銀英伝で気になるのが、「作者は『法』というものをどう考えているのか」ということです。同盟の描写ではトリューニヒトをはじめ、為政者たちが「同盟憲章違反」と攻撃されているのに対して、ラインハルト陣営は法律を恣意的に解釈し、それが好意的に描写されています。たとえば、
1、地球教徒に関する尋問。いくら、不敬罪とは言え、前王朝と比較して、はるかに人道主義的かつ人権尊重であるべきローエングラム王朝がルドルフも真っ青の拷問(というかほとんど殺人)をおこなっていいのでしょうか。
2、ラインハルト暗殺未遂犯の処遇をラインハルトとケスラーで勝手に決めていますが、まずは裁判にかけるのが先決では。処罰は裁判所が決定すべきです。
3、ロイエンタールが新領土総督になった後、証拠がなくて処罰されなかった旧同盟の汚職分子を証拠なしに摘発していますが、これは旧共産主義国の粛清や紅衛兵によるリンチにつながる危険な考えかただと思います。
4、ハイネセンが大火に見舞われた後、帝国軍は原因は失火であったにもかかわらず、無実の憂国騎士団を犯人として摘発しました。これも、ゴールデンバウム王朝の社会秩序維持局とやっていることはほとんど変わりません。
ローエングラム王朝のやり口は、証拠なしに勝手に自分が気に入らない人間を拘束し、拷問にかけて自白させるというもので、とても法治国家のやりくちとは思えません。作者の田中氏はこのようなやり口を密かに肯定しているのでしょうか。
ちなみに、小野不由美の十二国記シリーズでは、主人公は古代中国風の絶対君主国の君主であるにもかかわらず、法律に関しては厳格な解釈がなされています。たとえば、ある国の国王である主人公がお忍びで町を歩いていると、土地の郷長(市長に相当)が病気の子どもを馬車でひき殺す場面を目撃します。さらに、その郷長が圧制を強いているということを聞いた主人公は郷長を罰しようと、身を寄せている孤児院の院長に相談します。すると、院長は「法律の裏づけなしに恣意的に人を罰するのは、悪を見逃すより悪いことだ」と諭します。
人情的には、明らかに悪い奴を証拠なしでやっつける銀英伝のほうが胸がすかっとするでしょうが、実際には為政者は十二国記のような考えを持つべきで、「終りよければ全て好し」的なローエングラム王朝はゴールデンバウム王朝的な強権的な存在に転化する紙一重的な存在だと思います。そして、それを肯定するなら、田中氏の政治に対する考えかたもかなりおかしいのではないかなあと思います。
ところで、ラインハルトが同盟を滅ぼしたとき、ラインハルトが同盟軍の将兵として参戦し、生活に困窮しているものがあれば、援助すると演説し、同盟幹部が「民主主義は一人の器量の前に敗れた」と嘆く場面がありますが、似た話を最近聞きました。
1964年、作家の堀田善衛がキューバを訪れた際、何年か前にカストロがどこかの砦を落としたことを記念する大会が開かれていて、そこには砦を守って戦死した(すなわち、カストロに敵対した)兵士の家族も招かれていて、カストロは「たとえ、かつては我々の敵であったとしても、勇敢に戦った人々の遺族は、尊敬され、援助されなければならない」と演説したと言う。当時、カストロ27歳。う~ん、誰かに似ているような・・・。
法的論理という点では全然だめです。ラインハルトの
やったことはすべて違反です。が、あの時点でラインハルト
および、普通の人間がどう考えるかというのがあります。
あの時点でラインハルトは自分のしたことは正しいと
思ってます。そして他の人間もラインハルトのした事は
正しいと思ってます。だとすれば何も問題は無いんです。
誰も問題にしませんから。
法的論理の世界は純粋かつ単純な理想化された世界ですが、
我々はそういう世界に住んでない。
さらにいえばあの時点ではラインハルトが法律なんです。
形式的にはどうであれ、実質的にはそう。
どんな国家であれ、政治体制であれ、初期はそんなもの
です。
> あの時点でラインハルトは自分のしたことは正しいと
> 思ってます。そして他の人間もラインハルトのした事は
> 正しいと思ってます。だとすれば何も問題は無いんです。
> 誰も問題にしませんから。
これは同感なんですが、
法律とか規則とか組織とか形式とか言うような物に縛られて
なかなか良くならないどころか腐敗していく自由惑星同盟との対比として、
わざとあんな風に書いているような気がします。
SAIさま、isaoさま
> あの時点でラインハルトは自分のしたことは正しいと
> 思ってます。そして他の人間もラインハルトのした事は
> 正しいと思ってます。だとすれば何も問題は無いんです。
> 誰も問題にしませんから。
こういう考えかたは危険なんじゃないでしょうか。かつて、ソ連でソルジェニーツィンが弾圧されたとき、向坂逸郎というマルクス主義者は「共産党とソ連人民が歴史的発展法則に基づいて前進しているとき、一人ソルジェニーツィンのみが歴史の流れを逆戻りさせようとしている。だから弾圧されるのは致し方ない」と言いました。これに通じる考えかたのような気がします。
> 法的論理の世界は純粋かつ単純な理想化された世界ですが、
> 我々はそういう世界に住んでない。
理想を出来るだけ実現させようとするのが、政治では?
