こういうのはいかがですか?
ラインハルトが同盟にクーデターを起こさせるために選んだ人物は
ジャン・ロベール・ラップだったというのは?
アスターテでは戦死せずに、捕虜になっていたことにするのです。
同盟では、行方不明=戦死と思われています。
ラップはジェシカに会いたい一心で、ラインハルトの甘言にのると。
これで救国軍事会議はどうなるか?
ヤンはラップと戦えるのか?
ジェシカはどうなるか?
感想と批評を希望します。
お遊びという事で。
まず動機ですが、リンチは部下だったヤンに勲功を奪われた事を逆恨みしましたが、ラップはジェシカをヤンに奪われるという嫉妬(妄想)という事でどうでしょう?
3部隊に分けての包囲攻撃はヤンがラップを陥れる為に仕掛けた罠だと刷り込みます。最初は信じませんが、トリューニヒトの演説でヤンとジェシカが二人で出て行く映像を
見せられそれが頭から離れません。という事で、著しく情報を制限された中では僅かな情報にすがるようになり次第に信じていってしまいます。
捕虜交換で戻って来たラップは真っ先にジェシカに会いに行きます。そして、ヤンが自分を陥れたのだと話しますが、当然ジェシカは信じません。しかし、ラップはそれを
ジェシカがヤンに奪われたからだと誤解します。
栄光を掴んだヤンを引き摺り下ろすため嫉妬の力によりクーデター活動を熱心に行います。ジェシカに隠していましたが、それもいずればれてしまいます。しかし、
未だラップを愛しているジェシカはそれを他人に話す事はありません。そこにはかつて反戦活動をしていた毅然とした姿は無く、愛に溺れる一人の女性がいるのみだった。
クーデター勃発、ヤンにより完全に勝ち目を失います。そしてヤンはラインハルトの謀略を明かします。ラップは射殺。その他の救国軍事会議メンバーは自決。
ジェシカは辛くも逃亡。ヤンは謀略の実行犯が誰であったかをハイネセンでラップの死体を見て悟ります。
それから数年後、ヤンがジェシカと再会したのは巡航艦レダⅡ号上であった。
おそまつ。
ラインハルトの人間性からいって、嫉妬をあおって、クーデターという策略はあまり使わない気がします。
リッチの逆恨みの対象は思っているのは、ヤンに対してもそうですが、むしろ、かつて自分もそうであったように、自己の正義を確信して疑わない=偽善者=多くの軍人に対してであるといえます。
従って、リッチがクーデターに乗っかったのは、クーデター計画が彼にしてみれば結構合理的であり、これに乗っかればそのような軍人(救国軍事会議を構成するような人々)に恥をかかせられると判断したからです。
(しかし、一人の人間の逆恨み依存した謀略といい、どうも田中芳樹の謀略というのは現実的ではありませんね。
もともと軍部内部でクーデターを起こしたい土壌があったとはいえ、帝国から戻ってきた捕虜がクーデター計画を持っていたとしたら、まず信頼は出来ないでしょう。)
ラップの話に戻ると、彼は同盟政府や軍部に対して恨みを持つはずもないので(批判はあるでしょうが・・・)、単純にヤンとジェシカの人間関係に対しての嫉妬ということになります。それにクーデター計画をたくすラインハルト、ちょっと無理がありますね。
それならば、話が飛躍しますが、ラップがラインハルトの才幹にある種の憧れを抱いて、帝国に寝返るというストーリーはどうでしょうか?
どうも田中作品においては、専制政治体制は原則的によくないものとされてしまいます。(ラインハルトがいるのは例外)
しかし実際の社会においては理念としては民主主義が絶対的な正義として信じられていますが、実際的には有能で強い指導者を民衆は求めるものであり、ヤンのように「腐敗した民主主義の方が、清廉な専制政治より本質的にマシ」なんていう、民主主義原理主義者はむしろ少数派です。
私は少なくとも制度として民主主義を認めてくれていても政治腐敗・経済不況で極貧の北朝鮮のような国より、国王制でも高圧的な国家権力がなく、所得税がなくて、豊かなブルネイみたいな国にいたいですね。
50年後独裁者があらわれるかもしれないから・・なんて考えません。
そしてある程度有能な人間は自分を認めてくれる、有能な上司のもとで力を発揮したいものです。
ましてやラップはもともと士官学校などでリーダー的役割を果たしていましたし、軍事的能力もありました。それが無能な上官のせいで死にかけたわけです。
ラップはヤンほど民主主義というイデオロギーに固執しなさそうなので、汚職・腐敗している同盟と、個人的には好感すらもてる有能な人間達が、中枢を握って成長著しい帝国、自分は何のために戦っているのかどちらがより民衆のためになるのか、ということに疑問をもっていくわけです。彼はヤンのように民主主義の苗床なんて、あまりに原理的過ぎる理屈ではなく、今、民衆にとってどちらが必要かという合理的な判断をするとおもいます。
ラインハルトとラップの出会いにはなんらかの偶然性が必要ですが、ラップが自らの意思で有能な指導者のもとでその才幹を発揮し、ヤンに力説します。
「なんで、そんなに民主主義というイデオロギーに固執するんだ、そのために何億人の命が犠牲になったと思っているんだ、今どうするかを決めるのは俺達だ、50年後のことは50年後の人たちが決めるものだ!!」
ついでにジェシカの反戦運動には
「元婚約者が帝国将官」というスキャンダルが発覚して、失脚して、婚約者・仲間全てに見放され失意に打ちひしがれるジェシカ、そこにヤンとジェシカのロマンスが始まれば、実に思想的にも人間関係的にも重層的になると思いませんか。
というわけで,ラップがクーデター計画に乗った(ふりをした)のは、同盟はこのままではだめだ,強い指導者がいる,それはヤンだ,本人がどう思おうとヤンは独裁者になるべきだ,俺が引っ張り出してやる。
というわけで,ヤンじゃなきゃ収拾出来ないような状況を作り出すため,クーデターって,だめ?
おちゃわんさま、初めまして。ご考察、大変興味深く拝見させていただきました。ラップ寝返るのストーリーですが、こんな感じではいかがでしょうか。
アスターテ会戦において、ラップが参謀をつとめる第6艦隊司令官は帝国軍の猛攻をうけ、部下を見捨てて、自分のみが助かろうとした。その見苦しさに激昂したラップは司令官を射殺し、部下もろとも帝国軍に降伏する。「私の身はどうなってもかまいません。その代わり、部下にたいしては寛大なご処置を」
ラップの潔い態度はラインハルトの耳に届き、会戦後、特別に謁見を許された。
「叛乱軍の中にも卿のような器の人物がいたとはな」
「ラインハルトさま、この者はヤン・ウェンリーの親友とのことです」キルヒアイスが耳打ちする。
「ほお。面白い。卿の部下に対しては寛大な処置を約束しよう。その代わり、余のそばに仕え、ヤン・ウェンリーの話を聞かせてくれぬか」ラインハルトのそばに控えるうち、ラップは同盟の卑小な上官たちとははるかにスケールの違うラインハルトの人格に惚れこむようになっていた。「果たして、同盟が帝国を打倒することは人類にとって幸福なことなのだろうか?」ラップがラインハルトの客員幕僚としてその名を連ねるのに時間はかからなかった。
同盟では戦没者慰霊祭で、トリューニヒト国防委員長がラップを口汚くののしっていた。「このような人物は同盟軍人の面汚しであり、国防委員会は早速このようなやからの位階を剥奪し・・・」むっとしたヤンが委員長につっかっろうとしたとき、一人の女性が歩みだした。ジェシカである。「国防委員長!私の婚約者であるジャン・ロベール・ラップはそのような卑怯者ではありません!きっと、ラップは帝国軍によって拉致され、非人道的な洗脳を受けたに違いありません!」その日から、ジェシカはトリューニヒト以上の対帝国強硬派となった。マスコミは「悪逆非道な帝国軍によって婚約者を洗脳された悲劇の女性」としてジェシカを持ち上げ、ジェシカはテルヌーゼン惑星区の与党候補として担ぎ出され、圧倒的大差で同盟議会に代議員として選出された。国防委員会広報官として、日夜帝国打倒を唱えるジェシカをヤンは遠く見つめるしかなかった。
やがて、ヤンはイゼルローンを落として、同盟は活気付くが、帝国領侵攻作戦ではラップの献策もあり、同盟軍は大敗。それに対して、ジェシカはついにラップとの絶縁宣言を発表し、ますます政治活動にのめり込んでいった。
そのころ、ラインハルトは対貴族連合との戦いの準備をすすめていた。ラインハルトはまずリンチに命じて、フォーク准将の説得を試みた。リンチでは説得力が薄いと見たラインハルトは、クーデター計画をフォークの発案とすることにして、同盟軍首脳を説得させようとしたのである。リンチにうまくのせられたフォークはクーデター計画を自分の発案と思い込み、グリーンヒルや首脳に持ちかけた。一方、ラインハルトはラップをヤンのもとに向かわせた。ハイネセンでクーデター阻止のために動き回るヤンの前にラップが現われる。「聡明な君は今度のクーデター計画を察知していると思うが・・・。目をつぶって欲しい。それが人類のためなんだ・・・」果たして、ヤンの答えは・・・?
