イッチーさん、僧侶Tさんどうも。八木です。
色々と考えてはいたのですが、まずは自分の足下を固める必要があり、長いレスを書く時間が取れず、出遅れてしまいました。
3120で書いた私のビッテンフェルト叛乱シナリオに頂いた僧侶Tさんへ返答も含めて、まとめてレスします。
>> まず帝国辺境領の数カ所の惑星にて、共和革命の民衆蜂起が起きたのだ。そしてそれは、各地に波及していった。当時の帝国首脳部は知る由もなかったが、地球教がその存在を隠すべく共和革命の形をとり、さまざまな陰謀の糸を張り巡らせていたのだ。
> この部分なのですが、地球教がこの段階で陰謀をめぐらすのなら、ルビンスキーに帝国内の流通をかく乱させると同時に、「ラインハルトの死によって反動が起こり、復古的な政策が復活する」と言う流言を流して社会を混乱させるのがベストだと思います。それに、宇宙船建造能力のない辺境で反乱を起こしてもどうにもならないと思います。それよりも農業惑星や鉱業惑星を前述の流言で動揺させた後、そこに存在するであろう組織ごと地球教の教義でオルグしてのっとり、サボタージュやストライキ、出荷停止などをさせれば、前述の流通のかく乱とあわせて帝国に大打撃を与えられるだろうと思います。
ルビンスキーは、帝国軍のフェザーン占領時に「私は地球教などという代物と縁をを切るつもりだ」と述べています。このため地球教団の指令にどこまで従うか疑問点が残ります。しかもラインハルトの死によって、史実(笑)と違いフェザーンの帝都化は行われません。ルビンスキーは、まずボルテックを引きずり降ろし、自治領主への復権を狙うかと思います。そのため経済・流通の混乱は主にフェザーン周辺ににとどまり、地球教が暴動という形で帝国を混乱に落とさざるを得なくなるかと。
また地球教が帝国の辺境諸惑星で騒乱を起こすと考えたのは、僧侶Tさんの考えられたように、後の地球教の布教・オルグへの布石としてです。ちなみに共和革命という形をとったのは、帝国民衆に芽生えた民意の高まりを利用するため。
ラインハルトの死によって帝国民衆はこのまま解放路線が進むのか、と疑問を抱くはずです。そこを地球教が突き、各地で騒乱を起こさせ、あえて帝国軍に騒乱を鎮圧させます。帝国軍は不安定な情勢を拡大させないため、徹底的な鎮圧を行うでしょう。そのことで一部の民衆には、帝国政府への不信感が根付くでしょう。
帝国政府は駄目、共和主義も駄目、ならば何か……そうだ地球教だ!(笑)
「第2部」の設定では、一応地球教団艦隊(笑)が出てくることになっています。しかし、地球の住民だけでは艦艇乗員がまず足りないと思います。そのため、帝国政府の目が届きにくい辺境の住民を、地球教がオルグして将来の艦艇乗員として連れていくための作戦だと思って下さい。
> カリスマの跡を継ぐべき者は血縁によって選ばれるべきか、実力によるべきか。拙僧としては、信長の死の直後の織田家と状況が似ている気がします。そうすると羽柴秀吉=ビッテンフェルト陣営、柴田勝家=ロイエンタール・ミッターマイヤー連合と言うことになりますね。うーむ、イメージと違う・・・だからどうだと言うことはありませんが。余談でした。
私も清洲会議を思い出しました。ただこの場合に「ロイエンタール・ミッターマイヤー連合が実力主義を主張、ビッテンフェルト陣営がジークフリード擁立を主張」と当てはめてしまうと、ロイエンタールかミッターマイヤーが皇帝になってしまい、ジーク皇帝による第2部が始まらなくなってしまいます(笑) そのため逆にしました。
自分としては、ビッテンフェルト叛乱案はむしろ第2部IFに使うべきだったかなとも思っています。
ラインハルトがバーミリオン会戦で戦死した場合、後継者候補としてキルヒアイスとアンネローゼの子供ジーク2世が存在したとしても、帝国は分裂して争うのか?
私はやはり分裂抗争は起きると思います。というより帝国が分裂しなければ、早期の同盟再侵攻を招くことで同盟が滅亡してしまい、前スレで考えた第2部に進めないからです。
何せ、ジークフリードというラインハルトの(妥協的ですが)後継者になりうる存在います。これは逆にいうと、ヤンがバーミリオン会戦前にたてた「帝国混乱によって同盟再建の時間を稼ぐ」戦略が不可能になるかもしれないからです。帝国軍の提督全員がジークフリード擁立に納得した場合、まず最初に行うのは、ジークフリードの権威を高める為、そして帝位簒奪の正当性を出す為にも同盟へ再侵攻し、ラインハルトの仇討ちとしてヤン・ウェンリーの首をとることでしょう。
>イゼルローンはヤンの奇形ならでは、被害も少なく占領できるのであって、帝国が再侵攻しようと思っても、逆に膨大な被害者が続出するだけでしょう。帝国もそれはわかっているはずですから、イゼルローンをへたに取り戻そうとはしないはず。さらにフェザーンでの暴動を長引かせ、フェザーンの入り口に同盟軍の多くを割いて、封鎖してしまえば、帝国は容易に同盟に再侵攻は出来ないでしょう。帝国国内ではラグナロック作戦の失敗で、民衆の間では厭戦感情が蔓延し、文官たちも「民力休養」を唱えて、戦争の一時中止を申し入れるでしょう。「弔い合戦」というのは軍人の発想であって、文官や民衆は戦争の中止とラインハルトの改革路線の継続を要求するのではないでしょうか。
イッチーさんは、フェザーンの入口を同盟軍が塞ぎ、フェザーン地表ではフェザーン人の暴動が続けば帝国軍も手が出せないと考えていますが、そうでしょうか?