> さらにいえばあの時点ではラインハルトが法律なんです。
> 形式的にはどうであれ、実質的にはそう。
> どんな国家であれ、政治体制であれ、初期はそんなもの
> です。
同じ理屈で、かつて日本のマルクス主義者はスターリンの粛清を肯定しました。
> 法律とか規則とか組織とか形式とか言うような物に縛られて
> なかなか良くならないどころか腐敗していく自由惑星同盟との対比として、
> わざとあんな風に書いているような気がします。
なるほど。しかし、それならばそのような形式的なものに囚われて身動きがとれないヤンもまた批判的に描写されるべきだったと思います。
> こういう考えかたは危険なんじゃないでしょうか
危険かもしれませんが、そういう考えかたをするから
ラインハルトは銀河を統一できたんです。禍福はあざなえる
縄のごとし、です。メリットの裏には必ずデメリットが
くっついてる。いいとこどりはできないんです。
> 理想を出来るだけ実現させようとするのが、政治では?
実現不可能な理想というのもこの世にはあるのです。
例外のない規則はない。法理論の上からはあってはならない
ことですが、そのあってはならないことが現実にはある。
> 同じ理屈で、かつて日本のマルクス主義者はスターリンの粛清を肯定しました。
本当にだれもあれを正しいとおもわないなら、スターリンは
存在できません。ロシアにおいてスターリンのような
皇帝(あえてそう呼びます)はスターリンが最初でもないし、
そして最後でもない。ロシア人は心のどこかであれを正しい
と思ってます。異民族は理解できませんが。
> 危険かもしれませんが、そういう考えかたをするから
> ラインハルトは銀河を統一できたんです。禍福はあざなえる
> 縄のごとし、です。メリットの裏には必ずデメリットが
> くっついてる。いいとこどりはできないんです。
この点は同意します。ラインハルト死後、ローエングラム王朝は早急に法治主義への転換をはからないと恐ろしいことになるような気がします。
> 実現不可能な理想というのもこの世にはあるのです。
> 例外のない規則はない。法理論の上からはあってはならない
> ことですが、そのあってはならないことが現実にはある。
不可能でも、できるだけ、法治の原則にのっとるのが、為政者だと思いますが・・・。
> 本当にだれもあれを正しいとおもわないなら、スターリンは
> 存在できません。ロシアにおいてスターリンのような
> 皇帝(あえてそう呼びます)はスターリンが最初でもないし、
> そして最後でもない。ロシア人は心のどこかであれを正しい
> と思ってます。異民族は理解できませんが。
その理屈で言うならば、ルドルフだって、それを正しいと判断したものがいたから、存在し得たわけで、ルドルフは悪くて、ラインハルトとは良いという銀英伝の描写はダブルスタンダードではないでしょうか?(ちなみに、かつての日本のマルクス主義者も自民党は悪くてスターリンは正しいというダブルスタンダードでしたが)
> 不可能でも、できるだけ、法治の原則にのっとるのが、為政者だと思いますが・・・。
法律のために人間があるのではなく、人間のために
法律があるのです。法治の原則もよりよく統治する
ためにあります。法治の原則どおりでおさまる状況なら
それでいいでしょうが、そうでないなら無視すべき
だとおもいます。
> その理屈で言うならば、ルドルフだって、それを正しいと判断したものがいたから、存在し得たわけで、ルドルフは悪くて、ラインハルトとは良いという銀英伝の描写はダブルスタンダードではないでしょうか?(ちなみに、かつての日本のマルクス主義者も自民党は悪くてスターリンは正しいというダブルスタンダードでしたが)
ダブルスタンダードだと思います。人間とは矛盾の塊で
同じ事をやってるにもかかわらず、前の時代を暗黒時代
