おおよそのことは既に古典SFファンさんがまとめてくださっていますので、私としてはそれに補足するような形になります。(度々ありがとうございます>古典SFファンさん)
銀英伝1巻を書いた時点で、作者である田中芳樹氏の頭の中では、確かにイオン・ファゼカスはワープ船だったのだと思います。この時点から3巻の展開を思いついていたのだったら、ワープの可否について一言言及されていておかしくありませんから。そういう意味で、そもそも3巻が書かれるまでは「ワープできる質量に限界がある」という法則は銀英伝宇宙の中にはなかったのでしょう。
ですが、3巻で「要塞対要塞」というシチュエーションを描こうと思ったとき、それに説得力を持たせるためのギミックとして、田中氏は大質量ワープを新技術という形で導入してしまいました。推測ですが、このとき、田中氏はイオン・ファゼカスの質量のことなどすっかり忘れてしまっていたか、あるいは、覚えていたとしても、それほど大きな問題ではないとして意図的に無視したのでしょう。
現実世界の事情としては、おそらく以上のような流れによって、銀英伝の中には矛盾と思われるような相反する記述が存在する事になってしまいました。ここで、読者の側の反応としては色々とあると思うわけです。「矛盾がある、おかしい」と言って嘲笑して終わりという反応も当然ありだとは思うのですが、以前から言われているように、上級シャーロキアンとして物語の設定の矛盾をうまく解釈する、という楽しみ方も当然あると思うわけです。
では、どうすればこの設定上の矛盾をうまく解釈する事ができるか。その為の仮説として、私は「文明の衰退」「イオン・ファゼカスはワープ船でない」という二つの仮説を挙げました。
この内、「文明の衰退」という仮説は、誰もが真っ先に思いつく説だと思うのですが、非常に強引で無理がある仮説なので、これを使うのはできれば避けたいところです。それに対して「イオン・ファゼカスはワープ船でない」とする仮説を使うと、完全にとは言いませんが、今のところ、わりと綺麗な形で設定の矛盾を解消する事ができます(少なくとも私にはそう思えます)。であれば、作品解釈の上ではこちらを使うべきではないか。私が言いたかったのはそういうことです。また、イオン・ファゼカスが大質量ワープの実例として出される時、この時系列上の矛盾について特に問題視されている様子もなかったので、皆さんはこの辺りの問題についてどのように考えているか知りたかったこともあり、問題提起をしたつもりでした。それが反対の為の反対ととられているのでしたら、おそらく私の文章力に問題があるのでしょう。それに関してはお詫びさせていただきます。
ここから先は、私の憶測も入るので蛇足になります。古典SFファンさんの話と重複するかも知れませんが、前から思っていたことなので書いておきたいと思います。
色々と議論されている「要塞の無限自給自足システム」ですが、私の推測としては、これも設定ミスの一種です。本当に無から有を生み出すような便利な補給システムが要塞の中に存在すると田中氏が考えたなら、補給事情にうるさい田中氏のこと、当然、その原理なり仕組なりについてそれなりにページを割いて説明をしていると思うのです。例えば、「光速を超えられない」という物理学の常識に対してワープと言うギミックが用意されているように、「質量保存の法則」に対しても「無限生成システム」というような何らかのギミックが用意されていてしかるべきと思うのです。ですが、そのような説明は特に見当たらない。
ここで単なる推測になるのですが、おそらく、田中氏の頭の中では、要塞は『鉱山から油田から畑、工場、倉庫まで、生活に必要なものがおおよそ一揃いそろっている城塞都市』というようなイメージになっているのではないかと思うのです。物資の貯蔵がきき、必要なものは何でも中にあるから、いざとなったら長期篭城に耐えうる堅固な城であると。
ここで問題となるのは、地上の城塞都市が開放系であり、篭城していてもさまざまな方法で質量欠損が埋められるのに対し、宇宙の要塞は(完全ではないが)閉鎖系であるということです。イゼルローンの床を掘ったところで鉱石が湧いてくるはずがない。この辺り、理系でない田中氏は良く考えずに設定してしまったのではないか、というのが私の推測です。(あるいは、星間物質を取り入れるとか、定期的に小惑星を拾ってくるといったことを漠然と考えていたのかもしれませんが)
この問題に関しても、「矛盾している、おかしい」で笑い飛ばして終わりにしても良いのですが、皆さんはそこから無限自給自足システムという行間を埋めうる設定を作り出して、そこからさらに移動要塞と言う形にして楽しんでいるわけですよね。やはりこれは古典SFファンさんが仰るように、IFや二次創作の類と思います。
私が一連の流れを読んでいて気になったのは、それがIFや二次創作の範疇を超えて、作中のキャラクター批判にまで及んできたからです。仮想戦記などで「太平洋戦争でこの新兵器さえ投入していれば日本は勝てた。それに気がつかなかった首脳部は全員馬鹿だ」と言っているような構図に見えて、釈然としない気持ちになったことは確かです。それ故に感情的になっていた部分もあったと思います。それについては、お詫びしたいと思います。
とりあえず、以上です。
こんばんわ。
遅くなりましたが、抄訳に対する意見を述べさせて頂きます。
議論の前提条件が違っていたようなので、答えるべき価値がないと判断したのでしたら
無視して頂いて結構です。
> > (1) イオン・ファゼカスは大質量ワープの実例ではない
> (No.3635 NIGHTさんの質問)
>
> > 「イオン・ファゼカス号はワープできなかった可能性がある」とか「ワープできても
> 航続距離が極めて短かったかも知れない」ということを前提にしてそういうことを言う
> のなら、それは単に「勇気と無謀を取り違えいる」という類でしょう。「賭け」ではな
> く「自滅願望」としか言いようがありませんね
> (No.3628 不沈戦艦さんレス抜粋)
>
> > <「新しい技術と言うわけでもない。スケールを大きくしただけのことだろう。それ
> も、どちらかというと、あいた口がふさがらないという類だ」言わずもがなの異論を、
> シェーンコップが唱える>
> >
> > シェーンコップでなくても、現代の我々でも、当然の予測ですね。
> > 「艦船の移動」の証明が終わった時点で、「移動要塞」に関しても大半の証明が終わ
> っているのです。
> > そして、(質量を問わぬ)「物体の移動」に関する理論に、ガイエスブルグ要塞のよ
> うな大質量を代入してみると、この場合も成立した。つまり、「物体の移動」に関する
> 理論は、大質量の場合でも成立した、ということです。
> >
> > だから、
> > 「艦船(質量数万トン以下の構造物)」であったにせよ、「物体の移動」に関する理
> 論が構築された段階で、大質量に関しても「原理的に可能」の域に、必然的に達してし
> まうのですよ。
> > そこに、大質量の実例としての、ガイエスブルグ要塞が、ほとんど問題もなく実現さ
> れた記載が存在しています。
> > 他にも、「艦船(質量数万トン以下の構造物)」よりも大質量の例としては、例の氷
> 塊もあれば、イオンファゼカス号もありますよね。
> (No.3669 パンツァーさんレス抜粋)
>
> > また、イオンファゼカス号に関しても、Kenさんの「仮定」を用いても、少なくと
> も半光年くらいは移動したのだから、大質量体の移動が、「実際的に可能」とされた例
> となりますね。
> (No.3685 パンツァーさんレス抜粋)
>
> 補足しますとイオン・ファゼカス号が航行中事故死したアーレ・ハイネセン以下を除
> く第一長征世代存命中に惑星ハイネセンに到達した描写は作中にありますよ(生憎今原
> 作は手元にないのでこれは自力で探してください。作中の同盟建国史部分です)。
> 「イオン・ファゼガス号が」です
> ワープ無しにどうやって?
>
既に古典SFファンさんと議論されており、しかも私なんぞよりよほど有意義な議論を
されているのでそちらに議論をお任せします。レスを読ませて頂いた感想では解釈には絶対
唯一となる解釈はなく記述が無い部分では解釈の幅を持つ余地があるのではないかと
思いました。
また、イオン・フォゼカスの記述について読みますと、イオンフォゼカスについては
「宇宙船」と呼び、長期間にわたって飛行が可能、その間に「恒星間宇宙船」の材料を
求めれば良い。無名の惑星で80隻の恒星間宇宙船を建造して銀河系の深奥部に歩を踏み
入れたとあります。ここで注目すべきは「宇宙船」、「恒星間宇宙船」と呼び変えて
いる事、建造した宇宙船は80隻であったことです。この事から普通に考えれば
「宇宙船」にはワープ機能は無し、イオン・フォゼカスが1隻であるのに対しワープ
機能がある恒星間宇宙船は80隻という事は大質量でのワープは出来ないと考えられます。
どちらの宇宙船もワープが出来て80隻にした理由は別にあるという解もあるでしょう。
ですが、私の解釈としては上記のように読めました。上記の意見は国語的な解釈であり
数字的な観点から解釈が可能であるならそちらの方が強力でしょう。
> > (2) 自給自足艦隊は実現できない
> (No.3635 NIGHTさんの質問)
>
> > > でもそれには理由があります。今回の議論に対する私のスタンスは、「恒久移動要
> 塞が可能と断じるにも、不可能と断じるにも、銀英伝の記述は不十分」というものです
> 。これに対して、冒険風ライダーさんのスタンスは、恒久移動要塞の現実性やそのベー
> スとなる「無限の自給自足能力」は銀英伝世界において、存在が「立証」されている、
> というものです。冒険風ライダーさんは、銀英伝世界では、恒久移動要塞や無限の自給
> 自足システムができるかもしれないという「可能性」を指摘されたのではありません。
> それ以外に解釈のしようがない、と言われているのです。
> >
> > 1「これに対して、冒険風ライダーさんのスタンスは、恒久移動要塞の現実性やその
> ベースとなる「無限の自給自足能力」は銀英伝世界において、存在が「立証」されてい
> る」
> >
> > 私は今、銀英伝全10巻を読み進めているところですが、
> > 例えば、銀英伝考察3で出てきた引用も含めて、以下のような記載があります。
> >
> > A銀英伝1巻P190上段17行目
> > <第一、それはイゼルローンの食糧生産・貯蔵能力を大きく凌駕していた>
> > (生産能力を有している点に注意)
> >
> > B銀英伝2巻P161下段13行目
> > <貴族のばか息子どもが、穴のなかにひっこんでいれば長生きできるものを、わざわ
> ざ宇宙の塵となるためにでてくるとはな>
> > (穴とは、ガイエスブルグ要塞を指す)
> >
> > C銀英伝3巻P44上段10行目
> > <―かつて帝国軍が敵の勢力範囲の奥深く侵攻しえたのは、イゼルローン要塞を橋頭
> 堡として、また補給拠点として利用できたからである。>
> >
> > D銀英伝3巻P140下段7行目
> > <つまり帝国軍は、今度は艦隊を根拠地ごと、ここまで運んできたわけだな。>
> > (根拠地とは、ガイエスブルグ要塞を指す)
> >
> > A・C・Dより伺えるのは、要塞(イゼルローン要塞とガイエスブルグ要塞とを区別
> しないが)は、補給源として機能しうる、ということですね。
> > 特に、Aでは、イゼルローン要塞で負担しきれない補給を、ハイネセンに求めていま
> す。ということは、帝国軍が焦土作戦(生活物資の撤去)を取らなかった場合、同盟の
> 艦隊は補給に窮することはなかったと推測されます。
> >
> > また、Bに関連して、貴族連合軍の戦略を検討してみると、かれらは初めからオーデ
> ィンを放棄して、ガイエスブルグ要塞を根拠地としているのです。もしも、ガイエスブ
> ルグ要塞が「半永久的な」補給源として機能しないのであれば、かれらは簡単に兵糧攻
> めを受けてしまうわけで、ラインハルト軍は、黙って待っていればよい、ということに
> なります。
> >
> > 「無限の自給自足能力」は銀英伝世界において、存在が「立証」されていないとすれ
> ば、以上の「引用」と、明らかに矛盾することになります。
> > 特に、「無限の自給自足能力」がないとしたら、貴族連合軍の戦略など、まったくバ
> カですね。
> >
> > 2「銀英伝世界では、恒久移動要塞や無限の自給自足システムができるかもしれない
> という「可能性」を指摘されたのではありません。それ以外に解釈のしようがない」
> > もし、これを否定するとなると、上記4つの引用は、どのように解釈するのでしょう
> か?