仮にバーミリオン会戦から半年後に帝国軍の再侵攻が行われた場合、それを受けてたつ同盟軍の戦力は多く見て3万隻というところです。ランテマリオ決戦時より同盟軍の戦力はありません。もともとラグナロック作戦時でも、フェザーン回廊出口での正面決戦は不利ということで放棄しました。回廊出口に縦深陣を引くには戦力は少なすぎます。
また原作8巻の回廊決戦において、約2万8000隻の戦力だったヤン艦隊も停戦時には1万隻を切り、あと一歩で戦線崩壊、要塞への撤退というところでした。それに対して帝国軍は、司令官2人を失い、ヤン艦隊以上の艦艇数を失いましたが、それでもヤンの数倍の戦力が無傷で残っています。
ラインハルトの復讐を目指す帝国軍が、なりふり構わずフェザーンの暴動には軍事力で押さえつけ、回廊出口の同盟軍には損害を気にせず消耗戦で臨めば、最後には同盟軍が磨り潰れるでしょう。
同盟を建て直し、フェザーンからの侵攻を防衛できるだけの戦力を整備するには、少なくとも2年から5年の時は必要でしょう。そのための時間稼ぎと両国の軍事力のバランスを取るためにも、やはり帝国内戦は必要だと思います。
またイッチーさんが指摘されている、帝国政府の文官と民衆に厭戦感情が蔓延するというのは、この時点ではまだ起きないと私は思います。皇帝亡命事件の時、同盟への攻撃に「1億人100万隻体制」を唱えた帝国民衆です。むしろ帝国の解放者ラインハルトを殺した同盟・ヤンに復讐を! という「弔い合戦」の方向へ感情が向かうのではないでしょうか。帝国民衆に厭戦感情が起きるのは、後継者問題から帝国が分裂し内戦が起きた後だと思います。
イゼルローン再奪取について
イゼルローン要塞はやはり帝国内戦のどさくさに紛れて、ユリアン指揮の部隊が奪い取る方が良いと思います。理由は、奪う際に必要な例のパスワードが、20年後まで残っているかどうかが心配だから。帝国軍が要塞のソフトウェアを書き直してしまった場合、要塞無力化コードが生き残っているのかは未来の技術次第ですが、時が経てば経つほど仕込みが発覚する可能性が高まるからです。例のパスワードが効かないと、奇跡のヤンでも再奪取は不可能でしょう。
そのため私としては、帝国内戦終結時にタイミングを見計らってイゼルローンを奪取するべきだと思います。
地球教
地球教の戦力は、実質的にはテロ戦力でしかありません。地球教の有する力は、その存在の秘密性に起因します。そのため地球教を大活躍?させるためにも、その存在は1.5部ではまだまだ隠し、「第2部」において華々しく登場させたほうがよろしいのではないでしょうか。
ルビンスキーが脳腫瘍で死んだ後に、経済ネットワークも一部は掌握するでしょう。また、原作のロイエンタール叛乱の切っ掛けをつくったように、帝国軍への浸透作戦も進み、ある程度の小艦隊と陸戦部隊ぐらいは支配下に置けるのでは。
~~~3120で書いたシナリオのその後~~~
ビッテンフェルト・ファーレンハイト両提督による、レンテンベルク要塞においての決起で始まった第2次帝国内戦(通称・ビッテンフェルトの乱)は、レンテンベルク会戦にて叛乱部隊指導者のビッテンフェルト提督が死に、本拠地であったレンテンベルク要塞が陥落したことで終結を迎えた。
この内戦の終結までに、実に2年という時が費やされた。帝国軍は事実上2つに別れて争った。辺境の諸惑星では民衆暴動が続出。フェザーン人のデモ・サボタージュにより帝国経済・流通は混乱した。しかし、混乱の一番の要因であったビッテンフェルト軍が壊滅したことにより、帝国の混乱も終結に向かうだろう。
しかしレンテンベルク要塞が陥落した同時刻、宇宙の反対側ではもう一つの要塞が陥落していたのだ。イゼルローン要塞である。
ヤン・ウェンリーは卑怯にも要塞を放棄したとき、要塞の無力化コードを残していき、その無力化コードを使うことで要塞を奪還したのだ。要塞は無力コードで抵抗手段を失い、あっさりと陥落した。駐留艦隊は主力を内戦に投入され警備隊程度の戦力しか残っておらず、同盟軍に勝てるわけもなかった。
帝都の軍務省でロイエンタールは考えていた。この機会に同盟への再侵攻を計るべきか。しかし、帝国内戦が一番激化している時でさえ、内戦への介入をしなかった同盟がこの時期に敢えてイゼルローンを奪取したのは何故か?
