・・・・
未練のようですが、一つだけ(これで本当に最後です)追伸させていただきます。
私は、バサード・ラム・ジェットでは、物資は補給できないといいました。
しかし、イオン・ファゼカス号にせよ、その他の宇宙船にせよ、こと燃料とCNHO(水と有機物原料)に関してだけは、補給できる場所が他にもあるのです。
無限動力などという想定は必要ありません。
これまでに言及されたかどうかは分かりませんし、その基礎知識がここで流布していたのかどうかも、分かりません。
しかし、この知識は、実はガンダムを観ていた人であれば、誰でも
知っている程度の話です。
宇宙空間には大した量の水素はありません。
しかし、ガス状惑星は大半が水素とヘリウム(あとはメタン)です。
そして、およそ惑星を持つ恒星系であれば、大半にガス状巨星は存在すると予測されています。
(太陽系のおとなりさん、アルファ・ケンタウリにもあるといわれているくらいです)
大気上層部に係留する巨大なサイフォン(気球付きか、重力制御を使うか)を大気層深部に下ろして汲み上げる事で、核融合燃料は、およそ
惑星を持つ恒星系ならどこででも、無尽蔵に手に入れられるのです。
ガンダムでは木星船団がヘリウム3と水素を汲み上げて、地球圏に
持ち帰っています。
彼らが大規模な施設を必要とするのは、重力制御技術がなく、
地球的規模を遥かに超える木星型惑星の嵐と、大重力の下で船を行動
させる事が困難であるからと、超光速技術がないので、船の足が遅く、
スケールメリットを求めざるを得ないからです。
銀英伝の宇宙船ならば、エネルギーさえ十分持っていれば、重力に
対抗して行動するのには物理的に何の問題もありません。
重力制御技術を持っているのですから。
それに、足も速い(亜光速航行技術と、ワープ技術を持っている)ので、
遠距離観測で惑星を持つ恒星系に狙いを付け、補給してはさっと立ち去るくらいの
ことは造作もありません。
われわれがアルファ・ケンタウリにある惑星を見つけられるくらいなのですから。
もう一つ、CHNO原料については彗星の巣で、彗星を捕まえる事によって手に
入れることが出来ます。
彗星の大半は氷ですが、そこから核融合燃料を得ると同時に、メタン、
アンモニアなどを手に入れる事が出来ます。
これは彗星のスペクトル分析の結果、明らかな事です。
金属材料を得るのはもっと難しいですが、食料合成技術を持っていれば、木星型
惑星に時折立ち寄り、彗星を時折捕まえるだけで、宇宙船は長期間航行が
できるのです。
それらの材料を蓄える場所も、特に考慮する必要はない。
彗星は宇宙船の「外に」係留しておいても、太陽から遠ければ蒸発したりは
しない。もともと、そこにあったものですからね。
水素も、水に変えて彗星にくっつけておけばよい。
慣性制御の技術を持っていれば、戦闘で撃ち合いにでもならない限り、船体に
大した応力は掛からない。係留したものがバラける心配もほとんどないのです。
銀英伝の宇宙船群が燃料の心配をしないのは、何の事はない、
それがどこででも採取できるからと考えてもよいのではないですか?
ちなみに、重力制御技術を持っていようと、移動要塞のような質量の
大きな物体をガス状巨星の近くに寄せるのは困難です。
衛星軌道に乗せていれば重力の影響は受けませんが、
そんな状態では要塞に係留した施設を直接大気層には降ろせません。
普通の物質はそんな状態で掛かる張力には耐え切れませんので。
それに、木星型惑星に接近しすぎると、ロシュの限界により潮汐力で要塞は引き裂かれます・・・重力制御技術で補正は出来ますが、補正方向が設計時に考慮されているとは思えない(無重力の場所に置くように設計された球体の施設で、しかも外向きの張力に対して重力場を補正するように設備を設計するのはとても論理的とはいえないので)。
燃料補給には、どうしても工作船を使わなければなりません。
艦隊と工作船の助けがなければ、移動要塞は(核融合を使っている限り)燃料を補給する事は困難です。
この点で、どうしても(無限動力でないとしたら)移動要塞は
アキレス腱を抱えています。
ワープ航行する場合、加速する時のエネルギー保存則は当てはまらない
・・「加速しない」のですから・・ですが、船のように移動させようと
するとどうしても、莫大なエネルギーを無駄にしてしまうのです。
定置して拠点に使う限り、難攻不落で長期間闘えるでしょうが、
通常空間を移動させようとすると、エネルギー保存則に従う限り、
どうしてもすぐに補給を受けさせる必要が生じるでしょう。
もしもそのような制約のほとんどから、あの世界の宇宙船や要塞を
免れさせたければ・・・
彼らが「核融合」と呼んでいるものが、実は「縮退炉」であったと
したら、制約はほとんどなくなります。
核融合のエネルギー変換効率は0.04%。
シュヴァルツシルト型ブラックホールのエネルギー変換効率は6%。
同量の物質から取り出せるエネルギーは150倍。
ttp://www.asahi-net.or.jp/~ug8y-mztn/rocket.html
シュヴァルツシルト型ブラックホールとは、回転するブラックホールです。
マイクロ・ブラック・ホールであれば、質量は数ミリグラムや数グラム。
彼らが慣性制御技術を持っている以上、それしきのものを係留して操るのは
造作もない。
(触ったらどんな物質であろうと圧潰して飲み込まれてしまうため、
物質的障壁は使えませんが。)
ドイツ名物のペリー・ローダン・シリーズには、1970年代、既にシュヴァ
ルツシルト反応炉が登場しますが、そもそもこの理論は彼らの国の人が考え
出したんですから、まあ知られていて当然かも知れません。
日本では登場が随分遅いですが。
核融合ではあまりに変換効率が低すぎて無理ですが、この動力を使えば、
60兆トンの要塞質量の1%を燃料として使えば、30万×0.01×0.06で
秒速180kmの加速度を得る事が出来ます。
ガイエスブルク要塞外殻に装備されていたエンジンのサイズが見かけ通りで
あれば、その内部にある燃料タンクの容積に、十分これをするだけの燃料を
積む事ができるでしょう。
最も、彼らがこんなもの(MBHの制御技術)を持っていたら兵器として
使わないはずがないので、作中にこう云う設定がなかったのはほぼ確かですが。
これでも、無限動力よりも遥かに論理的で、現実的です。
これをするための理論的基礎は世界中に知られています。
まだ、それをする工学技術がないだけです。
まあこんなのは、所詮数字の遊びです。
キャラクターを掘り下げるほど面白くはないでしょう。
それに、作中の設定を文章から上手く読み取っている訳でもない。
今ある物理・天文・工学的知識の敷衍です。
掲示板上で公言したことを破るのはルール違反です。
それは陳謝させていただきます。
しかし、一応云うだけは云わせて頂きたかったのです。
物理学を杓子定規に守っていても、スペオペが面白くなるわけではない。
そりゃそうです。
前提の違う話に物理法則を持ち込んでも、論破したり討論した事にはならない。
それも、そうでしょう。
それに、誰にでも知識の前提を求めて会話するなどという事が成立する訳もないし。
しかし、特に現存するテクニカルタームがギミックとして使われている場合、
それをあまりに大きく逸脱する解釈は、やはり「違っている」と思う。
物理法則をまるで守らないと云う事は、作中に現れるできごとに対し、読者が恣意的
な解釈をした結果を開陳しあうだけで、誰が正しいとも、確からしいとも定める方法
がなくなります。
それはSFとしてだけでなく、小説を解釈する作法としても、やはり受け入れがたい
人間が出てくるのは致し方ない事なのではないか。
「より気分よい解釈が正しい」として、ファンフィクションを書いているような
状況では、別に構わないといえるかも知れませんが。
