「灼熱の竜騎兵(レッドホット・ドラグーン)」 田中芳樹・著
富士見書房が富士見文庫(OVA「くりぃむレモンシリーズ」のノベライズを中心とした、ソフトタッチなナポレオン文庫のような感じの文庫)のソフトエロ路線からの脱却を目指したのかどうかは知りませんが、1988年に新創設された富士見ファンタジア文庫。
田中芳樹の「灼熱の竜騎兵」は、栄光ある文庫ナンバー「1-1」として富士見ファンタジア文庫より刊行されました。そしてみなさんがご存じの通り、本人のオリンピック作家にはならないという後書きでの宣言もかかわらず、4巻が出版されることはありませんでした。そして近年の一部の田中作品と同じく出版社が変わり、富士見書房からエニックスに移りました。
このようなロートル作品を新装させて、さらにシェアードワールズ化することで複数の作家に「灼熱の竜騎兵」の世界で作品を書かせ、田中芳樹に印税とフランチャイズ料(笑)を稼がせるエニックス。一体エニックスの誰がこのような企画を考えて、それを認めたのか知りませんが、少なくとも読者と原作者が執筆する気がない外伝を替わりに書かされる作家をバカにしている気がします。
富士見書房には、田中芳樹が続編を執筆しないと分かっていても、何もせずに印税を稼がせないためにも移籍を認めてほしくなかったですね。
ちなみにエニックスから新装された新書タイプの「灼熱の竜騎兵」1巻と2巻。1巻には文庫版1~2巻が収録され、新書2巻には文庫3巻と新たにシェアードワールズ化のために作り上げた設定資料を載せています。新書2巻の小説部分が、旧文庫版の最後から全くの進展がないことで、田中芳樹は8年以上作品をほったらかしていた可能性は非常に高いですね。本来なら文庫4巻に当たるべき部分の完全新作を入れて、形とした方が良いはずですから。
ではそろそろ本題に入ります。エニックス版灼熱の竜騎兵1巻に巻かれている帯を見ましたか? 帯にはこう書かれていました。
「名手が描く異色スペースオペラ、シェアードワールズ化に伴い設定を変更し、大幅な加筆修正を加えここに復活!」
まずこの帯からして、痛さがあります。
「異色スペースオペラ」
人によってスペースオペラの定義は様々かもしれません。しかし異色と付けているとはいえ、宇宙空間がほとんど出てこない作品はスペースオペラなのでしょうか? 未来世界が舞台なだけの、地上戦(しかもゲリラ戦)の話なのですがね。むしろ富士見ファンタジア文庫の作品紹介にある、「熱き時代の熱き男たちを描く華麗なる英雄叙事詩、堂々の第一弾!」の方がまだ合っています。もっとも、これも作品内容とはかなりかけ離れた煽り文句でしたが。
「ここに復活!」
まぁ、復活といえば復活なのですが(笑)。別に絶版になった作品だった訳ではありません。ただ作者が続編を執筆せずに止まっていただけです。むしろ「ここに再開!」と書くべきですね。もっとも新作部分がないので、相変わらず時は止まっていますが。
「大幅な加筆修正を加え」
一番問題な部分です。帯にはただの加筆修正ではなく、「大幅」な加筆修正とあります。これもまた人によって加筆修正の定義はあると思いますが、「大幅」と付くからにはかなりの文章が改編されていると帯を見た人は考えるのではないでしょうか。
そこで今更(しかもよりによって灼熱の竜騎兵)なのですが、一体どれだけ作品の文章が加筆修正されたのかここに検証したいと思います。また新装2巻の後半部分は、新設定の資料もあります。きちんと設定に合わせて修正されているのかも調べみます。
まさしく暇人の極致なのですが、どうしても帯を見ていたら気になってしまったので。(;´ー`)y-~~~
灼熱の竜騎兵PART1 惑星ザイオンの風
初版1988年11月25日 富士見書房 富士見ファンタジア文庫(以下=旧版)
灼熱の竜騎兵1 第一部 惑星ザイオンの風
初版2002年9月13日 エニックス EXノベルス (以下=新版)
第1章変更点
<旧版>15P 8~9行目
地球大の人工惑星を、地球と同一の軌道に乗せる。このとき、地球と公転方向を同一にするのは当然のことだ。