1つ目は、早期のイゼルローンの奪還によって、分裂した帝国が対同盟で1つにまとまるのを恐れたため。
2つ目は、決まっている。フェザーン回廊から侵攻する帝国軍に対応できるだけの準備が出来たのだ。そのためにイゼルローンを奪還することで、あらかじめ二正面作戦になることを防いだのだ。
レンテンベルク要塞にて戦後処理を行っているミッターマイヤーから、ビッテンフェルト軍の残存部隊が辺境に逃げ込み、なおも抗戦の構えを見せていると連絡が入ってきている。ミッターマイヤーの表情も、同僚だったビッテンフェルト討った直後とあってさえなかった。
内務省からは、内戦による混乱から国民のあいだに厭戦感情が吹き荒れており、ジークフリード皇帝と政府に向ける国民の視線が非常に厳しくなっていると報告が上がってきた。
ラインハルトの仇討ちと訴え、同盟再侵攻の準備を進めるとしても、「ラインハルトの仇討ち」は元々ビッテンフェルトの主張だったのだ。今更「イゼルローンを奪われ、同盟の帝国への侵入を未然に防ぐためにも、同盟に攻撃を仕掛ける」と主張しても、国民は納得はしないだろう。
そこまで思考したとき、ロイエンタールの元に、軍務省職員が慌てて報告に表れた。「閣下、叛乱軍が全宇宙に向けて放送を始めました」
自由惑星同盟軍最高司令官となったヤン・ウェンリー元帥が超光速通信画面に現れ、何故か軍用ベレー帽を握りつぶしながら宣言した。
「自由惑星同盟は、先日のイゼルローン要塞の再占領を最後に、銀河帝国に対する攻撃を一切停止することをここに宣言する。今後は、イゼルローン要塞及びフェザーン回廊同盟側出口を同盟・帝国間の国境と定め、同盟軍はここより先の宙域に進行はしない。ただし、銀河帝国の艦隊が同盟領に侵入した場合に限り、民主主義を守るために同盟は自衛戦を行う」
1つ息をつき、ヤンは続けた。
「また、同盟政府は人類社会を正当に統治する唯一の政体である、というこれまでの主張を取り下げ、銀河帝国の存在を承認する。帝国政府も同盟政府も共に、人類社会を半分を正当に統治する権限をもった政体だとここに認める。今後は、150年間に及んだ戦争を繰り返さないためにも、両国の中間に位置する惑星フェザーンに、弁務官ではなく、両国の大使を駐在させ、両国関係の正常化のための折衝にあたらせたい。銀河帝国政府及びジークフリード皇帝陛下の良い返答を期待します」
最後に収まりの悪い髪をかきながらヤンは言葉を閉め、放送は終わった。
ロイエンタールは、共和主義者の方から停戦を呼びかけてくるとはさすがに思っても見なかった。マリーンドルフ家の小娘は、これを見たらすぐさま同盟との交渉を行うようにと訴えるだろう。
ミッターマイヤーも停戦に同意するだろう。
イゼルローンを失った現在、同盟への進行ルートのフェザーンのみ。そのフェザーンも現在も騒乱の渦中にあり、補給基地としての役目を果たせない。
帝国国内も内戦の疵痕が多々残り、国民は疲弊し厭戦感情が巻き起こっている。軍の再編も行わねばならず、まず早急な同盟再侵攻は不可能だろう。
ロイエンタールは1人つぶやいた。「とりあえず、宇宙は平和になるだろう。ならば子守をするのも悪くはないか……。赤毛の小僧には、俺を使いこなせる主君になってもらおう」
もし、自分をを使いこなせない、無能な皇帝に育ったらどうするのか。その時は……。
ヤンの通信から1週間後、国務尚書マリーンドルフ伯が超光速通信に現れ、全宇宙に帝国の方針を語った。
「皇帝陛下のご聖断により、過去の歴史において、不名誉なる叛乱軍の名称のもとに抹殺されていた、自由惑星同盟の存在は、これを公認する。また先日、同盟からの訴えも基本的に了承する。今後は惑星フェザーンにおいて両国間の話し合いがもたれるだろう」
後日、帝国フェザーン自治領にて、停戦合意文章が調印された。この調印式への妨害も多数行われたが何とか防ぎきり、両国はその存在を認めあい、停戦を合意した。
大方の予想では、早期に停戦合意は破られると見られていた。しかし予想に反し、停戦は実に18年も長きに渡り続くことになる。しかし停戦が破られるということに関しては、残念ながら当たっていたのだった。
フェザーンにて調印された停戦合意文書。この作成にあたり、帝国政府代表のヒルデガルト・フォン・マリーンドルフと同盟代表団の一員だったフレデリカ・G・ヤンは、合意文書作成にあたり議論を交え、同姓としての尊敬と友情が生まれていたのは、ささやかなエピソードである。
~~~以上終わり~~~
基本的に八木あつしさんの設定が一番問題がないだろうと思います。ただ、揚げ足をとるようですが、細かい点を指摘させていただくと・・・。
まず、バーミリオン後2年では皇帝はジークフリードではなく、カザリン・ケートヘンであろうということ。ジークフリードは皇帝の婚約者という扱いだと思われます。
またルビンスキーの復権はあり得ないということです。地球教がルビンスキーの復活を認めないでしょう。おそらく、ボルテックでもルビンスキーでもない第三の人物が自治領主に祭りあげられると思います。
また、帝国・同盟の講和会議での帝国首席全権は帝国宰相のロイエンタールまたは国務尚書のマリーンドルフクラスの大物であろうと思われます。ヒルダは随員という扱いでしょうか。同盟側全権は最高評議会議長レベロといったところでしょうか。
どうも、僧侶Tです。個人的な用事で書き込みできませんでしたが、その用事も片付きましたので再び書き込みします。
> また地球教が帝国の辺境諸惑星で騒乱を起こすと考えたのは、僧侶Tさんの考えられたように、後の地球教の布教・オルグへの布石としてです。ちなみに共和革命という形をとったのは、帝国民衆に芽生えた民意の高まりを利用するため。
> ラインハルトの死によって帝国民衆はこのまま解放路線が進むのか、と疑問を抱くはずです。そこを地球教が突き、各地で騒乱を起こさせ、あえて帝国軍に騒乱を鎮圧させます。帝国軍は不安定な情勢を拡大させないため、徹底的な鎮圧を行うでしょう。そのことで一部の民衆には、帝国政府への不信感が根付くでしょう。