といいたがる悪い癖がありますから。
> なるほど。しかし、それならばそのような形式的なものに囚われて身動きがとれないヤンもまた批判的に描写されるべきだったと思います。
『べき』とは思えません。
『ヤン個人』を批判的に描写しようがどうしようがどっちでもいいです。
どっちであろうと、ドラスティックに変革する『銀河帝国』に対比した、腐敗していく『自由惑星同盟』は描写できますよ。
> 法律のために人間があるのではなく、人間のために
> 法律があるのです。法治の原則もよりよく統治する
> ためにあります。法治の原則どおりでおさまる状況なら
> それでいいでしょうが、そうでないなら無視すべき
> だとおもいます。
現行の法が合わないなら、より良く法を変えていくのが、為政者というものではないですか?法が合わないなら無視すればよいと言うのでは、無秩序になってしまいます。もちろん、私も秦の始皇帝のようながちがちの法治主義を理想としているわけではありませんが、個人の器量で何でも采配出来るほど、社会は単純ではないと思います。ただ、人治か法治かというのは、見解の相違で、かみあいようがありませんね。
> ダブルスタンダードだと思います。人間とは矛盾の塊で
> 同じ事をやってるにもかかわらず、前の時代を暗黒時代
> といいたがる悪い癖がありますから。
私はラインハルトを名君とも思えませんし、ローエングラム王朝を理想の政治体制とも思えません。単に前王朝が酷すぎただけで、それも自らの正当性を宣伝するために、前の王朝を極端に悪く宣伝していたのではないか、と私があの世界の歴史家なら思いますね。そういう風に突き放して読めば、作品のダブルスタンダードも我慢が出来ますね。
> 『べき』とは思えません。
> 『ヤン個人』を批判的に描写しようがどうしようがどっちでもいいです。
> どっちであろうと、ドラスティックに変革する『銀河帝国』に対比した、腐敗していく『自由惑星同盟』は描写できますよ。
しかし、同盟政府と同じ轍を踏んで建前の法や原則に囚われた行動をしたから、ヤンはこの掲示板で叩かれているのだと思います。
> しかし、同盟政府と同じ轍を踏んで建前の法や原則に囚われた行動をしたから、ヤンはこの掲示板で叩かれているのだと思います。
それはヤンを批判する理由であって、腐敗していく自由惑星同盟の描写ができない理由ではありません。
> それはヤンを批判する理由であって、腐敗していく自由惑星同盟の描写ができない理由ではありません。
確かにその通りです。私の意見が見当違いであったことを認めます。
個人的には、私は個人の器量で世の中は変わらないと思いますが、これは作者と私の価値観の相違でかみあいようがありませんね。
暫くぶりの発言になります。
> 1、地球教徒に関する尋問。いくら、不敬罪とは言え、前王朝と比較して、はるかに人道主義的かつ人権尊重であるべきローエングラム王朝がルドルフも真っ青の拷問(というかほとんど殺人)をおこなっていいのでしょうか。
> 2、ラインハルト暗殺未遂犯の処遇をラインハルトとケスラーで勝手に決めていますが、まずは裁判にかけるのが先決では。処罰は裁判所が決定すべきです。
> 3、ロイエンタールが新領土総督になった後、証拠がなくて処罰されなかった旧同盟の汚職分子を証拠なしに摘発していますが、これは旧共産主義国の粛清や紅衛兵によるリンチにつながる危険な考えかただと思います。
> 4、ハイネセンが大火に見舞われた後、帝国軍は原因は失火であったにもかかわらず、無実の憂国騎士団を犯人として摘発しました。これも、ゴールデンバウム王朝の社会秩序維持局とやっていることはほとんど変わりません。
上記の例に加えて、ロイエンタールは奪回後のイゼルローン要塞内で横領を働いた主計士官を即決裁判で自ら射殺しています。一見、銀伝とベルばらを一緒くたにする女子ファンにはロイエンタールの高潔さの表れと映りますが、これは近代以前の軍隊の姿です。