そういう、「やはり受け入れがたい」気分が噴出してしまっているのが私の一連の
発言であり、忠告してくださった方には感謝いたします。
<未練のようですが、一つだけ(これで本当に最後です)追伸させていただきます。>
私はさほどSFの科学技術に詳しいわけではないので、参考になります。貴重な意見としてありがたく思います。
1.核融合炉と、核融合炉の燃料としての水素の確保に関して
< 銀英伝の宇宙船群が燃料の心配をしないのは、何の事はない、それがどこででも採取できるからと考えてもよいのではないですか?>
これは、要塞(移動要塞)にも当てはまるかと思います。
<燃料補給には、どうしても工作船を使わなければなりません。艦隊と工作船の助けがなければ、移動要塞は(核融合を使っている限り)燃料を補給する事は困難です。>
でも、工作船を使えば、解決するというわけですね。
2.艦隊(および移動要塞)の運用について
<定置して拠点に使う限り、難攻不落で長期間闘えるでしょうが、
通常空間を移動させようとすると、エネルギー保存則に従う限り、どうしてもすぐに補給を受けさせる必要が生じるでしょう。>
今回の一連の投稿以前は、ほとんど意識していなかったのですが、ワープ航法というのは、燃費の向上という点においても画期的なものですね。
艦隊についても、移動化された要塞に関しても、基本的にはワープ航法で移動するものではないでしょうか。艦隊に関しては、戦闘中は、通常エンジンによる移動なのでしょうが。
特に「移動要塞」に関しては、主として姿勢制御用に通常エンジンを使うだけでよければ、さほど燃費を考える必要もないかと思います。
<彼らが「核融合」と呼んでいるものが、実は「縮退炉」であったと
したら、制約はほとんどなくなります。>
まったく私の知らない話なので、コメントのしようがないです。でも、全体の論旨からして、この技術を適用すれば、艦隊についても、移動化された要塞に関しても、航行に要する燃費の問題は解決されそうですね。
> しかし、特に現存するテクニカルタームがギミックとして使われている場合、
> それをあまりに大きく逸脱する解釈は、やはり「違っている」と思う。
観察中・・・さんが、どういう文脈でこの言葉を使っているのかが、私にはわからないのですよ。
前にも述べましたが、
1.銀英伝に出てくる艦隊を含めた航行技術一般が、「現存するテクニカルタームからあまりに大きく逸脱する解釈」であって、銀英伝そのものがおかしい。
のか、
2.銀英伝に出てくる艦隊を含めた航行技術一般は、「現存するテクニカルタームからあまりに大きく逸脱する解釈」ではないが、
移動要塞が「無補給」でよい、ということは、「現存するテクニカルタームからあまりに大きく逸脱する解釈」に該当する。
なのか、どちらで使っているのか、ということです。
「無補給」に関しては、上で
< 銀英伝の宇宙船群が燃料の心配をしないのは、何の事はない、それがどこででも採取できるからと考えてもよいのではないですか?>
を引用した際に述べたことを参考にしてください。
特に、No3529では、
<<結論としては、前記1「銀英伝世界における航行技術一般が、「現実の物理学」と相容れない」ということでしょうか。>
・・・と云う事です。>
と回答されておりましたし。
観察中・・・さんが、前記の言葉を、2の意味で使っているのであれば、それは論ずる意味があります。
つまり、移動要塞は、銀英伝の世界から逸脱したもの、という結論になるわけですから。
ただし、
<物理学を杓子定規に守っていても、スペオペが面白くなるわけではない。
そりゃそうです。>
読み手の都合に合わせて、
場合によっては「物理学を杓子定規に守る」が、場合よっては「物理学を杓子定規に守る」ことをしないで、
しかもその動機が、
「スペオペが面白くなる」ためだとしたら、
私には聞くべき意見とは思えないのです。
現時点の結論として、
銀英伝の宇宙船群と、移動要塞との間には、技術的乖離が存在しないように思います。
>八木さん
<それでは帝国軍は、なぜ球体型小型要塞を大量に造り移動型補給基地としなかったのか?
それは要塞を造るための生産ラインが無かったからだと思います。なぜかと言うと、帝国が最後に造ったと思える要塞はイゼルローンだからです。難攻不落の要塞を造り、帝国本土への叛乱軍の侵攻がまず不可能になれば、国内守備用に新たな要塞を造る必然性もなく、ガイエスブルク・レンテンベルク・ガルミッシュなどの既存要塞だけで十分だからです。それならば、要塞生産ラインがあったとしても、艦艇生産ラインに変更するでしょう。
イゼルローン要塞建設から早30年余。当時の要塞建設を行った技術者たちも、すでに第1線を退き隠居しています。多分、「俺たちが造った要塞をよくも奪いやがってこの叛乱軍ども」とでも庭先で茶をすすりながら思っていそうです(笑)。>
これは考えにくいのではないでしょうか。銀英伝5巻における「神々の黄昏」の最中にラインハルトが「フェザーン遷都」の構想を考えていた時、すでにラインハルトはフェザーン回廊の両端に「イゼルローン要塞のような軍事拠点」を設置する構想を考えていましたし、実際、フェザーン遷都後に「シャーテンブルク」と「三元帥の城(ドライ・グロスアドミラルスブルク)」の2つの要塞の建造が決定しているからです。また銀英伝10巻P62~63では、ミッターマイヤーが帝国本土の防衛を強化するために、イゼルローン回廊帝国側出口付近に「三元帥の城」級の要塞を建設する構想を考えている描写が存在します。
「帝国における最後の要塞建造がイゼルローンである」という八木さんの想定が仮に正しいとするならば(そんな作中記述は私の記憶にはないのですけど)、帝国における要塞建造は30年以上も行われていなかったことになるわけですが、かくのごとく、要塞建造が作中でもごく当然の選択肢のひとつとして語られていることを考えれば、要塞の生産ラインは壊滅していないか、もしくはいつでも復活させられる類のものでしかなかったと見るのが妥当でしょう。
そして、何度も述べているように、移動要塞の潜在的脅威は既存の戦争概念を吹き飛ばすほどの大きな可能性を秘めているのですから、ラインハルトはその可能性に絶対着目するべきだったのですし、仮に生産ラインがなくなっていたのであれば、多少の無理を伴ってでも復活させるべきだったのではないでしょうか。そしてそれは、要塞建造に関するキャラクターの言動を見る限り、ラインハルトの権力であればいともたやすく実現させられるであろう程度の問題でしかないのですからなおのことです。
このラインでの作品擁護は難しいのではないかと思いますが。
<「しかし大型要塞はともかく小型要塞なら建設できるだろう」 この疑問にも答えがあります。
艦隊の再建のため、新艦隊の編成のため、帝国の軍事工場ではせっせせっせと軍艦を造っており、とても小型要塞などを造る余力がなかったからです。
銀英伝2巻の終了時点において、帝国軍の正規編成の艦隊はどれだけあったでしょうか? ラインハルト・ミッターマイヤー・ロイエンタール・ケンプ・ルッツ・ワーレン・メックリンガー・ビッテンフェルト・ミュラー・ケスラーぐらいですか。シュタインメッツは半個艦隊未満ですね。
そしてほぼ1年後のラグナロック作戦時の帝国正規艦隊です。
フェザーン侵攻軍=ラインハルト・ミッターマイヤー・ミュラー・シュタインメッツ・ワーレン5個艦隊
予備兵力=ビッテンフェルト・ファーレンハイト2個艦隊
イゼルローン方面軍=ロイエンタール・ルッツ・レンネンカンプ3個艦隊。
本国兵力=メックリンガー・ケスラー・アイゼナッハ3個艦隊
帝国軍は要塞決戦で1個艦隊を失ないました。しかしそのミュラー艦隊は半年後には再建されました。