> 帝国政府は駄目、共和主義も駄目、ならば何か……そうだ地球教だ!(笑)
> 「第2部」の設定では、一応地球教団艦隊(笑)が出てくることになっています。しかし、地球の住民だけでは艦艇乗員がまず足りないと思います。そのため、帝国政府の目が届きにくい辺境の住民を、地球教がオルグして将来の艦艇乗員として連れていくための作戦だと思って下さい。
> 地球教
> 地球教の戦力は、実質的にはテロ戦力でしかありません。地球教の有する力は、その存在の秘密性に起因します。そのため地球教を大活躍?させるためにも、その存在は1.5部ではまだまだ隠し、「第2部」において華々しく登場させたほうがよろしいのではないでしょうか。
なるほど。拙僧は1,5部の時点で地球教が本格的に動き出すのかと思っていましたが、第2部の布石だったのですね。意図を読みきれず、失礼しました。
ところで、バーミリオンの直後、ユリアンがフェザーンに潜入して扇動工作を行う、という話がありましたけど、やはりカリンとコンビを組むのでしょうか(笑)仮にそうだとすれば、格好の外伝のねたですね。…すいません、あまり書くことがないものでくだらないことを書き込んでしまいました。
うひゃ~、イッチーさん。上手いですヽ(´▽`)/
史実のラインハルト暗殺未遂事件をヤン暗殺未遂事件へ見事に置き換えられています。
オーベルシュタイン元帥の役割を、シェーンコップ国防委員長が充分に果たしていますね。
IFには、バタフライ効果や歴史の復元力という要素がありますが、今回のイッチーさんが書かれたIFシナリオは、まさしくそれが上手く活かされた話だと思います。
本来ヴェスターランドの虐殺の結果、ラインハルトが受けるはずだった暗殺未遂事件。それがラインハルトのバーミリオン会戦で戦死したことで無くなってしまった。
そしてヤンが政府の無条件停戦命令を破ることによって投じた一石が、ハイネセン虐殺を呼び、ヤンも最高権力者への道を歩むことになる。しかし、歴史の復元力がラインハルトへの暗殺未遂事件をヤンに置き換える形で再現させた、という感じでしょうか。
ハ……Σ(゜ロ゜;) ということはヤン家には新しい子供が生まれるのか。(バカ)
イッチーさん、素晴らしい外伝でした。
私も1.5部のシナリオは考え尽くしたので、そろそろ第2部のIFシナリオを考えてみようと思います。
> ところで、バーミリオンの直後、ユリアンがフェザーンに潜入して扇動工作を行う、という話がありましたけど、やはりカリンとコンビを組むのでしょうか(笑)仮にそうだとすれば、格好の外伝のねたですね。…すいません、あまり書くことがないものでくだらないことを書き込んでしまいました。
調子にのってこんなのを書いてしまいました。
バーミリオン直後、同盟軍は帝国をゆさぶり、帝国の同盟再侵攻を食い止めるため、フェザーンに諜報部員を送り、フェザーンで暴動を起こさせることとした。その危険な任務に自ら名乗りをあげたのがユリアン・ミンツ中尉とカーテローゼ・フォン・クロイツェル伍長であった。二人は他の諜報部員とともによくその任務をこなし、フェザーン暴動を成功させ、それぞれ大尉と軍曹に昇進した。しかし、それより二人にとって重要だったのは、二人が協力し合って危険な任務を遂行するうちに互いに愛情が芽生えたことであった。バーミリオンから2年後、イゼルローン再奪取作戦に従事して、大活躍をしたユリアンは2階級時間差特進で中佐に昇進し、カリンも准尉に昇進した。イゼルローン要塞がお祝いムードに包まれる中、ユリアンとカリンは一夜を過ごした。なお、このとき、カリンはシェーンコップと和解して同居しており、シェーンコップはイゼルローン要塞司令官に就任している。
「夕べはユリアンと一緒だったね。カリン」
静かでpだやかな声が、カリンの脳裏で反響をかさねた。カリンは、自分の右手からスプーンが落下して、スープの飛沫をあごの高さまではねあげる光景を見つめた。
「シェーンコップ司令官はプレイボーイとしての能力はあるが、父親としては失格だ」と冷笑する人々が、いかに誤っているか、カリンはずっと以前から知っていた。シェーンコップ司令官の誠実さは、はでではないが深い知性と洞察力に裏打ちされたものであり、彼は単なる伊達男ではなかった。階級制度の厳しい軍隊社会において、カリンの才能に制限を加えなかった一事だけでも、他人は彼の真価を知るべきなのである。
「お父さん、わたし・・・」娘にむけた父親の顔は、やや寂寥をおびた、だがやさしい理解の色をうかべていた。
「うん、わかっている。たぶん、わかっていると思う。だから言わなくていい。ただ、確認しておきたかっただけだから」
「ごめんなさい。お父さん」
カリンは悪事をはたらいたわけではない。だが、彼女の敬愛する父親に対して、「ごめんなさい」以外のことばを発することができなかった。彼女の表現力は、急激な渇水期にはいってしまったようである。
食堂の外で足音がして、父娘間の沈黙をうちくだいた。ルイ・マシュンゴ中尉が巨体をゆるがしてとびこんできた。
「司令官!シェーンコップ大将!いま、玄関に客がありまして・・・」
マシュンゴはあえぎ、胸郭を波うたせつつ、ようやく客人の正体を報告することができた。
「扉をあけてみたら、ミ、ミンツ中佐が、立っておいででした。ぜひ司令官とカリンお嬢様にお目にかかりたいと・・・」
司令官は娘に視線をうつした。その勇気は一個艦隊の武力にまさる、と称される美貌のパイロットは、テーブルクロスの端をにぎりしめ、スープの皿をじっと見つめたまま身じろぎしない・・・。
「カリン」
「・・・お父さん、わたし立てない」
「ユリアンはお前に話があるのだと思うがね」
「ごめんなさい、おねがい、お父さん」
知力とも気力とも無縁なことばをカリンは口にした。
口の中でなにかつぶやきながら、司令官はテーブルから立ち上がり、ホールへ歩みでた。