> (No.3685 パンツァーさんレス抜粋)
>
> 何をもってこれが納得の可否を問わず回答であると解釈なさらないのか理解できま
> ん。
>
この件に関してはパンツァーさんへのレスの形でこのレスの前にさせて頂きました。
私の反論ははNo.3744にあります。
> > (3) イゼルローンを本当に移動要塞化できるのか?
> (No.3635 NIGHTさんの質問)
>
> > 1.ガイエスブルグ移動要塞は、元の位置→ヴァルハラ星系→イゼルローン要塞とい
> う移動を「作中事実」としてやってのけた。また、その歳にあれほど補給を重視するラ
> インハルトが、エンジンの同調という技術的問題について言及してはいても、移動要塞
> の補給については気にもしていない。
> > 2.重量としては、ガイエスブルグやイゼルローン以上の、「長征一万光年」のイオ
> ン・ファゼカス号のような「超巨大ドライアイス船」が、奴隷階級に落とされていたよ
> うな連中の、帝国からの脱出に使用できたという「作中事実」がある。
> >
> > で十分でしょう。帝都からイゼルローン回廊までだって、大した距離なのです。「
> イゼルローン回廊までは、安全な帝国内の移動だったから、補給を繰り返しながら何と
> か行けただけかも知れない」って説明の「作中事実が裏打ちしている根拠」は何なので
> すか。Kenさんは、何も示していないではないですか
> (No.3611 不沈戦艦さんレス抜粋)
>
> > 銀英伝3巻P45上段13行目
> > <現在のワープエンジンの出力では、巨大な要塞を航行させることはできないので、
> 一ダースほどのエンジンを輪状にとりつけ、それを同時作動させることになる。技術上
> の問題はなく、あとは指揮官の統率力と作戦実行能力の如何による・・・。>
> >
> > これはシャフトの台詞ですが、「移動要塞論」を否定したいがために、「技術上の問
> 題はなく」という台詞を否定しますか?
> > それこそ、銀英伝の否定ですよ。
> >
> > 繰り返しますが、質量が大きくなることで、加速時間を要する、ということだけが考
> えられる問題点です。
> > 「現在のワープエンジンの出力では、巨大な要塞を航行させることはできない」
> > と書いてある所以です。
> >
> > ☆Kenさんの「帰納」法
> >
> > > 恒久移動要塞を可能と帰納するための例証は、依然としてガイエスブルグしかあり
> ません。例証が一つしかないというのは、一般則を帰納する上で、重大な障害であると
> 思います。
> >
> > 上で述べましたが、
> > 「一つの帰納」によって、「大結論」(移動要塞論)が導かれないからといって、そ
> れは「作品の仮定の証明」ができない、ということを意味しません。
> >
> >
> > 「物体の移動」に関する信頼性に値する理論が、(質量の異なる)「艦船の移動」に
> よる帰納により証明されて、存在する上であれば、
> > 既に「質量」を問わず、原理は確立しているのです。
> > 上記のシャフトの台詞「技術上の問題はなく」も、無視しますか?
> >
> > むしろ、ガイエスブルグ要塞という実例が存在することにより、「原理的に可能」が
> 「実際的に可能」の段階まで高めれているのです。
> (No.3685 パンツァーさんレス抜粋)
>
> > 同盟側は「“できるかもしれないのでやってみる価値”がある」(原作6~8巻時点)
> が妥当な結論ですね。
> 古来の戦争のセオリーで「援軍のない篭城戦は必敗する」は例外は無かったはずでか
> つ「防御側に対して3倍以上の戦力で攻撃した場合の勝率は高い」も攻撃側に致命的な
> 錯誤がない限りおおむね通用します。
> そして流石にラインハルトもこの点についてはほぼ戦略的失策を犯していないのでお
> そらくフィッシャー戦死後の「回廊の戦い」は「ヤン艦隊壊滅(もしくは壊滅的打撃)
> の後回廊両側面からの艦隊砲撃か漫画版
> のシトレ元帥が試みた無数の無人艦特攻などで要塞陥落」の流れに本来なっていた可能
> 性は極めて高いと思うのですが。
> しかし逃亡できるなら話は別です。
> この時点でヤンは「無尽蔵の補給港」を持って艦隊戦力と共に逃げてこそ無用の人死
> にを避け勝機を待つ事ができたのです。
> これについては「駄目で元々」で移動要塞プランに着手して非難されるいわれはまず
> ありません。
> おそらく一番あの時点で混乱が少なかったであろう「投降して帝国に釈明する」を選
> 択できなかった時点でどうあれヤンは「戦う」選択をしたのですから「100%の敗北
> 」を避けるあらゆる努力を試みるべきではなかったでしょうか。
> (No.3610 拙文より抜粋)
>
> とりあえず最低限の範囲で以上ですが御納得いただけましたでしょうか。
>
それぞれの観点から問題点と私の意見を述べます。
技術面の問題
(1)イオン・フォゼカスの問題については先の議論結果によることになると考えます。
議論の結果により移動要塞の実現性にも陰りが出る可能性があります。
(2)作中事実に従うならガイエスブルグ以前にワープエンジンの同期技術の記述がありません。
つまり、ガイエスブルグ以前にワープエンジンの同期技術はなかったと考えられます。
エンジンの同期は発想の転換であっても同期させること自体の技術にはノウハウが必要
と考えます。シャフトがラインハルトに進言した時には思いつきだけでの発言ではな
く、基礎実験は終わっていると考えるのが自然です。技術者である以上、何も実験し
ていない内に無闇に出来るとは言わないと考えます。(もちろん終っているのは模型等
のレベルでの基礎実験で40兆トンもの大質量のワープはガイエスブルグが初めての事
だと考えます。)同盟での同期技術の実現性の問題があると考えます。
(3)質量が増える事による問題については、単純に考えれば同期させるエンジンが増加します。
同盟の場合はガイエより多いエンジンでの同期技術が可能かという問題があります。
通常航行のエンジンはほぼ正比例で考えれば良いと思いますので1.5倍(~3倍?)程度の
エンジンの同期技術が確立できるかの問題になると思います。
私の意見としては同期技術を確立できなかったという回答でも良いのではないかと思います。
ワープエンジンについては何に依存しているのか正直分かりません。質量かもしれない
し他のものかもしれません。しかし、40兆トンという質量に対して驚愕を覚えている
描写があるので質量に依存していると考えるのが自然かもしれません。
(4)同盟の通常艦船が約4000光年を3~4週間、ガイエが約6500光年を同程度で移動して
います。ここからワープエンジンについて技術格差があるのではないかと推測してい
ますがどうでしょう?格差があるとすれば同盟でも移動要塞をすぐに建造できるかは
疑問符が付きます。
(5)燃費の問題については議論の前提となる「記述がない部分」の扱いによると考えま
す。私としては裏設定を入れても良いと考えていましたが冒険風ライダーさんは認め
ないようです。もちろん私としても無制限に裏設定を入れても良いとは考えておりま
せん。作品内で明記されている事実に反しない範囲での事です。しかし、それを認め
ないと言う事であれば議論の前提が違うのですから納得しあえるわけがありません。
この議論の前提については重い議題ですのでここでは止めておきます。ですので、
裏設定を入れない前提においては燃費問題は解消されたと認めます。
工事面での問題
(6)慢性的に人不足な状況であって「“できるかもしれないのでやってみる価値”がある」
程度の動機で人数を割けるかという問題です。資源の集中はあらゆる面で生きてきます。
10人や20人の人数ではなく万単位の人員です。艦船の修理、弾薬の生産に人的資源を集中
したとしても不思議ではないと考えますが。
(7)イゼルローンのワープ実験についてです。同盟で初の大質量ワープにおいて500万人
の人員を乗せての初実験は現実的ではありません。必要最低人数を乗せての実験を行っ
てから本格運用に入る事でしょう。とすれば、500万人の移動に膨大な時間の浪費が発生
します。それが同盟に可能であったかという問題です。
戦略的問題
(8)イゼルローンとガイエスブルグの置かれている状況の違いがあります。ガイエは
帝国深部に位置する戦略的意義の少ない要塞です。実験失敗で失う事になっても痛手は
少ないでしょう。イゼルローンは最前線の戦略的要衝に位置する要塞です。これを
実験失敗で失う事になれば大きな痛手です。おいそれと実験は出来ないと考えます。
もっとも良い方法は同盟の安全地帯で移動要塞を建造してから動かす方法です。しかし、
それだけの資金力と時間を同盟が用意できるかどうかは検討が必要でしょう。
運用での問題
(9)少なくとも通常航行エンジンの出力と質量は依存関係にあると考えます。
ガイエは質量40兆トン、艦船は数十万トンのオーダーです。これを元に考えると、
移動要塞では1つのエンジンにつき(40兆÷数十万÷12=)数百万~数千万倍の出力が必要に
なります。とても一朝一夕には出来る技術ではないでしょう。ですので、加速するまでに
非常に多大な時間を要すると考えられます。
そうすると亜光速ミサイル(氷塊等)が来た時の迎撃は兎も角、回避は難しいと考えます。
(10)エンジンに弱点を抱えている点があります。弱点を12箇所も抱え、亜光速ミサイルの
回避も困難となれば潰される可能性は高いでしょう。回廊のような地の利を得た場所なら
兎も角、敵地のど真ん中で足を止められた場合は防御は困難になると考えられます。
政治的問題
(11)要塞司令官が勝手に要塞を改造する権利があるのか微妙な所です。移動要塞への
改造を申請して却下されたのか申請そのものをしなかったのかは記述が無い以上判断