また新たにシュタインメッツ艦隊が正規編成になり、さらにファーレンハイト・レンネンカンプ・アイゼナッハの3個艦隊が新設されています。半年~1年で帝国軍は、7万隻余の新造艦で5個艦隊を再建・編成しました。さらにリップシュタット戦役では、国内全艦隊が動員され各艦隊がそれなりの損害を受けています。貴族連合軍の降伏した艦での補充以外にも、新造艦がさらに1万隻近くは必要だと思います。
同盟軍が約1年の間に、要塞決戦後のヤン艦隊の補充、第14・15艦隊の新設で、約2万5000隻の新造艦建設だったことを考えると、帝国軍は同盟の3倍以上である約8万隻の新造艦を造っています。>
リップシュタット戦役後の戦力増強に関しては、「貴族連合軍の残存戦力を吸収して再編成した」で、建造すべき新造艦をかなり減らす事ができるのではないでしょうか。そもそも、貴族連合軍の推定総戦力16~17万隻のことごとくが、ラインハルト軍によって全て消滅させられているとはとても考えられませんし。
現にキフォイザー星域会戦時には、惨敗したリッテンハイム侯軍5万隻の内、完全破壊された艦艇や逃亡した艦艇などを除くと、約2万4000隻あまりがキルヒアイス艦隊に捕獲されたり降伏したりしており、普通に考えれば、これらの艦艇は遅くても戦後にはラインハルト軍にそのまま編入されたものと見るのが妥当です。元々は同じ帝国軍艦艇ですぐに流用が効くのに、それをわざわざ破壊しなければならない理由などどこにも存在しないのですから当然でしょう。
そして、このようなケースでラインハルト軍に投降した貴族連合軍の艦艇は他にも数多く存在すると思われますし、ファーレンハイト麾下の艦隊のように戦後降伏してラインハルト麾下に加わった艦隊などもいますので、リップシュタット戦役全体では、最低でも5~6万隻以上の貴族連合軍麾下の戦力がそのままラインハルト軍の増強戦力となって加わっているものと考えられます。
また、ラインハルト麾下の将帥の内、3巻以降のケスラーは憲兵総監と帝都防衛司令官の任にあって艦隊を保持してはいませんので、彼は艦隊戦力として考える必要はありません。そして一方、2巻まで彼が指揮していた艦隊は、そのまま別の人間に委ねてしまうことができるのです。
これらの事象を全て考慮すれば、リップシュタット戦役後の帝国ではいちいち8万隻もの艦艇を建造する必要などない事がお分かりいただけるでしょう。リップシュタット戦役終結時~「神々の黄昏」作戦発動までの間に新規に建造された艦艇は、第8次イゼルローン要塞攻防戦の損害復旧を考慮してもせいぜい1~2万隻前後もあれば、「神々の黄昏」作戦発動時の陣容を整えることは充分に可能でしょう。しかもさらに、もしラインハルトがシャフトから移動要塞論を提唱された時にその潜在的脅威に気づいてさえいれば、あの愚かな第8次イゼルローン要塞攻防戦が行われることもなかったでしょうから、この損害さえも全く考慮する必要がなくなります。
ラインハルトが要塞の大量建造体制を発足させる際の障害など、どこにも存在しないように思われるのですけど。
<え~、ちなみに5巻のバーラトの和約以降ですが、この後も要塞の建設は無理です。
同盟軍のヤン艦隊の手によって大損害を被った艦隊の再建がまっているからです。シュタインメッツ艦隊・レンネンカンプ艦隊・ワーレン艦隊・ミュラー艦隊・ラインハルト直属艦隊の5個艦隊。またランテマリオ会戦でも一番被害を受けたビッテンフェルト艦隊を始めとして、全ての艦隊が大小の損害を負っています。造ったそばから破壊されてはキリがありません。
ラグナロック作戦前に1年間で5個艦隊相当の艦艇を建造したのに、またも5個艦隊相当の艦艇を建造するはめになった帝国軍事工場。2年近くも休日返上で働かせられる工員たちの涙と苦しみは、如何ほどだったでしょうか。(T T)
と言うわけで、帝国の軍事工場は常に艦艇を建造せざるを得ず、要塞を造るだけの余力は全くなかったと私は確信しています。
これが帝国軍が移動要塞を造れなかった真相なのです。(人物面の理由ではなく、国内設定面での理由ね) 軍事工場に余力が出来たときには戦争は終結し、移動要塞は無用になっているでしょう。>
これも前2者で説明したように、フェザーン遷都の際に要塞建造が決定されていることや、実際に5個艦隊分もの艦艇を建造する必要もなかったことで、すでに論の前提条件自体が崩壊しています。帝国が要塞を大量に建造するのは決して難しいことではないと結論しても良いのではないかと。
>ラインハルトの「戦争したい病」
>ガイエスブルク要塞への怨み(笑)
この2つでは、ラインハルトが移動要塞の潜在的脅威を全く顧みなかった理由の説明にはなっても、移動要塞を使わなかったラインハルトの愚劣さと先見性のなさを否定するどころか、むしろその補強にすらなってしまうのではないでしょうか。
それどころか、あれらの説明だと「移動要塞の潜在的脅威を知っていながら、ラインハルトはたかが個人的な事情でそれを使おうとしなかった」ということになりますので、私が評価した以上にラインハルトは頑迷かつ悪質な低能ということにもなりかねません。自分の個人的なプライドと矜持などのために移動要塞の潜在的脅威を顧みず、結果として自軍や将兵達を危機に陥れ、多くの部下や将兵達を死地に追いやるラインハルトは、かつて自分が否定したルドルフや門閥貴族達とどこが違うというのでしょうか。
たかだかラインハルトの個人的・感情的な事情程度の話では、ラインハルトが移動要塞の潜在的脅威を全く活用しようとしなかった行為を擁護することはできないでしょう。特に、そんなもので危機に陥ったり、死地に追いやられたりしたラインハルト麾下の部下や将兵達にしてみればたまったものではないでしょうしね。
>Kenさん
<一つ目は、冒険風ライダーさんのスタンスに関する確認です。ライダーさんは、移動要塞を使用できる「可能性がある」と言われているのではなく、「絶対に使用できる」、言い換えれば「使用できないという可能性はない」と言われていると、考えてよろしいでしょうか?したがって、論争相手に求めるのは、「使用できないことを証明する」ことではなく、「使用できる、という理論に穴を開けること」、言い換えれば、「できるかできないか分からない」という結論へもってゆくことだと?>
これは反論する側の反論内容次第といったところですが、基本的に私は、最悪でも「移動要塞論は成立する可能性は『ゼロではない』」ということさえ証明できれば、それで自分の論は充分に成立すると考えています。「できるかできないか分からない」でも、「できるかもしれないのだから移動要塞の潜在的脅威や可能性について検討するべきだった」という理論が導き出せることによって、「アレほどまでに補給問題を重要視していながら、移動要塞の潜在的脅威を『全く顧みなかった』ヤンやラインハルトは愚かである」と評価する今回の私の主張は立派に成立するのですから。もちろん「可能性は高い」「確実にできる」ということまで証明できれば、それは私の主張の正当性をより強化させることになるわけですから、こちらも主張できれば主張していくことにはなるのですが。
そして、私の論に対して異論を唱える人達には、「私が示した可能性が『全くない』もしくは『何らかの形で【完全に】無効化している』ことを立証する」というテーマに基づいた反論を当然求めることになります。もちろん反論するに際しては、銀英伝の作品設定や作中記述を何ら損なわない忠実に添った形にしなければならないこともまた絶対条件となることは今更言うまでもありません。これは私から見ても苛烈なまでに厳しい超高難易度の反論条件ではないかと思うのですが、何度も言っている通り、私に反論する人達が私の主張を覆して銀英伝の作品擁護を達成するには、それしか方法はないのです。
こんなところが今回の議論に関する私の基本スタンスですが、お分かり頂けましたでしょうか?