同盟史上、最若の高級士官が、大きすぎる花束をかかえて、ホールにたたずんでいた。赤と白と淡紅色の、大輪のバラの群。この夏、最後のバラであろう。司令官の姿を認めると、白い秀麗な顔に淡紅色のバラが反射したようであった。
「ユリアン・・・」
「あ、ああ、シェーンコップ大将」
「わざわざの訪問、ご苦労。どのような用事かな」
「いえ、こちらこそ、朝からおさわがせして申し訳ありません」
そのような表現が許されるのなら、亜麻色の髪をした同盟史上最若の佐官は、緊張し、上気しているように見えた。もやのかかったダークブラウンの瞳で、司令官を見て、花束をつきつける。
「これをカーテローゼ・フォン・クロイツェル准尉にさしあげたいと思って・・・」
「これは心遣いご苦労」
バラの強烈なまでの香気が、受け取った司令官の上半身をつつみこんで、一瞬、司令官は呼吸がつまった。
「ポプラン少将にうかがったことがあります。男は女性に求婚するときは、花束を持っていくものだと・・・」
「はあ、なるほど」
あいまいな返答のうちに、シェーンコップ司令官は、若い部下の来訪の目的を完全に察知していた。それにしても、と司令官は思う。何もポプラン少将に、求婚者としての態度を聞くこともなかろうに。
「それでぼくも、そうしたいと思って、そうしなければと思って、とりあえず花を選んで持ってきたのです。准尉は花はお好きでしょうか」
「きらいではないと思うな」
ユリアンはうなずき、自分ひとり決断のゴールへいたる迷路を歩きまわっているように見えたが、ついに決定的な発言をした。
「シェーンコップ大将。大将のお嬢さんと結婚させてください。その許可をいただきにまいりました」
ユリアンの、というより、世慣れぬ亜麻色の若者の真摯さを、シェーンコップ司令官は認めた。それは軽蔑の対象になるものではなかったが、「何かあった」一夜があけると同時に結婚を申し込みにくるとは、いささか短絡にすぎるような気もするのである。
これまでひそかに考えていたことに、シェーンコップ司令官は傍証をえたような思いがした。ユリアン・ミンツは「天才少年」なのだ。軍事と政治の両分野において比類ない業績をごく短時日のうちにあげながら、とくに男女間のことに関しては、世慣れぬことはなはだしい。
才能のいちじるしくかたよった「天才少年」が、上気したまま言った。
「もし、カーテローゼ・フォン・クロイツェル嬢に、その、あのようなことをして、責任をとらなかったとしたら、ぼくは、帝国の封建貴族と同類になってしまいます。ぼくは、ぼくは、やつらと同類になる気はないのだ」
上官としてあるまじきふるまいであったかもしれないが、司令官はため息と苦笑を同時にはきだした。責任の感じ方にも、種々あるものだ。ユリアンのそれは、まさしく、潔癖で観念が先行した少年のものであるにちがいなかった。
「ユリアン、責任を感じる必要はない。私の娘は、自分の意思によってきみと一夜を過ごしたのだ。一夜のことを武器としてきみの一生をしばるようなことをあの娘はしないだろう」
「しかし・・・」
「今日のところは引き取りたまえ。あいつもまだ気持ちが整理されていないようで、あるいはきみに対して礼を失する言動があるやもしれない。いずれにしてもおちついたら、必ずきみのところにうかがわせよう」
「・・・」
「まことに申し訳ないが、どうぞ、この場は私にまかせてもらって、帰ってはいただけないか」
「わかりました。大将に-司令官におまかせします。朝からお騒がせしたうえに、即答できかねるような申し込みをしてすみませんでした。非礼の数々、ご容赦ください」
きびすを返そうとして、ユリアンは動作を停止し、ためらいがちな一言を司令官に投げかけた。
「カーテローゼ・フォン・クロイツェル嬢によろしく・・・」
ユリアンとカリンの性格が違うんじゃありませんか。
そもそも元になったラインハルトとヒルダの話はラインハルトが精神に混乱をきたしていた状態でのことでして。
事が終わった後どうするかはっきりしないまま別れたというのはそれなりに説得力があるんですが。
ただ両者が愛をはぐくんだ結果結ばれたのではそうはならないと思います。
むしろユリアンとカリンの場合はプロポーズが先でそういうことは結婚してからということになるんじゃないでしょうか。
どうしてもそういう話にしたいならやはり何らかの理由でユリアンの精神が混乱してるところにカリンが訪ねて来てそのカリンをユリアンが襲ってしまうという話が先にないとやはり不自然だと思います。
問題はカリンの父親なんですよね。
ラインハルトの場合はヒルダの父親より地位が上だしヒルダの父親自身がおとなしいタイプの人間ですしあえて騒いで問題にしようとしなかったのはそれなりに説得力があるんですが。
カリンの父親の場合はユリアンより地位が上ですし娘を傷物にされたら問答無用で殺しに来そうな気がするんですよね。
少なくともおとなしく黙ってる性格の人じゃないでしょう。
この二点の問題を解決しないとああいう話は成り立たないと思います。
今のままでは不自然極まりない話だと思います。
倉本さま、レスありがとうございます。
ラインハルト暗殺未遂事件=ヤン暗殺未遂事件のほうはどちらでも割合うまく当てはまるのですが、こちらのほうはうまくいかなくて書いている間中、冷や汗をかきました。私としては、無理やりあてはめたことによって生じるズレが面白いかなと思ったのですが、不愉快に思われる方がいらっしゃるなら削除します。
僧侶Tです。最初に銀英伝1,5部を提唱してからずっと批評ばかりで創造していないことが気にかかるのですが、拙僧の貧弱な頭では批評しかできないのでそれをしたいと思います。
銀英伝1,5部ないし第2部・外伝の「ヤン暗殺未遂事件」ですが、16年後のことではなくて、バーミリオン星域会戦の直後としたほうがいいように思われます。というのも、
> 「バーミリオン星域会戦でローエングラム候を戦死させたことで、帝国軍は撤退した。ゆえに、民主主義は救われ、同盟は滅亡を免れた」