は出来ません。先に述べた「記述が無い部分」の扱いの問題になりますので裏設定を
容認しない前提であるならば申請・報告そのものをしなかったという解釈で結構です。
上記のような疑問点がありますが、議論の前提が違うようなので合意することは難しい
と思っています。
RAMさん:
後のほうで私はネタをばらしていますが(笑)、
本来のイオン・ファゼカスは、というより3巻が書かれるまでのイオン・ファゼカスは、
ワープ船としての設定で不自然はなかったと考えています。
ワープ船の質量で技術的な限界が設けられたのは、現実時間で後の話であると言うのが、当方の推測です。
が、シリーズを通して読んでいる読者としては、世界設定を一貫して眺める時、3巻以降の設定が全篇を貫いていると考えるのか、
「仕方ないなあ」と苦笑して多少の問題には目をつぶるのかを選択しなければなりません。
証明に物理学を使ったのは、亜光速以下の航行に関する物理学は、アインシュタイン以来半世紀以上、ハードSFファンの間で
面白い遊び道具として用いられて来たものであり、私にとってはなじみの小道具であったからです。
仮想的にこれを銀英伝の世界に持ち込む時、発言中で私はよく、
「(もし)われわれの世界とあの世界の星間地図が近似しているとすれば・・・」
に代表されるような物言いをしています。
対戦相手の方々は、これを否定することが出来ますが、そのための材料が銀英伝の中から拾えないようなパラメータを、私は意図的に選んでいました。
(「そう言うことは書いていない」と言う答えが良く用いられています。)
亜光速航行に関する証明は、「工学的に核融合エンジンがまだ作れなかったり、バサード・ラムの建造に必要な強度を持つ素材が高くついたり」
している以外、実は既に数字的なスケルトンがはじき出されている事でも有名なのです。
私は、自分がそれに必要な数字を拾い出せる事を(おぼろげにですが)議論を始める前から知っていました。
それに関する議論は半世紀以上の間に世界中のハードSFファンが蓄積してきた技術的ギミックの宝庫であり、
私は、それを取り出して利用すれば良かったという事です。
われわれがやっているような議論が、当時は掲示板もなく雑誌や手紙や口頭で対話するしかなかったハードSFファンの間で喧喧囂囂行われ、
その煮詰まった結果の一部があれなのです。
(半世紀ほど先輩の議論の遺産と言う感じですね)
実際には私も、「現実にはまだ出来ていない」道具を使ったり、都合の良いパラメータを幾つか選んだりしています。
しかしその「まだ出来ていない」道具は、銀英伝の世界では既に実現されており、使っても良いと判断しての事でした。
核融合エンジンはあの世界にはもうあるし、亜光速航行自体も可能になっているし、バサード・ラムはヤンが使ったので、それ以上
それらについて考察したり、よく知られている事以外の物理的性質を詰めたりはしなかったのがその例です。
ちょっと前になりますが、亜光速ミサイルの話をした時は、作中では問題とされていない
「光速付近では星間物質がぶつかって来る(抵抗がある)ので、ラムスクープ場が保持されていないとミサイル自体が破壊される」
「質量が小さいと使いにくい」
「助走距離が長く必要」
と言いました。
作中にそう言う事は書いていないのですが、そういう事がないと、亜光速ミサイルは万能兵器になってしまいます。
それよりは、制約があり得る事を指摘した方が、作中でそれが使われていない理由をおぼろげにでも示す事になって面白いと考えていたからです。
(この時は、レスの順序の関係で仮想設定を出したのがSAIさん、つつくのが私という格好でしたから、やり方としてもその方が順当であったかと思います)
さらにごく薄いガスにでもぶつかったら自滅しかねないと言う性質が加わると、このミサイルの使いどころは、
「大気のない衛星の上にあるなにか」「人工衛星」「要塞」
相手が主となってしまうと言うのが、私の組み立てた推論の帰結でした。
それは、計算により事実と証明する事が可能で、なおかつ銀英伝中ではそういうシチュエーションに対する解が書かれていないので、
(ヤンが使った氷塊は衝突直前まで速度を上げつづけており、つまるとところラムスクープ場が保持されていたはずなのです)
「作中事実と矛盾しない、完全な証明が可能」な事例に属します。
この証明の完全さはほぼ純粋に物理的なものですが、計算すれば誰にでも破るための数字を探す事が可能だという点では、完全に公平なものだと、私は考えています。
そもそも、私が「亜光速」関連でした発言は、
「そのような設定の取り扱い方は”あり”?」
と言う事後承諾をしていただかないと呑めない格好になっています。
私は、対象とした作品の隙間に収まり、なおかつ矛盾が起きない材料を探しました。
例えば空想科学シリーズなどでは、隙間に合わない材料を押し込んで作品を壊し、それを笑ってしまう傾向が見えます。
それはそれでいいのかも知れませんが、そういうギャグは、私の趣味ではありません。
例えば、帝国軍が「亜光速のイオン・ファゼカスを追跡する」事が可能かどうかを論じた時、私は逆に、彼らが追跡を完了させる事が可能である方法を2つ、提示しています。
十分な数の船を揃えるか、逃走方向を知っていれば、やりかた次第で、
「探知距離1000光秒」の追跡は完了し、イオン・ファゼカスはつかまってしまうのです。
同発言で「無理っぽい」と言ったのは、うまくその条件を満たすパラメータを探すのはしんどそうだと、ざっと計算した時に分かっていたからです。
イオン・ファゼカスがワープ船である方がうまく逃げられる事は言うまでもなく、私もそれは肯定しています。
が、出発点として設定のほころびがあり、それを埋めるために亜光速船説を持ち出しているのがその時の私のスタンスなので、
「ワープ船だ」という意見に転向しては話がそこで終わってしまいます。
ワープ船であるのが「自然」なのは、3巻設定が行われる前の話で、
そもそも作品世界が終始一貫していないしわよせをどこに持っていくか、
というのが「イオン・ファゼカス亜光速船説」なのです。
思うに、この件に関する説明がどれも結構ぎくしゃくしているのは、そもそも世界設定のほうがほころびているせいです。
これは特例ということであって、何にでも安易な設定を持ち出す事は、私もどうかなと思います。
私がしている「IF」は、「もし作品世界の物理が我々と同じであったら?」=「問題は消え、あの世界は安泰になる」
という回答パターンです。
逆にやると世界観を壊してしまいます。
そういうので遊ぶのも悪くないかも知れないですが、趣味ではありません。
要は方向性の問題であるというのと、何にでもそう言う事をしてはいけないというのは、(不沈戦艦さんではありませんが)私も思います。
イオン・ファゼカスが亜光速船であっても、世界設定は崩れません。
ガイエスブルクのワープと、イオン・ファゼカスは関係ないのです。
そのためには3巻設定があって、ちゃんと作者自身が説明を行っています。
イオン・ファゼカスをほっておいたほうが、3巻設定との矛盾であるというのが、当方の仮説です。
何しろあれは1隻しかありませんし、例外的に巨大だし、冒頭にしか出てこないしで、特例にするには都合よかったのです。
なお、物理学的な話でなく、設定レベルにより近い当方からの
「移動要塞関連」の意見に関しては、3698をご覧ください。
(1)移動要塞は無敵ではない。亜光速ミサイルを、各恒星系に幾らかでも配備すれば足止め可能である。
足の止まった移動要塞を破壊するのは、物量を集中すれば時間の問題である。
(2)(別発言ですが)亜光速ミサイルは廃物の宇宙船を重くしてバサード・ラムをつければ出来るので、どこででも作れる
(3)静止要塞と移動要塞では、どうしてもエンジンの分移動要塞のほうが弱点が多い。
静止要塞は穴だらけにされてもそこにあれば意味はなくさないが、移動要塞はエンジンが壊されると意味が半分なくなってしまう。
足が止まった時に居る場所が戦略的に価値の低いところなら、構わず壊されてしまう可能性が高い。
(4)ゲリラ戦を戦う気なら移動要塞にしてもいいが、弱点を勘案してヤンはそうしなかった(のではないか)。
要するにオプションには入っていたはずだが、そうするデメリットも見えていたのでやめたと。
もともと、亜光速ミサイルの発想の元になっている氷塊を使ったのも、
エンジンを破壊してガイエスブルクを破った張本人もヤンですからね。
私が考えるような事は、彼なら全て考えられても不思議ありません。
(5)逃げる気なら要塞はいらない
ヤンは逃げ上手です。
つまるところ荷物を捨てて逃げるのは、彼の得意技です。
作中で艦隊が逃げ回るのはちょっと大変ですが、ばらばらに逃げるのはさほど大変ではありません。
帝国が一応封鎖していたはずなのに、ボリス・コーネフの船がヤンのところにたどり着いたりしています。
逃げて民主主義を守るつもりなら、ばらばらに逃げれば済む事でしょう。
特に移動要塞は必要ありません。というより、移動要塞に固まっていればそれを叩けば良いので、帝国に捕まったら一網打尽です。
「1個の移動要塞と1個の宇宙船」では、逃げる時要塞のほうが遥かに有利なのですが、
「1個の移動要塞と、ばらばらのグループに分かれた少数の宇宙船群」
では、逃げる時少数の宇宙船群の方が有利です。
実のところ逃げる時でも多少なりとも戦えた方がいいのですが、あの世界では逃げる宇宙船を追うのが容易でないのは、
別のレスで私は計算により確証を得ています。
探知距離1000光秒では、亜光速船でさえ追うのに散々な苦労があるのです。
ワープ船をろくに追えないのは無理もありません。
余談ですが、バーミリオン会戦で帝国軍と同盟軍が戦った時、
1000光秒を1単位とする情報システムが作られ、使われていた説明があったはずです。
他の部分と矛盾しない形でこれを説明するとすれば、まさに