<次は、銀英伝世界の設定に関する私自身のスタンスです。私は、銀英伝は、私たちの世界と同じ物理法則が成立する世界として捉えています。「ロード・オブ・ザ・リングス」で描かれるような完全な架空世界でも、「スターウォーズ」の冒頭に現れる「大昔の銀河系、すごく遠いところ」でもありません。私たちの歴史を1600年延長しただけの、宇宙規模では「近未来」に属する世界です。不沈戦艦さんは、銀英伝世界がファンタジーであることの理由として、ワープ航法を挙げられましたが、それだけでは根拠が弱いと、私は思います。そもそも、現代物理は、例えば永久機関を否定するのと同列に、超光速飛行を否定しているわけではありません。相対論は、私たちが高校で教わる「f=ma」つまり物体を押したり引いたりして加速していっても、光速に達することはできない、といっているだけです。>
その「現代世界の物理法則」を、「銀英伝世界の設定」をベースにして論を展開している私の主張に対して「そのまま」当てはめて反論しても、それは私の論を素通りして、私の論のベースとなっている「銀英伝世界の設定」そのものに対する攻撃となってしまい、銀英伝世界の世界観や作中設定、さらには銀英伝という作品そのものをも破壊ないし否定してしまうだけではないか、ということを、不沈戦艦さんも私も今まで何度も何度も繰り返し述べてきているのですよ。私が「現代世界の物理法則」に基づいた作品批判でも行っているのであれば話は別でしょうが、それとは全く前提が異なる主張に対してその手の反論は意味がない、ということです。
Kenさんが「銀英伝世界がファンタジーである」ということに対して感覚的な違和感があるのであれば、「未来からやってきたドラえもんが出す未来道具(たとえば「どこでもドア」や「もしもボックス」など)の効果的な使い方について議論しているところに『こんなものは現代世界の物理法則を無視しているトンデモ設定ではないか!』などと噛みついても意味がない」というたとえ話ではいかがでしょうか? Kenさんにはむしろこちらの例の方が、不沈戦艦さんの仰りたかったテーマが非常に分かりやすく見えてくるのではないかと思われるのですが。
それでも納得できないというのであれば、「現代世界の物理法則」と「それを超克する未来技術」とを切り離して考えてみてはいかがでしょうか。確かにKenさんの仰る通り、銀英伝世界は現実世界の延長線上に存在する未来世界という世界設定となっていますし、特異な物理法則などが新規に成立している世界でもありませんから、「現代世界の物理法則」が適用されるべきだと考える気持ちは理解できます。しかし、それと同時に銀英伝世界には、「現代世界の物理法則」だけでは到底説明も理解もできない様々な作品設定もまた「現代世界の物理法則」と一緒に存在しているわけです。それらの作品設定は当然のことながら「現代世界の物理法則を超克する未来技術」によって成立しているとみなすのが妥当であり、それを無視して「現代世界の物理法則『のみ』」を当てはめて「この設定は成立しえない」などと論じてもあまり意味がありませんし、作品否定はできても作品擁護は決してできないのです。
だからこそ、不沈戦艦さんも私も、私に対してその辺りの認識を欠いたまま「現代世界の物理法則『のみ』」に基づいた反論をしてくる人達に対して、「『作品世界の設定』を前提条件とした反論で応じて下さい」と何度も繰り返し述べざるをえなかったわけです。その辺りの事情は考慮して頂けるとありがたいですね。
<奇しくも、ライダーさんを含む数名の方が持ち出した「バサード・ラム・ジェット」もその例です。ご存知の通り、これは宇宙船が宇宙空間を進むことで途上の星間物質をすくい取り、それを新たな推進燃料とするものです。問題は、観察中さんが挙げておられるとおり、星間物質の分布密度です。加速対象の物体が大質量であるほど、必要な量の星間物質を確保するのに、より広範囲からすくい取らねばならず、すくい取るためのエネルギーと、すくい取った星間物質から得られるエネルギーが、どこかでかならずクロスします。そのクロスポイントが、宇宙船よりは大きく要塞よりは小さい「どこか」にあれば、艦船の補給を心配する必要がなくても、要塞は事情が異なる、という結論になります。>
<しかし、もう一つの可能性があります。燃料は豊富にあり高価でもないが、ガイエスブルグの積載能力に限界がある、というものです。つまり、燃料補給は簡単ですが、「こまめに」せねばなりません。そしてひとたび帝国本土を離れ、イゼルローン回廊や同盟領へ乗り込むと補給を受けられないので、満タン燃料で航行できる距離を航行したら、そこまでです。その距離が、イゼルローン要塞までの距離よりは大きく、ランテマリオ星域までよりは小さければ、イゼルローン攻略に投入した要塞を、ラグナロックでは使用できなかった理由になります。>
こんな論法を使いますと、今度は「長征一万光年」の際に建造されたイオン・ファゼカス号や、イゼルローン要塞の自給自足システムなどとの整合性が完全に取れなくなってしまうのではないでしょうか。イオン・ファゼカス号の大きさは長さ122㎞、幅40㎞、高さ30㎞という巨大さで、質量も推定実に234兆2400億トンとガイエスブルク要塞の5~6倍近くにも達しています。そしてこれまた以前にも述べたように、イオン・ファゼカス号はどこからの補給も全くアテにできなかったという制約までついており、にもかかわらず広大な宇宙空間を立派に航行してのけたのです。
イオン・ファゼカス号もまた、燃費の問題は全くと言っても良いほど語られておらず、巨大質量も全く問題になっておりません。Kenさんの主張が正しいのであれば、イオン・ファゼカス号が生まれた「見捨てられた酷寒の惑星」アルタイルの奴隷階級の人々は、一体どこから莫大な燃料を調達してきたというのでしょうか? 外部から資材を調達することにも難があった彼らに、莫大な燃料を外部から調達できる能力が備わっていたとは到底考えられませんから、予め備蓄してから航行するという方法も取れません。こんな惨状を呈していた奴隷階級の人々がイオン・ファゼカス号を発進させることができたのに、そちらは黙殺して移動要塞に対してのみ「現代世界の物理法則」が適用されなければならないのでは、論理的に見ても少しおかしいのではないでしょうか。
また、もしKenさんが仰る質量問題が正しいのであれば、イゼルローン要塞の自給自足システムが破綻をきたしてしまう可能性もないとは言い切れないでしょう。今までの議論内容を振り返ってみると、「イゼルローン要塞の自給自足システムは星間物質の吸収によって成り立っている」とかいった作品擁護論が成立しているようですが、Kenさんの主張は言うまでもなくこの理論をも完全にぶち壊してしまいます。Kenさんの主張に従えば、巨大質量を誇るイゼルローン要塞が「自給自足システム」に必要となる充分な星間物質を調達できるか否かさえも疑問となってしまうのですから。
そして、前々回のKenさんの投稿No.3523で展開されていた「文明衰退論」も、こと燃費の問題に関しては全く当てはまらず、ガイエスブルク移動要塞の際にも何ら問題として浮上していないことは以前の投稿で述べた通りですので、移動要塞に対してのみ「質量問題」を適用するのは難しいのではないでしょうか。
ところで、Kenさんと議論のやり取りをしていて思ったのですけど、どうも一連の議論でKenさんが反論の道具として使っている「現代世界の物理法則」は、それを無視している(ようにしか見えない)銀英伝世界の作品設定と無理に整合性を取ろうとさせているがために、全体的に中途半端な論法となってしまっているように感じますね。
たとえば「質量問題」に関しても、これを究極のところまで追求していくと、最終的にはワープ航法や超光速通信、その他諸々のSF設定などにも同じ観点から疑問符をつけざるをえなくなってしまうのではないでしょうか。ワープ航法などは銀英伝でも述べられている初歩の相対性理論の概念を超越した作中設定なのですから、これに「現代世界の物理法則」に基づいた「質量問題」を当てはめると、とんでもない事態が起こるような気がするのですが、これに関しては何ら問題にならないのでしょうか? もし問題にならないというのであれば、何故問題にならないかを明らかにするべきですし、「SF設定だから」という理由で存在を肯定するのであれば、移動要塞だって「銀英伝の作中設定」としてきちんと存在しているのですから、その理由で完全に肯定してしまえるのではありませんか?