1 横領罪で死刑とは、幾らなんでも滅茶苦茶な量刑。
横領罪の法益は、個人的法益であって、一般には国家的法益を侵害する罪よりも罰は軽いのが普通です。我が国の現行刑法でも、業務上横領罪は10年以下の懲役に過ぎません。また、陸海軍刑法でもこのような行為を特別に罰する条項は規定にありませんでした。軍司令官の好き嫌いで勝手に量刑を設定できるのであれば、これはもう軍隊ではありません。いかにロイエンタールが小悪党を嫌おうが、関係ありません。
2 司令官自らの処刑はあり得ない。
軍法会議は、その性質上軍隊に布置され、軍司令官の責任において運営されますが、これは軍司令官の思うままに裁判できるという意味ではありません。検察官や裁判官の全員または一部には法曹資格者を含め、軍司令官や幕僚からの干渉から独立して裁判するのが建前です(歴史上、裏切られる例も多いのですが)。
刑事法で規定された以上の罰を恣意的に課すことができないのは上記に述べた通りですが、また執行も同じです。判決後、軍司令官の許可に基づいて検察官が執行するのが、今日の行刑というものです。このような裁判官も検察官もいない(戦地における臨時軍法会議であれば、弁護人が着かないことはあり得る)裁判というのは、要するに単なる殺人です。
> 上記の例に加えて、ロイエンタールは奪回後のイゼルローン要塞内で横領を働いた主計士官を即決裁判で自ら射殺しています。一見、銀伝とベルばらを一緒くたにする女子ファンにはロイエンタールの高潔さの表れと映りますが、これは近代以前の軍隊の姿です。
そういえば、ロイエンタール・ミッターマイヤーとラインハルトが知り合うきっかけとなった、クロプシュトック候討伐の際に、ミッターマイヤーは老女を暴行した兵士を即決裁判で死刑にしていましたが、軍法会議にかけられても仕方がない所業ですね。それに、ミッターマイヤーはフェザーン進駐の際、婦女暴行をおこなった兵士を死刑にしていましたが、進駐にトラブルはつきもので、それに1つ1つ司令官が付き合っていたら、組織は持たないんじゃ・・・と思いました。
また、同盟崩壊の時に、ラインハルトはロックウェル大将以下、レベロ議長を暗殺した軍人の処遇をファーレンハイトに委ねていますが、これも裁判所に委ねるべき問題です。どうも、ラインハルト陣営は「法」というものがよくわかっていない→国家を運営できるか疑問なのですが、そういう価値観の世界ならばそうだと思いましょう。
> そういえば、ロイエンタール・ミッターマイヤーとラインハルトが知り合うきっかけとなった、クロプシュトック候討伐の際に、ミッターマイヤーは老女を暴行した兵士を即決裁判で死刑にしていましたが、軍法会議にかけられても仕方がない所業ですね。それに、ミッターマイヤーはフェザーン進駐の際、婦女暴行をおこなった兵士を死刑にしていましたが、進駐にトラブルはつきもので、それに1つ1つ司令官が付き合っていたら、組織は持たないんじゃ・・・と思いました。
お久しぶりです。
外伝1巻(新書版)84P 10~13行
「帝国軍軍規に明記してある。不法に民を害し、軍の威信を損なう者は、将官の権限によってこれを極刑に処するをえる――と。その条項にもとづき、卿を処刑して軍規を正す!」
とミッターマイヤーは、老婦人を椋奪・暴行・虐殺した貴族の士官に宣言しています。
ゴールデンバウム朝銀河帝国軍の軍規によれば、ミッターマイヤーの行為は、将官の権限の一つであり何ら咎められる事はないかと。ロイエンタールがイゼルローン奪回時、自ら不正を働いた主計士官を射殺したことも軍規上、問題ないかと。どちらも銀河帝国軍の威信を損なう者を極刑に処しただけですから。
専制国家ゴールデンバウム朝銀河帝国の軍規です。将官(ほとんどが貴族であるのだから)の権限が強大なのも仕方ないことかと。