「1000光秒刻みでしか確実な探知できないので、それを埋めあわせるために探知機をばら撒いて情報システムを組んだ?」
と、私には思えます。
(1)~(5)からして、
「移動要塞を戦略地図に入れなかったのではないか」
というのが、回廊決戦時のヤンの行動の、私に納得の出来る説明です。
技術者として、私はハードウェアを信頼はします。
しかし、それを信仰はしません。
移動要塞について効果的に破壊できる手段を案出したのは、
「無敵のハードウェア」という発想に違和感があったためです。
と同時に、要塞を防御する可能性についても、亜光速ミサイルに関する議論では挙げています。
あの作品において、矛と盾の関係は暗黙に同等で、圧倒的に強力な武器は例外的なものであるというのが基本であると、私は考えているからです。
そして、作中におけるヤン・ウェンリーもまた、無敵のハードウェアに対する信仰を持たず、
その発想を逆用して間隙を衝く名人でした。
あ、1つ申し上げておきます。
私はこの議論において、終始一度も
「イゼルローンの移動要塞化は実現できない」とは言っていません。
Nightさんへのレスでは、逆に
「可能」
と回答しています。
1個の実例があるからです。純粋に技術的には、帝国がやれた事は同盟にもやれる可能性があるというのは、あの作品におけるセオリーです。
質量・燃費・工数などの問題については、他のレスで純粋な工数については「1.5倍~3倍?」とは応答しています。
しかしそれを以って不可能だとは言っていません。
「つらいかも」と言っているだけです。
私が述べたのは「ヤンがそれをしなかった理由」に対する考察です。
実際に作中でヤンはそれをしていません。
しなかった理由が十分なものであるか、そうでないかを考察する事自体は、作品を損なったりしません。
その意味では、冒険風ライダー氏と私は、方向性が逆であるだけで同じような事をしているのではないか、と私は思います。
様々な理由から、冒険風ライダー氏の移動要塞論と、その結果出て来るヤンやラインハルトへの評価には同意できないところがあります。
が、その全容を書き並べても意味はないし、分岐している各論においては私には興味のない事も多いので、
話を自分が最も得意とする事に絞っただけです。
(技術屋に数字を触らせたら、その講釈が岩をも砕くほど固くなるのは当然です)
はじめに、冒険風ライダーさんの、以下の発言の解釈ですが、
<これはないでしょう。作品の外から「現代世界の物理法則に基づいた要塞の燃費問題」を持ち出してきたのであれば、その正当性や妥当性の立証責任は100%「持ち出してきた側」にあるのです。そしてその証明が「できるかもしれないし、できないかもしれない」で良いはずがないではありませんか。>
もちろんこの発言の主旨は、パンツァーさんが言われるように、作品の外から設定を持ち込むことには重大な責任を伴うというものです。別に誤解したとは思いません。
私が言いたかったのは、冒険風ライダーさんは、「恒久的移動要塞」「無限の自給自足能力」といった、銀英伝に直接記述のない設定を持ち出したのであり、上の発言を考えると、そのことに対する立証責任があることをよく理解されたうえで、私が前回引用したような「立証した」という発言を繰り返したはずだ、ということです。つまり、自分の説が唯一の説で、他の説は成立しない、という主張です。
<イゼルローン要塞が有限の資材しか提供できないとしたら、50年という期間を区切ってみても、有限性が明らかになるのです。
50年経てば、イゼルローン要塞の提供能力の40%を消費するとか、90%であるとか、そういう次元の話になります。
キャゼルヌが「何ら懸念を抱いている様子がない」というのは、提供能力の何%を消費したとかいった計算すらしていない、ということを意味します。
これは、イゼルローン要塞が無尽蔵の生産能力を有しているから、としか考えようがないのです。>
私は今回の一連の論争を通し、主に大質量の移動に焦点を当ててきましたが、この際ですから、イゼルローン要塞の「自給能力」の正体について、考察します。はじめにユリアンとキャゼルヌの会話を引用します。
「いまイゼルローンが安泰でいられるのは、皮肉なことに、その戦略的価値を失ってしまったからです。価値が回復されるとき、つまり帝国に分裂が生じるとき、イゼルローンにとって転機がおとずれるでしょう」
「ふむ……」
「どのみち、急速に事態が変わるとは思っていません。国父アーレ・ハイネセンの長征一万光年は五〇年がかりでした。それぐらいの歳月は覚悟しておきましょうよ」
「五〇年後には、おれは九〇歳近くになってしまうな、生きていれば、だが」
(乱離篇第九章-1)
ユリアンは「いまイゼルローンが安泰」であるとし、その事態が急速に変わるとは思っていません。50年程度その状態が持続する、とは、このように帝国との戦争状態がないことを前提にしています。
ひるがえって、「無限の自給自足能力」について述べた、冒険風ライダーさんの発言は以下のとおりです。
(#1726-1727)
<この「無限の自給自足能力」が、戦術的にも戦略的にも、そして政治的・経済的にも、味方には莫大な利益を、敵には多大な脅威を与える「最強の武器」なのです。何しろ、要塞を防衛する側は、理論的には永遠に補給の心配をすることなく戦い続けることができるため、長期にわたる籠城戦が可能となるのですし、また要塞を攻撃する側は、要塞が保有する「無限の自給自足能力」のために、補給物資の欠乏を促す封鎖作戦を展開することがほぼ不可能で、まともに要塞を攻略しようとするのであれば、常に力攻めによる短期決戦を強要されることになるのです。>
このように、こちらは要塞が外敵と戦争状態にあることを想定しています。つまり、ユリアンやキャゼルヌの発言とは、前提が異なるのです。大量の物資を消費する戦争状態が「ない」場合の話を「ある」場合に適用した時点で、論理的に破綻しています。
そもそも、銀英伝の直接記述のみを問題にすると、要塞の自給自足能力を否定する記述こそ見受けられます。
純軍事的に見れば、帝国軍の回復力は無限にひとしく、ヤン・ウェンリー軍のそれはゼロに近い。(乱離篇第三章-4)
艦隊行動としては、まことに単純である。縦隊をもって突進し、集中砲火をあびせ、敵前回頭して反転しつつなおも砲撃し、後退する。第一隊が後退したとき、第二隊が前進し、集中砲火をあびせ、敵前回頭して反転しつつなおも砲撃し、後退すると、第三隊がこれにかわる。これを連鎖させて、防御陣が疲労し、消耗し、補給物資を費いはたすまでくりかえすのである。
この戦法をつづけられれば、回復力においていちじるしく劣勢なヤン艦隊は、戦力をじりじりと減殺され、削ぎおとされて痩せほそり、ついには宇宙の深淵に溶けこんでしまうであろう。(同第四章-5)
*ヤン・ウェンリー軍の回復力はゼロに近い。
*ヤン艦隊の回復力はいちじるしく劣勢。
これらは、ユリアンやキャゼルヌの台詞から間接的に推測したものなどではありません。そのものずばりの直接記述です。これらの直接記述からして、「無限の自給自足能力」など幻想の産物であることが分かります。イゼルローン要塞に無限の補給力があるなら、すくなくとも前線が「補給物資を費いはたす」ことはないでしょう。いくら使おうが、要塞から補給してやればよいのです。
こういう行き違いを生じるからこそ、「50年」を「半永久」と言い換えるようなことをしてはいけないのです。「50年」は、いくら長くても有限の数字です。有限なればこそ、戦争状態の有無のように、条件が変わることで、50年がそれよりもっと短くなりうる、という考察が可能になります。ところが、一旦、無限という設定にすりかえると、いくら物資を費消しても、尽きることがありません。
<私は、Kenさんの文章を読む限り、「無限の自給自足能力」は、静止要塞のこととしか取れないといったのです。
「無限の自給自足能力」と「エンジンの燃費の皆無」とをベースにして、「移動要塞」が出来上がる以上、このようにしか読めないではありませんか?>
分かりました。そういうことなら、パンツァーさんの発言自体は詭弁ではありません。謝罪します。
<イオンファゼカス号にしろ一般艦船にしろ、移動化されたガイエスブルグ要塞にしろ、駆動手段は、この三美神の系列で考える必要があります。ワープエンジンや通常エンジンを備えたもの同士である、ということです。したがって、駆動手段の異なる帆船とタンカーは、基本的性質が異なるので、まったく適切な例ではありません。>
イオン・ファゼカスがワープをしたかどうかは、別スレッドで論争が続いています。
ガイエスブルグはもちろんワープをしていますから、たしかに100トンの帆船と20万トンのエンジン船を持ってきただけでは、論理に不完全さが残ります。ご指摘ありがとうございます。
ただ、この件に関して、ずっと続いてきた議論は、艦船が無補給で長期間航行できる(これも、直接記述があるわけではありませんが、論点を簡略にするため、いまは「できる」ものと仮定します)ことをもって、質量がはるかに大きい要塞も同じことができるか、というものでした。銀英伝に登場する数字のみを採用する限り、要塞は艦船の2億倍の質量をもつわけです。2億倍というのは、半端な数値ではありません。ガイエスブルグが20万トンタンカーとすれば、輸送船は1キロのおもちゃの船になってしまいます。
問題になっているのは、駆動の手段そのものではなく、駆動に必要なエネルギーをどのように確保するか、という点です。同じくワープエンジンを利用するにも、帆船が風を利用するようにエネルギーを外部調達できるか、タンカーのように燃料を自分で運ばねばならないか、です。無補給航行のためには、エネルギーの外部調達が必要です。