Kenさんの理論のベースとなっている「現代世界の物理法則」の銀英伝世界における中途半端さと限界が、このような形で現われているように思えるのですが、いかがでしょうか。
少し見ない間にまた移動要塞関連の話題で盛り上がっていますね。
自分はヤン一党による移動要塞戦略の実現性や有用性に関しては政治情勢・経済事情・技術問題・人的資源などの様々な面から考えて否定的と言うより懐疑的な立場です。しかし、話題になっている「自給自足システム」や「燃料問題」に関しては、原作の記述を自分なりに尊重及び検証した結果としては、冒険風ライダーさんに軍配を上げます。
1、自給自足システムについて
銀英伝8巻 P204下段~P205上段
<「ヤン提督がいつもおっしゃっていたことはイゼルローン回廊の両端に、異なる政治的・軍事的勢力が存在してこそ、イゼルローン要塞には戦略的価値が生じる、ということでした」
「うん、それはおれも聞いたことがある」
「いまイゼルローンが安泰でいられるのは、皮肉なことに、その戦略的価値を失ってしまったからです。価値が回復されるとき、つまり帝国に分裂が生じるとき、イゼルローンにとって転機がおとずれるでしょう」
「ふむ……」
「どのみち、急速に事態が変わるとは思っていません。国父アーレ・ハイネセンの長征一万光年は五〇年がかりでした。それぐらいの歳月は覚悟しておきましょうよ」
「五〇年後には、おれは九〇歳になってしまうな、生きていれば、だが」>
上は冒険風ライダーさんが「無限の自給自足システム」の存在の根拠として最初に1726で挙げられていたユリアンとキャゼルヌの会話ですが、これについて「単なる身内の間の冗談話ではないのか」という意見がありました。それについて1896で冒険風ライダーさんは、
銀英伝9巻 P75下段~P76上段
<「正しい判断は、正しい情報と正しい分析の上に、はじめて成立する」
とも、ヤン・ウェンリーは言っていた。
(中略)
したがってユリアンは、自分の思案と、補佐役たちの助言のおよぶ範囲で、より多くの情報をえるため、さまざまな手を打っていた。いつかイゼルローン回廊の両端で政治的・軍事的な変動がおとずれるだろう。いま皇帝ラインハルトは、イゼルローン回廊を無視した新しい宇宙の秩序を構築しつつある。変動は、彼の権威の華麗な甲冑に亀裂が生じたときにこそ、おとずれるにちがいない。>
銀英伝9巻 P133上段~下段
<ユリアンは、かつてアレックス・キャゼルヌに言明したことがあった。イゼルローン回廊の両端に、ことなる政治的・軍事的勢力が存在するときにこそ、イゼルローン要塞に戦略的価値が生じる。ただそれは半世紀ほど将来のことになるかもしれない、と。
半世紀どころか、ヤン・ウェンリーの不慮の死から、まだ半年もたっていない。タイム・スケールは一〇〇分の一以下にまで縮小されてしまった。だが、考えてみれば、皇帝ラインハルトがローエングラム伯爵として歴史に登場してから、まる五年もたってはいないのだ。歴史はいま悠々たる大河としてではなく、万物を飲みつくす巨大な滝として姿をあらわしつつあるのだろうか。>
といった他の記述を用いて反論なさっていますが、他にも帝国側の人物が「イゼルローンには孤立しても何百万もの人口を数十年という単位で維持出来る自給自足システムが存在する」事を肯定している描写があります。
銀英伝8巻 P110下段
<ミッターマイヤーは単なる戦術家ではなく、戦略家としての識見をそなえていたから、イゼルローン要塞およびエル・ファシル星系に旧同盟の残党が結集すれば彼ら自身に不利な事実が増大する一面があることを承知していた。帝国としては、最初から敵の結集地が判明しており、攻撃は困難でも封鎖は容易なのである。いま、すくなからぬ犠牲をはらって軍事力による勝利に固執する必要があろうとは思えないのだった。
さらにこれらの勢力は、現在のところヤン・ウェンリーを中心とした強固な人格的結合によって統一されているのであり、ヤンが存在しなくなれば雲散霧消してしまうかもしれない。この時点でミッターマイヤーにはそのような見解もあった。もっとも極端にいえば、ヤンを回廊にとじこめてその死を待つという気長な方法すら最終的にはとりえるのだ。>
1巻P162上段でシトレ元帥が二九歳のヤンを「医学上の平均寿命の三分の一もきてない」と評している事、更に7巻P178下段で七三歳(P144上段)で戦死したビュコックが「医学上の平均寿命になお一五年以上もとどいてはいなかった」と評されている事から考えて、銀英伝における平均寿命は九十歳前後と考えられます。つまりあの時点(宇宙暦八〇〇年)で三三歳(8巻P136上段)であるヤンが平均寿命で老衰死するには六十年近い時間がある事になります。
帝国軍の重鎮であるミッターマイヤーは、無論イゼルローンの生産能力を熟知しているでしょう。その彼が「ヤンを回廊にとじこめてその死を待つ方法すら最終的にはとりえる」と冗談ではなく真面目に考えているのですから(事故死などの不確定な要因を考慮に入れるとは考えにくい)、やはり「イゼルローンには孤立しても平時なら何百万もの人口や軍備を数十年という単位で維持出来る効率のよい自給自足システムが存在する」という設定になっているのではないでしょうか。
ただ、このシステムも決して余裕のあるものではないらしく、「補給物資をととのえるにはイゼルローンの生産力では時間を必要とする」(8巻P113下段)そうですし、ヤン自身も「『どうにか』自給自足出来る」(8巻P216下段)と言っています。また、ラグナロック作戦時に同盟の国防調整会議は、イゼルローンからの要請があれば軍需物資の輸送を即行できるよう準備をする決定を下しています(四巻のP194上段)。ユリアンが脱落者に倉庫を開放したのは(8巻P203上段)、皮肉にも脱落者が続出して残留人員が百万人に満たなくなったので(8巻P205下段)生産力に余裕が出来たからでしょう。
という訳で、イゼルローンに効率のよい自給自足能力はあるものの、さすがに「無限の」と形容するには程遠く、基本的に戦時中において数百万の人口や軍備を支えるには外部からの補給がないと、いささか苦しいのではないかと思います。
ただ、これは「移動要塞を駆使したゲリラ戦術」の障害にはならないでしょう。物資が足りなくなったら準備が整うまで移動要塞ごと隠れるなり逃げ回るなりするか、いざとなれば移動要塞で帝国軍の補給基地を襲って強奪すれば解決する事ですので(8巻P216下段でヤン自身もイゼルローンに籠城する策の他、充分な兵力があればガンダルヴァの帝国軍基地を急襲して物資を得て方向を転ずるという構想を持っていました)。
2、燃料問題について
自分が調べた限りでは、確かに軍艦に関しては燃料の不足が問題になったという記述は存在しません。この辺りの事実はちゃんと受け止めた方が良いでしょう。
銀英伝世界の艦船は核融合炉で動いているので、銀英伝世界の核融合の技術が現在より遥かに進歩しているでしょうし、プルトニウムより遥かに効率のよい核燃料となりうる元素が発見されている可能性もあります。
しかし、軍艦以外では3巻P28上段では単座式戦闘艇スパルタニアンで出撃したユリアンがスパルタニアン本体と中性子ビームの双方のエネルギーが残り少なくなって母艦に帰投するという描写がありますし、外伝『白銀の谷』でもラインハルトとキルヒアイスが搭乗した機動装甲車の水素電池がヘルダー大佐の陰謀により途中で切れるという話があります。この辺りから考えて、上記の様な核融合炉が存在したとしてもコンパクト化には限界があり、搭載するには少なくとも軍艦並の大きさが必要である様です。