レスどうもありがとうございます。
まさかジェシカが帝国強硬派になってしまうとは思いませんでしたが、続編をご提案させていただきます。
ヤンは言った。
「ラップ、こんな形で君に会うとは思わなかったよ。いや、こんなことが言いたいんじゃないんだ。まいったな、もう二度と会うことはないと思っていたから、心から喜びたかったよ・・・。しかし、僕は君の提案を受け入れることはできない。
確かに、来たるべき帝国の内戦はラインハルト フォン ローエングラムの勝利に終わるだろう。それは彼のこれまでの才幹とその陣容を見れば、予測というより確信に近い。
その後、彼が全銀河統一を目指すのかはわからないが、その前に僕はローエングラム体制と同盟との間に共存の道があるかもしれないと思っているんだ。
同盟もローエングラム体制もゴールデンバウム王朝の圧政に対する反発という点では共通の認識をもてる。そこに彼が・・・いや同盟の政治家たちが気づけば、一定の善隣条約が結ぶことができるかもしれない。
しかも、同盟は先のアムリッツァの大敗北で戦力が激減している。
彼らも今、戦端を開きたいと思うほど、愚かではないはずなんだが・・・。
だから今、同盟の戦力がさらに減ってしまうということは、新たなローエングラム体制に、新しい戦いを生むエサを与えてしまうことになるのさ。
と、今僕がいくら言ったって、同盟の政治家たちが聞いてくれるとは思えないけどね、しかしこれも給料のうち、やれることはやらないとね。
それに同盟が滅びたら、年金がもらえなくなってしまうしね。」
「ヤン、お前のいうことはわかる。その予測もその通りかもしれない。しかし、帝国と同盟はもう100年以上対立している。同盟は専制からの解放をうたいながら、何千万人という人命を損なっている。どうしてだ、それは上司や指導者たちが無能であったり私利私欲に走ったり、無理や利己的な政策を推し進めるからじゃないのか。
それは民主主義でも専制主義では変わらないじゃないか。
確かに専制による害悪は大きいかもしれない、かつてルドルフがそうだったように・・・。しかし少なくともラインハルト フォン ローエングラムが専制者だからといって、ルドルフの再来の可能性を論じるのは、現実的ではないとは思わないか?
それより、良い指導者がいるならその下で平和と建設に協力することが・・・。」
さらにたたみかけるラップにヤンが珍しく口をはさんだ。
「無能な指導者に民衆や苦しめられる・・・・。だから民衆は指導者を選べなくてはいけないんだと僕は思う。」
「ヤン、分かったよ・・・。俺は教師には不向きだと思っていたけど、やはりそうだったな・・。しかし、ヤン、最後に覚えておいてくれ、民衆はお前ほど民主主義・・・政治に価値をもっていないんだ。」
ラップの言葉は、ヤンの目を曇らせた。
「民主主義政体の最大の加害者は実は政治に無関心な民衆にあるのだ」ということを示唆していたからである。ラップは同盟と帝国の両方の民衆を知り、そう確信したのだろう。その民衆が政治屋を生み、自らを傷つける、それは政治に無関心の民衆もそうでない民衆も・・・。
民衆がそのようになってしまうとき、民主主義は閉塞状態に陥る。しかし、昔の西洋の小国で民主主義がうまれて数千年、民主主義はつまるところそのような民衆を生み出しつづけてきたのだ。
背を向け立ち去ろうとするラップに、ヤンは問い掛けた。
「彼女とは・・・ジェシカとは会わないのか・・・。」
「ジェシカか・・・。会いたいなあ、会って一度あやまりたい・・・。
しかし、会わないほうがいいだろう、彼女のためにも、俺のためにも。
懐かしいなあ、3人でダンスをやった夜のことを・・・、あのころに戻りたいなあ。
知ってるか、あの時、おそらく彼女はお前のことが好きだったんだぞ。
あの後、キスを迫ったとき彼女は拒絶したんだ・・・。
次の次のデートだったな、初めてキスしたのは。
だけど、あの時お前には一歩踏み出す、勇気がなかった。
今回もだ、お前は自分の行動に制限ばかり作っている、どうせ同盟とローエングラム体制との和平などと言ったって、それを実現するのは政治家の役目、軍人は政治に関与するべきじゃないとでもいうのだろう。
おっと、すまん、この話はおしまいにしよう。彼女によろしく伝えておいてくれ、じゃあな、もう二度と会うことはあるまい」
ラップが去った、その広場にはヤンのトレンチが風に揺らめいていた。
・・・・・
「ジェシカ、君はそのう・・・。彼が・・・ラップが洗脳されたと本気で思っているのかい?」
正直、ヤンがこの時期ジェシカに会う理由はなかった、帝国最強硬派の一人と目される彼女は、ヤンの考える帝国との共存路線の支持者になりえるはずもなく、政治運動にのめりこんでいく彼女にヤンはむしろ冷ややかな視線を送っていたからだ。
しかしビュコック提督にクーデター計画への懸念を告げた帰り道で彼女の事務所が近くにあること、彼女の強硬路線に違和感を感じていたこと、クーデター計画に対する懸念だけは伝えておいてもよいこと、何よりラップと話したことなど、いろいろな要素が重なって、ジェシカと話してみたくなったのだ。
彼はアポを入れないで、彼女の事務所のインターホンを鳴らした、ここで彼女がいなければ、または来客中であれば、まっすぐに帰ろうと思っていたのだ。
しかし彼女は丁重にヤンを迎え入れてくれた。
「あなたは、紅茶がすきだったわよね、すぐ淹れるわ」
副官のグリーンヒルと異なり、ジェシカは自然にヤンに対して精神的に少し優位にたった話し方をする。もちろんヤンの方も、なんとなくそれを受け入れてしまうところがあり、つまるところそれは恋愛とかと別の次元でこの二人が相性がいいことを示している。
「あなたがここに来てくれるとは思わなかったわ、あなたは私の今の政治姿勢を面白く思っていないんでしょう。アスターテの時以来かしら、こうして会うのは?
慰霊祭のときの洗脳の話?懐かしいわね、そうよ、渡しはあの時は本当にそう思っていたわ。だってあの人が帝国将官なんて信じられなかったもの、でも今は違うわ。あの人が洗脳されるはずないもの。恐らく、あの人なりの正義があるのよ、私にはわからないけど」
ジェシカはつづけた
「アスターテ会戦であの人が死んだと聞かされて、私は絶望の底にたたき落とされたわ、あの時の私はあの人を死に追いやった戦争が・・・軍人が心から憎かった。そしてそれを後押しする政治家たちも。
ところが、あの人が帝国の客員幕僚として生きていると知ったとき、こう思ったの。正直、うれしかった・・・でも愕然としたわ・・・。
みんな平和や正義や色々なことをいうけれど、所詮戦うことが好きなんだって。
だってそうでしょう。せっかく命が助かったのに、私になんにも知らせないで、私のことを忘れて、今度は帝国の軍人さんになってまた正義のため戦っているのよ。そう思ったとき、私の中での彼への愛がすっと消えていってしまったの。一番そばにいる人も幸せにできない正義、そんなの人間として認めないわ。
だから、みんな戦えばいいのよ・・・民主主義国家が戦うということは少なくとも多数の国民が戦うことを選択しているということなのよ。それは戦争を賛美し煽動する卑劣な政治家のせいでもあるけれど、ラップのように自分の正義を信じる人や彼らを当選させる国民がいるからこんなふうになるんじゃない。」
徐々に厳しくなっていくジェシカの口調にヤンは悲しい目をしていた。
「彼がジェシカのことを忘れてるとは思えないよ・・・。彼なりに色々と考えているんじゃないかな」
ジェシカのラップに対する批判を聞くと、昔を知るだけに辛く、それ故に根拠があるわけではないが、どうしてもラップをかばうような台詞が口についてしまうのだ。
「いいの、あの人の話はやめて、それに・・・そんなに今思うとそんなに好きじゃなかったもの。
私はあのダンスの日、あなたが誘ってくれると思っていたわ、少しうぬぼれてたのね。あなたは私を見てくれているって、でもあなたは私が彼と婚約しても、私を見てくれなかった、それどころか「おめでとう」っていたのよ。覚えてる?
だから、私はこれからは気持ちを表に出して生きることにしたの。
ふふふ、なんか懺悔してるみたい。
それで、今日わざわざ来てくれたのは、わけがあるんでしょう?」
本当の意味での訪問理由はこれまでの会話で終わってしまったのだが、今後予想される帝国の内戦と同盟内部のクーデター計画について、ヤンの予測と協力を訴えた。
ジェシカは少し驚いた様子で答えた。
「同盟にクーデターが起こるっていうの?それは考えられないわ。だって、現在の軍部の主な役職は国防委員会の意向が強く反映されているのよ。あなたには面白くない部分かもしれないけど、トリューニヒト政権では、むしろ軍部のほうが自発的に国防委員会にお伺いを立てているっていうのが実情よ。
それに実戦部隊を所管する統合作戦本部議長のクブルスリー大将も宇宙艦隊司令長官のビュコック大将もクーデターを国防委員会が常時監視をつけているから、それも考えられないわ。
あとは査閲部長のグリーンヒル大将くらいかしら、でもあの方の人となりと娘さんがあなたの副官でいるのに考えられないわ」
むしろ帝国に内戦が起こるのなら、それを機会に帝国に再侵攻をかけることはできないのかしら・・・。」
ジェシカの考えは強硬派と呼ばれる政治家たちに共通するものであるのだろう。ヤンはそれがわかっていたからこそ、この予測に話すのに躊躇したのだ。
しかしラップが極秘にヤンに接触した事実がある以上、同盟内のどこかにクーデターを企図する集団があるのは確かであり、ヤンはどうしてもそのことを強く警告せざる終えなかった。
今、思うとラップに説得されたフリをして、クーデターのグループの情報を探るべきだったかもしれない、という考えがヤンの頭をかすめたが、しかしおそらく自分にはそれは出来なかったであろうと、考え直していた。
「いや、クーデター計画の危険はあると見るべきだよ、あの英邁なラインハルト フォン ローエングラムが同盟への対応を考えないはずはないからね」
「ラップが工作員としてハイネセンにいる」といえればどんなに楽だろうな、ヤンは心の中でつぶやいた。しかしそれは、できない。理性で正しくないことが分かっていても、時に私情で身動きが取れなくなるところがヤンらしくもあり、それは偽善でもあるのだが・・・。
ちょっと時間がなくなったので、また書きますね。
でわでわ
> まさかジェシカが帝国強硬派になってしまうとは思いませんでしたが、続編をご提案させていただきます。
会戦の直後に相手の指揮官の名前などがわかっているところから、帝国・同盟は互いに相手の通信を傍受していると思われます。すると、ラップが降伏した場合、その事実はすぐに同盟の知るところとなり、ラップ戦死の誤報が出ることはあり得ないと思います。そこへ、ジェシカが反戦運動を始めようものなら、ジェシカとラップが共謀していると見られると思います。ならば、ジェシカが生き残り、なおかつラップの名誉を守るには、ラップが拉致され、洗脳されたと主張して、自らは強硬派となるしか道はないと思います。この設定は北朝鮮に逃亡したとされているジェンキンスさん(曽我さんの夫)の親族を念頭に置きました。
おちゃわんさまの続きを考えてみました。
ヤンからクーデターの可能性を示唆されたジェシカはトリューニヒト議長にそのことを報告した。
「なるほど。それは考えられることだな」トリューニヒトも議長に上り詰めただけあって、鋭い判断力を有している。トリューニヒトは早速、憲兵隊に命じて、クーデター計画の可能性を洗わせた。数日後、ベイ大佐という軍人が憲兵隊に密告してきた。「実は、病気療養中のアンドリュー・フォーク准将にクーデターに参加するよう誘われました」早速、フォークは憲兵隊に拘束され、厳しい取調べを受けた。フォークはあくまでも計画を自分の発案と主張したが、フォークの家を内偵していた憲兵隊にリンチが逮捕され、リンチが帝国の命を受けて、フォークに知恵を授けていたことが明らかとなった。フォークとリンチは軍法会議で死刑を宣告された。外患誘致罪ということで、フォークには精神疾患による減刑は実施されなかった。グリーンヒル大将はフォークの計画を聞かされても通報しなかったとして、退役を命じられた。
ラップは逮捕されず、ひとまず帝国に帰還した。
「申し訳ありません。私がヤンに計画を漏らしたために、クーデターは失敗してしまいました」ラップはラインハルトに頭を下げた。
「よい。私もリンチやフォークのような小物にクーデターが出来るとは思っていなかった」ラインハルトは怒らなかった。「卿の力量を見込んで、別の任務を与える。今度は失敗は許されんぞ。来る帝国の内戦で同盟が門閥貴族を支援しないよう同盟軍指導部を説得せよ。ヤン・ウェンリー、ジェシカ・エドワーズ、卿の人脈をフルに活用するのだ。同盟が我らに味方するようなら、余の覇権が成就したあかつきには、帝国は同盟との共存を考えても良い。だが、もしも説得が不調に終るようだったら・・・」「終るようだったら?」「ヤン・ウェンリーを暗殺せよ」「・・・!」
ヤンはトリューニヒトに呼ばれていた。傍らにはジェシカが控えている。
「帝国による工作を事前に見抜いてくれてありがとう。国民への衝撃を考えて、ことは表ざたに出来ず、君をおおぴらには表彰できないが」
「いえ。私は同盟の危険が回避されれば、それで十分です」
「無欲だな。君は」トリューニヒトは笑った。「君を呼び出したのは他でもない。今後、帝国は同盟に対してどのような工作を仕掛けてくるか、聞きたいのだ」
「帝国はラインハルト陣営と門閥貴族陣営の内戦に突入します。ラインハルト陣営は同盟に対して中立でいることを求めてくるでしょう」
「同盟は帝国の内戦に突入すべきだろうか。それとも、中立であるべきだろうか?」
「それは・・・」ヤンは議長に自らの考えを述べ始めた・・・。
つづく?