そのようなエネルギー外部調達の実例を、「銀英伝に書かれていること」から見つけようとすると、見つかるのは一つしかありません。ヤンが氷塊の加速に利用した「バサード・ラムジェット」です。ただし、厳密な意味でのバサード・ラムジェットではワープはできません。現実世界で論じられるバサード・ラムジェットも、作品中で実現しているものも、ともに亜光速を出せるだけです。「書かれていること」しか持ち込まない、という前提に立つと、「無補給航行」はその時点でアウトになり、登場人物が艦船の燃料補給を問題にしないのは、あくまでも、数ヶ月の作戦期間(帝国領侵攻は約3ヶ月、ラグナロックは5ヶ月継続)なら、積載燃料が余裕でもつから、ということになります。また、イオン・ファゼカスも、アルタイル7で積み込んだ燃料で航行をしたことになってしまいます。
「バサード・ラムジェット」を拡大解釈し、とにかく宇宙空間から燃料を取り込むこと、とすると、どうなるでしょうか。宇宙空間から取り込んだ物質を燃料に得られるエネルギーでワープをするわけです。
この方法については、最初に観察中さんが問題を指摘し、私自身が補足説明を加えていますが、艦船が大質量になるほど、エネルギーを確保するため大量の星間物質を引っ張ってくる必要があり、引っ張ってくるのに必要なエネルギーと、引っ張ってきた物質から得られるエネルギーが、どこかで必ずクロスします。
このことから、質量が大きい物体ほど、無補給航行ができない可能性が高くなる、ことが分かります。ただし、それが20万トンの艦船と40兆トンの要塞の運命を分けるか、となると、肝腎のワープの原理が分からないので判定できません。考えられるシナリオは3つです。
1.クロスポイントは20万トンより小さい。よって艦船も要塞も無補給航行はできない。
2.クロスポイントは20万トンより大きく、40兆トンより小さい。よって艦船は無補給航行できるが、要塞はできない。
3.クロスポイントは40兆トンより大きい。よって要塞は(すくなくともガイエスブルグは)無補給航行できる。
ということになります。結論として、要塞が無補給航行できるとも。できないとも、証明することは不可能です。恒久的移動要塞の実現性を、我々読者が判断することはできないわけだから、ラインハルトやヤンのような、作中人物の判断を信用するしかなくなります。
今回の投稿は以上です。
<(5)逃げる気なら要塞はいらない
ヤンは逃げ上手です。
つまるところ荷物を捨てて逃げるのは、彼の得意技です。
作中で艦隊が逃げ回るのはちょっと大変ですが、ばらばらに逃げるのはさほど大変ではありません。
帝国が一応封鎖していたはずなのに、ボリス・コーネフの船がヤンのところにたどり着いたりしています。
逃げて民主主義を守るつもりなら、ばらばらに逃げれば済む事でしょう。
特に移動要塞は必要ありません。というより、移動要塞に固まっていればそれを叩けば良いので、帝国に捕まったら一網打尽です。
「1個の移動要塞と1個の宇宙船」では、逃げる時要塞のほうが遥かに有利なのですが、
「1個の移動要塞と、ばらばらのグループに分かれた少数の宇宙船群」
では、逃げる時少数の宇宙船群の方が有利です。>
こんな方法が行えるくらいならば、そもそも最初から「要塞に立て籠もって戦う」などという「100%必敗確実の方針」など取らずに、イゼルローン要塞を放棄して戦力そのものをも各地に分散させてしまった方が却って良かったのではありませんか? それこそ私が最初に引用した、ヤンがユリアンに語っている「人民の海」作戦の戦力分散版でも行っていけば、ヤン自身がはっきりと認めているように、それこそが「ベター」な策であったことはまず間違いないのですし↓
銀英伝8巻 P216上段~P217上段
<さらには、「共和革命戦略」についても、ヤンは語ったことがある。イゼルローンを再占拠した後の一日である。
「吾々は、イゼルローン要塞を占拠するという道を選んだが、ほんとうはもうひとつ選択肢がなかったわけじゃないんだ」
それは、革命軍の移動する先々に、共和主義の政治組織を遺してゆくというやりかたである。あえて単一の根拠地にこだわらず、広大な宇宙それ自体を移動基地にして、「人民の海」を泳ぎまわるのである。
「むしろそのほうがよかったのかもしれないな。イゼルローンの幻影に固執していたのは、私のほうだったかもしれない、帝国軍の連中ではなくて」
後悔というほどの強烈な思いではないにしろ、ヤンには残念に思う気分があるようであった。ヤン家の一員になって以来何千杯めかの紅茶を彼の前に差しだしながら、ユリアンは当然すぎるほどの質問をした。
「どうしてそれが不可能だったのです?」
ヤンの戦略構想が無に帰し、次善をとらざるをえなかった理由を、ユリアンは知りたかった。可能であれば、最善の途をヤンはとったにちがいないのだから。
「資金がなかったからだよ」
即答してヤンは苦笑した。
「笑うしかない事実、とはこれだな。吾々はイゼルローン要塞にとどまっているかぎり、食糧も武器弾薬もどうにか自給自足できる。ところが……」
ところが、イゼルローンを離れて行動すれば、定期的な補給が必要不可欠になる。バーミリオン会戦のときには、同盟軍の補給基地が利用できたが、今回はそうはいかない。物資の提供に対しては金銭で酬いねばならないが、資金がなかった。掠奪は絶対に許されない立場である。自給自足できる根拠地にたてこもらざるをえなかった。最初に充分な兵力があれば、ガンダルヴァの帝国軍基地を急襲し、その物資をえた後に方向を転じる方法もとりえたが、それがヤンに備わったのはイゼルローン占拠後のことだ。
「戦術は戦略に従属し、戦略は政治に、政治は経済に従属するというわけさ」>
しかし、上記でもはっきりと語られているように、「無限の自給自足システム」が搭載されているイゼルローン要塞に拠らなければ、ヤン側には常に「定期的な補給」の問題が付きまとうことになるのですよ。「逃げて民主主義を守るつもりなら、ばらばらに逃げれば済む事でしょう」って、「あの」ヤンでさえも言及している「定期的な補給」の問題は一体どうするつもりなのでしょうか? まさか帝国に追われながら宇宙海賊にでもなって「義賊」として活躍する、という類の「夢物語」でも実行するという話なのですか?
どうもこの辺りの考え方がよく分からないのですよ。勝算のない戦いでわざわざ大きな損害を出した後に将来性のない逃亡を行う戦略的・政治的意義や、逃亡した後に一体どうなるのかという構想自体が全く見えてこないのですから。この辺りは本当に典型的な「反対の為の反対」に陥っているのではありませんか?
<実のところ逃げる時でも多少なりとも戦えた方がいいのですが、あの世界では逃げる宇宙船を追うのが容易でないのは、
別のレスで私は計算により確証を得ています。
探知距離1000光秒では、亜光速船でさえ追うのに散々な苦労があるのです。
ワープ船をろくに追えないのは無理もありません。
余談ですが、バーミリオン会戦で帝国軍と同盟軍が戦った時、
1000光秒を1単位とする情報システムが作られ、使われていた説明があったはずです。
他の部分と矛盾しない形でこれを説明するとすれば、まさに
「1000光秒刻みでしか確実な探知できないので、それを埋めあわせるために探知機をばら撒いて情報システムを組んだ?」
と、私には思えます。>
観測・索敵における有効探知距離500~1000光秒というのは、以前の移動要塞関連議論で「要塞を光年単位の遠距離から『観測』することはできない」という主張の根拠として私が作中記述から引っ張り出してきたものですが、実のところ、観測という要素を外して純粋に「索敵」という観点で考えると、ただこれだけの要素で銀英伝世界における「索敵」というあり方が成立しているようには思えません。
たとえば銀英伝では、広大な宇宙空間の中で単独かつ独自に行動している宇宙船が臨検を受けたり、敵味方に分かれている艦隊が特定の星系で遭遇したりするといった描写が多数存在します。しかし、艦艇の所在を把握するに際して、有効探知距離500~1000光秒にのみ依存しているというのであれば、宇宙船が臨検の目を掻い潜ったり、敵が迎撃に向かってくる艦隊を避けて首都や戦略拠点を攻略したりすることが極めて容易に行えるはずであり、銀英伝の戦争概念自体もまた大きく変わってしまっているはずです。いや、それどころか、索敵の網の目がそこまで穴だらけであるというのであれば、宇宙海賊のような武装集団が各地に乱立して跳梁跋扈するような事態すらも招きかねず、そもそも銀英伝世界における恒星間国家が光年単位の広大な宇宙空間を実効支配していること自体、極めておかしな話であると言わざるをえなくなってしまいます。
極端なところ、イゼルローン要塞のような「固定された拠点」を巡る戦いを除けば、銀英伝世界における艦隊決戦のほとんど全てが、広大な宇宙空間における特定の星系で、敵味方に分かれた艦隊同士が接近遭遇して戦われているわけなのですから、それを可能にする技術なり何なりが存在すると考えるのが自然というものでしょう。ヴァンフリート、ティアマト、アスターテ、アムリッツァ、アルテナ、キフォイザー、ドーリア、ランテマリオ、バーミリオン……銀英伝の作中で会戦が行われているこれらの星系における、最初の段階では最低でも数百~数千光年単位で離れている敵艦隊同士の接近遭遇および会戦を、たかだか有効探知距離500~1000光秒レベルの観測・索敵だけで、一体どうやって実現させることができるというのでしょうか?
また臨検に関しては、銀英伝2巻P100~P101で、ボリス・コーネフの貨物用宇宙船が、辺境星系に向かっていたキルヒアイス艦隊と接近遭遇し、臨検を受けるというエピソードが存在しますし、銀英伝6巻P88~P89では、ボリス・コーネフの輸送船「親不孝号」で地球に出発したユリアン達一行が、出発第1日目も終わらないうちに帝国軍駆逐艦の臨検を受けています。そして銀英伝7巻P59には、同盟政府から逃亡したヤンの「不正規隊」を、巡視中の同盟軍艦艇が発見するエピソードまでもが存在するのです。今更言うまでもないと思いますけど、これらの事例は全て「ワープが使える艦船」を前提として発生している話なのですよ?