<新版>13P 上段6~8行目
地球大の人工惑星を、地球、金星、火星の各軌道上に等間隔に五つずつ乗せる。このとき、各惑星と公転方向を同一にするのは当然のことだ。
新惑星の数が15個に減り、シェアードワールズ化に合わせて惑星間の距離や位置関係をハッキリさせる為に修正しています。
<旧版>15P 12~15行目
一世紀以上にわたる事業は、しばしば中断されたが、24世紀末から大規模な植民が開始された。
こうして、現在、太陽系には38個の地球大の人工惑星が公転しており、その総人口は地球の人口を上回るものとなっている。
<新版>13P 上段13行目~下段2行目
二世紀以上にわたる事業は、しばしば中断されたが、25世紀末から大規模な植民が開始された。
こうして、現在、太陽系には15個の地球大の人工惑星が公転しており、先にテラフォーミングされた金星や火星を合わせると、その総人口は地球の人口を上回るものとなっている。
木星を解体して惑星ザイオンを造った方法は変更されていませんが、事業にかかった年月が1世紀増えました。設定資料によりますと、事業開始から約100年後に内戦もありますが、惑星が出来るまでの時間を増やしたためでしょう。シェアードワールズ化に合わせて、新惑星の数も38個から15個に減らしています。新版は「テラフォーミング」とカタカナ語が入り、金星と火星も入りました。
<旧版>45P 16行目
……西暦2404年。
<新版>35P 上段17行目
……西暦2504年。
1世紀時代を後ろにずらしたことで、作品開始時間も100年ずれました。第1章の変更点はこれだけでした。
第2章変更点
<旧版>47P 1行目
西暦2404年9月、
<新版>38P 上段1行目
西暦2504年9月、
西暦を100年直しています。
<旧版>61P 1~2行目
現在、太陽系内に友人惑星は41個存在する。地球、火星、金星、それに「木星の子ら」と称される38個の新惑星である。
<新版>47P 下段7行目~9行目
現在、太陽系内に友人惑星は18個存在する。地球、火星、金星、それに「木星の子ら」と称される15個の新惑星である。
ここも設定の変更に伴う、修正だけです。第2章の変更点はこれだけでした。
第3章変更点
<旧版>80P 9行目
カレンダーは2404年10月にはいったばかりだった。
<新版>64P 上段13行目
カレンダーは2504年10月にはいったばかりだった。
相変わらず設定変更に伴う、年月の修正だけです。第3章はこれだけ。
第4章変更点
<新版>106P 1~11行目
一瞬の間の後、サッラーフ大将がガゼット大将に向き直った。
「今後の展開によっては、ザイオン鎮圧の兵力を地球から送り込むだけの時間的余裕がないかもしれん。貴殿の宇宙艦隊にあらかじめ陸戦兵力を配置しておくことは可能だろうか」
「幕僚に検討させよう。派遣する艦隊もザイオンに近いものがよいだろうしな。惑星ハムスン宙域でおこなう演習の予定をくりあげるか……」
事務的な打ち合わせをつづけるふたりの前に、デリンジャー元帥の咳払いが響いた。
<旧版>138P 5行目から6行目の間に追加
ここにきて初めて、ただの修正ではない完全な加筆部分がありました。実に211文字もの加筆です(笑)。これは世界設定の変更に伴うものではなく、地球軍のザイオン鎮圧作戦の艦隊運用を新版では変更するための布石の加筆です。軍事運用の加筆はここ以外に数カ所あり、このことで旧版での単純だった軍事作戦が、新版では細部が少し描かれて良くなりました。第4章はこの加筆だけです。
第5章変更点
<旧版>145P 1行目
西暦2404年10月のこの時期、
<新版>112P 上段1行目
西暦2505年10月のこの次期、
相変わらずの西暦の修正です。
<旧版>167P 5行目
(略)、約3500万キロの虚空をへだてた地球という惑星では、
<新版>128P 2行目
(略)、約3億キロの虚空をへだてた地球という惑星では、
さすがに3500万キロだと地球に近すぎたのか。それとも設定変更で惑星ザイオンの位置が変わり距離が長くなったのか?