レス、ありがとうございます。
確かに第6艦隊降伏の通信は、速やかに同盟の知る所となるでしょうね、ラップの生存→捕虜になったことはジェシカもすぐ知ってしまいますね。
それから、数ヶ月してラップがラインハルトの客員幕僚になったことが伝わって、慰霊祭(戦後処理に時間がかかり、半年後に行われた)で、トリさんのラップ批判→ジェシカの弁護→強硬派路線
っていう流れなら、筋がとおりますね。
個人的にはヤン崇拝者のフレデリカより、強硬派ジェシカとの恋愛関係それに対するラップの嫉妬っていう展開のほうがリアルかな。と思いますが・・・(どうもヤンは恐妻家の方が似合う気がする、モデルの田中芳樹はどうなのでしょうか?)
つづきの設定
ヤンはラインハルト側について、内戦に干渉すべきと主張するでしょうし、フェザーンの陰謀も設定すべきですね。
イッチ-さんの展開だと、トリさんとヤンが結構いい関係なので、私的にはこのゴールデンコンビができてしまうと、同盟は楽勝してしまうんですよね。
トリさんは田中芳樹的にはひどい奴ですが、現実社会ではやはり敏腕政治家だと思いますよ。
とすると、あくまでトリさんとヤンの意見対立を作るとすると、トリさんには同盟による全銀河統一を真剣に考えてもらわなければならないなあ。
しかし、アムリッツァでの敗北を予見できる、視野を持っているトリさんが、そんな妄想を抱くかなあ?
ではでは
おちゃわんさま、レスありがとうございます。
ここで、ラップが寝返ったことによる変化をまとめてみます。
同盟…ラップによる司令官射殺・第6艦隊降伏の報が伝わる→それだけで反逆罪→慰霊祭でラップ批判→ジェシカ、強硬派へ→皮肉にもジェシカがヤンとトリューニヒトの橋渡しとなる→クーデター失敗→しかし、トリューニヒトとヤンが組んでも、アムリッツア会戦で同盟軍の戦力は激減しているので、同盟の維持がやっと
帝国…ラップを同盟とのパイプとして利用出来る→しかし、クーデターは失敗→ラインハルトの覇権成就とのためには同盟との強力が不可避
フェザーン…ヤン=トリューニヒト同盟の成立によって、同盟が勢いを盛り返し、帝国・同盟均衡政策を継続
トリューニヒトに対してヤンが説いた戦略は次の通りだった。
「門閥貴族連合を助けるという選択肢もありますが、到底、同盟国民の支持を得られません。ある程度、進歩的な装いを持つラインハルト陣営に条件付で協力するしかありません」
「条件付といっても、ラインハルト陣営とどうやって交渉するんだ?」
「実は、ラインハルト陣営から密命を帯びた使者がハイネセンに来ているのです」
「まさか・・・ラップ!?」ジェシカが叫ぶ。
「・・・ああ。しかし、居場所を明かすことは出来ない。彼は身柄を拘束されることを恐れているからね。これが、ラインハルト陣営から示された条件です」
「・同盟は門閥貴族連合を支援しない。
・見返りにラインハルト陣営が勝利した暁には、帝国は同盟の存在を認め、休戦協定を結ぶ」
「とりあえず、これで妥協をはかるしかないか・・・」
「しかし、これでは国内の強硬派は黙っていないでしょう」ジェシカが口を挟んだ。
「それについては私に策があります」ヤンはある秘策を口にした。
場末の喫茶店でヤンはラップと会った。
「トリューニヒト議長はローエングラム候の提案を飲むそうだ」
「そうか・・・。これで少なくとも、帝国250億の民は救われる。同盟にも平和が訪れるだろう」
「ジェシカに会わなくていいのか」
「・・・私には使命がある。私情は禁物だ」
一体、どうしてこうなってしまったのだろう・・・ヤンは思った。若いころは楽しかった。あの日に戻ることは出来ないのだろうか・・・。
「ラップからの報告だ。同盟はこちらの提案を飲むそうだ」
「ラップをそんなに信用していいのですか?」キルヒアイスが尋ねる。
「同盟に他に選択肢はない。帝国に再侵攻する力はないし、門閥貴族と手を組むという選択肢は国民の支持を得られない。それより、門閥貴族との戦争の準備をすすめることだ」
ブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム候はリップシュタットの盟約を結び、メルカッツ提督を強引に司令官に担ぎ上げて、ガイエスブルク要塞に立てこもった。ラインハルト陣営と門閥貴族との戦争が始まった。そこへ帝国を揺るがす衝撃が起こった。同盟軍がフェザーンに侵入したのである。
ビュコック元帥率いる同盟宇宙艦隊は「帝国の内戦に際して、フェザーン領内の同盟居留民を保護する」という名目でフェザーンに侵入した。フェザーンに駐留した同盟艦隊は間接統治制をとり、統治は自治領主府に任せた。しかし、同盟軍は一方でフェザーン系企業が押さえている門閥貴族側の貴族の資産凍結を布告した。この布告は門閥貴族側の貴族の切り崩しに功を奏した。門閥貴族側についていた帝国高等弁務官レムシャイド伯も中立を宣言した。
「フェザーンは自治領とはいえ、帝国の領土である。フェザーン解放を我らの手でおこなわなくてはならない!」ブラウンシュヴァイク公は味方の離反を食い止めるためにもフェザーン解放戦を提唱した。
「わが軍にそのような余裕はありません!叛乱軍は幸い内戦への介入は避けるようですし、ローエングラム候との戦争に専念するべきです!」メルカッツは反対した。
「臆病者に用はないわ!卿を総司令官から解任する!」ブラウンシュヴァイク公はシュターデン提督とフレーゲル男爵にフェザーン解放を命じた。
総司令官を解任されたメルカッツは副官のシュナイダーとともにガイエスブルク要塞を離脱した。「これからどうしようか。いまさら、ローエングラム陣営にはせ参じるわけにもいくまい」「キルヒアイス提督を頼りましょう。キルヒアイス提督は温厚な人柄で知られていますし、ローエングラム候にもとりなしをしてくれるかもしれません」メルカッツはキルヒアイス艦隊のもとに向かった。
「叛乱軍がフェザーンを占領するとは思いませんでしたな」オーベルシュタインが少々非難の気持ちをこめて、ラインハルトに話しかける。
「叛乱軍の戦力では、フェザーンの恒久占領は不可能だ。おそらく、反乱軍ひいてはヤン・ウェンリーの狙いは、内戦終結後にフェザーンからの撤退と引き換えに、なんらかの条件を我々につきつけるのと国内の強硬派を満足させるのが目的だろうな。まあいい。フェザーンの叛乱軍の存在は今のところ、我らに有利だ。いざとなったら、キルヒアイスに排除させればいい」ラインハルトは冷静だった。
フェザーン自治領主府では、ルビンスキーが対応に追われていた。「まさか、同盟軍が侵入してくるとは・・・。ヤン・ウェンリーの知力、恐るべしだな」
そこへ、ルパート・ケッセルリンクが入室して来た。「長老会議はあなたの無能さにあきれています。本日、あなたは自治領主を解任されました。後任はニコラス・ボルテック氏です。私が補佐官として新自治領主を支えます。あなたにはここから出て行ってもらいましょう」
「これで私に意趣返しをしたと思うなよ」ルビンスキーはケッセルリンクをにらみつけながら、部屋を出て行った。
イゼルローン要塞ではヤンがテレビのニュースを見ていた。「フェザーンではアドリアン・ルビンスキー氏が自治領主を解任され、ニコラス・ボルテック氏が後任に選出されました」
「帝国の内戦も混迷化していますし、今後宇宙はどうなるのでしょう」傍らに控えるフレデリカがつぶやく。
「平和な方向に進んで欲しいね。それしか言えないな・・・」実はヤンにも確実なことは何も言えなかったのだ。
つづく・・・?