> ゴールデンバウム朝銀河帝国軍の軍規によれば、ミッターマイヤーの行為は、将官の権限の一つであり何ら咎められる事はないかと。ロイエンタールがイゼルローン奪回時、自ら不正を働いた主計士官を射殺したことも軍規上、問題ないかと。どちらも銀河帝国軍の威信を損なう者を極刑に処しただけですから。
> 専制国家ゴールデンバウム朝銀河帝国の軍規です。将官(ほとんどが貴族であるのだから)の権限が強大なのも仕方ないことかと。
「上官の制止にかかわらず」などの条件も書いていないで、すぐ死刑とは無茶苦茶な軍規ですね。仮に、将官=貴族、兵士=平民であることが前提になっていたとしても、建前の上では、軍法会議を経るとするのが軍隊であり、組織じゃないんですか。いくら専制国家とかいえ、「不法に民を害し」とか建前が書いてあるんだから、法治主義のほうももっと徹底してもいいのでは・・・。やはり、田中芳樹氏は「法」というものをかなりテキトーに考えているのではないかという思いを新たにしました。
田中芳樹がそこまでそこまで知っているわけ無いんですが、
法理論も平時と戦時とは違うんです。軍隊も普段は平時法
のもとにありますが、戦時においては戦時法が適用されます。
戦時法においては禁止されていること以外は何をやっても
合法なんです。ミッターマイヤーやロイエンタールがやった
事も、軍事裁判にかけずに処刑してはならないと禁止され
てなければ合法です。作中の時点でも戦時法が適用されていた
と考えれます。
そしてそういう事を禁止している戦時法はないです。
戦時においてはいちいち裁いてる時間が無いことも
ありますので。作中の時点では裁く時間はあった
でしょうから、裁判にかけるべきだったでしょうが
やらなくても法律上は問題ないです。
平時にやれば大問題ですけどね。
敵前逃亡や軍務放棄といった大罪ならともかく、「不法に民を害し、軍の威信を云々」なんて条項はあいまい過ぎるし、緊急性も持たないような気がしますが、それでも将官が兵士を射殺出来ると言う規程になっており、戦時特例で許されるというのなら仕方がないですね。ただし、それで組織は持たないと思いますが・・・。
私がもう一つ言いたかったのは、ロイエンタールやミッターマイヤーが司令官であるにもかかわらず、横領とか婦女暴行とか細々とした問題に口を挟むと、あらゆる問題が下部で決裁されなくなり、司令官のところに持ち込まれるようになるので、下部に任せればよかったのではないかと思いますね。でないと組織は成り立たないと思います。
>ただし、それで組織は持たないと思いますが・・・。
戦時のやり方は実は組織維持とは
反することが多いです。どの国でもここが問題で、
組織を維持すること優先すると硬直化、官僚化して
戦争に役にたたなくなるし、かといって戦時のやり方
ばかりでは組織が崩壊してしまう。さじ加減としか
いいようがありませんね。
> 私がもう一つ言いたかったのは、ロイエンタールやミッターマイヤーが司令官であるにもかかわらず、横領とか婦女暴行とか細々とした問題に口を挟むと、あらゆる問題が下部で決裁されなくなり、司令官のところに持ち込まれるようになるので、下部に任せればよかったのではないかと思いますね。でないと組織は成り立たないと思います。
これは同意します。司令官がいちいちかかわるべき問題では
ないでしょう。ただこれはロイエンタールとミッターマイヤー
個人の問題だと思います。
> ゴールデンバウム朝銀河帝国軍の軍規によれば、ミッターマイヤーの行為は、将官の権限の一つであり何ら咎められる事はないかと。ロイエンタールがイゼルローン奪回時、自ら不正を働いた主計士官を射殺したことも軍規上、問題ないかと。どちらも銀河帝国軍の威信を損なう者を極刑に処しただけですから。