<旧版>173P 15~16行目
800人の議員のうち、病床にある者と、汚職を追及されて所在不明な者とを除いて、788人が出席した。
<新版>132P 下段17行目~133P 上段2行目
800人の議員のうち、病床にある者と、汚職を追及されて所在不明な者とを除いて、788人が出席した。
実はここの部分が修正されていません。新版2巻の設定資料で地球議会の議員数は、上院128人、下院256人が定数となっており、合計すると議員は384人しかいません。後付けで地球議会の設定を作ったものの、ここだけ修正を忘れて800人のままなのです。つまり、意味がない議会設定のだからこそ、修正個所を見逃したと言えますね。
<旧版>174P 4~6行目
このときすでに、上海周辺14か所の地球軍基地では、兵数30万の地球軍戦闘部隊が出動寸前の態勢をととのえ終わっていた。命令がありしだい、たちどころに大気圏を離脱し、月面において最終的な指揮系統がまとまる手はずである。
<新版>133P 7~12行目
このとき、すでに惑星ハムスン領外宙域で演習中の地球政府軍第2宇宙艦隊には、「無重量空間での銃器戦闘」の訓練をおこなうという名目で、兵数30万の戦略機動軍部隊が搭乗していた。命令が下り次第、ただちに演習を中止し、惑星ザイオンへの軌道に乗る手はずである。
陸戦部隊の兵数は30万と同じですが、出撃方法が変更されています。旧版では地球上の各基地からの出撃でしたが、新版では変更され、描写も少し詳しくなっています。もっとも本当に少しですが(笑)。あと、「このときすでに、」が「このとき、すでに」に句読点の場所が変りました。確かに変更した方が、しっくりとします。第5章の修正はここで終わりです。
第6章変更点
<旧版> 第六章 ザイオン百日事件の終末
<新版> 第六章 ザイオン一ヶ月紛争の終末
アレッサンドロ・ディアス自治政府主席の惑星ザイオン独立宣言から地球軍によるザイオン制圧までの期間は、一ヶ月と少しというところでした。百日も時間は経ってはいません。この修正は妥当ですね。
<旧版>177P 5~8行目
同一軌道上にある地球とザイオンの距離は、約3500万キロ。これを220時間で突破するのが、軍部の行動案であった。部隊の補給は、行軍途中に、他惑星や月から補給船をさしむける。こうすれば、補給の準備のために地球で時間をついやす必要がないというわけだ。
<新版>138P 7~14行目
太陽をはさんで同一軌道を公転する地球とザイオンの距離は、約3億キロ。これに対して金星軌道を周回する惑星ハムスンとザイオンのそれは、現時点では、わずか5000万キロにすぎない。演習前、第2宇宙艦隊の補給担当士官は、積載を指示された物資・燃料・推進剤の量の多さに目を見張ったが、それらはすべて、この迅速な行動を想定してのものだったのだ。
新書2巻にある設定資料の各惑星位置の相関図を見ると分かりやすいです。まぁ、別に見なくても気になりませんが。惑星ザイオン制圧の軍事作戦が旧版に比べると、緻密になっています。もっとも宇宙艦隊の描写は、灼熱の竜騎兵にはないので、少々の作戦変更などはどうでもいいことになっていますが。
<旧版>177P 9行目~188P 1行目
「この行動計画には、今後の実戦において軍の機動性を高めるための試験という意味もある。1秒たりともロスはできない場合、このやりかたがうまくいけば、今後、軍の行動速度をいちじるしく高めることができよう」
<新版>138P 下段1~7行目
「この行動計画は、わが軍の情報収集能力と、それを有効に生かすだけの判断能力を証明するものである。宇宙艦隊に陸戦兵力を加える、いわば異種兵種混合部隊の実地検証という意味もある。1秒たりともロスができない場合、このやりかたがうまくいけば、今後、軍の行動速度をいちじるしく高めることができよう」
セリフに地球軍の迅速な行動への自賛が加わりました。次に惑星鎮圧作戦のモデルケースであると、暗にほのめかしていますね。
文章で、「1秒たりともロスは」の「は」が、新版では「1秒たりともロスが」と「が」に直しています。どちらがより正しいのでしょうね。私には同じだと思えますが。