ちょっと反論します。清廉な専制政治より腐敗した民主主義がいいと言っているのは、言論の自由がある上で建前でも民衆に主権があるからではないでしょうか?北朝鮮に言論の自由があるとは思えないのですが?旧ソ連の共産主義に関して、一党独裁でありさらには言論の自由がないので民主主義とは田中芳樹は認めてなかったと思います。まその後で、まだ歴史の中で共産主義が消えた訳ではない。また復活するかもしれないと負け惜しみみたいな事言ってますがね。
レスありがとうございます。
私が言いたかったのは、民衆は政治的権利より基本的にパンを求めているのではないか?ということなのです。
百歩譲って、言論の自由があり、かつ民衆に主権(現象として公正自由な普通選挙ができる)があったとしても、国民が貧しいのであれば、豊かな国(多少主権在民に制限があったとしても、ある程度経済的繁栄を享受できる)に行きたいのではないかということです。
もちろん、政治的自由に関する価値の重さは人それぞれ違うため、決してそうは思わない人間がいることは知っています。
しかし総体としてそういう人間が多いのではないか?と思うのです。
今回の反銀英伝にしても、ラップがラインハルトに心酔する要素として、理念または制度として確立された民主主義よりも、現実問題として民衆を救うのは有能で強力な指導者ではないか?とかんがえていくところにあるのです。
その上で、机上の空論に過ぎない、田中芳樹の民主主義論にぶつけてみたかったのです。
ではでは
フェザーンで政権交代がおこなわれているころ、シュターデンとフレーゲル男爵率いる門閥貴族連合軍によるフェザーン攻撃が始まった。だが、単なる烏合の衆は、ビュコック提督の敵ではなかった。フェザーン星域会戦は同盟軍の大勝利に終わり、シュターデン提督は戦死した。
「もはや伯父上のもとには帰れん!こうなったら、ビュコック元帥に一対一の対戦を挑み、帝国貴族の滅びの美学を完成させるのだ!」フレーゲル男爵は部下に対して、特攻を命じた。
「おやめなさい。無駄なことです。ガイエスブルク要塞に帰還するなり、どこかに落ち延びるなり、今後の身の振り方を考えることです」参謀のシューマッハ大佐は説得した。しかし、フレーゲルは耳を貸さなかった。フレーゲルがシューマッハを害しようとするにおよび、シューマッハはフレーゲルを射殺した。「責任は私がとる。同盟軍に投降しよう」シューマッハは部下とともに同盟軍に投降した。
フェザーン解放に失敗したことで、ブラウンシュヴァイク公の声望はますます落ちる一方であった。辺境星域では、メルカッツをもその配下に加えたキルヒアイス艦隊がその支配地域を広げ、ラインハルト艦隊に戦いを挑んだ貴族軍もことごとく撃破された。門閥貴族側の貴族たちも次々とフェザーンでの財産の保護と引き換えに同盟軍に投降したり、ラインハルト陣営に寝返るものが後を絶たなかった。
フェザーンでの財産を凍結され、思うように動きが取れなかったリッテンハイム候に残留組の貴族がささやく。「こうなったら、ブラウンシュヴァイク公の首を手土産にして、ローエングラム候に投降するしかありません」
ファーレンハイト艦隊が最後の決戦に出撃し、要塞内が手薄になるや否や、リッテンハイム候は配下の兵士を引き連れて、ブラウンシュヴァイク公を急襲した。ブラウンシュヴァイク公は殺害されたが、リッテンハイム候も応戦したアンスバッハによって殺害された。リッテンハイム候の部下達は主人が死亡すると、四散した。
ラインハルトのもとにガイエスブルク要塞から通信が入ったのはその直後であった。
「ブラウンシュヴァイク公の副官であるアンスバッハ准将であります。ブラウンシュヴァイク公もリッテンハイム候も自決されました。全軍は攻撃を中止し、降伏いたします」ファーレンハイト艦隊も攻撃を中止した。
ラインハルト艦隊が入城すると、アンスバッハは自決しており、残りの部隊はおとなしく武装を解除した。やがて、キルヒアイス艦隊も合流した。ラインハルトは門閥貴族軍の指導的地位にあった大貴族を粛清したほかは、寛大な態度をとり、メルカッツ・ファーレンハイト提督やその他の将兵についてはおとがめなしとされた。オーベルシュタインの進言により、メルカッツはラインハルト直属の提督となり、代わりにファーレンハイトがキルヒアイス配下となった、これは、オーベルシュタインがキルヒアイスの勢力拡大を恐れたためと言われる。
ラインハルトは配下の提督たちを集めた。「ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ伯爵令嬢の情報によれば、リヒテンラーデ公が余を追い落とすために謀略をめぐらしているらしい。これからミッターマイヤー、ロイエンタール、メルカッツらはオーディンに余とともにオーディンに帰還し、リヒテンラーデ公を討つ。キルヒアイスは配下の提督とともにここに残り、戦後処理をおこなうこと。オーベルシュタインはフェザーンに赴き、同盟軍との間に休戦協定の交渉にあたってくれ」
リヒテンラーデ公は帝位簒奪をたくらんだという容疑をかけられ、自決を強要された。翌日、帝国の国営テレビは放送の予定を変更し、臨時ニュースを報じた。「本日、皇帝陛下はラインハルト・フォン・ローエングラム候を公爵に叙されたうえに、帝国宰相に任命されました。新帝国宰相ローエングラム公より帝国臣民に対して重大発表がおこなわれます」
「皇帝陛下の命により、これまで叛乱軍という不名誉な名称ので呼ばれていた自由惑星同盟の存在をここに公認する。銀河帝国は同盟軍のフェザーンからの撤退を要求するとともに、休戦協定の締結の用意があることをここに宣言する」
このニュースが同盟に伝えられると、同盟最高評議会議長ヨブ・トリューニヒトもまた帝国との休戦協定締結の用意があることを表明した。
ラップは早速、ハイネセンを離れ、フェザーンに向かった。フェザーンには既に帝国全権としてオーベルシュタインが到着していた。
「ジャン・ロベール・ラップ少佐(帝国では客員ということで同盟より2階級下の扱い)。大役ご苦労であった。ローエングラム公はこの度の君の働きぶりに非常に満足の意を表しておられる。オーディンでは君を厚く遇するであろう」
「私はもう少し、同盟との交渉に従事していたいのですが・・・」
「それは私がおこなう。君は同盟首脳部に顔と名前が知られすぎている。同盟との間に正式な外交ルートが出来た以上、君を諜報活動に使うわけにはいかないな」
ラップはそのままオーディンに送還された。
「ジャン・ロベール・ラップ少佐。この度の自由惑星同盟との交渉における卿の働きぶりは実に見事であった。卿を2階級特進で大佐に任命し、男爵として帝国貴族に列するものとする。なお、帝国軍人としては退役を命ずる」オーディンではラインハルトが直々にラップを表彰した。
「軍人として退役を命じるとはどういうことですか!?」
「同盟との休戦がなった以上、もはや軍人はそれほど必要ではないのだ。今後は貴族の一員として余の覇権の成就に尽くしてくれ」ラップはていよく新しくあてがわれた領地に追いやられた。彼がオーディンに戻ってくるのは、貴族院が開設され、貴族院議員に任命されてからのこととなる。
フェザーンでは帝国と同盟の休戦協定の交渉がすすめられていた。帝国側全権パウル・フォン・オーベルシュタイン上級大将と同盟側全権アレクサンドル・ビュコック元帥との間に結ばれた休戦協定では、帝国は同盟の存在を認め、全ての戦闘を互いに停止すること、同盟軍はフェザーンから撤退するが、その見返りとして、帝国は憲法を制定し、議会を開設すること、また同盟はこれまでのフェザーンの管理領として、持ち主の消滅した門閥貴族側貴族の財産の一部を受け取ることが明記された。そのころ、既に同盟軍はフェザーン銀行に預けられていたブランシュヴァイク公、リッテンハイム候の財産の一部を運び出しており、国内の強硬派の買収に使われていた。
地球教内部では、この休戦協定を認めるか否かで激論が戦われていた。ド・ヴィリエ大主教は休戦協定を認め、同盟の信者の地球巡礼をも可能にし、地球をかってのローマと同じ役割を持たせることになることにして、精神世界の中心として再生をはかろうと主張した。総大主教は中立の立場をとった。ヴィリエはあくまでもこれまでの路線を主張する勢力をテロリストとして、帝国政府に通報した。フェザーンでは自治領主府が強硬派の地球教信者を根こそぎ検挙した。ルパートは既にド・ヴィリエと結びついていたのである。
休戦協定はフェザーンで調印されることとなった。帝国側は、皇帝の名代としてローエングラム公、軍を代表してオーベルシュタイン、さらにガイエスブルクの戦後処理に携わっていたキルヒアイスが調印式に出席した。同盟側は政府を代表してトリューニヒトが、軍を代表してビュコックが、さらに帝国側の希望でヤンが出席した。ヤンの実際の姿を見た帝国側からはイメージとあまりにも掛け違い、驚きの声があがったという。
ラインハルトの覇権の確立を願って祖国を裏切った男と恋人を捨てて、対帝国との強攻策を主張していた女はそれぞれ互いの自宅で休戦協定成立のニュースを見つめていた。
つづく?