さらに銀英伝5巻では、ブラックホールが存在するためにいかなる航路からも大きく外れているはずのライガール・トリプラ星系間に存在するヤン艦隊が、シュタインメッツ艦隊に発見されるという描写が存在しますし、銀英伝7巻では、戦略的要地であるランテマリオ星系から6.5光年の「近距離」にある、どう考えても航路としては全く向かないであろうマル・アデッタ星系に存在するビュコック艦隊を帝国軍は発見しています。これらのことから、索敵に際しては必ずしも限定的な航路を当てにする必要もない、ということが判明するのです。
これらのことから、たとえ光年単位の距離においても、宇宙船や艦隊の所在をおぼろげながらでも推測・確認できる手段自体が、銀英伝世界にも一応は存在していることがお分かり頂けるでしょう。有効探知距離500~1000光秒レベルの観測・索敵というのは、おぼろげながら把握されている敵の所在を、遭遇予測星系で座標単位&目視レベルで把握・最終確認するといったような「索敵活動における最後の詰め」を行うためのものである、と考えた方が、作品世界を破綻させない設定としては妥当なものであると言えます。
このような世界で、たかだか1年間に進める距離が1光年以下などという「恐ろしく鈍行な」亜光速航行しか行えず、しかも要塞よりもはるかに図体の大きなドライアイスの塊を探し出すことが困難である、という説がまかり通る方がおかしいでしょう。あくまでも「亜光速航行を行っている艦艇は全く捕捉できない」と主張するのであれば、上記で挙げた「広大な宇宙空間における宇宙船および艦隊の接近遭遇が発生する謎」をも全て解消する形で証明を行って頂きたく思います。
それから「移動要塞技術は新技術か?」については、件のムライとシェーンコップの会話以外にも、移動要塞の話を聞いたヤン自身が次のような述懐している描写が存在します。
銀英伝3巻 P158上段
<要塞をして要塞に対抗させる。要塞に推進装置をとりつけて航行させる。それは大鑑巨砲主義の一変種であり、見た目ほどに衝撃的な新戦法というわけではないが、同盟の権力者たちに甚大な精神的ショックを与え、ついでにヤンを茶番劇から解放してくれたのは事実だ。>
歴史家志望であり、過去の歴史や戦史に精通しているであろうヤンが、移動要塞戦術を指して「見た目ほどに衝撃的な新戦法というわけではないが」と評しているわけです。件の会話でムライがシェーンコップの主張に反論して移動要塞関連の話をまとめている箇所とイオン・ファゼカスの件、銀英伝世界で「宇宙船がワープできるのは当たり前」という常識、そして上記のヤンの述懐から考えてみれば、やはり移動要塞技術は「銀英伝3巻の時点でも斬新な新技術などではなかった」と見るのが妥当でしょう。
というわけで、私も不沈戦艦さんと同様、「イオン・ファゼカス号はワープできなかった」論には相当な無理があると考えます。
<技術者として、私はハードウェアを信頼はします。
しかし、それを信仰はしません。
移動要塞について効果的に破壊できる手段を案出したのは、
「無敵のハードウェア」という発想に違和感があったためです。
と同時に、要塞を防御する可能性についても、亜光速ミサイルに関する議論では挙げています。
あの作品において、矛と盾の関係は暗黙に同等で、圧倒的に強力な武器は例外的なものであるというのが基本であると、私は考えているからです。>
すいませんが、私が一連の移動要塞論を提唱する際に、いつどこで「移動要塞は【純軍事的に無敵のハードウェア】である」などという主張を展開していたというのでしょうか? 私はそんなことを述べた覚えなど一度もないのですけど。
最初から一貫して私が主張しているテーマは、「『無限の自給自足システム』こそが、主砲や外壁など足元にも及ばない『銀英伝世界における要塞が保有する【最強の武器】』であり、これがあれば銀英伝の戦争概念や、作品テーマである『補給の問題』を全て崩壊させることができる」というものであり、だからこそ、その結果として「『アレほどまでに補給の重要性を説いていた』にもかかわらず、その偉大なる可能性に気づきすらしなかったヤンとラインハルトは愚か者である」という結論が出てくるのです。
そして私は、移動要塞の欠陥である「エンジンの弱点」や、「消費が生産を一時的にせよ上回る物量・長期戦」などに要塞および艦隊が耐えられないことをも知っていたからこそ、「その【最強の武器】を生かす最も効果的な戦法『のひとつ』として『戦いを避けて逃げ続けるゲリラ戦』が考えられるし、それはすくなくとも、かの愚劣な『回廊の戦い』における他者依存戦略などよりもはるかに勝利の可能性を模索することができる戦法ではあるだろう」と、私はヤン関連の議論では主張しているわけです。
これは、作中でヤンが否定していたような「ハードウェア信仰」の類などではありません。「ハードウェア信仰」とは、たとえば銀英伝2巻における救国軍事会議クーデターの面々が、自分達の敗勢が一目瞭然であるにもかかわらず、「アルテミスの首飾りさえあれば首都は防衛できる」などと主張して「ハードウェアの攻撃力と防御力」にただひたすら盲目的な期待と依存心を抱いていたような状態のことを指すのです。「兵器の限界」をわきまえつつ、その長所を生かして短所を修正しながら、その最も効果的な戦略戦術や使用方法を模索する行為は「ハードウェア信仰」などではなく「ハードウェアの信頼」に属するものでしょう。
そしてヤン自身もまた、「ハードウェア信仰」に関しては全否定していても、「ハードウェアの信頼」まで完全に放棄しているわけではないのです。それは以下の記述にもはっきりと表れています↓
銀英伝1巻 P182上段~P183上段
<想像を絶する新兵器、などというものはまず実在しない。互いに敵対する両陣営の一方で発明され実用化された兵器は、いま一方の陣営においてもすくなくとも理論的に実現している場合がほとんどである。戦車、潜水艦、核分裂兵器、ビーム兵器などいずれもそうであるが、遅れをとった陣営の敗北感は「まさか」よりも「やはり」という形で表現されるのだ。人間の想像力は個体間では大きな格差があるが、集団としてトータルで見たとき、その差はいちじるしく縮小する。ことに新兵器の出現は技術力と経済力の集積の上に成立するもので、石器時代に飛行機が登場することはない。
歴史的に見ても、新兵器によって勝敗が決したのは、スペイン人によるインカ侵略ていどのもので、それもインカ古来の伝説に便乗した詐術的な色彩が濃い。古代ギリシアの都市国家シラクサの住人アルキメデスは、さまざまな科学兵器を考案したものの、ローマ帝国の侵攻を防ぐことはできなかった。
想像を絶する、という表現はむしろ用兵思想の転換に際して使われることが多い。そのなかで新兵器の発明または移入によってそれが触発される場合もたしかにある。火器の大量使用、航空戦力による海上支配、戦車と航空機のコンビネーションによる高速機動戦術など、いずれもそうだが、ハンニバルの包囲殲滅戦法、ナポレオンの各個撃破、毛沢東のゲリラ戦略、ジンギスカンの騎兵集団戦法、孫子の心理情報戦略、エパミノンダスの重装歩兵斜線陣などは、新兵器とは無縁に案出・想像されたものだ。
帝国軍の新兵器などというものをヤンは恐れない。恐れるのはローエングラム伯ラインハルトの軍事的天才と、同盟軍自身の錯誤――帝国の人民が現実の平和と生活安定より空想上の自由と平等を求めている、という考え――であった。それは期待であって予測ではない。そのような要素を計算に入れて作戦計画を立案してよいわけがなかった。>
このようにヤンは、「想像を絶する新兵器」なるものの存在や「ハードウェア信仰」などは全否定しても、「新兵器の発明または移入による用兵思想の転換」というものまで否定してなどいないわけです。そして移動要塞がもたらす可能性とは、まさに銀英伝の戦争概念をも覆す「新兵器の発明または移入による用兵思想の転換」に他ならないのであり、「アレほどまでに補給の重要性を説いていた」ヤンやラインハルトの性格ならば、「兵器としての限界」を考慮に入れてもなお、積極的に活用しない方がおかしいのです。
また、銀英伝本編においても、アムリッツァ会戦で同盟軍が後方に敷設していた機雷原が、指向性ゼッフル粒子という「新兵器を使った戦術」によっていとも簡単に無力化されたことによって、同盟軍が後背を突かれて瓦解したという事例が立派に存在するのですし、また銀英伝3巻でも、ガイエスブルク移動要塞の話を聞いたヤンが、「要塞特攻を行ってイゼルローン要塞を破壊した後、代替の要塞を改めて持ってくれば良い」などという「ハードウェア的技術を使った『戦略』」さえ考案している描写が存在するのです。
兵器の長所と短所の双方を知り尽くした上で、長所を生かした戦法を考案し、実行に移す。銀英伝作中で展開されているその実例の数々さえもが「ハードウェア信仰」として全面的に否定されなければならないものなのでしょうか? すくなくとも「回廊の戦い」などでラインハルトの胸先三寸に勝算の全てを依存するという、ある意味「ハードウェア信仰」よりもはるかにタチの悪い「根拠のない勘に基づいた【期待であって予測ではない】ラインハルト信仰」などをベースにするよりは、はるかに勝算の高い賢明な戦い方だと私は思うのですけどね。
それと、いい加減に気づいてほしいのですけど、私があたかも「移動要塞の『戦闘力』は絶大である」とでも言っているかのような前提条件を基にして「移動要塞は無敵ではない」といった類の反論を繰り出すのは止めてもらえません? そりゃ確かに私は移動要塞を実際に戦闘に参加させる可能性を否定はしませんし、技術改良や戦術次第では有用性はあるだろうとも考えてはいますけど、それは私の主張の根幹を成す「『無限の自給自足システム』こそが、主砲や外壁など足元にも及ばない『銀英伝世界における要塞が保有する【最強の武器】』であり、これがあれば銀英伝の戦争概念や、作品テーマである『補給の問題』を全て崩壊させることができる」というテーマに比べれば、あくまでも「本体から派生した枝葉」、つまり二義的ないしは補足的なものであるに過ぎないのです。
私の主張は、そんな「枝葉」を全て削除して「移動要塞は一切戦いには参加させない」と仮定したとしても充分に成立しえるのですから、移動要塞の有用性を否定するのであれば、本体である「無限の自給自足システム」そのものに的を絞らないと、効果的な反論になどなりえないはずなのですが。
P.S.
それと、余計な誤解などされるのは迷惑極まりないので、この際はっきりと言っておきますが、この移動要塞論に限らず、考察シリーズ全般で基本的に私が行っていることは「作品検証に基づいた作品批判&擁護論」であり、そのテーマは「作品テーマの破綻の立証」および「作品世界設定の補完および擁護」です。それは田中作品をベースとした「2次派生作品」ではあっても、2次小説や同人誌などのような「それ自体が独立した2次創作」などでは決してありえませんし、そこで時々行っているIFシミュレーションの類も、IFシミュレーション自体がテーマと醍醐味である「反銀英伝 思考実験編」などと違って、単に自説を補強するために行っている程度のシロモノでしかありません。考察シリーズの主体はあくまでも「作品検証に基づいた作品批判&擁護論」だけなのです。
そして、私がなぜキャラクター批判を執拗に展開するのかについても、前回の移動要塞関連議論の教訓から設置した「考察シリーズFAQ」にはっきり書いています。それについてどのような感想や感情を抱こうが読んだ人の勝手ですが、すくなくとも私の論の意図とテーマそのものを捻じ曲げた主張を行うのだけは止めて頂きたいものですね。
神よ、お言葉をお待ちしておりました。
良く分かりました。
私は、あの世界における探知や索敵の事情を無視していたわけではありません。
ワープ船においては別の方法があるらしい事を、他のレスで申しております。
矛盾なくそれを説明するには超光速探知が必要で、それが作中に述べられていなかった事により「論考不能」と判断していたのです。
あなたは、存在しないものの量が測れますか?