<旧版>201P 12行目
宇宙空間の補給も予定どおりおこなわれている。
<新版>155P
削除
宇宙艦隊の作戦行動が、旧版から新版は変更されたため、旧版にあった補給の一文が新版では削除されました。
<旧版>214P 3行目
2404年の9月から10月にかけて、
<新版>164P 下段15行目
2504年の9月から10月にかけて、
<旧版>214P 7行目
『ザイオン百日事件』は終わったのだ。
<新版>165P 上段6行目
『ザイオン一ヶ月紛争』は終わったのだ。
<旧版>214P 11~12行目
そして、今度は、100日ていどでは終わりそうになかった。
<新版>165P 上段14行目
そして、今度は、一ヶ月ていどでは終わりそうになかった。
年と名称の変更部分の修正がおこなわれています。最後の修正個所が、旧版1巻、新版第1部の最後の文となっています。
さてどうだったでしょう? 私は久しぶりに他人の文章を打ちこみました(笑)。
最初は、西暦を直しただけだと思っていたら、意外に修正個所は多かったです。一応、第1部の加筆・修正された文章の文字数を文字数チェックで調べてみると、約1000字でした。ただ、これは修正部分の入っていた文章も含めて文字数チェックを行ったので、けっこう多くなっています。実際はさらに少ないですね。400字詰め原稿用紙2枚分ぐらいかな。
しかし基本的には、設定変更に伴う修正が中心で、完全新作といえる加筆部分はほとんどありませんでした。帯の煽り文句を書いたのは、田中芳樹の担当編集者だと思いますが、さすがに煽りすぎ(笑)。多分、文庫第2巻の加筆修正が大幅なんだろうと思います(笑)。2巻の変更点も、また暇な時間が出来たら調べてみよう。(ほとんどの人がどうでもいいことでしょうが)
あ、灼熱の竜騎兵の読後感想を書き忘れた。まぁ次回があればそこに書きます。では!(^^;;)
灼熱の竜騎兵のEXノベルズ版は意地で買っていません、私は。
ちょっと立ち読みしたら、進捗していませんでしたから。これ以上、印税稼がせてなるものか、と。と言いつつ銀英伝はノベルズ版、文庫版、デュアル文庫版、豪華愛蔵版とすべての版を買ってしまったんですがね。
少しでも進んでいたら、買っていたかもしれませんが…。
田中芳樹さんの作品は出版社が移動することが多いですね。
他の作家ではまったくないとは言いませんが、滅多にない…。
このところ中国史小説「さえ」書かない田中氏。
「春の魔術」に続いて積年の宿題をようやく片付ける気になってくれればいいのですが。
一年に一冊か二冊出すというのは商業作家としては決して早いペースではないですが、まあ、強い動機がなければそんなものかなあというところですが、田中さんの場合はいかんせんシリーズが多すぎる。個々の作品を見ていると、まったく動いていないと言うしかありません。
個人的にはそれでもシェアード・ワールドで処理するのは止めて欲しいですね。読みたいのはあくまで田中芳樹さん自身が書いた新作ですから。
それと途中で出版社を変えるのはやはりいただけない。本のサイズが違うと本棚に整理できない(笑)。フォーマットがばらばらなのも気になる人は気になるでしょうし。
八木あつしさん、おはようございます。
なんとも詳細な検討、感服しました。卒業して、どのような道へ進まれるのか存じませんが、それだけの綿密さと根気があれば、何をされても成功するでしょう。
ところで、「灼熱の竜騎兵」を読んでいない私からの、厚かましいお願いがあるのですが。
> 地球大の人工惑星を、地球と同一の軌道に乗せる。
> 地球大の人工惑星を、地球、金星、火星の各軌道上に等間隔に五つずつ乗せる。
> こうして、現在、太陽系には38個の地球大の人工惑星が公転
> こうして、現在、太陽系には15個の地球大の人工惑星が公転
これらの人工惑星を作る材料は、どこから持ってきたことになっていますでしょうか?ザイオンに関しては、
> 木星を解体して惑星ザイオンを造った方法は変更されて
とありますが、38個にせよ15個にせよ、すべて木星の材料(ほとんど水素のはずですが)を使用したのでしょうか?