軍規維持の権限と責任が将官を含む将校にあるのは、当然のことです。何もゴールデンバウム朝やローエングラム朝に限った話ではないはずです。ただ、そのために将校に付与された権限のあり方と範囲が問題なのです。
分りやすく言うと、軍規違反の軍人を処断するにも、裁判という制度を経ねばなりません。軍隊に裁判所が布置され、そこで軍規違反を処断するという様式は、何もフランス革命以後、専制王朝が打倒された後の話ではなく、古くは30年戦争の頃から史料に現れています。そして、その際の裁判でもっとも重要なことは、軍指揮官を含む外部からの恣意的な干渉を避け、裁判の独立を維持することです。
裁判の独立は、専制王朝時代以前からの実は司法の重要なテーマであって、もしゴールデンバウム朝で将官の意図どおりの法の適用ができるなら、実は17世紀以前に歴史が逆転しているということを意味しているのです。
> Dさん
> 裁判の独立は、専制王朝時代以前からの実は司法の重要なテーマであって、もしゴールデンバウム朝で将官の意図どおりの法の適用ができるなら、実は17世紀以前に歴史が逆転しているということを意味しているのです。
当然逆行しています。
民主主義における「意思決定の迂遠さ」「衆愚政治化」を厭った時の民衆がルドルフ・フォン・ゴールデンバウムに軍事力を伴った政治的決定権の全権を委任した段階で時代は封建時代に逆戻りしています。
しかも「王権神授説」と違いむしろ初期のナポレオン・ヒトラー的な「民意により選ばれた独裁者」なので帝国の決定は即ち「最速で民意を代行」している事に他なりません。
例え帝国の恣意的判断でもその「恣意」とは「民衆が自己の代弁・代行者として容認した物」なのです。
よって少なくとも銀英伝のゴールデンバウム王朝の法体制は司法・立法・行政の三権全てを王朝の定めるヒエラルキーにより上位者が「皇帝の為に」ほしいままにふるって構わない事になります。
実際裁判については「冤罪の危険性」を看過して「テロリストや重犯罪者の即時抹殺」に重きを置いた、と言えば現代日本におけるいくつかの事例からもそれなりの支持を勝ち得るとも思われます。
もっとも「人道主義」「法治主義」を主張してもこの体制化では「テロリスト」扱いでしょう、何故なら「体制を破壊する主義主張」でありますので。
そもそも田中芳樹は司法権の概念を理解できていないのではないでしょうか?
銀英伝3巻で、彼はラインハルトに「統治の要は公平な税制と裁判だ」という趣旨のことを言わせています。
にしては、明らかにローエングラム朝においては「公平な裁判」は実現していません。それが顕著になるのは、8巻の「フェザーン工部尚書爆殺事件」です。この事件において真犯人として逮捕されたボルテックの逮捕理由は「自ら負傷したのが何よりの証拠だ」だそーです。んで、ルッツに「んじゃあの場で負傷した俺も容疑者にされかねねーじゃん」と言わしめてます。当然のことですが。そしてケスラー憲兵総監への調査依頼・冤罪発覚へとつながっていくわけですが…。
「どこが公平な裁判やねん」と思いましたよ。捜査機関の恣意で冤罪量産大歓迎システムですな。いや、この段階の話はあくまで捜査機関による捜査の話ですが、こんなでたらめな理由でも裁判をクリアできると判断したからこそ逮捕したのでしょう(じゃなければ裁判での冤罪露見を恐れてできないはずです)。ローエングラム王朝の裁判がいかにぬるく、不公平かがよくわかります。
いままでの話や、このフェザーン事件だけなら「銀英伝世界はそーゆーもんなの」ですみますが、つぎ。創竜伝。
「逮捕礼状抜きで貴様らぶちこんだるー。ドラマでも令状なんかださねーだろ」と竜堂四兄弟に言ってのけた公安刑事がいましたが、まぁこれは「踊る大捜査線」によって見事にぶちこわされましたわな。
べつに警察が全て法令に従い公平中立不偏不党に活動しているとは言いませんが、今時「令状なしで逮捕」なんて起こりえないですよ。
しかしどうやら田中芳樹は起こり得ると考えている(いた?)ようで。