私のしていた話は、全て「量を測る」試みに基づいています。
それを否定するのは簡単な事です。
「量を書いていない」話を持ち出せばよいのですから。
しかし、それは単なる「砂で目を潰す」やり方に過ぎないでしょう。
量を測れないものは、「存在しない」のではない。
「あっても何かの局面で論考するのにはまともに使えない」のです。
私は、自分が言っている事に物理的な無理がない事を知っております。
あなたは、1光年がどれだけの距離であるかを掴む事が出来ますか?
「わずか1光年」などという言葉を使われますが、それを本当に計算してみた事がありますか?
あの世界におけるつじつまは、合っているようで合っていない。
それを全て埋める事は不可能ではない。
ただし、それには必ず仮想的な物理が幾つも入ります。
しかし、あなたの言う「当然」その他の文脈にも、それは既に入り込んでいるのです。
先に誰かに語らせ、後で突っ込む事によって無限に説明を要求すれば、
それは必ずどこかで限界を迎えるでしょう。
しかしそれは相手が間違っているからではなく、時と知識が尽きるからです。
そういうのを「砂で目を潰す」というのです。
技術に「バカな」はありません。
「ある」「ない」
「可能」「不可能」
「出来た」「出来なかった」
です。
「バカな」では、数字による証明を砕く事は出来ません。
私にとって、あなたが数字を脇にのけようとする事は予測された事でした。
あなたの神殿には、実体のある数字が存在しない。
ないものは、私にも読めません。
というより、あなたの応答を読んだ時に、私にとりこの悪い遊びの決着は全てついたのです(笑)。
あなたの仰るような文脈で物事を考える事は、私には出来ません。
あなたの神殿に詣でて、永久にお求めの物理学を、お求めの形で供給するなどという、タンタロスの苦悩を味わうなどという事は、私にはとても出来ません。
ランダウではないのですから、一握りの数式から「銀英伝型」物理法則のほとんどを何のテキストも成しにひねり出すという奇跡が出来るはずがないのです。
そして、誰にもそれが出来ない以上、あなたの神殿は永久に安全です。
ただし、あなたにも私という悪魔が使った数字がまるで読めていない事は、応答から分かりましたので、私は大いに満足しております。
神よ、私にはあなたの神殿に詣でる資格も、
あなたの言葉を理解する知性もありません。
さようなら、アインシュタインにもランダウにも縁なき方。
私がここで何かを語る事は二度と再びないでしょう。
PS.
もう1つ言えば、神の国には私が呼吸できる酸素がないようですので。
なにぶん、何かを想定するのに許可が必要で、
物理を用いるのに無限の証明をする羽目になるようでは、
そのうち呼吸をする事にも神託が必要になりそうです。
それは私があまりにも邪悪で、知性が不足し、神の言葉を伺っているだけでめまいがしてくるという事と因果関係がありそうですが、
聖書にはそれが掲載されていないので、私にはその謎を追求するための資料がありません。
横レスですが、
<有効探知距離500~1000光秒レベルの観測・索敵というのは、おぼろげながら把握されている敵の所在を、遭遇予測星系で座標単位&目視レベルで把握・最終確認するといったような「索敵活動における最後の詰め」を行うためのものである、と考えた方が、作品世界を破綻させない設定としては妥当なものであると言えます。>
そうでしょうか?
銀英伝世界の索敵可能距離について、もっとも直接的な具体数値を与えてくれる箇所があります。いよいよバーミリオンの戦いが始まろうとする箇所です。
双方の前哨戦は、無言の偵察競争という形で、ごく静かに開始された。同盟軍はバーミリオン星系の一二五〇憶立方光秒におよぶ宇宙空間を一万の宙域に細分し、二〇〇〇組の先遺偵察隊によってそれをカバーし、集中する情報を分析するシステムをつくりあげたが、それを指揮運営したのはムライ参謀長であって、このように精密な作業を管理する点で、彼は黒髪の司令官の能力をはるかにしのいでいた。
(風雲篇第七章-3)
1250億立方光秒を、2000組の偵察隊でカバーする。
つまり1隊が6250万立方光秒をカバーします。この体積がどのような形状だったかという記述はありませんが、球形だとすれば、球の半径は246光秒です。立方体だとすれば、中心から最も遠いのは立方体の頂点で、距離は342光秒です。偵察隊が、自分の担当宙域を哨戒すれば、必要な索敵距離はさらに小さくなります。
敵の所在が「おぼろげながら把握されている」なら、なんで上のように対象空間を細分し、偵察隊を均等に配分する必要があるのです?「どこへくるか分からない」からこその均等配分でしょう。その条件のもとで、ヤン艦隊は一隊の索敵距離が342光秒を越えないように配慮して、偵察隊を配置したのです。
それはなぜか?それ以上の距離では索敵できないからではないでしょうか。
これは、作品記述のどういう解釈が「妥当」だとか「自然」だとかいうたぐいの推測ではありません。具体的な数値に基づいた直接記述です。
あるいは、作中記述の他の部分との不整合があるかもしれません。しかし、何よりも肝腎なことは、これが「直接記述」であるということです。どんな推測もこのような具体的数値を伴う直接記述の信憑性には対抗できません。
さきほどの引用箇所の少し後に、さらに直接的な記述があります。
偵察戦に突入して三〇時間は、緊張の水位を微増させる沈黙がつづくだけであったが、ついに帝国軍の姿が発見された。チェイス大尉の指揮するFO2という偵察グループの一下士官が発見者であった。
「大尉、あれを……!」
部下の声は、声量こそ抑制されていたが、完全に調子がはずれており、大尉を緊張させるに充分すぎるほどだった。彼の視界がとらえたものは、暗黒の宇宙空間を蚕食しつつ拡大する光点の群であった。それはいまや波濤となって、背後の弱々しい星の光をのみこみ、彼らへ向かって音もなく押しよせてくる。
大尉は超光速通信のスイッチを入れたが、声も指も微妙な震えをおびていた。
「こちらFO2先遣偵察隊……敵主力部隊を発見せり。位相は〇〇八四六宙域より、一二二七宙域方向を望んだ宙点で、わが隊よりの距離は四〇・六光秒……至近です!」
FO2先遣偵察隊が帝国艦隊を発見したときの距離は、なんと「40.6光秒」。まさに至近です。きっと「50光秒」では発見できなかったのでしょう。
古典SFファンさん
とりあえず当方の論点を述べます。
・イオン・ファゼガズ号が準光速船だった場合のデメリット
=よほどの幸運がなければ帝国に発見もしくは資源惑星到達までに
船内時間でも数十年かかり(「最短」で数光年は隣の恒星系まであ
る事は合意済みでしたよね)第一世代がハイネセンに到達できない
確率が極めて高い。
・何故シャフトの提言まで帝国に「大質量ワープ技術」がなかったのか
=イオン・ファゼガズ号の技術は逃亡者と共に流出したから。
また、既に複数の要塞を領土内にもつ帝国にはあえて(「同盟の存在」
を知らない以上)投機的技術に投資する意義がないから。
・何故その同盟で「大質量ワープ」は運用されなかったのか
=運用対象を構築する社会状態に最後まで到達しえなかったから。
対帝国の艦隊構築、国力増強に忙殺され、「輸送」は輸送船団、「補給」は惑星基地に頼る状態でついにイゼルローン出口近辺に攻略艦隊
用の補給用要塞さえ構築できない状態だったので。
当方の論点はこうですがいかがですか。
そうそう、書き忘れていたので一つだけ付け加えてから、
今度こそ完全に消えさせていただきます。
「何故無限補給を前提とした行動を、ヤンがしないのか?」
そんなものは存在しないからです(笑)。
これよりシンプルな答えがありますか?
無限補給はIFです。
作中において明示されていないが故に、主張するのは自由ですが、私には量を
計れないものの価値を計る事も、議論に乗せる事も考えられません。
超光速探知も、それがあることは分かっても、数字を上手く扱えなかったために、
俎上に載せなかっただけのことです。
「何故イオン・ファゼカスがワープ船でないのか?」
「当時そんなものはなかったから」
これ以外の答えは一杯あるでしょう。
しかし、パラメータを上手く選べない限り、論考には常に不確定性が
付きまといます。
そして、「私は自然・不自然でなく、可能・不可能で考える」と、何度も云っています。
数字は技師の牙城です(笑)。論理があなたの牙城であるように。
それは、数字でしか崩せはしません。
数字で計れないものを数字の議論に載せ始めたら、それは、もう技師のやる遊び
ではなく、言葉遊びなのです。
そして、私は悪い遊びをしてしまった事だけは皆さんにお詫びしますが、
数合わせで負けたとはちっとも思っていません。
そう云うことは、計算してからいうものですから。
さようなら、お休みなさい。
> 「何故無限補給を前提とした行動を、ヤンがしないのか?」
> そんなものは存在しないからです(笑)。
> これよりシンプルな答えがありますか?
「ヤンが(無限補給の最有効活用法=移動要塞戦略を)思い付かなかったから」
じつにシンプルかつ現実性のある解答です。
「万能にして全知の人間はいない」
ヤン・ウェンリーもそうだっただけの話です。
> 無限補給はIFです。
「作中事実」です。
> 作中において明示されていないが故に、主張するのは自由ですが、私には量を計れないものの価値を計る事も、議論に乗せる事も考えられません。
「最初から論点が違う」事に気付かれたのは貴重な事です。
> 数字は技師の牙城です(笑)。論理があなたの牙城であるように。
> それは、数字でしか崩せはしません。
> 数字で計れないものを数字の議論に載せ始めたら、それは、もう技師のやる遊びではなく、言葉遊びなのです。
レストランで泥酔したサラリーマンか官僚が「俺達は日本国の経済(体制)を支えていうんだぞお、チャラチャラ料理だの酌だのしている貴様等とは人種が違うんだあ、人種があ」とかからんで暴れているみたいですね。
弁償代わりのジャガイモ剥きで皮の厚さ1mm平均で剥けますか?
「これぞ銘酒」という雰囲気を演出してお客様にワインをお注ぎできますか?