ところで、一六〇〇年後(以前間違えて三〇〇〇年と書いてしまいました‐‐;)の銀英伝世界では、果たして現代物理学がどこまで通用するのでしょうか?現代の物理学は未完成の段階だそうで、物理学の研究が進めば質量保存則などもその制約が著しく緩くなるかも知れませんし、質量保存則に反しない意外な抜け道も発見されるかも知れません。銀英伝世界の物理学や技術がどこまで進歩しているのか不明な以上、個人的には議論を行なう上では現代物理学の定義より原作の記述に重きを置いた方が確実なのではないかと思います。
さすがタナ撃つが誇る論客の1人、冒険風ライダーさん。今までとは比べものにならない打撃戦です。
<これは考えにくいのではないでしょうか。銀英伝5巻における「神々の黄昏」の最中にラインハルトが「フェザーン遷都」の構想を考えていた時、すでにラインハルトはフェザーン回廊の両端に「イゼルローン要塞のような軍事拠点」を設置する構想を考えていましたし、実際、フェザーン遷都後に「シャーテンブルク」と「三元帥の城(ドライ・グロスアドミラルスブルク)」の2つの要塞の建造が決定しているからです。また銀英伝10巻P62~63では、ミッターマイヤーが帝国本土の防衛を強化するために、イゼルローン回廊帝国側出口付近に「三元帥の城」級の要塞を建設する構想を考えている描写が存在します。>
え~、敢えて反論をするとすれば、それはあくまでも5巻では構想にすぎず、遷都後は計画の段階であり、要塞の建造は開始していません。ミッターマイヤーら軍幹部も拠点の設置場所の視察をしたぐらいです。
フェザーン遷都初期は、強大な艦隊戦力で首都を防衛します。そして自由惑星同盟、ヤン・ウェンリー一党、その後のイゼルローン共和政府を討ち滅ぼし、銀河が統一され全艦隊の維持が薄れてきた時点で、艦隊削減と同時に要塞建設の開始かもしれません。
< 「帝国における最後の要塞建造がイゼルローンである」という八木さんの想定が仮に正しいとするならば(そんな作中記述は私の記憶にはないのですけど)、帝国における要塞建造は30年以上も行われていなかったことになるわけですが、かくのごとく、要塞建造が作中でもごく当然の選択肢のひとつとして語られていることを考えれば、要塞の生産ラインは壊滅していないか、もしくはいつでも復活させられる類のものでしかなかったと見るのが妥当でしょう。>
イゼルローンが最後というのは、私の仮説です。まぁ可能性があるかも程度ですね。上記で書いたとおり、まだ構想・計画の段階であり、すぐさま着工できない可能性も捨て切れませんよ。しかしこれでは水掛け論になってしまいますが。
< そして、何度も述べているように、移動要塞の潜在的脅威は既存の戦争概念を吹き飛ばすほどの大きな可能性を秘めているのですから、ラインハルトはその可能性に絶対着目するべきだったのですし、仮に生産ラインがなくなっていたのであれば、多少の無理を伴ってでも復活させるべきだったのではないでしょうか。そしてそれは、要塞建造に関するキャラクターの言動を見る限り、ラインハルトの権力であればいともたやすく実現させられるであろう程度の問題でしかないのですからなおのことです。>
ここは、最後の返答と被ってしまうので最後に回します。
< リップシュタット戦役後の戦力増強に関しては、「貴族連合軍の残存戦力を吸収して再編成した」で、建造すべき新造艦をかなり減らす事ができるのではないでしょうか。そもそも、貴族連合軍の推定総戦力16~17万隻のことごとくが、ラインハルト軍によって全て消滅させられているとはとても考えられませんし。
> 現にキフォイザー星域会戦時には、惨敗したリッテンハイム侯軍5万隻の内、完全破壊された艦艇や逃亡した艦艇などを除くと、約2万4000隻あまりがキルヒアイス艦隊に捕獲されたり降伏したりしており、普通に考えれば、これらの艦艇は遅くても戦後にはラインハルト軍にそのまま編入されたものと見るのが妥当です。元々は同じ帝国軍艦艇ですぐに流用が効くのに、それをわざわざ破壊しなければならない理由などどこにも存在しないのですから当然でしょう。
> そして、このようなケースでラインハルト軍に投降した貴族連合軍の艦艇は他にも数多く存在すると思われますし、ファーレンハイト麾下の艦隊のように戦後降伏してラインハルト麾下に加わった艦隊などもいますので、リップシュタット戦役全体では、最低でも5~6万隻以上の貴族連合軍麾下の戦力がそのままラインハルト軍の増強戦力となって加わっているものと考えられます。>
艦隊決戦の数的描写が出たのは、キフォイザー星域会戦とミッタマイヤーとシュターデンの初戦だけです。
キフォイザー星域会戦での大量の捕獲艦こそ特別であり、他の全ての会戦では貴族連合軍は敗北したものの、残存艦は全てガイエスブルクに撤退し、最終決戦で戦力のほぼ全てが壊滅したと考えても、具体的な数字が出ていない以上、間違いではありません。
またファーレンハイトにはごく少数の分艦隊のみ残され、残りは決戦に投入されたかもしれません。
< また、ラインハルト麾下の将帥の内、3巻以降のケスラーは憲兵総監と帝都防衛司令官の任にあって艦隊を保持してはいませんので、彼は艦隊戦力として考える必要はありません。そして一方、2巻まで彼が指揮していた艦隊は、そのまま別の人間に委ねてしまうことができるのです。>
あ~、ここで白旗を揚げます。ヽ(  ̄д ̄;)ノ
リップシュタット戦役でラインハルト軍の総兵力を10万隻として、その損害が例え3割だとしても3万隻。キフォイザー星域での捕獲艦が2万4000隻もあれば、ほとんど戦力は回復してしまいますね。
ここは私の考察不足であり、完全なミスです。この論域では降伏します。冒険風ライダー閣下の寛大な処置を願います。
< これも前2者で説明したように、フェザーン遷都の際に要塞建造が決定されていることや、実際に5個艦隊分もの艦艇を建造する必要もなかったことで、すでに論の前提条件自体が崩壊しています。帝国が要塞を大量に建造するのは決して難しいことではないと結論しても良いのではないかと。>
第1次ラグナロック作戦において帝国軍の損失艦艇は、4~5個艦隊相当になるでしょう。そのためバーラトの和約後、帝国軍の軍事生産能力にかなりの負担を与えたのは間違いありません。しかし元々の前提条件だった、内戦終結後の艦隊戦力の回復に加えた2重負担がなければ、理由としては弱いです。
> >ラインハルトの「戦争したい病」
> >ガイエスブルク要塞への怨み(笑)
< この2つでは、ラインハルトが移動要塞の潜在的脅威を全く顧みなかった理由の説明にはなっても、移動要塞を使わなかったラインハルトの愚劣さと先見性のなさを否定するどころか、むしろその補強にすらなってしまうのではないでしょうか。
> それどころか、あれらの説明だと「移動要塞の潜在的脅威を知っていながら、ラインハルトはたかが個人的な事情でそれを使おうとしなかった」ということになりますので、私が評価した以上にラインハルトは頑迷かつ悪質な低能ということにもなりかねません。自分の個人的なプライドと矜持などのために移動要塞の潜在的脅威を顧みず、結果として自軍や将兵達を危機に陥れ、多くの部下や将兵達を死地に追いやるラインハルトは、かつて自分が否定したルドルフや門閥貴族達とどこが違うというのでしょうか。