彼は口では民主主義のすばらしさを説きながら、その実、三権分立すら理解していないのではないでしょーか。
> いままでの話や、このフェザーン事件だけなら「銀英伝世界はそーゆーもんなの」ですみますが、つぎ。創竜伝。
>
> 「逮捕礼状抜きで貴様らぶちこんだるー。ドラマでも令状なんかださねーだろ」と竜堂四兄弟に言ってのけた公安刑事がいましたが、まぁこれは「踊る大捜査線」によって見事にぶちこわされましたわな。
念のために申し上げたいのですが、戦前ですら、被疑者の拘引には、今日の逮捕状に相当する拘引状を提示しなければなりませんでした。参考人として同行させる場合ならともかく、ドラマのように特高や憲兵がいきなり現れてアカを連れて行くなんてことはできませんでした。特高も、逮捕する場合には、例え社会主義者でも一応相手の体面くらいは配慮したそうです。
田中よしきんは知らないかも知れませんが……
> 「逮捕礼状抜きで貴様らぶちこんだるー。ドラマでも令状なんかださねーだろ」と竜堂四兄弟に言ってのけた公安刑事がいましたが、まぁこれは「踊る大捜査線」によって見事にぶちこわされましたわな。
> べつに警察が全て法令に従い公平中立不偏不党に活動しているとは言いませんが、今時「令状なしで逮捕」なんて起こりえないですよ。
ドラマでも、刑事の必死の捜査の結果、明らかになる犯人。
そして、突きつける逮捕状。
少なくとも20年くらい前のドラマでも、現行犯(か自主)以外では、逮捕状突きつけますよね。
> そもそも田中芳樹は司法権の概念を理解できていないのではないでしょうか?
>
> 銀英伝3巻で、彼はラインハルトに「統治の要は公平な税制と裁判だ」という趣旨のことを言わせています。
いや、あれはラインハルト個人が「俺はルドルフよりマシにやる」程度の考えでしょう。
ラインハルトは帝制を否定していませんし、逆にゴールデンバウム王朝を誕生させかつ打倒できない民主共和制は軽んじているでしょうから。
> にしては、明らかにローエングラム朝においては「公平な裁判」は実現していません。それが顕著になるのは、8巻の「フェザーン工部尚書爆殺事件」です。この事件において真犯人として逮捕されたボルテックの逮捕理由は「自ら負傷したのが何よりの証拠だ」だそーです。んで、ルッツに「んじゃあの場で負傷した俺も容疑者にされかねねーじゃん」と言わしめてます。当然のことですが。そしてケスラー憲兵総監への調査依頼・冤罪発覚へとつながっていくわけですが…。
> 「どこが公平な裁判やねん」と思いましたよ。捜査機関の恣意で冤罪量産大歓迎システムですな。いや、この段階の話はあくまで捜査機関による裁判の話ですが、こんなでたらめな理由でも裁判をクリアできると判断したからこそ逮捕したのでしょう(じゃなければ裁判での冤罪露見を恐れてできないはずです)。ローエングラム王朝の裁判がいかにぬるく、不公平かがよくわかります。
いえ、あれも社会秩序維持局というある意味冤罪のプロのラング局長がロイエンタール憎しで地球教&ルビンスキーに荷担した結果ですし、むしろ担当者の人格を理由に職権の分担を侵さなかった点は公人として評価していいんじゃないかと思います。
「報告が強引」なのはこれは「作劇の都合」で許してもいいのではないでしょうか、説得力と作家の力量についてさておいて。
> いままでの話や、このフェザーン事件だけなら「銀英伝世界はそーゆーもんなの」ですみますが、つぎ。創竜伝。
>
> 「逮捕礼状抜きで貴様らぶちこんだるー。ドラマでも令状なんかださねーだろ」と竜堂四兄弟に言ってのけた公安刑事がいましたが、まぁこれは「踊る大捜査線」によって見事にぶちこわされましたわな。
> べつに警察が全て法令に従い公平中立不偏不党に活動しているとは言いませんが、今時「令状なしで逮捕」なんて起こりえないですよ。