それのできない人間が「たかが」とか「遊び」とか言うのは生業や(人生の)方法論を別にして「為人が卑しい」と評されるのですが。
> さようなら、お休みなさい。
明日の朝は冷水での洗顔をお勧めいたします。
すこし心持ちが爽やかになるでしょう。
<敵の所在が「おぼろげながら把握されている」なら、なんで上のように対象空間を細分し、偵察隊を均等に配分する必要があるのです?「どこへくるか分からない」からこその均等配分でしょう。その条件のもとで、ヤン艦隊は一隊の索敵距離が342光秒を越えないように配慮して、偵察隊を配置したのです。
それはなぜか?それ以上の距離では索敵できないからではないでしょうか。>
パンツァーさんとの議論を閲読していく過程でつくづく痛感せざるをえませんでしたが、Kenさんって本当に文章読解能力が徹底的に欠如しているのですね。そりゃパンツァーさんも「この未熟と思われる内容に付き合うのが、はっきり言って苦痛です」とか「割りに合わない」とか言いたくもなるでしょうね。私も全く同感ですし。
いいですか、私が「イオン・ファゼカス号亜光速航行論」の欠陥として挙げている「銀英伝世界における索敵の実態」というのは、「特定の星系に入った『後』の索敵」ではなく「特定の星系に入る『前』の航行予測」とでも言うべきものなのですよ。例の貧弱な索敵システムで敵を探すより前に、まずは敵が必ず通行するであろう星系そのものを特定することから始めなければ、例の索敵システムで敵を全く発見することができないばかりか、下手をすれば敵が自軍を素通りして後方の首都や戦略拠点を襲撃する「滑稽な事態」さえ発生しかねないではありませんか。
私が前の投稿で挙げた「宇宙空間の特定星系における艦隊決戦」「軍艦による宇宙船の臨検」「宇宙船や艦隊同士の偶発的遭遇」などといった事例は、「索敵」以前に、宇宙船や艦隊の航行路や行動パターンなどがある程度推測できることや、遭遇予測星系や宇宙船が集結しやすい宙域などをある程度事前に特定できることを意味するのです。そして、そのような星系や宙域の特定が行われた後で、初めて「索敵」が開始され、最終的に敵なり臨検する宇宙船なりを発見する、これが銀英伝世界における「索敵の実態」であると私は述べていたわけです。
Kenさんが挙げられているバーミリオンの例で言うならば、大規模な索敵活動を行う以前に、そもそもヤンは一体どうやってラインハルトがバーミリオン星域を通行するであろうことを予測しえたのか? そして、なぜラインハルトがバーミリオン星域を通行することがあたかも当然であるかのようにバーミリオン星域「のみ」の索敵に専念しているのか? 私が提示した疑問の本質はまさにここにあるわけです。これは明らかに「事前予測」として敵軍が特定星域を通行することが予め判明していることを意味するのです。事前予測で敵が通行する星域が予め特定されているのであれば、その時点で遭遇予測や索敵範囲も限定されるのですから、例の貧弱な索敵システムをもってしても、銀英伝の作中描写自体が示しているように、敵を発見するのはそれほど困難なことではないでしょう。
そして、このようなことが「ワープを使った艦船」に対してさえ大々的に行われているのであれば、亜光速航行しか行えない宇宙船などはなおのこと、事前の宙域特定でいとも簡単に網を張られて捕捉されてしまうであろうから「イオン・ファゼカス号亜光速航行説」は成立しえない、と私は主張しているのです。だから星系が特定された「後」に行われる「索敵」についてなど、私は前の投稿では一言半句たりとも述べてなどいないわけで、この時点であなたの反論は前提そのものが完全に的を外しており、反論としては完全に問題外なシロモノでしかないのです。
パンツァーさんも仰っていましたが、Kenさんは他人と議論するよりも前に、もう少し自らの文章読解能力を見直すことから始めた方が良いのではないでしょうか。正直、Kenさんを相手に議論している人にとって、「この未熟と思われる内容に付き合うのは、はっきり言って苦痛」でしかないのですしね。
<明らかに「事前予測」として敵軍が特定星域を通行することが予め判明していることを意味するのです。事前予測で敵が通行する星域が予め特定されているのであれば、その時点で遭遇予測や索敵範囲も限定されるのですから、例の貧弱な索敵システムをもってしても、銀英伝の作中描写自体が示しているように、敵を発見するのはそれほど困難なことではないでしょう。>
たしかに、ヤンはラインハルトの本隊がハイネセンを目指していることを知っていました。そしてヤンが「このあたりでローエングラム公を阻止しないと、後がない」といって選んだのがバーミリオンでした。ラインハルトもそれを読んでいました。
~古来、戦場となるべき地点は、敵と味方との暗黙の諒解のもとに選びだされることが多い。今度の場合、バーミリオン星域がまさにそれで、ヤン・ウェンリーもここを決戦場と目すであろうことを、ラインハルトはなぜか疑いもしなかった。~
(風雲篇第七章-3)
忘れてならないのは、バーミリオンでは、ヤン艦隊もラインハルト艦隊も、相手と戦うつもりでした。双方が相手を探し出して遭遇することを目的としていた、ともいえます。これはイオン・ファゼカス号の場合とは、もちろん反対です。イオン・ファゼカスが帝国軍を探し出して遭遇しようとする理由は何もないのですから。
ともあれ、「双方が相手との遭遇を目指した」バーミリオンでさえ、ヤン艦隊は一二五〇憶立方光秒の探索をしました。つまり、そこまでしか探索範囲の絞り込みはできなかったのです。そして、全能力をかたむけて索敵していたはずのFO2がついに相手の実体を発見したのは、40光秒まで接近してからでした。
半径40光秒の球形が、1250億立方光秒の中にいくつ入るでしょうか?
答えは、46万6274個です。アーレ・ハイネセンの時代にも同じ条件が成立すると仮定すると、帝国軍にとっては、その中の一つにイオン・ファゼカス号はいました。どうにか1250億立方光秒まで絞り込んだものの、それだけではイオン・ファゼカスを攻撃はできません。イオン・ファゼカスが見つかるまで、46万6274個のユニットをしらみつぶしに探してゆかねばならないのです。
そして、イオン・ファゼカスの速度が光速に近い亜光速だとすると、その1250億立方光秒の中に、どれだけの間とどまっているでしょうか?1250億立方光秒が球形だとすると、半径は3102光秒だから、イオン・ファゼカスが球の中心にいてさえ、約50分で探査範囲を出てしまいます。つまり46万6274ユニットの一つに割ける時間は0.006秒にすぎません。帝国が「何が何でも逃亡奴隷を捕らえてやろう」と執念を燃やし、(非現実的な話ですが)ヤン艦隊と同じ2000の偵察隊を投入してもやっと12秒です。
また、その12秒の間に行うのは策敵だけではなく、ユニット間を移動する必要があります。帝国軍も、このときはワープでなく通常航行をするでしょうから、そもそも12秒の間に40光秒の距離を移動することはできません。
もちろん帝国軍にとっての条件はもっと悪いのです。上述のように、ヤン艦隊が策敵したラインハルト艦隊とは反対に、イオン・ファゼカス号は「逃げよう」としているのです。絞り込める範囲は、1250億立方光秒よりもずっと大きくなるでしょう。
だめです。ワープをしないイオン・ファゼカスでも、発見することは事実上不可能です。それこそ冒険風ライダーさんのいう「類稀なる僥倖」でもないかぎり。
冒険風ライダーさんのことですから、「それでは銀英伝の各所に整合のとれない部分が出る」と言われることでしょう。しかし、私が上で述べたことには、私の主観的な解釈は入っておりません。「きわめて直接的な」作中記述をもとに数字を計算しただけです。このような考察を覆すには、作品の他の部分との不整合をいうのではなく、当の考察自体を否定証明する必要があります。
> 忘れてならないのは、バーミリオンでは、ヤン艦隊もラインハルト艦隊も、相手と戦うつもりでした。双方が相手を探し出して遭遇することを目的としていた、ともいえます。これはイオン・ファゼカス号の場合とは、もちろん反対です。イオン・ファゼカスが帝国軍を探し出して遭遇しようとする理由は何もないのですから。
> 半径40光秒の球形が、1250億立方光秒の中にいくつ入るでしょうか?
> 答えは、46万6274個です。アーレ・ハイネセンの時代にも同じ条件が成立すると仮定すると、帝国軍にとっては、その中の一つにイオン・ファゼカス号はいました。どうにか1250億立方光秒まで絞り込んだものの、それだけではイオン・ファゼカスを攻撃はできません。イオン・ファゼカスが見つかるまで、46万6274個のユニットをしらみつぶしに探してゆかねばならないのです。
ところで「天気予報」御存知ですね。
惑星上の移動でも大気の揺らぎ、海の潮に左右される事大な訳です。
「光速ですっ飛ぶ質量船」は「完全な真空ルート」で「航路上に恒星系が存在する」なんてかなり限定された航路をとらないと星間物質に衝突してまず「遭難」確定ですね。
ワープよりいくらかでもましな要素といえば一般的ワープの尺度での話で「重力偏差を気にする必要は多少減る」くらいでしょうね。
> そして、イオン・ファゼカスの速度が光速に近い亜光速だとすると、その1250億立方光秒の中に、どれだけの間とどまっているでしょうか?1250億立方光秒が球形だとすると、半径は3102光秒だから、イオン・ファゼカスが球の中心にいてさえ、約50分で探査範囲を出てしまいます。つまり46万6274ユニットの一つに割ける時間は0.006秒にすぎません。帝国が「何が何でも逃亡奴隷を捕らえてやろう」と執念を燃やし、(非現実的な話ですが)ヤン艦隊と同じ2000の偵察隊を投入してもやっと12秒です。
「安全空域」に機雷敷設、艦隊哨戒をおこなえばあとは自滅を待てますが何か。
> だめです。ワープをしないイオン・ファゼカスでも、発見することは事実上不可能です。それこそ冒険風ライダーさんのいう「類稀なる僥倖」でもないかぎり。
「駄目」で「類稀なる僥倖」が必要なのは「Kenさん説の論理的正当性の客観的立証」ではないですか。
> 冒険風ライダーさんのことですから、「それでは銀英伝の各所に整合のとれない部分が出る」と言われることでしょう。しかし、私が上で述べたことには、私の主観的な解釈は入っておりません。「きわめて直接的な」作中記述をもとに数字を計算しただけです。このような考察を覆すには、作品の他の部分との不整合をいうのではなく、当の考察自体を否定証明する必要があります。
ではKenさんは「人類に優しい安全な宇宙」の「約束された平穏な航海」の証明をどうぞ。