政治形態なんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのです。
国民が求めているのはあくまでも豊かさです。
ただ、豊かさを実現する手段としては民主主義が優れているだけで。
国家が富の再配分の為の手段である以上、政治形態は手段の手段でしかありません。
手段の手段である民主主義にこだわるあまり、豊かさという目的を忘れるのは、
それこそファシズムと言われても仕方ないでしょう。
はじめまして、イッチーさま。おちゃわんさま。
カンともうします。
貴方方の考察及び、創作 とても楽しく読ませていただきました。
思いもよらない展開と、すばらしい内容にただただ感心するばかりです。
僭越ながら少し、
これは私の「お題」から始まったIFの様です。
「お題」はザ・ベストの反銀英伝・思考実験編 救国軍事会議クーデター成功の可能性から思いついたものです。
救国軍事会議を成功させるにはどうしたらいいか?を自分なりに考えてみて、ラップをクーデターの首謀者にしよう!となりました。
ラップ&グリーンヒルのコンビなら少しは成功の目もあるんじゃないかと。
こんなことはイッチーさまには孔子に論語でしょうが、いかがですか?
雑文失礼しました。
> はじめまして、イッチーさま。おちゃわんさま。
> カンともうします。
はじめまして。
> 貴方方の考察及び、創作 とても楽しく読ませていただきました。
> 思いもよらない展開と、すばらしい内容にただただ感心するばかりです。
ありがとうございます。
> 救国軍事会議を成功させるにはどうしたらいいか?を自分なりに考えてみて、ラップをクーデターの首謀者にしよう!となりました。
> ラップ&グリーンヒルのコンビなら少しは成功の目もあるんじゃないかと。
> こんなことはイッチーさまには孔子に論語でしょうが、いかがですか?
「孔子に論語とはこそばがゆいです」(笑)
リンチに代わって、ラップがクーデターの首謀者になるという設定を考えてみました。そのためには、まず、ラップが帝国軍の捕虜にならないといけません。しかし、アスターテ会戦の流れから言って、ラップのいた艦隊が捕虜になるというのは考えにくく、そうなると、ラップはアスターテ会戦では帰還し、次の帝国領侵攻作戦で捕虜になると設定したほうがよさそうです。(無理にアスターテで捕虜になったとすると、私の設定のように裏切り者になってしまい、クーデターを首謀することが出来なくなりますから)
ラップ、アスターテより帰還→ジェシカと結婚→帝国領侵攻作戦で捕虜となる。
この場合、ジェシカは北朝鮮に拉致された方の家族のように、対帝国強硬派となって、捕虜解放を要求するか、あるいはもう少し穏健な捕虜交換を要求する運動を始めるかしそうですが、政界にははいらない可能性が高くなりそうです。
帝国内戦中の同盟の内乱を希望するラインハルトは工作員として、ラップに白羽の矢をたてますが、その理由は「ヤンの親友だから」ということになりそうです。ただし、そうなると、ラップは最初からヤンをクーデターに引きずり込むことを目的とすることとなります。これはラインハルトにとっては、痛し痒しです。ヤンが同盟軍の主導権を握り、対帝国の防衛体制を構築してしまったら、ラインハルトにとっては将来の覇権成就には脅威となるからです。あえて、ラインハルトがヤンによるクーデターを促す理由を考えれば、「戦う相手は手ごわいほうが良い」という彼なりの倒錯した考え、帝国内の覇権成就の間、同盟が自壊してもらっては困るというのがあげられそうです。
ラップは帰国すると、グリーンヒルとともにクーデターを計画するわけですが、その際、ラップは帝国領侵攻作戦で苦労してますので、フォークは仲間から除外されるでしょう。ジェシカは結婚してますから、ヤンとフレデリカの仲は自然と進展しており、ラップはフレデリカやユリアン、さらにはキャゼルヌやシェーンコップあたりをまず味方につけて、ヤンを仲間に引き入れそうです。ただし、ヤンは救国軍事会議のような大規模なクーデターは否定し、トリューニヒトと強硬派の政権内からの排除といった限定的なクーデターを主張するでしょう。クーデター後の政権は、反戦派首班の文民政権、ヤンにもっとも親しいレベロ政権が樹立されるでしょう。レベロ政権のもとでは、帝国への講和呼びかけと帝国内戦におけるラインハルト陣営への好意的中立が決定される・・・といったあらすじになると思われます。
ただし、問題はラップやヤン主体のクーデターになった場合、かなり反戦派に譲歩した政権が誕生すると思いますが、それを軍部が容認するかどうかという問題が残りますね。
しばらく見ないうちにこんなに書き込みが・・・って感じです。
救国軍事会議のクーデター成功の可能性ですが、私は以下のどちらかの条件が少なくても揃っていなければむずかしいと思います。
①ヤンが救国軍事会議・同盟政府の両方に対し、中立の姿勢をとる
②ヤンが救国軍事会議側につく
という点です。
あの当時の同盟内の組織的な艦隊勢力としては
①パエッタ提督の第一艦隊
②ルグランジュ提督の第十一艦隊
③ヤンのイゼルローン駐留艦隊
しかありません。
これはヤン艦隊が同盟政府側についた段階で、救国軍事会議が制宙権を失うことを意味します。
なぜなら(言わなくてもわかると思いますが)、パエッタ提督を拘禁した段階で、第一艦隊を組織的に掌握することは不可能でしょうし(っていうか、司令官を拘禁した艦隊をヤン艦隊にぶつけたら、寝返りが多くて戦いにならない)
第十一艦隊とヤン艦隊では、艦隊数を互角としても司令官・兵の士気などを考えると、ヤン艦隊が負けるとは想定できない。
つまり、ヤンが政府側についた段階で、救国軍事会議はハイネセンに孤立し、ジリ貧になるわけです。しかも大消費地でです。
従って、クーデターを成功されるためには、あらかじめヤンを引き込んでおくか、ヤンを拘束・または暗殺する必要があるわけです。
で、おそらく(ていうか絶対に)ヤンが参加することはないでしょう。
というわけで、私なら、まずこういうシナリオを作ります。
クーデターについてのおおまかな計画は、変更しないとして情報部長ブロンズ中将に、ヤン艦隊の不正などのでっち上げを作らせる。
それを理由に国防委員会が(おそらく査閲部が所管部署なはず)ヤン司令官の査問・または召還を行わせる。
仮にヤンは疑ったとしても、行くしかない(史実の査閲会で証明済、あんな非合法的な召還にも応じてしまうので)
とりあえずイゼルローン駐留艦隊とヤンを引き離しておきます。
ヤンがハイネセンに到着した段階で、情報部または査閲部が取調べ名目によりヤンを拘束します。
その段階で首都クーデター決行、これは史実どおり。
ここでヤンにクーデターへの参加を促すか?拒否するなら、その場で軟禁・または暗殺する。
その後バグダッシュあたりを使って、以下のデマを組み合わせてイゼルローンに送って、イゼルローンを無力化する。
①ヤン提督も限定的ながら、クーデター容認していることにする
・国を二つに分けて内戦を長引かせられないため
・国民の自由などについてヤンと軍事会議で妥協が成立したなど
②イゼルローン艦隊がハイネセンに動けば、ヤンの命を保障しないと脅す。
そうするだけで、イゼルローン駐留艦隊は身動きがとれないでしょう。
まず、ヤンの命の危険を顧みず、行くべきか迷う
仮に行くとして、誰を艦隊司令官にするのか、アッテンボローがなるとは限らない、分艦隊司令官は複数いるし。
さらに第十一艦隊と戦わなければならない。ヤン抜きでどの程度の統率がとれるのか?兵士の士気は?と考えると、なかなか行動できにくい。
その後、同盟政府より正式に救国軍事会議に権限の委譲を行う。
トリさんはいないので、序列二位の委員長が議長代理として署名することになるだろう。
その後、旧同盟政府より、イゼルローンの武装解除を要求する。
執行部隊として十一艦隊をイゼルローンに派遣。
おそらくイゼルローンは戦うかどうかで二分するはず
こんなところでしょうか?
従って、私の意見としては誰がクーデターをするかというより、ヤンをいかに抑えるかが最重要ではないかと考えるわけです。
まあ、そういう意味ではラップの方がヤンによって多少やりづらいところがあるでしょうから、比較的向いているのかもしれませんね。
でわでわ
反銀英伝、大変面白かったです。感動しました。これはこれで一つの完成形でしょうね。
とこれでは、話が終わってしまいますので、私なりに別解釈を書き込みさせていただきます。
結構長いですけど、うんざりしないでくださいね。
なるほど、同盟が後日の休戦交渉の布石としてフェザーン侵攻をするわけですか・・・。
確かに、同盟が侵攻することさえできれば、このような展開が予想されますね。
問題は民主主義政体の同盟がイラクのクウェート侵攻みたいなことができるかですね、とりあえず、同盟にはフェザーンに侵攻する大義名分がないですから、ラグナロック作戦なんてものが実現できたのは帝国が独裁制だからかなあ、私は思っているので・・・。
あとおそらくトリさんの支持基盤であろう軍需産業にはフェザーン資本が結構からんでいないかな?
あと、この展開だと理にはかなっているのですが、同盟の戦略・戦術があまりにも的中しすぎて、少々物足りなくなりませんか?
私的にはこのような展開の方が好みです、いかがでしょうか?
