代の約束を守るでしょう。でもアレク新皇帝以下の次世代以降の帝国中枢部の人間にとって、初代皇帝の約束を遵守しなければならない理由は無いじゃありませんか。「個人的な信頼関係」に民主主義の運命を委ねようだなんて、政治と外交のセンスが完全に欠落しているとしか思えません。帝国軍が艦隊を出動させれば、明日にでも潰れる程度の民主政府でしかありません。現在の地球上のように、他国の行動を監視するそれ以外の勢力は無いんですから。
もし本気で民主主義を生き残らせようとするのなら、アーレ・ハイネセンたちのように、帝国の支配地以外のどこかへ逃げ出すしかないと思いますよ。
>バーラト星系自治政府
ふと思ったことですが、田中先生がバーラト星系自治政府という妙な存在をひねり出したのも「日本が世界に広めるべき天才文学者」から「反日売文業者」に至る前兆ではなかったのでしょうか。
銀英伝10巻においてユリアンがラインハルトに帝国憲法・議会の設立を主張したのに対してラインハルトが「確約出来ないことは約束できない」と言い、その後、遺言によってルーヴェンブルン七元帥と共にバーラト星系の自治権が認められました。
ラインハルトは「ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが許せないのは全宇宙に専制政治を敷いたことではなく、それで得た権力を自己神聖化に使ったことだ」「全宇宙を統一して、人類の進む方向を統一し、無用な争いによる人類全体の発展のオーバーヘッドをなくすべきだ」というような趣旨の話をしていました。
田中先生の豊富な歴史の引き出しから引っ張ってきたら全人類統一政権と地域の統一政権との違いがありますが、プロイセン憲法におけるかなり専制的な政治の例もありますので、私からしてみれば少なくとも「一応憲法・議会がある極限まで専制政治的な立憲君主制国家の創立」の方が「バーラト星系自治政府」よりも現実性があるのではありませんか。
銀英伝世界においてもフェザーン議会はほとんど傀儡でしたし、実際にも北朝鮮が「共和制」のシステムで「絶対君主制」を実現していることからも、「限りなく専制政治に近い立憲君主制」の方が最もらしいと判断できます。
話の流れからしても「帝国憲法・議会が作られることになった」というふうにしても無理はないからなおさらでしょうか。
しかし、「プロイセン憲法」はご存じの通り「大日本帝国憲法」のモデルとして有名であり、家永史観派から見れば「天皇を現人神と崇める専制憲法」として忌み嫌うべきものです。
かといって「バーラト星系自治政府」的な憲法・議会を作ると現在の日本を想像させてしまいます。
田中先生は創竜伝において「現在までの日本全て」を嫌っているような文章を書いているので(ここの紹介記事から。創竜伝はまだ2巻までしか買ってない)ドイツの影響が強い明治時代末期の大日本帝国はおろか現代日本を想像させる銀河帝国を描きたくなかったのではないのでしょうか。
民主主義の芽は残った。よかったよかった、というラスト自体に文句をつける気はないですが、たしかに存立の根拠はあやふやですね。
ラインハルトが“太祖の遺詔”を残した、という暇も無さそうだったので、以前に不沈戦艦さんが書いたとおり、三代皇帝あたりの時代に、加藤家か福島家のようにささいな理由を付けられて取潰されてしまった可能性が高いと思います。
>銀英伝は三国志を宇宙でやってみようとした作品だったのではない
でしょうか。
「“銀河英雄伝説”というタイトルは私が2時間で考えて付けました。
最初に徳間書店の担当さんが「“銀河三国志”でいきましょう!」とものすごいのを持ってきたので、「ちょ、ちょっと待ってください・・・!」と言って急いで考えました。」(田中芳樹・談)
>バーラト星系自治政府
確かに取りつぶしになりやすいですね。
前に「田中先生は未だに具体化されていない民主主義を理想としている」「中国万歳」といったことからも立憲君主制では「最後は大日本帝国」となってしまいますね。
ふと思ったことなんですが、「偽史・銀英伝」ていうのはどうでしょうか。
内容は「反・銀英伝」とは異なりラストをバーラト星系自治政府又はトリューニヒトor 地球教政権以外でのローエングラム王朝の立憲君主制化までを最もらしく・面白く描くというものです。
取り合えず私が書いたシナリオではラップ大佐はアスターテで戦死せずにヤン、シェーンコップと共にイゼルローンを陥落させ、ジェシカとの結婚のためにヤンと共に退役しようとします。
しかし、ラップはヤンと共に退役は却下され、フォークが(このときから地球教のアジテーターがからんでいたとするのも面白い)帝国領大遠征を企てます。
そして、ヤンとラップ、シトレ元帥、ビュコックは帝国大遠征に反対します。
だが、「内閣」に反戦派はレベロとホワン、トリューニヒトしかいません。
ここでトリューニヒトが地球教に付くところをヤンの可能性を見いだし、帝国大遠征反対と同盟の国力回復の点で取り合えず合意。
それに対してフォークは戦場でヤンやラップなどといった「邪魔者」を特攻させようとする計画を立てる・・・。
この場合はラップが「特攻」させられるとはいえ戦死したわけでもないしイゼルローン陥落の余韻もあることからもジェシカの反戦運動に無理が残ってしまいますが。
うーん。最初から難問にぶち当たってしまった。
「偽史銀英伝」を本編の後の話(つまり「銀英後伝」)と定義すると、元老ミッターマイヤーやミュラーらは皇帝遺訓派でしょうから・・・二世ジークやウォルフの養子ら第二世代が冷酷に自治政府を潰そうとするとか、あの行方不明のゴールデンバウム末裔の決起とかに、未亡人フレデリカのロマンスやらシェーンコップの隠し子その2(笑)とかが絡めばおもしろいでしょうね。
バーラト自治政府取り潰しはいわば銀英伝版「城塞」(大阪の陣を描いた司馬作品)か?