「自分で小説を読め!」と言われるかもしれませんが、そこまで綿密に読み込んでいる八木あつしさんなら、簡単に答えていただけるのでは、と思ってのお願いです。
Kenさん、こんばんは。レスをしようと思っていたのですが、少々遅くなってしましました。申し訳ない。
灼熱の竜騎兵では、太陽系内で人口増加に対応するために木星を解体し、それを材料として15個の新惑星を造り上げています。
まず田中芳樹がどのように考えたのか、灼熱の竜騎兵の原文をそのまま載せます。
エニックス社「灼熱の竜騎兵」第1巻 12P上段16行目~13P下段2行目
惑星ザイオンは、あたらしい惑星である。人類が居住を開始して44年。そして惑星そのものが誕生して2世紀に満たない。
人工の惑星である。とはいっても、合金やセラミックでつくられているわけではない。その母胎は、何十億年も昔から、太陽の周囲をまわっており、名を木星といった。
ザイオンは、木星を人工的に解体してつくられた「新惑星」のひとつである。
1966年に、フリーマン・J・ダイソンという人物が、太陽系最大の惑星である木星を解体する可能性について述べた。その後、さまざまに技術上の修正を加えた結果、2200年代にいたり、膨大な人口増加にそなえた対策として、実行されたのである。
あらかじめ数百万個の小惑星を運んで木星の周囲にスクリーンをめぐらせ、衛星軌道上に核融合システムを配置した。このシステムが木星表層部の気体状の水素を吸い込んでは、重金属に変えて吐きだす。その重金属体を、計算された軌道に運ぶ。一定の宙点にそれを集めると、重力の法則によってたがいに衝突をくりかえし、球場のあたらしい天体ができあがるというわけだ。
地球大の人工惑星を、地球、金星、火星、の各軌道上に等間隔に五つずつ乗せる。このとき、各惑星と公転方向を同一にするのは当然のことだ。
この人工惑星に、藍藻類をつめた無人宇宙船を打ちこむ。藍藻類の急速な繁殖によって、大気と水が発生する。ひとまず地形と気象が安定したところで、動植物を送りこみ、さらに緑化をすすめる。2世紀以上にわたる事業は、しばしば中断をされたが、25世紀末から大規模な植民が開始された。
斜め読みをすれば気にならないのですが、実はツッコミどころ満載な新惑星の製造法だと思います。
ちなみに上記に出てくるフリーマン・ダイソン氏は、現在も生きている高名な宇宙物理学者です。また、ある程度のSFファンならその名前を聞いたことがあると思います。このダイソン氏の理論をもとに、作られたSF作品が何作もあるからです。(というか、ダイソン氏の理論の原点は、ある古典SFだとか)
その理論は通称、ダイソン球、ダイソン殻、ダイソン環天体などと呼ばれています。
そもそもダイソン氏が唱えた理論は、
・太陽エネルギーの大半は宇宙空間に捨てられている(地球が受け取る割合は、約20億分の1)
・太陽を(地球軌道の半径をもつ)球殻ですっぽり覆えば、太陽エネルギーを漏れなく利用できるのではないか(球殻内面の表面積も、地表面積の10億倍ある)
・木星(でなくても地球以外の惑星)を分解して、これを材料にしたら2~3mの厚みの球殻ができる。そしてそれを地球の軌道の2倍くらいの半径に配置する
・星空を失うかわりに、人類はエネルギー問題に悩まされなくなる
・そして高度に進んだ文明は、このエネルギーをムダにしないはずだから、宇宙にあるであろう高度文明の惑星は、みんなダイソン球が恒星を覆っていると予測した
といった感じでしょうか。私はSF理論にあまり強くないので、できれば古典SFファン氏に詳しく解説してもらいたいです。
というわけで、ダイソン氏の理論と田中流新惑星製造法とは、かなり違います。ハッキリ言って「フリーマン・ダイソン」という一文は必要だったのでしょうか?
次に行きます。新惑星の材料に、木星の表面の大気を材料に使っています。
2巻の設定資料によると24基の元素変換ステムが稼働し、木星大気から珪素などの元素を合成し、あらかじめ定めた凝結ポイントに向けて打ち出します。よくもまぁ、地球・金星・火星の各軌道上に、しかも等間隔に、慣性の法則に従って飛んでいるはずの金属体がポイントに止まったものです(笑)。まぁ最初は宇宙船で運び、あとは打ち出した金属体をぶつけたのでしょう。
ちなみに、この夢の元素変換システム(笑)は、後の内乱で「解体したはずの」木星表面に墜落して破壊されたと設定資料にあります。
<ザイオンは、木星を人工的に解体してつくられた「新惑星」のひとつである。>
田中芳樹が考えた惑星製造法だと、大気を利用するだけであり、それだけで木星が解体するのでしょうか? ダイソン球のように地球を覆う殻を造るわけではありません。この文章はいらない気がします。<木星の大気を材料として>と書くことで充分にこと足りるでしょう。
とここまで書いたところで、またしても本題です。最初に言っておきますが、ここから書くことは、全て私の憶測にもとづいたものです。整合性はありません。あくまでも可能性があるかも程度の文章になります。
私は、田中芳樹が木星を解体して新惑星を造る方法は、オリジナルではなく、あるSFアニメを見て思いついたのではないか、と推測しています。そうすれば私の中では、納得がいくからです(笑)。
田中芳樹がSFアニメの設定を流用して、無難に改編したのではないか?