シェーンコップのこのせりふが、同盟における公式見解になるだろうからです。同盟は、長征1万光年の途上における同志の過半の死や、150年に及ぶ帝国との戦争での数億の戦死者を「民主主義擁護のため」と正当化してきた国家なのですから、「民主主義擁護のためには200万の犠牲もやむをえなかった」と考えられ、その考えに同盟国民は賛成すると思います。もちろん、それでも「ハイネセンの虐殺」の責任者の1人であるヤンを恨む人は大勢いるでしょうが、時がたつにつれて公式見解のほうへと考えが変わっていくのではないかと思います。
それに遺族の怨念というものは発生直後が最大であるものですし、暗殺未遂をするほど思いつめているのなら、16年もまたないでしょう。ヤンは身辺警護に気を使わない人でしたから、いくらでも機会はあるでしょうし。
> 「もし、同盟が帝国に占領されていたならば、帝国の暴政によって1000万を下ることのない人々が虐殺されたであろう。あの会戦でローエングラム候を戦死させたからこそ、1000万人の死者は仮定の数字としてすんだのだ」
それからこの数字なのですが、この「銀英伝1,5部ないし第2部」という同人史(笑)の世界の人々は「正史」の、「ラインハルト軍は同盟を占領しても暴虐はしなかった」ということは知らなくても、「帝国軍はハイネセンの虐殺で短期間に200万人もの人々を虐殺した」ということは知っています。である以上、「帝国軍が同盟を占領していたら数億人が虐殺されただろう」と考えられても不思議ではありません。「フェザーンに進駐したときの帝国軍の態度からして、そのようなことはありえない」という意見も出るでしょうが、だいぶ後になってからでしょうし、信じられる事はないと思います。
蛇足
「…ヤンにとって、真の人生の転回点はバーミリオン星域会戦ではなく、このヤン暗殺未遂事件であった。『軍隊は人民を守るために存在する』と信じていた彼の決断が民間人虐殺の引き金を、結果的にであるにしても引いてしまったこと、それを正当化するには『あれは民主主義擁護のためには仕方がなかったのだ』と主張するしかないことを、ヤンは悟ったからである。これ以降のヤンが対帝国強硬派の急先鋒になったこと、この事件から10数年後、議長職についた彼が帝国との戦争のための軍事力の整備を精力的に推し進めたこと、これらは、彼の決断が民間人虐殺の引き金を引いてしまったという罪を償うための方法として、民主主義擁護のための戦いに勝利するということ以外の道を見つけることが、彼にはできなかったからに他ならない」
トミー・アーサー氏著作集第4巻より抜粋
これではマヴァール年代記のカルマーンだし、ヤンの人格を変えてしまうのもどうかと思うし…蛇足ですので、無視してもらっても結構です。
いや別に不快には思ってませんが。
ちょっと不自然すぎるなと思います。
元の話に近くそれでいて不自然にならないように私の挙げた問題点を解決するとするとこうしたらどうでしょう。
ヤン元帥暗殺事件を成功させる。
ヤン元帥は助かっていいが重傷になること。
そうすることでユリアンはヤンを守るというヤンとの約束が果たせなかったことで落ち込むだろうから史実のラインハルトの状態に近くなると思う。
それからユリアンの相手はカリンではなくシャルロットにする。
カリンだと父親に問題があるがシャルロットならその点は問題ない。
こうすれば問題なくあの話を同盟側で再現できると思います。
バーミリオンでラインハルトが戦死した後、帝国の出来事を無理やり同盟にあてはめてみようという私の試みにみなさま、レスをいただき、ありがとうございました。みなさまのご意見をあてはめて作り直してみたのですが、いかがでしょうか?(ユリアンとカリンはどうも帝国キャラに合わないのでヤンとフレデリカにしてみました)
宇宙暦799年末、バーミリオン星域会戦とハイネセン虐殺以来の混乱をようやく収拾した同盟首都ハイネセンでは戦没者追悼記念式典が開かれた。最高評議会議長ジョアン・レベロ、国防委員長ホワン・ルイ、同盟軍最高司令官ヤン・ウェンリーなどをむかえとどこおりなく式典は進行したが、そのとき、事件が起こった。ヤン元帥暗殺未遂事件が発生したのである。
「無能者ヤン!」
それはかって、無条件停戦命令を発する際、故トリューニヒト議長がヤンを評して言った言葉であった。むろん、ヤンが同盟の事実上の最高権力者になった今では、その一語は国家反逆罪にも問われかねない。暗殺未遂という広大な池に、雨滴の一粒がくわわっただけのことであるが。
なおも叫びを放とうとする口元に、ポプランが平手打ちの一閃をたたきつけた。頚椎を捻挫するのではないか、と思わせるほど容赦のない一撃が、さすがに男をたじろがせた。
「不逞なやつめ。きさまも秩序の破壊をたくらむ帝国のスパイか」
「帝国のスパイなどではない」
切れた唇から、血と憎悪をしたたらせながら、男はうめいた。若い最高司令官を焼き殺すかのように、眼光を集中させる。
「ハイネセンの虐殺を忘れたか。たった数ヶ月前の惨劇を、もう忘れたのか!」
男が口にした固有名詞は、石弓から放たれた無形の矢となって、ヤンの耳から心臓へ貫通した。
「ハイネセンの虐殺・・・?」
ヤンのつぶやきは、一瞬のうちに、最高司令官の顔面から生気のかがやきを強奪していた。逆に暗殺者は、活気を回復し、糾弾を開始した。
「何が最高司令官だ。ミラクル・ヤンだ。きさまの権力は流血と欺瞞の上に成り立っているのではないか。おれの妻子は、ハイネセン・ポリスで、帝国軍ときさまとのために、生きたまま焼き殺されたのだぞ!」
ふりかざされたポプランの手が、こんどは空中で停止した。決断なり命令なりを求めるように議長を見やったが、かっての魔術師は、激烈な弾劾の前に、半ば茫然と立ち尽くすだけであった。
「さあ、おれを殺せ。惑星ハイネセンで帝国軍と共謀して無辜の民200万人を殺したように、おれを殺せ。きさまらに何ら害を加えたわけでもない子供や赤ん坊を、ビーム砲の劫火で生きながら焼き尽くしたように、おれを焼け!」