> しかしどうやら田中芳樹は起こり得ると考えている(いた?)ようで。
> 彼は口では民主主義のすばらしさを説きながら、その実、三権分立すら理解していないのではないでしょーか。
これもまあ「愚劣な行使者に民主主義の素晴らしさが踏み躙られる」描写ですからねえ。
うまくまとまらず今更の投稿になってしましました、申し訳ありません。
ず~っと疑問に思っていたことがあります。それは、憲兵が地球教徒を逮捕ないし殺害する場面です。専制国家のことですから令状なしに家宅捜索していることには眼をつぶるとして、憲兵というのは軍法会議とならんで軍部内においてのみ司法・警察権を行使しうるものであって、つまりその対象は軍人または軍属に限定されるのではないかと思います。私人に対して強制力をともなう刑事手続を執行するのは、いかに専制国家であっても重大な越権行為ではないかと思うのですが。
そもそも、ラインハルトの銀河帝国においては通常の警察の描写がほとんどなく、犯罪については憲兵隊と社会秩序維持局がすべて対応しているように思えます。社会秩序維持局は思想警察ですから戦前の特別高等警察に相当するようなもので。ここが地球教徒に対して捜査・拘禁を行うのならばまだわかるのですが。たしか、ケスラーが指揮する憲兵が一般の刑事犯(横領でしたっけ?)を検挙したというような部分もあったような。一般の犯罪については、たとえそれが内乱罪等の公安関係の犯罪であってもまず犯罪発生地を管轄する地方警察が対応し、場合によっては専門の部署を要する警察庁のような上級庁が対応し、その後にはじめて防衛出動のような形で軍が動員されるのが通常であると思います。その場合でも正規軍または専門の特殊部隊のような部隊が出るはずであって、憲兵の出動はどう考えてもないのではないかと思われます。憲兵はあくまでも「軍隊の中の警察」ですから。
と、思いました。
私は軍隊組織にはあまり詳しくありませんが、憲兵は普通警察権も行使できるようです。
たとえば、ここをごらんください→http://www.ne.jp/asahi/kuma/radical/dokusyo/special/kenpei_kiroku.htm
ケスラーが地球教徒鎮圧に憲兵隊を使っているのは、彼が帝都防御司令官を兼ねているからではないでしょうか。おそらく、ラインハルトから帝都に騒乱があった際は、憲兵隊も自由に使っていいと言われているのでしょう。さらに、銀河帝国の憲兵隊には、近衛隊の役割も果たしていると思われます。近衛隊の記述がないうえ、ラインハルトの身辺警護を憲兵隊が担当していることから想像がつきます。
まとめると、銀河帝国の憲兵隊には憲兵本来の任務である①軍隊内の警察②思想警察の役割のほかに、③首都の治安維持④皇帝の身辺警護の役割をも担っているのではないでしょうか。憲兵隊が一般犯罪を取り締まっているという描写があったかどうか記憶にありませんが、もしあったとしてもそれは例外的なもので、日常は国事犯を取り締まっているのではないでしょうか。現在の日本にあてはめると、公安警察+皇宮警察+機動隊のような存在ではないかと思われます。
イッチーさん、ごていねいにありがとうございます。と、しますと銀河帝国の憲兵隊はやや特殊なというか特権的な機関なのでしょうか。中世以前のように領主権力に属する武力集団が国防と治安維持のすべてを担当していた時代はありましたが、統治機構の確立をみた近世以降の国家においては、政治体制を問わず、同質の機能を有する組織においてさえ職分管轄の境界は厳然たるものがありましたから。それに特定の機関、それも実力機関にこれだけの権限を付与するのは統制がおよばなくなりクーデターに直結する危険性があるので施政者の忌避するところなのですけれどもね。ラインハルトはよっぽど自信があるんでしょうか。
いずれにしても疑問がとけました。ありがとうございました。