そのSFアニメ(というかロボットアニメ)の名前は、J9シリーズ第一作「銀河旋風ブライガー」です。少し前には、ゲームのスーパーロボット大戦に登場しました。
このブライガーに出てきた「大アトゥーム計画」が、灼熱の竜騎兵の新惑星製造法のオリジナルだと考えています。
「大アトゥーム計画」とは、ブライガーに登場した宗教組織ヌビア・コネクションの首領カーメン・カーメンが、ヌビア・コネクションの総力を使い実行した、木星を破壊し、地球と同じ様な惑星を太陽系に新たに36個創り出し、ヌビア教徒による新たなる世界を築くという大計画です。
しかもそれだけにとどまらず、木星破壊の際に生ずる膨大なエネルギーが特殊放射線を四方に発散させ、それまで太陽から浴びていた放射線の4%以上にも及ぶ放射線を木星側からさらに受けさせることで、人類の大半を放射線障害で死滅させます。その後、カーメンによって選ばれた一部の人々だけが新たに生まれた新しい惑星に生きるわけです。
以下作中のキャラのセリフを抜粋
「カーメン・カーメン・・・恐ろしい男だ・・・。カーメンの目的は、太陽系最大の惑星すなわち木星を破壊し、地球と同じ惑星を数十個新たに作り出すことを計画している・・・」
「ええっ!?アホかアイツは!?」
「極めて正確な・・・理論と計算から組み立てられている、実現可能なものだ」
「なぜ!なぜだ!?」
「わからん、しかし・・・。20世紀の昔、木星を破壊して36個の地球型惑星を作るという、ダイソン環天体の構想が、科学者たちの間で真剣に研究されていた。しかし、22世紀になってカーメンが・・・。ただならぬ悪党・・・!」
ここでダイソン環天体と出てきます。私はここでダイソン環天体と聞いて、田中芳樹はフリーマン・ダイソンを知ったのではないだろうか? いや、SF作家だからさすがにそれはないか(笑)。
計画が実行されたのは22世紀と同じですね。36個の地球型惑星というのも、旧文庫版だと38個の新惑星が生まれていることから似ています。
田中芳樹は、木星の大気を吸いだし、木星を解体しました(笑)。ブライガーでは、最後に木星にロケットを打ち込み破壊しました。実際なところ、木星って本当に破壊できるのでしょうかね。(^^;;)
以下作中のキャラのセリフより抜粋
「ねぇアイザック。ちょっと聞きたいんだけど、もしだよ、カーメンの木星破壊計画が現実になったとしたら・・・
このアステロイドや地球や太陽系の人々は、ど~いうことになるの??」
「うむ。破壊によって生じる膨大なエネルギーは、特殊放射線を四方に発散させる。地球を例にとれば、現在太陽から受けている放射線の4%以上を木星から浴びることになる。その影響で人類の大半が・・・放射能障害にかかる・・・!」
「何だって!?」
「カーメンのヤツ・・・!」
「彼は、自分の選んだ一握りの人間だけを新しい30個以上の地球に残すつもりだ」
この放射線を防ぐために、木星から約6万キロ離れた軌道上に土星の輪のような、直径26万キロ、周囲80万キロの保護スクリーンの輪を作る作戦をブライガーチームは実行します。水星をはじめ、土星のタイタン、海王星のトリトン、木星のイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストの各衛星を、この軌道上に集めて破壊することによって、保護スクリーンを完成させました。
灼熱の竜騎兵でも、意味もなく<あらかじめ数百万個の小惑星を運んで木星の周囲にスクリーンをめぐらせ>ています。もしかしたら、木星をダイソン球で覆ったわけかもしれませんが……。木星のエネルギーも太陽と同じように使えるのでしょうか?