トリューニヒト議長の問いにヤンは答えた。
「小官は一軍人にすぎません。国家の最高方針に属する問題について政治的な発言は控えさせていただきたいのですが・・・」
「ふふふふ」トリューニヒトは軽く微笑んだ上で、ヤンを見つめてこう言った。
「君はまだ若いな、シビリアンコントロールか・・・。確かに軍部が政治の実権を握って、国を危うくした数多くあるだろう。しかし、軍事が政治の手段として存在する以上、国家方針から離れた軍事戦略というものはありえないのだよ。
であれば優秀な軍人が軍事戦略を考えるとき、国家の方針に対して意見を持たないでいることも、また不可能なのだ。したがって、軍人は国家の方針について大いに意見をいうべきであるし、また働きかけるべきなのだ。
そして政治的指導者はその上で、決断するのがその役割なのだ。
私が君に求めているものは決断ではないのだよ。」
ヤンは、その時背筋に冷たいものを感じていた。
これまでのヤンの認識ではトリューニヒトは表面上は民主主義の顔をかぶりながら自己の利益と権力欲を求める煽動政治家であった。
その認識は今でもかわらない、しかしその男から民主主義における、政治的指導者のあり方、軍人のあり方を指摘されるとは思いもよらなかったのだ。
思えば、この男はアムリッツァの敗北を予見し、最高権力者の地位についている。
少なくとも、現在の同盟で、トリューニヒトほど民主政治を自己のために利用している政治家はいないであろう、それは逆説的に彼がもっとも民主政治を知り尽くしている政治家であることに他ならないということであろうか。
しかしヤンはそれでも民主主義の理念を信じている。ラップといい、トリューニヒトといい、民主主義を知りながら、人間が現実に従うものは本来は理念や制度ではなく、人間や欲望なのかもしれない・・・、それが現実を知るということか・・・。そんな考えがヤンの思考の奥底にあった。
もっともトリューニヒトは口先だけなのかもしれない、しかし・・・、なんとも言いようのない不安がヤンから離れなかった。
「軍事的に見まして、同盟は帝国に再侵攻する力は現在ありません。とすれば、近い将来、勝利する方と手を結ぶべきと考えます。」
軍事的という言葉をあえて、ヤンは使用した。それはトリューニヒトの正論に対するヤンのささやかな反発であったかもしれない。
「勝つ方とは?」
「小官はローエングラム公の陣営と予測します」
ヤンは即座に答えた。
「ローエングラム公・・・確かに彼は優れた用兵家かもしれない。
しかし、彼はまだ若いし、兵力的にも少ないのではないかね」
「先のアムリッツァの戦いで、同盟は物量として帝国より多くの兵力を展開いたしました。しかし彼の用兵の前に敗戦を余儀なくされました。
今回の内戦では、所詮は帝国の門閥貴族が相手です、ローエングラム公は圧勝することになるでしょう。その後・・・」
ヤンはここで口をつぐんだ「その後、ローエングラム公と和平を結ぶべきです」本当はこの言葉につながるはずだったのだ。
しかしここにはトリューニヒトだけでなくジェシカもいる。
少なくとも彼女は強硬派だ、和平を口にするのは危険かもしれない。
ヤンはそう考えたのだ。
「その後・・・、ふふふ、まあいい、君の意見はわかった。あとはいろいろと私なりに考えるとしよう。」
「いや、ありがとう。確かエドワーズ議員と君は旧知の仲だったね、帰りに食事でもしたらどうかね。いい店があるんだが、紹介しようか」
「ありがとうございます。でも議長、私たちには行きつけの店がありますの・・・。では失礼いたします。」
ジェシカはそう言うと、ヤンと共に議長官邸を退出した。
「僕たちに行きつけの店なんてあったかい?」
ヤンは、議長邸から歩きながらジェシカにたずねた。
「そんなの、私たちにあったかしらね・・・ふふふ」
彼女は自動タクシーを止めながら、答えた。
「・・・・3182番地254番っと、ここに美味しいシチューを出してくれる店があるのよ、昔あの人とも何回か行ったわ」
ジェシカはヤンの意見などお構いなしで、タクシーに乗り込んだ。
「君がこんなに強引な誘い方をするとは思わなかったよ。」
「月日は女を変えるのよ、あらっ、こんな月並みな言い方しちゃったわ」
タクシーは「アンジェロ」という名のレストランの前で止まった。
アンジェロは議員がよく利用する高級なものではなく、あまり気楽に入れるつくりをしていた。
ヤンとジェシカは窓際の、二人用の席に座った。窓の外には、幹線道路が走っているのだが、防音がしっかりしているため、特に店内にその音は漏れていなかった。
二人はとりあえず赤ワインを注文し、なんとなしに窓の景色をながめていた。
やがてワインがだされ、軽く乾杯をした後、ジェシカがおもむろに切り出した。
「あの人に会ったの・・・。」
ヤンは思わず、ワインを大きく飲み込んでしまい、むせかけたが、それを悟られるわけにもいかず、冷静を装っていた。
「いや、会ってはいないよ、どうしてそう思うんだい?」
そういった直後、ヤンは自分の不注意を責めた。誰かの浮気じゃあるまいし、このような切り返しは事実を認めてるようなものだからだ。
「あなた三週間前に私の事務所に来たとき、始めにあの人の話を切り出したでしょ、そこで私はおかしいと思ったのよ。
クーデターの予測も妙に確信していたし・・・。それにリンチ元少将が、ラップ少将が指揮官として潜入していると自白したの。
もちろん彼を拘束することはできなかったけど、また、このことは極秘だったんだけど、国防委員会広報官の私にはあるルートからその情報を入手したの。
だってそう考えると、すべてがつながるの。ねっ、教えて頂戴。お願い」
ジェシカの友人としてのヤン・ラップの親友としてのヤンであれば、例えラップが黙っていてくれといったとしても話しただろう。
しかし、対帝国強硬派の彼女に、ローエングラム公との和平を目指すヤンは、その重要なパイプ役であるラップの存在を話すわけにはいかなかったのだ。
「ジェシカ・・・ごめん。本当に知らないんだ。役に立てなくてすまない・・・。」
ヤンは彼の中では最高の演技力で、嘘をついた。
「そう・・・、わかったわ・・・」
ジェシカは力なく、答えた。
ジェシカが本当は、わかっていないことはヤンにもわかっていた。
ヤンは「例え知っていても教えることはできない。」ということをジェシカに示したのであり、それを理解したに過ぎなかったのだ。
「この後、どうするの」
「いや、近くのホテルに泊まって、明日、イゼルローンに出発する予定だけど・・・」
「なら、私の家に泊まっていきなさいよ、空港にも近いわ」
「いや・・・しかし・・・それは悪いよ」
「悪い・・・、誰に対して悪いの?」
ジェシカの語調が、好意のそれから、怒りに変わっているのを感じて、ヤンはそれ以上、弁明することができなかった。
正確にいうとヤンはラップに対して悪いと思っていたわけではない。いきなり、女性の家にお邪魔するのは悪いから。その程度の意識だったに過ぎない。しかし、それをラップとのことに摩り替えられてしまった以上、何をいっても言い訳にしか聞こえないように感じたのだ。
・・・・・
そのころトリューニヒト邸には、ネグロポンティ国防委員長とオリベイラ国立自治大学長との打ち合わせが行われていた。
「・・・というわけで、近い将来帝国の内戦が予想されると思うが、同盟としてとるべき道をご検討願いたい。」
トリューニヒトは、よく通る声で話を切り出した。
「議長閣下はどのようにお考えでありましょうか、わたくしめは閣下のご意向に沿った形で、統合作戦本部に指示をだしますので・・・」
すぐにこう答えたのがネグロポンティ国防委員長である。トリューニヒト派と目される議員の中でも、特に注目されることのなかった、ウルヴァシー星系出身のこの議員は、トリューニヒト政権では国防委員長のポストに抜擢された。
国防委員長は、トリューニヒトが最高評議会議長に着く前のポストであり、いくら国防委員を二期務めたとはいえ、本来抜擢されるはずのない重要閣僚である。
もっともトリューニヒトは、国防委員会については直接影響力を行使するつもりであったし、その意味ではあまり意見を持つ人間に委員長を任命するわけにいかなかったという、妥協の産物であるいえる。
「私は、同盟はどちら寄りという姿勢をしめさず、内戦に干渉し、長期化させ、帝国の弱体化を図り、その間に同盟の再建を果たすのが正解と考えます」
オリベイラ学長は、その後同じ要旨の意見を装飾し十五分程度にわたって話し続けた、議長が多少うんざりした表情で手をかざし、学長の意見を制止した。
「われらが救国の英雄ヤン提督は、来るべきローエングラム体制と和平を結ぶべきだと考えているようだが・・・」
トリューニヒトは二人の反応を楽しむかの様に、淡々と語った。
「軍人が、国家の方針に口をはさむなど・・・、ヤンを逮捕し取調べを行います!!」
ネグロポンティが憤然と言い放つ、
「いや、私が彼に問うたのだ、彼はその点、実に慎重な男だったよ。若いのにな、ふふふ。それにわが同盟は言論の自由があるのではなかったのかね。
また現在の同盟も先日の敗北で艦隊戦力が大幅に低下している、あながち悪い意見ではないと思うが」
「はっ・・・それは・・・」言葉の告げないネグロポンディであった。
「しかし、仮にローエングラム公が圧勝するとして、彼がその後同盟と和平を望むという保障がありますかな?」
オリベイラは多少いぶかしげに述べる。
「そのとおりだ、彼がその後和平を望む保障がない、仮にその状況になった上で和平交渉をするとなると、その条件はわれわれ同盟に不利になるものであろう。イゼルローン要塞の返還などな・・・。
さらに私の支持基盤である、軍需産業にとっても望ましいものではない、和平後の選挙においては反戦派の野党に有利になってしまうであろうしな。
ここはオリベイラ君の言うとおり、帝国の内戦の長期化を図るのが望ましいだろうな。
したがって、ある程度ローエングラム公には痛手を負ってもらわねばなるまい・・・」
そこでだ・・・、
議長の提案は恐るべきものであった。
完遂にはヤン艦隊によるカウンター・クーデターを阻止するのが第一。
査問若しくは軍法会議名目での召喚まではそのままですが、
クーデターを完遂する為にはもっと簡単な方法があります。
まず同盟政府に同盟政府隷下の施設にヤン・ウェンリーを拘禁させます。
そしてヤン・ウェンリーに対する不当な拘禁に対して決起する訳です。
そして決起部隊がヤン・ウェンリーの奪還を計ったものの、
既に同盟政府によって暗殺されていたという事にします。
こうすればイゼルローン艦隊はヤン・ウェンリーを殺したのが、