男の、生命がけの怒号に対して、ヤンは答えようともしない。発熱がひいたばかりの頬は、瞳の黒色が拡散したように黒ずみ、ユリアンは最高司令官の身体をささえるように寄りそった。
「生きているやつらは、きさまの戦術の華麗さに目がくらんで、ハイネセンの虐殺のことなど忘れてしまうだろう。だが、死者は忘れんぞ。自分たちがなぜ焼き殺されたか、永遠に憶えているぞ」
ユリアンの手に、最高司令官の身体の、ごく微量な慄えが伝わってきた。そのとき、べつの声が少年の耳に聴こえた。怒号を凍てつかせる冷静な声。
声の主は、統合作戦本部長ワルター・フォン・シェーンコップ大将であった。彼は弾劾の暴風から最高司令官を守るように、暗殺者の前に立ちはだかって言明したのである。
「最高司令官をお怨みするにはあたらぬ。無条件停戦命令を無視するよう、最高司令官に進言したのは私だ。おまえは最高司令官ではなく、私をねらうべきであったな。妨害する者もすくなく、ことは成就したであろうに」
剛毅と呼びうる、それは最低温度の声であった。
「きさまが!」
そうあえいだきり、男は絶句した。見えざる氷壁の前で、怒りと憎悪は、進むべき方向を失って乱気流と化したように見えた。
「バーミリオン星域会戦でローエングラム候を戦死させたことで、帝国軍は撤退した。ゆえに、民主主義は救われ、同盟は滅亡を免れた」
凍結した空気に、さらに冷気をくわえるような、統合作戦本部長の語りようであった。
「もし、同盟が帝国に占領されていたならば、帝国の暴政によって数億を下ることのない人々が虐殺されたであろう。あの会戦でローエングラム候を戦死させたからこそ、数億人の死者は仮定の数字としてすんだのだ」
「きさまら権力者は、いつもそうだ!多数を救うためにやむをえなく少数を犠牲にする、と、そう自分たちを正当化するんだ。だが、きさまら自身がきさまらの親兄弟が、少数のなかにはいっていたことが一度だってあるか!」
男は足を踏みならし、靴のかかとで地を踏みにじった。
「人殺しのヤン・ウェンリー!無能者ヤン!きさまの権力は、血の海に浮かんでいるのだ。一秒ごとに、そのことを思い出せよ。ローエングラム候は、敗北と死によって罪をあがなった。きさまは生きているが、いつかは罪をあがわなくてはならんのだ。おれより手の長い者は宇宙に幾人もいるぞ。おれに殺されていたほうが幸福だった、と、遠からぬ将来に思い知るぞ」
「憲兵司令部につれていけ。私自身が後刻、尋問する。早くつれていくのだ」
ムライ大将がそう指示して、無限に続くかと思われる糾弾の奔流をたちきった。三個分隊を構成するにあたる人数の憲兵が、暗殺未遂犯をとりかこみ、ひきずるようにつれさった。あとには、濃くなりまさる夕闇と、最高司令官一行が残された。ユリアンは、最高司令官の黄色い手が、自らの頭の上に置かれるのを感じた。それは残念ながら、無意識の動作であるようだった。最高司令官の瞳は、少年を見ていなかった・・・。
人の気配が、酒精分の霧をくゆらせた。ヤンの暗い瞳が、室内を浮遊して一点にとどまった。金褐色の髪がそこにあった。その所有者である副官は、扉の外で半泣きになっているユリアン・ミンツ大尉に頼んで、入室してきたのだ。ヤンは低く笑った。
「フレデリカ・グリーンヒル中佐か・・・」
張りを失った声が、表決した空気の表面をすべっていった。
「あの男の言ったとおりだ。私は人殺しで、しかも卑怯者だ」
「閣下・・・」
「避けようと思えば避けられたのに、私はそうしなかったのだ。悪逆非道な帝国軍は自らすすんで悪をおかした。そして私は、その悪に乗じて、自分が利益を独占した。わかっているのだ。私は卑劣漢だということは。私は、最高司令官の地位にも、兵士たちの歓呼にも値しない人間なのだ」
フレデリカは返答しなかった。無力さに対するにがい自覚は、ヤンのそれに劣らなかった。彼女はハンカチをとりだして、血の色に濡れたテーブルクロスと、最高司令官の手と袖とをぬぐった。ヤンも、自己糾弾の流出をとめ、唇をとざしたが、フレデリカには最高司令官の傷口がきしる音が聴こえた。
自分で望んで入室したというものの、最高司令官の傷心をなぐさめるのは、容易ではなかった。「たかが200万人」という論法は、絶対に使えない。それこそ、まさしく、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウム的な力学の論理であるからだ。そのような発想を否定するところから、同盟の歴史は出発したのである。ひとたび権力者が自分の罪を正当化すれば、自己神格化へむけて急坂を転落し、第二の帝国になりさがるだけであろう。
ヤンがそうであるかのように、また故人となったローエングラム候がそうであったように、フレデリカは全能でも万能でもなかったから、このようなとき、最高司令官の精神の傷口にどのような薬をぬるべきか、自信などなかった。だが、濡れた手と袖とテーブルクロスを拭いてしまったので、つぎの行動にうつらなくてはならなかった。ためらいつつ、彼女は口を開いた。
「閣下は、罪を犯されたとしても、その報いをすでに受けておいでだ、と、わたしは思います。そして、それを基調に、同盟の再建に乗り出されました。罪があり報いがあって、最後に成果が残ると、わたしは思います。どうかご自分を卑下なさいませんよう。帝国軍の撤退によって救われた人々はたしかに存在するのですから」
フレデリカが言った報いとは、アレクサンドル・ビュコック元帥の死を意味した。そしてそれはヤンが正確に理解することとなった。彼の瞳は、なお暗かったが、酒精分の瘴気は急速に減少していった。その瞳に、ハンカチをたたんで一礼し、退出しようとする副官の姿が映った。若い最高司令官は半ば椅子から立ち上がりつつ、自分でけっして予期することのなかった声をかけた。
「グリーンヒル中佐」
「はい、閣下」
「帰らないでほしい。ここにいてくれ」