やはりブライガーと同じく、木星を破壊したときの対策と考える方が無難です。
と私がこのような推測をしたのも理由があります。文庫1巻の後書きから田中芳樹が、「ガンダム」「ダグラム」を見ていたと推測できるからです。「ガンダム」は79年の放映ですが、「ダグラム」と「ブライガー」の放映は共に1981年の10月からであり、時期的にも同じなのです。そのため田中芳樹が、ダグラムと共にブライガーを見ていた可能性があると思ったわけです。
そのためブライガーを見た記憶から、実際には「解体していない」木星を「解体した」と書いたのではないか? 新惑星の数を38個にしたのもブライガーを見たからではないか? そのような疑念が私に取り付いて、離れません(笑)。
普通は、ダイソン理論で似た作品を紹介するのなら、「リングワールド」などの小説をあげるべきでしょうね(笑)。私は、ブライガーとその次のJ9シリーズ第2作「銀河烈風バクシンガー」がもの凄く好きなので、あえてブライガーを批評がてら紹介させてもらいました。
実際「バクシンガー」の世界では、太陽系には新惑星が30以上あり、旧惑星の軌道上に、グリーン惑星海やらイエロー惑星海やバイオレット惑星海などができており、新惑星連合と地球のドメスチック・バクーフが敵対しています。
灼熱の竜騎兵は新品で買う価値は、残念ながら少ないと思います。再販、続編が出るかどうか分からない、内容的にもイマイチ、とくれば古本で買うべきでしょう。
それではまた!
八木あつしさん、
なんと、こんなに詳細なレスをいただけるとは!!
「ちょっと聞こう」と思っただけなのに、卒業前の貴重な時間をとらせることになってしまい、申し訳ありませんでした。
実は、前の投稿をしてから、木星のことをちょっとだけ調べたのです。その結果、田中芳樹氏を見直していたのですが、八木さんの説明をきいて、かなりがっくりときました。
なぜ、田中氏を見直したかというと、私は、「木星はほとんど水素」などと乱暴な言い方をしましたが、全体の中では小さいながらも固体部分もあるからです。惑星のほとんどは水素、ヘリウム、それに水素の化合物であるメタンやアンモニアなどから成っていますが、なにしろ質量が地球の300倍以上もありますので、この固体部分もばかにできません。木星大気の深部は高温のプラズマ状態で、そのさらに奥にある固体部分は直接には観測できませんが、木星の質量と体積から逆算して、中心の固体部分の質量は、「地球の15倍程度」と推定されているようです。
この説明を読んで、人工惑星の数が38から15に変ったのは、田中芳樹さんがこの知識を得たからに間違いない、と自分の中で断言しました。「さすがは大家。惑星物理の最新情報もちゃんとフォローしている」と思ったのに・・・。なんのことはない、水素を核融合させて金属を作らせていたのですか・・・。
>このシステムが木星表層部の気体状の水素を吸い込んでは、重金属に変えて吐きだす。
ただの「金属」ではなく、「重金属」ですか?
「重金属」って、一体なんなのでしょうね?もしも金やプラチナのことだったら、「あほかいな」と言われます。これらは超新星現象の産物で、通常の核融合ではできません。もし木星軌道で超新星が爆発したら、もちろん太陽系など跡形もなく消滅します。
もっとも、人工惑星の大きさが地球と同じで、惑星表面の重力も地球と同じなら、必然的に地球と同じ密度の物質で作る必要があります。そうなると地球同様に鉄、珪素、マグネシウムなのでしょう。これなら通常の核融合でも作れるのでしょうが、どこが「重金属」なんだろう?
>田中芳樹が考えた惑星製造法だと、大気を利用するだけであり、それだけで木星が解体するのでしょうか?
私が読んだ記事では、ガス状惑星である木星の「固体部分」は質量でも全体の5%以下、体積ではもっと小さいはずですから、「大気」がなくなれば、惑星が「分解した」といってもよいのではないでしょうか?
「ダイソン球」は10年以上前に、スタートレックのエピソードで登場し、「映像」で見たことがあります。
せっかく、長文のレスをいただきながら、私の方があまり内容のある書き込みができなくて、申し訳ありません。「銀河旋風~」は見てないどころか、名前も知りませんでした。