決起部隊であるという確証が無ければ不用意には動けません。
後は放っておいてもクーデター勢力は同盟の実権を握れます。
ヤン・ウェンリーを暗殺した政府を国民が支持する訳が無いからです。
こうして同盟は国民の支持の下、軍事政権へと移行すると。
ブロンズ中将の情報操作が非常に重要になりますね。
おちゃわんさまの反銀英伝、非常に楽しみしています。トリューニヒトが何を企んでいるのか、まったく読めないです。
一応、ご指摘のあった点について言い訳をさせていただきます。
まず、同盟の読みが当たりすぎという点については、銀英伝本編の帝国に都合の良い展開を同盟に適用してみせただけです。というか、普通、どちらか一方に都合の良い展開というのはあり得ないのですが、そうすると、帝国と同盟の戦争はヤンやラインハルトをもってしても終らないという結果になると思います。(私は当初、そういう終り方をするものだと思っていました)
次に、同盟のフェザーン侵攻に大義名分がないということでしたが、あります。フェザーンは独立国ではなく、帝国の自治領に過ぎないわけですから、帝国と戦争状態にある同盟が攻めてもおかしくないわけです。むしろ、今まで攻撃しなかったことのほうがおかしいでしょう。さらに、フェザーン領内には同盟の商人たちが数多く滞在しているでしょうから、私の反銀英伝のなかで書いたように、彼らを保護するというのも立派な大義名分になります。(帝国主義時代にはこのような宣戦布告の理由が多い)
それから、トリューニヒトの支持基盤である軍需産業がフェザーン侵攻・休戦に同意しないという点ですが、軍需産業も一枚岩ではなく、フェザーン系資本と同盟系資本に分かれて対立しており、同盟系資本はライバルのフェザーン系を追い落とすチャンスとばかりに賛成するでしょう。フェザーン系の反対を抑えるため、フェザーン侵攻作戦は軍の上層部とトリューニヒトのみの秘密とし、侵攻後はフェザーン系資本を接収して同盟系に払い下げるなり、自分のものにするなりすれば、侵攻後のフェザーン系資本の反対を気にする必要はなくなります。トリューニヒトの側近には侵攻後にフェザーン利権の一部を分け与えれば文句も言わないでしょう。さらに、あくまでも休戦なので、休戦後も同盟軍は艦船の大増産をして、休戦協定の破棄に備えなければなりません。軍需産業には大きな魅力のはずです。さらに財政難で滞っていた軍拡計画がフェザーンから奪った資産を活用して、実行に移され、かえってもうかることになります。
そのうえ、休戦協定の成立によって、反戦派は政府を攻撃する根拠を失い、選挙では与党が大勝するでしょう。
優秀な将帥は謀略によって、暗殺するべし。
歴史の教訓が生かされてますね。
やはり、「軍人はいかなる場合でも政府の命令には従わなくてはならない」という信念に固執するとろくなことがない、という証明ですね。
ヤンにも政治体制そのものは、より大きな目的を達成するための手段にすぎないというくらいの視野の広さがほしいですね。
イッチーさま
書き込みを読んでくださって感謝しております。
だんだん長文になっているため、最近はWORDに原稿を作ってから、貼り付けるようになってしまいました。
少しは、皆さんに読んでいただけていればよいのですが。
タイトルは「ラップ寝返る」だったのですが、だんだんラップの存在が薄くなっていますね。一応、最後のほうにはキーパーソンにしたいと思っているのですが、そこまで書けるかどうか・・・。
前回のレスより
さて、確かに両方がベストを尽くすと、千日手のような展開になってしまうという要素が確かにありまして、そうかだから作家はそういう展開にあえてしないのか、と納得したしだいです。
帝国主義時代には在留邦人の保護などの名目での出兵が確かに行われてきました。その意味では同盟がフェザーン侵攻をする余地があるという解釈も確かに成り立つのでしょうね。
どうも私は日本人なので、「そんなの国際社会が許さない・・・」などと考えてしまいがちですが、それこそが日本人的な国際感覚の欠如から来る妄想なのでしょうね。
ということでフェザーン侵攻はそれによって帝国の反撃を受けない限り、かなり有効な手であることは認めざるおえません。
ただフェザーンもそんな不安定な勢力図の中を100年以上も事実上の独立および勢力の拡大を図ってきたのですから、あっさりと侵攻を受けておわってしまうのは、少し物足りない気がします。
ではトリさんの恐るべき提案から続編を書いてみたいと思います。
・・・・・
それは「フリーダム・ジャーナル」という発行部数はそれほどでもないが、一部の知識人たちに好まれる高級政治誌でのスクープに始まった。
「グリーンヒル大将更迭の真相と未遂に終わったクーデター計画」というタイトルではじまる記事は、このたび未遂に終わったクーデター計画を真実半分虚飾半分という割合で、掲載していた。
通常、政府に抑えられているマスコミはこのような記事を取り上げることはないのだが、今回に限っては政府の報道管制もなく、ほぼ原文のまま掲載が許されたのだ。
当然のことながら、反政府派の評議会議員たちは評議会の本会議において、このニュースを取り上げることになる。
「軍人の一部がクーデターを計画したことは事実なのか?そうでなければグリーンヒル大将やルグランジュ提督の更迭やフォーク准将の行方を公表願いたい」
などの質問と野次が評議会を覆った。
国防委員長のネグロポンティは、当初クーデターの存在を否定してみせたが、しかし質問の鋭さにクーデターの存在を匂わせてしまう答弁を行うという失敗を犯してしまう。
反戦派の評議員はこれを奇貨として議長に釈明を求めた。
議長の釈明の趣旨はこうであった。
「クーデターはない、ただ一部の軍人たちが同盟国外の勢力から工作をかけられていたことは事実であるため、われわれはこの真相をつかむべく、積極的に調査活動を行い、近日中にその結果を国民に明らかにする」というものであった。
さらにその翌日「フリーダム・ジャーナル」は次のスクープを掲載する。「フォーク准将とフェザーン資本の黒い関係」
これは、統合作戦本部の作戦部員でもないフォーク准将の帝国侵攻作戦が統合作戦本部の裁可もなく、評議会において決定されたのは実は軍拡をたくらむフェザーン資本の軍産複合体の力によって行われたものであるという趣旨であった。
このニュースが同盟に流れたとき、同盟国民の不満は一気に爆発した。誰もが歴史的敗北の責任を誰かに負わせたかったのだ。同盟は国家経済が破綻寸前であり、国民は敗戦の痛手と不況の中、苦しんでおり、しかしその中で同盟資本とフェザーン資本の軍産複合体は軍再建の名目の下、過去最高の売り上げを誇っており、それは多くの低所得者層や中産階級から羨望と怒りを買っていたからである。
時に、宇宙暦797年11月のことである。
この事態に対しトリューニヒトは次のような声明を発表する。
「同盟は一部フェザーン資本の企業の資産を凍結、または国有化を含めた経済制裁を検討する」
これに対して利にさといフェザーン系企業の経営者たちは、制裁が実施される前に資産を売却および、フェザーン本星への移転を始めた。
フェザーン資本は同盟経済の中枢にまで浸透しており、それは国民生活への影響が大きいことが予測された。また、フェザーンは名目上帝国の自治領であり、フェザーンが同盟を忌避し、あまりに帝国に接近すると経済的問題に加え、安全保障の問題も発生する。これまで同盟がフェザーンに対して強硬な政策が取れなかった所以である。
しかし産業界にも多大な影響力を持つトリューニヒト政権は、前者を同盟系軍需関係業界の調整によって解決の目途をつけ、後者には皇帝即位まもなく、しかも内戦への道を走っている帝国には対外問題に力をさく余裕がないことを読みきって、次々と政策を打ち出していった。
フェザーン貿易の関税率の増加・国内産業の保護政策・弁務官事務員の一部国外退去などである。これは通例として国家間において、武力制裁までへの準備段階として行われるものであり、外交上のおとしどころを外交部が探るのが常であるが、今回の同盟の対応にはそのような要求がなく、フェザーンの外交部・諜報部は共に同盟の軍事侵攻の可能性についての情報収集にやっきになっていた。
すると同盟が無傷で残った第一・第十一艦隊に動員令を発していることに加え、アムリッツア残存兵力を再編成し第十四・十五艦隊を編成中であることなど、同盟が軍事侵攻を準備していることが判明した。その情報の分析に担当官は連日の徹夜を余儀なくされた。
同時にそれはフェザーン自治領主府に外交部・諜報部からの同盟の軍事侵攻の準備状況が連日送られてくることでもあった。
「トリューニヒト議長は、帝国の内戦の隙に、火事場泥棒をする気のようだな、そのうち軍を率いて借用書を破りにくるつもりかな?」
ルビンスキーはウィスキーを片手につぶやいた。
フェザーン自治領主府から帝国国務省に駐留艦隊の要請があったのはその数日後のことである。
国務尚書のリヒテンラーデ公は宇宙艦隊司令長官のラインハルトと善後策を協議した。
リヒテンラーデ公にラインハルトは以下のように答えた。
「同盟は皇帝即位直後の帝国の混乱に乗じて、国力の回復をはかるのを既定の路線としているでしょう。故に、フェザーンを侵攻・併合することが目的である可能性が推測されます。」
「であれば、駐留艦隊を派遣し、阻止せねばなるまいな。万一フェザーンが叛徒どもに併合されることがあれば、ブラウンシュバイク公やリッテンハイム公はこれとばかりにわしの解任を要求するであろうしな。
ではそちにフェザーンに赴いてもらうほうがよいか。」
「現在、ブラウンシュバイク公やリッテンハイム候は国務尚書閣下や私めの隙をうかがっている状態でございましょう。
今、私がオーディンから離れると、その流れが加速する恐れがございます。しかもまだ同盟の動員数も不明という状態でございますれば、ここは2個艦隊も派遣して様子をみるがよいと思われます」
「ふむう、なるほどそちの言うことも一理ある。では誰が適任者かのう」
「キルヒアイス上級大将に任せれば、大丈夫でしょう。ワーレン提督の艦隊を合わせて2万5千隻もあれば十分に防ぐことができるかと存じます」
数日後、キルヒアイス上級大将率いる帝国艦隊25000隻は帝都オーディンを出発した。12月中旬のことである。
帝国軍、フェザーンへ艦隊派遣の報が同盟にもたらされたのは、間もなくであった。政府はフェザーンの要請に対して抗議する声明を出すと共に、国防委員会に統合作戦本部にフェザーン併合についての検討を指令した。
幸いなことに今回のクーデターが未遂に終わったことで、統合参謀本部本部長はクブルスリー大将が健在であり、宇宙艦隊司令長官はビュコック大将であった。