> たかだかラインハルトの個人的・感情的な事情程度の話では、ラインハルトが移動要塞の潜在的脅威を全く活用しようとしなかった行為を擁護することはできないでしょう。特に、そんなもので危機に陥ったり、死地に追いやられたりしたラインハルト麾下の部下や将兵達にしてみればたまったものではないでしょうしね。>
え~、ラインハルトという設定ではなく人物的側面から、なぜ移動要塞を造らなかったかを考えた結果があの2つでした。
確かにこれでは移動要塞を造らなかった理由にはなっても、冒険風ライダーさんの主張するラインハルトの愚劣さと先見性のなさを更に悪化させるだけですねぇ。
ここで私は1つだけ究極的最終奥義の考えがあります。これは前レスでは使いませんでした。しかし敗北寸前の私としては、敢えてこれを使います。皆さんの批判は覚悟の上です。
人間誰だって、ちょっとしたことに気づかないことはあるでしょう。例えば眼鏡をかけているのに探したり。値段を見てあちらの店が安いのに、なぜか高い店でものを買ってしまったり。
それと同じで、作中のラインハルトでも、ちょっとしたことに気づかなかったり、普通の人では理解できるのに、よく理解できないことがありました。天才と言ってもラインハルトも人間です。たまにはミスがあったのです。そのミスこそが、移動要塞の戦略的価値に気づかなかったことだったのです(爆)。
すでにラインハルトは政治的解決を軍事的解決を行うなどのミスもありました。これは本人の性格的なミスです。批判はいくらでもしてもいいですし、それは批判されるべきです。
しかし、「ウッカリミス」の全てを責めるのはどうでしょうか。ラインハルトが移動要塞を造らなかったばかりに、銀河帝国が滅びましたか? 自由惑星同盟が力を盛り返しましたか? バーミリオンこそ事実上の敗北でしたが、その他の会戦では勝利か引き分けであり、結果同盟は滅び、イゼルローンとの講和もなり、銀河は統一されました。
どうせ兵士はどんな戦いであっても死ぬのです。それが多少の多い少ないで論じるのは、この際どうでもいいではないですか。(負けた開き直り) 例えどのような指導者にとっても、死者は数字でしかないのですから……。
むしろラインハルトが気づかなかった、移動要塞の戦略的価値(戦術的価値は私は認めません)を発見した冒険風ライダーさんの着眼点を評価しましょう。
え~~~~~~~、私の帝国側での移動要塞考察はこのレスで終了します。ここらが限界でしょう。この話題で冒険風ライダーさんと全面戦争をしたら、私の戦力が持ちません。
私のこれまでの説(3508・3546・本レス)と冒険風ライダーさんの説のどちらを支持?するかは、皆さんにお任せします。
フフフフフ、帝国側だけですよ。まだ同盟側が残っていますからねぇ。(+ ̄ー ̄)キラーン
冒険風ライダー様、
非常に力の入った回答をいただき、ありがとうございます。私の理解力が足りないために、ライダーさんにしてみれば、同じことを何度も言わせられている、という感想をお持ちかもしれません。はじめに、その点をお詫びします。
さて、
>基本的に私は、最悪でも「移動要塞論は成立する可能性は『ゼロではない』」ということさえ証明できれば、
>それで自分の論は充分に成立すると考えています。
>「できるかできないか分からない」でも、「できるかもしれないのだから移動要塞の潜在的脅威や可能性
>について検討するべきだった」という理論が導き出せることによって、「アレほどまでに補給問題を重要視
>していながら、移動要塞の潜在的脅威を『全く顧みなかった』ヤンやラインハルトは愚かである」
この部分は、またしても私の説明力不足が招いた誤解のようで、謹んで訂正します。あらためて説明をさせていただきますが、反動で、今度は説明が冗長になることがありましたら、どうかご容赦ください。
私が、「移動要塞ができるかできないか、分からない」といったのは、ヤンやラインハルトのような作中人物にとってではなく、私たちのような銀英伝の読者にとってであり、作中人物は知っているだろう、と意味だったのです。そのように明確に書かなかったのは、私の落ち度でした。
「読者はしらなくても、作中人物は知っているはず」という設定は、珍しくないかと思います。
たとえば、外伝3を読んだだけの私たちには、エリザベートの婚約者を殺したのが、本当にリューネブルグだったのか、決定的に判断できる材料はありません。しかし、リューネブルグ本人は知っていたはずです。あるいは、ロイエンタールの実の父親が、ロイエンタール家の当主だったか、「黒い目の愛人」だったか、これも私たちには分かりませんが、彼の母親は知っていたでしょう。この掲示板でも、いろいろな「疑問」が論じられてきました。私自身が深く関わったものでは、「艦船の乗務員は何をしているのか」「帝国の人口減はなぜ起こったのか」などというのもありました。それらは私たち読者にとっては「疑問」でも、作中の人物たちは、当然その答えを知っている、というのが前提になっているかと思います。
同様に、移動要塞を恒久的に使用するアイデアが検討に値するのか、それとも問題外の話だったのか、私たち読者に判断させてくれる直接的な材料は、銀英伝の記述の中にないのでは、ということを言いたかったのです。記述にない以上、読者が一方的に「検討しなかったヤンやラインハルトは愚かである」と断定することはできない、ということです。
もっとも、冒険風ライダーさんはこの点に関して、「少なくとも検討する程度の可能性はあった」と私たち読者が断言できる、と言われているのだと思います。そして、実際に移動したガイエスブルグと、数十年にわたって持ちこたえられるイゼルローンを「断言できる証拠」として挙げておられると思いますので、この点を考察したいと思います。つまり、
1.移動要塞を駆って同盟領まで侵攻する
2.イゼルローンを完全な自給能力を持つ移動要塞として活用する
ことに「検討すべき可能性がある」と断言できるかどうかを、ライダーさんの言われるとおり、「銀英伝の記述にのみ基づいて」検討してみます。銀英伝世界がどのような物理法則に従うかという話題は、冒険風ライダーさんとの議論に限っては、以後もちだしません。
1.移動要塞を駆って同盟領まで侵攻する
銀英伝の記述に従うと、たしかに宇宙船は無補給で長期間行動できることを示す「実績」があるかと思います。
しかし、要塞に関しては、銀英伝の記述では、「40兆トンの質量を帝国本土からイゼルローン要塞の所在地まで移動させた」という「実績」があるだけです。その「実績」から「同盟領までの到達も可能である」という結論へ至るには、銀英伝の記述は不十分ではないでしょうか?艦船と要塞が異なる運用を必要とする、という記述は銀英伝にはありません。しかし、「同じである」という記述もないのです。ですから、
「要塞の航続力では同盟領へは到達できないことが、ラインハルトには明白であり、よって詳しい検討の必要もなかった」
という事情があったことを、「記述」にのみ基づいて、私たち読者が完全に否定することはできないのではないでしょうか?
もしも、私たちの世界の物理法則を判断材料に使えるなら、「艦船も要塞も移動の原理は同じはず」「いや、質量が異なる」等の考察も可能でしょうが。
イオン・ファゼカスに関しては、次のような事情があったかもしれないことを、銀英伝の記述にのみ基づいて、私たち読者が完全に否定できるでしょうか?