正史で地味ーにいい役してた(笑)カール・ブラッケに働いてもらう必要があると思う。
まあ、これは余りにも娯楽小説に求めるものではないし、銀英伝はよくやってたほうだが、それでも「思想」が政治状況にあたえる影響、は書ききれていないですね。例えばブラッケは旧王朝で迫害されていたのか道楽として無視・黙認されていたのか?
ユリアンがイレギュラースのトップについたことに関する話があったのですが、あれ、ずっと疑問だったのですがまずいことじゃないのでしょうか?20代の元帥よりもっと不自然な気がしますし、民主的な決定か否かという問題(現地=yahooで言われていた)ではおいても、軍隊組織としてああいう変則的なことやってもいいんでしょうか。たしか階級が上の順に引き継いでいくことになっているのでは・・・と、思いまして。だったらyahooに書き込めと言われそうですが、登録したくなかったもので(^^;)
ご存知の方いらっしゃいましたらお教え下さいませ。
って、こういうのを指してファンサイト的って言うんでしょうか。すみません~。
>軍隊組織としてああいう変則的なことやってもいいんでしょうか。たしか階級が上の順に引き継いでいくことになっているのでは・・・と、思いまして。
旧日本軍には「軍令承行令」というのがありまして、司令官が戦死した場合の指揮権の引継ぎの順番が細かく決められています。
今の自衛隊や米軍はどうだか知りませんが、多分似たようなもんでしょう。
ま、ヤンイレギュラーズは明らかに“軍隊”ではなくて“軍閥”なので、軍令云々よりも、皆が納得する「民主的」な決め方で良いんでしょう(笑)。
軍令承行令に準ずるとすると、誰が引き継ぐのが妥当なのかな。
もしかしてムライ中将とか(^^;)。
ヤン・イレギュラーズの話ですが、正式の軍隊ではないのだから誰が指揮するかなどどうでもいいような気がします。イゼルローン共和政府もね。もっとも、そんな言ってみれば「ならず者の群れ(としか解釈できん)」が「民主」を名乗るのはおこがましい、とは思いますが。どこが「民主」なのでしょうかねぇ?イゼルローン共和政府は、フレデリカ・グリーンヒル・ヤン夫人代表以下の集団指導体制による独裁政治、と言ってもいいと思いますよ。「民主」を名乗りたいのなら選挙をするべきです。形の上だけでもね。
「ヤン暗殺」後のイゼルローンですが、実際にこういう事態になってしまったら、速やかにイゼルローン体制は解体される(というか崩壊する)のが当然です。ヤン個人の力量に乗っかって成立していた訳ですから。その個人が死んでしまっては、求心力はゼロになってしまいます。
「不敗の魔術師ヤン提督なら、帝国軍を撃破して民主政治を取り戻せるかもしれない」
という共同幻想に多数の人間が乗っかったものなんですから。アッテンボローだかポプランだか(どっちか忘れちゃった)も作中で言っていたでしょう?人員が大幅に減ったものの、そのまま存続した、なんてありっこないですよ。ユリアンの名声、など小さなものですからね。飾り立ててもヤンの替わりは無理ですよ。
「唯一の希望のヤン提督が死んでしまった。これでは到底勝ち目は無い。もう駄目だ。死ぬまで付き合うこともない。今のうちに逃げよう」
と考えるのが当たり前。誰も残らない、と言ってもいいくらい人間が流出してしまい、どうしようもなくなって、イゼルローン体制を解散せざるを得なくなると思いますわ。そのまま残る人間も結構いて、共和政府発足にまで漕ぎ着ける、ってのはご都合主義もいいところですね。ま、「小説だったら許される」とは思いますけど。
>ま、ヤンイレギュラーズは明らかに“軍隊”ではなくて“軍閥”なので、軍令云々よりも、皆が納得する「民主的」な決め方で良いんでしょう(笑)。
>正式の軍隊ではないのだから誰が指揮するかなどどうでもいいような気がします。
すっかり失念してましたが、あの集団はまっとうなものじゃなかったんですね。御教授ありがとうございます♪