さらにグリーンヒル大将をはじめとする、クーデター派将校の処分と同時に行われた新人事についても、小数派とはいえ、両者は功績実績十分な制服組No1・2である。一定の発言力を保持することができていた。
しかし、同盟の動員準備情報を得て、自治領主府が駐留艦隊を要請し、帝国が艦隊を派遣した後も、同盟はまだ動員準備が終わっていなかった。近い将来の内戦に備えて動員準備を整えつつあった帝国軍が比較的速やかに出撃できたにせよ、同盟の動員準備はあまりにも時間がかかりすぎていた。
いや、あえて時間をかけていたのである。それは同盟国内への反フェザーン気運を十分に高めるためである。
「同盟の富を収奪する、帝国の御用商人!!」「フェザーン経営者の豪華な生活ぶり」などのバッシング記事や、フェザーン系企業の撤退などにより、解雇される労働者による失業率増加の懸念などの記事が連日マスコミに登場し、フェザーン側のコメントはそのほとんどが記事になることがなかったからである。
そして同盟国民は急速にフェザーン派兵すべし、という方向に傾いていったのである。
この段階で同盟がフェザーンを併合できることには次のようなメリットがあると考えられていた。
①まず帝国軍の侵攻点である両回廊を封鎖することで、比較的少数の艦隊での国土防衛が可能になること
②フェザーンの同盟に対する債権の帳消しができること
③フェザーンの経済力を取り込むことによって、少なくとも経済面において国家再建を前倒しできること
などである。これらは軍事評論家・経済評論家が、各マスメディアによって喧伝するところであるが、かつての日本が満州を欲したように、フセインがクウェート併合を図ったように、豊かな領土を手に入れることによって、国内の諸問題の解決を図るという政策は、時に熱狂的な支持を受けることがある。
トリューニヒト政権の巧みな世論形成のせいもあるが、「フェザーンの併合こそ、同盟に富をもたらすことになる。」これは国民全体の暗黙の了解事項となっていったのである。
アムリッツアの敗北から数ヶ月で、本来ならば不可能なはずの攻撃的な作戦計画に国民世論を味方につける。
これがトリューニヒトの構想の第一段階であった。
1月初旬、宇宙艦隊司令部は出撃する艦隊を発表した。
総司令官 ビュコック大将
第1艦隊 パエッタ中将 13000隻
第11艦隊 モートン中将 13000隻
第14艦隊 カールセン中将 13000隻(アムリッツアの残兵を再編成)
第15艦隊 ジェファーソン中将 13000隻(アムリッツアの残兵を再編成)
残存兵力に国内警備隊の一部を加えて再編成した第14・15艦隊も含めて、イゼルローン駐留艦隊(15000隻)を除く、まさに全同盟宇宙艦隊が勢ぞろいしたことになる。
当初、この艦隊編成にはドーソン統合参謀本部次長など、トリューニヒト派と呼ばれる多くの将校が反対したのであるが、クブルスリー統合作戦本部長の決断で押し切る形となった。
本来はフェザーン併合計画についてクブルスリー大将は反対であった。アムリッツアの敗北後、攻撃的作戦計画を考える余地は全くない。ましてや、帝国が内戦に陥る保障はない。というのがその理由であった。
ネグロポンディ国防委員長は、「帝国の内戦に干渉し、その長期化を図るために必要な措置である」とトリューニヒト邸でのオリベイラ学長の言葉を受け売りするだけで、なぜフェザーン侵攻なのか、その目的などについて何一つ満足する回答を与えることをできなった。
トリューニヒト議長のクブルスリー大将の会談にて、議長よりその構想の一端を聞くことにより、以後宇宙艦隊司令部、そしてヤン提督とも協議しつつ短期間の間に作戦計画を作成した。
議長はクブルスリー大将こう言ったのである。
「帝国は内戦に陥る。これはフェザーン弁務官事務所・帝国に展開する諜報網から得た情報を総合的に判断しての私の結論だ。これについて議長の意見を聞く余地はない。
この内戦を長引かせ、帝国の弱体化を図り、同盟の国力の充実を図る。これが現状における政府の方針である。そして帝国の弱体化をはかる上で、重要なのはおそらく勝利するであろうローエングラム公の戦力をいかに分散させるかである。そのための軍事的手段を検討してもらいたいな」
明確な目的と手段に関する裁量の自由さといい、クブルスリー大将も、トリューニヒト個人に関する好意は別として、自分の果たすべき責任を明確に指示されていたのである。
要塞の司令官執務室のビデオでそのニュースを見たヤンはため息をついた。
「帝国との早期和平の道は絶たれてしまったか・・・。ラップ、あいつはどうなるんだろう・・・」
「提督も議長から意見を求められていませんよね。どのような意見具申をされたんですか。」
「ユリアン、私は議長に意見を求められた時に、二つの意見があったんだよ。
一つは、帝国の内戦を利用して、和平をはかる道・もう一つは帝国の内戦を利用して帝国の力をそぐ道だよ。私が議長に提案したかったのは和平を結ぶ道だったんだが、議長は帝国の力をそぐ道をとられたというわけだ。同盟は今回のクーデターを未然に防ぐことによって、国が割れることなく国家として統一した対応をとることができる。つまり帝国の内戦を利用することができることになる。
現在の同盟の稼動可能艦隊数は7万隻程度であり、帝国のそれは24~25万隻を数えるだろうが、それが10万と15万になってぎりぎりまで戦ってくれれば同盟は漁夫の利を得ることができる。うまくやれば、フェザーンを得た上でアムリッツアの前のパワーバランスに戻るというわけだ。」
「でも同盟にとってはその方が有利になるわけですよね?」
「うん、確かにその可能性はある。ただユリアン、同盟さえよければいい。そういう考え方は視野を狭くするよ。帝国の人間だって同じ人間なんだ。それを忘れてはいけない。
アムリッツアで2000万人の戦死者を出して、帝国も同じくらいの犠牲者を出させて、それで元のパワーバランスにしようという考えは、人間を数字としてしか考えていない選択だというふうに思うんだ。
僕は帝国の内戦の犠牲者を最小限に抑えた上で、同盟と講和する道が一番よいかと思ってね、しかも現在の状況ではラップというローエングラム候とのパイプもあることだし・・・」
ヤンは少しの間黙り込んでしまった。
「でも提督も今回の出撃計画には意見を述べられたと、聞いておりますが・・・」
ユリアンは紅茶を作りながら再びたずねた。
「うん、クブルスリー大将から意見を求められてね。帝国の力をそぐ上で、君が考える有効な方法は何か、ちなみに帝国の内戦は前提の上で考えてくれ。と言われたよ。
クブルスリー大将とはあまり面識がなかったけれど、実直な感じのいい人だったなあ。
とりあえず、統合作戦本部長と宇宙艦隊司令長官が悪い人じゃないのは、ありがたいことだね。
今回、政府のとった道、つまり帝国の内戦を長引かせるための方法は、ローエングラム公の力を弱める、この点に尽きるんだ。
そのために必要なのは、ローエングラム候の軍勢をできるだけ分散することと、もう一つは指揮権を弱めるということだ。
ローエングラム公の軍勢をできるだけ分散するために必要なのは、同盟の軍事的干渉になるだろうし、ローエングラム公の指揮権を弱めるには、彼の権力の正当性、つまり宇宙艦隊司令長官をやめてもらうことになるのさ。
彼が宇宙艦隊司令長官になって日が浅い。彼の直接指揮した軍はともかく、そうではない軍は、自分が反乱軍になった場合、かなりの動揺が起きることになるだろうね。」
「同盟の軍事的干渉は分かりますけれど、ローエングラム候は皇帝の擁立者ですよ。そんなことできないと思いますが・・・」
「うん、具体的な方法は色々あるけれど、仕組みは簡単だよ。要は内戦勃発時にローエングラム候がオーディンにいないようにすればいいんだ」
「あっ、そうすれば門閥貴族が別の皇帝を擁立するんですね、では次の皇帝は誰になるんですかね」
「おそらく、今回の皇帝継承候補であったブラウンシュバイク公やリッテンハイム候の孫娘がたつことになるのかな、それとも意見が調整できないため、皇帝はとりあえずこのままにしておいて、リヒテンラーデ公とラインハルト候の役職のみ剥奪するのかもしれないな」
「では同盟の軍事的干渉は、どういうふうに行われるのでしょうか」
「これはタイミングの問題になるね。現在、ローエングラム候が帝国の軍権を掌握している以上、帝国領への侵攻は勅命により彼が討伐しなければならなくなる。
だけどそれがイゼルローンからの駐留艦隊による出兵程度では、2~3個艦隊程度の派遣で済ますことになるだろう。
しかしフェザーンでもイゼルローンでも同盟の大軍が侵攻ということになれば、これはローエングラム候が出撃せざるおえないだろうな。
だから同盟としては今回の作戦には大軍を擁したかった。しかしアムリッツアの敗北から半年もたっていない状況で数個艦隊の編成なんて不可能に近いし、第一、世論が許すはずがなかったんだ。
しかし現実には同盟は形だけとはいえ4個艦隊の編成を行うことができた。しかも国民の支持をつけてだ、議長の手腕の恐ろしさにこの点は脱帽だね。
ただ、帝国の内戦が勃発しない段階で大規模侵攻を行った場合、さすがの門閥貴族も団結して同盟と戦うことになるだろうね。
従って、同盟の軍事作戦はその発動のタイミングが難しいんだよ」
「なるほど・・・。で、どのようなタイミングを提督は考えているんですか?」
「ユリアン、ここから先は最高機密に属することだよ。いや、これまでに話したことも機密に属することだけどね、まあおそらくローエングラム候ならばこの程度のまでは予想の範囲に入っていると思う。これから先は自分で考えてみることも大切だよ、いいかい」
「わかりました、提督。色々とありがとうございました。紅茶ここにおいておきますね、少しさめてしまいましたけど」
ユリアンは執務室から退出し、歩きながら考えた。ヤン提督は個人として早期和平を望んでいるにも関わらず、政府や上層部の命令に心から従うことができるのか。同盟が侵攻作戦を行わないで、ローエングラム候をオーディンからおびき出すためにはどうすればいいのかなどである。
しかし、上官の命令で軍人が民間人を殺したとき、その軍人は人道上の罪に問われることになる。しかし政府が軍人に侵略を命じ、それに従うとき、そこには人道上の罪が問われることはないのだろうか。ヤン提督はどのあたりの矛盾をどのように解決しているのだろうか?
ヤン提督の軍人である自己評価の低さと、英雄に祭り上げられることに対する不快感はこのあたりにあるのかもしれないな・・・。そう考えるユリアンであった。
とりあえずつづく・・・かな?