フレデリカは即答しなかった。自分の聴覚をうたがう思いが、潮のように胸に満ち、それが心臓の位置をこえたとき、彼女は、若い最高司令官と彼女自身が一定の方向へ踏み込んだことを知った。
「今夜は、ひとりでいることに耐えられそうにないのだ。たのむ、私をひとりにしないでくれ」
「・・・はい、閣下、おおせにしたがいます」
自分の返答が正しいかどうか、フレデリカには判断がつかなかった。わかっていたのは、彼女にとってその返答が、選択ではなく必然であったということであった。ヤンにとっては、また事情が異なる。フレデリカは自分が波間にただよう一本の藁でしかないことを知っており、今夜はこの人のために、できるだけよい藁になろうと心に決めたのだった。
イッチーさん、大変面白く読ませていただきました。
上手く当てはまっているんですが、一部について言わせてもらいます。
> 声の主は、統合作戦本部長ワルター・フォン・シェーンコップ大将であった。彼は弾劾の暴風から最高司令官を守るように、暗殺者の前に立ちはだかって言明したのである。
シェーンコップは、さすがに統合作戦本部長にはなれないと思います。同盟軍陸戦部隊に所属している彼には、軍令の参謀部は畑違いのはずですから。シェーンコップが就任するのは、同盟軍陸戦総監(憲兵総監との兼務もあり)だと思います。
新たな統合作戦本部長には、ムライが就任すると思います。ただ同盟軍最高司令官にヤンが就いたため、事実上の本部長はヤンですから本部長代理もしくは本部次長かもしれません。
>「グリーンヒル中佐」
>「はい、閣下」
>「帰らないでほしい。ここにいてくれ」
>フレデリカは即答しなかった。自分の聴覚をうたがう思いが、潮のように胸に満ち、それが心臓の位置をこえたとき、彼女は、若い最高司令官と彼女自身が一定の方向へ踏み込んだことを知った。
小さいことですが、ここは「グリーンヒル中佐」ではなく「フレデリカ」だと私は思いました。あと「閣下」ではなく「あなた」だと。バーミリオン会戦前のプロポーズからかなり時間が経っていますし、ラインハルトとヒルダよりは仲は進んでいるでしょう。
最初の受け答えは公務の間柄で。次の受け答えでは、私的な間柄の言葉遣いを変化させた方が雰囲気が出てよろしいかと。
しかし、この時に子供が出来ちゃった展開は同じですね(バカ)
どうも、僧侶Tです。イッチーさん、この「ヤン暗殺未遂事件、そしてその後」とても面白いと思いました。そこで、またぞろ批評(あら捜しとも言う)をしたいと思います。ただ、これから拙僧が指摘しようとしているところは、前回の銀英伝1,5部ないし第2部外伝のときにも似たようなところがあったのに、そのときには気がつかなかったところなのでいまさらどうかとも思うのですが。
> 「無能者ヤン!」
> それはかって、無条件停戦命令を発する際、故トリューニヒト議長がヤンを評して言った言葉であった。むろん、ヤンが同盟の事実上の最高権力者になった今では、その一語は国家反逆罪にも問われかねない。
この部分ですが、権威主義的独裁の帝国であればこそ、指導者を公衆の面前で罵倒することが国家反逆罪になるのであって、一応民主主義国家である(ここでは違うのではないか、という議論もなされていますが)同盟では国家反逆罪にはならないのではないでしょうか。第1巻でトリューニヒトを公衆の面前で糾弾したジェシカは、その後何のお咎めもなく議員になっていますし。
> シェーンコップは、さすがに統合作戦本部長にはなれないと思います。同盟軍陸戦部隊に所属している彼には、軍令の参謀部は畑違いのはずですから。シェーンコップが就任するのは、同盟軍陸戦総監(憲兵総監との兼務もあり)だと思います。
> 新たな統合作戦本部長には、ムライが就任すると思います。ただ同盟軍最高司令官にヤンが就いたため、事実上の本部長はヤンですから本部長代理もしくは本部次長かもしれません。
原作の記述を生かして、シェーンコップには同盟軍の重鎮という感じを出したかったのですが、シェーンコップは戦略家というタイプじゃないですね。ただ、陸戦総監だけだと印象が薄いので、首都防衛司令官を兼任させるというのはどうでしょう?
私はムライは地味な仕事を黙々とするというイメージが強いので、憲兵総監が適任だと思っています。
> 小さいことですが、ここは「グリーンヒル中佐」ではなく「フレデリカ」だと私は思いました。あと「閣下」ではなく「あなた」だと。バーミリオン会戦前のプロポーズからかなり時間が経っていますし、ラインハルトとヒルダよりは仲は進んでいるでしょう。
> 最初の受け答えは公務の間柄で。次の受け答えでは、私的な間柄の言葉遣いを変化させた方が雰囲気が出てよろしいかと。
これはいいですね。(笑)確かに二人は婚約しているわけですし・・・。(ただし、同盟再建の仕事に忙殺されて付き合うどころじゃないでしょうが)
> しかし、この時に子供が出来ちゃった展開は同じですね(バカ)
「しかし、あのふたり、うまくやれたのだろうか・・・」はシェーんコップあたりが言うのでしょうか(笑)?
> > 「無能者ヤン!」
> > それはかって、無条件停戦命令を発する際、故トリューニヒト議長がヤンを評して言った言葉であった。むろん、ヤンが同盟の事実上の最高権力者になった今では、その一語は国家反逆罪にも問われかねない。
>
> この部分ですが、権威主義的独裁の帝国であればこそ、指導者を公衆の面前で罵倒することが国家反逆罪になるのであって、一応民主主義国家である(ここでは違うのではないか、という議論もなされていますが)同盟では国家反逆罪にはならないのではないでしょうか。第1巻でトリューニヒトを公衆の面前で糾弾したジェシカは、その後何のお咎めもなく議員になっていますし。
帝国の設定を機械的に同盟にあてはめようとすると、こういうところが一番難しいですね。(笑)暗殺未遂犯は同盟軍兵士で、最高司令官に対する冒涜は軍法会議にかけられる可能性があるとでもしましょうか。