* アーレ・ハイネセンの時代は、銀河連邦の遺産がかなり残っていた。
* だから240兆トンの質量を移動させることが、逃亡奴隷にさえも可能だった。
* その後の三世紀に、連邦の技術遺産がどんどん失われた。
* ラインハルトの時代には、40兆トンを、帝国本土からイゼルローン要塞へ航行させる程度の技術は残っている。
* しかし、40兆トンを同盟領まで送り込むほどの技術力は失われている。
2.イゼルローンを完全な自給能力を持つ移動要塞として活用する
銀英伝の記述に従うと、たしかにイゼルローン要塞は無補給で数十年間活動できることを示す「実績」があるかと思います。
しかし、要塞機能の維持と60兆トンの移動を同時に行えることを証明する「実績」は、私が知る限りで、銀英伝の記述にはありません。静止状態と移動状態で、要塞が置かれた条件が異なるという「記述」はたしかにないでしょう。しかし、「同じである」という記述もないのです。ですから、
「要塞を無補給で移動させれば、要塞機能の寿命が短くなることが、ヤンには明白であり、よって詳しい検討の必要もなかった」
という事情があったことを、「記述」にのみ基づいて完全否定することはできないのではないでしょうか?
もしも、私たちの世界の物理法則を判断材料に使えるなら、「機能維持のための燃料を星間物質から取れるなら、移動のための燃料だって時間をかければ取れるはず」「いや、取り込むのに必要なエネルギーの方が大きくなる」等の考察も可能でしょうが。
繰り返しますが、私自身の理解力不足、説明力不足はどうかご容赦ください。
これからもよろしくお願いします。
幾つかの争点があるようですね。
①移動要塞の実現性について。現代物理学上の考察。
②無限自給の可能性について。
③ラインハルト・フォン・ローエングラムの軍略の妥当性
①については物理は門外漢なので物理学上での正否を論じる能力がありませんが、Kenさんが示してくれた数字を見る限り、どうも物理上、かなり難しいものがあるようです。ただ、作品中ではガイエスブルク要塞は跳躍しているので、ここは「そういうものである」として読んでいます。
無理を承知で「銀英伝」を聖典(カノン)と見なす立場から言えば、もし同じ立場から論じられるのだとすれば、物理学上の正否論は「実際に動いたのだし」で覆されると思われます。
聖典という視点から離れて見れば、ここは田中芳樹さんのあるいは手落ちかも知れませんが、物理上の設定にそこまで精通することを要求することが(しかも本質的には歴史小説に)、妥当かどうかという別の議論が生じるかと思います。
②について言えば、高速増殖炉がまがりなりにも存在するので、まったく不可能とは言えないのではないでしょうか。技術的なことに立ち入る能力はないのであくまで素人の感想ですが、生物学なども応用すればかなりの程度自給が可能だと考えます。もちろんその場合、すべての有機物を最大限に利用することが前提になりますが。
③については余り触れられていないようですが、①を正とすれば自ずと生じる疑問です。ラインハルトが「政戦両略の天才」と規定されているのだとすれば、ここは「歴史小説」である「銀河英雄伝説」の本質にも関わってくる問題だと思います。
①を正とする限り、そして私は前述の意見のように「正とみなすしかない」とする考えですが、そうであれば、ここのところでラインハルトが見せた判断は、「天才」の看板が泣く、極めて未熟なものだったと評するしかないように思われます。
ここを合理的に説明するのは精神的疾患などに原因を求めるしかないように感じますが、そうだとしたらすべての責任を「結果として」、かの技術大将とケンプ提督に押し付ける形になったラインハルトは為政者として、この点、失政を犯したということになるのではないでしょうか。
ここはおそらく実際には田中芳樹さんの「筆の誤り」なのだと思いますが、要塞対要塞の場面は、ヤンの査問委員会から、ミュラーの「大神オーディーンもご照覧あれ!」に到るまで、銀英伝でも有数の見せ場ですね。
「誤るだけの価値はあった」というのが私の感想です。
私の文章力の貧困さが新たな誤解を生む恐れがあるので、少し捕捉をします。
私は、この論争が、
A:移動要塞の可能性は無視できるものではなく、検討を怠ったラインハルトやヤンは愚かである
という主張と、
B:恒久的な移動要塞が真剣な検討に値する案だったと、読者が断定する証拠はない
という主張の対立であると認識しています。もしも、この議題設定自体が、冒険風ライダーさんの認識と異なるのであれば、どうかご指摘ください。
このような命題定義を持ち出したのは、「証明責任」がどちらの側にあるか、という点を明らかにしたかったからです。例えば、犯罪容疑者と司法(警察・検察)の関係で言いますと、司法の側には容疑者が犯罪者であることを証明する責任がありますが、容疑者には自分の無実を証明する責任はありません。容疑者は、司法側が提出する論理に瑕瑾があり、「突っ込み」の余地があることを示せばよいのです。
私は、冒険風ライダーさんの指摘(鋭い指摘であることは重々承知しています)によって、いわば「被告席」に立たされている二人の「英雄」の弁護を引き受けた弁護士であると、今回の議論における自分を位置付けています。厳密に言いますと、被告席に立たされているのはラインハルトとヤンではなく、「彼ら二人が戦略・戦術の天才である」という、銀英伝を構成する最も基本的な設定の一つです。その設定と、「銀英伝は補給を重要視する」というもう一つの基本設定を両立させるべく、両立を崩す論理に瑕瑾を見つけ出し、そこを「突っ込む」のが、今回のジョブであると考えます。
一方冒険風ライダーさんのジョブは、あらゆる「突っ込み」をことごとく論破して、ラインハルトたちが愚かであると証明する記述が、銀英伝の読者に与えられていると立証することである、と認識しています。その意味では、
>苛烈なまでに厳しい超高難易度
の論証を求められているのは、冒険風ライダーさんの方であります。
*ガイエスブルグは実際に移動したのだから、移動要塞のラグナロックへの応用には検討価値がある。
*宇宙船は無補給で長期に航行できるのだから、同じことは要塞に適用できる。
という主張は、科学的な「命題」としては、非常に優れたものです。(田中氏を含めて)誰も気づかなかった、この命題に思い至ったのはライダーさんの思考の深さと性格の緻密さをあらわすものです。
しかし、命題はそれ自体が証明ではありません。
先の投稿で書いたように、銀英伝には、
*ガイエスブルグはイゼルローン回廊を通って、イゼルローン要塞の所在地まで達した
という、まぎれもない「事実」が書かれています。しかし、この事実をもって直ちに、移動要塞が同盟領まで到達できるとか、少なくともそれを真剣に検討すべき理由が、作中人物たるラインハルトに存在した、と読者が「証明」することはできません。特に、帝国から同盟までの距離が、帝国からイゼルローンまでの距離より大きい場合は、です。
もしも、移動要塞をラグナロックに使うことを、ラインハルトが真剣に検討を重ねるべきであった、と主張するのであれば、移動要塞の航続距離が、充分に同盟領まで達するほどのものであった、という証明が必要です。例えばのはなしですが、
1.イオン・ファゼカスは、ラインハルトの時代の帝国本土-イゼルローン要塞間よりも大きな距離を航行した
2.イオン・ファゼカスを動かしたテクノロジーは、ラインハルトの時代にも残っていた
という二点を、銀英伝の記述に基づいて証明できれば、ラインハルトが移動要塞をラグナロックに投入することを、少なくとも検討すべきであった、と主張する有力な根拠となりえます。
さらに言えば、
ラインハルトは、真実、ライダーさんの案を全く検討しなかったのでしょうか?そのことを銀英伝の記述にのみ基づいて、読者が証明できるでしょうか?
小説が、例え主役といえども、彼が行ったすべての思考活動をことごとく読者の前に開示してくれない限り、「書かれていない部分」について、読者は想像はできても証明はできません。その意味では、読者が作中人物を、
「彼はこういうことをやったから」
「彼はこういうことをやらなかったから」
「彼はこういうことを考えたから」
ゆえに彼は愚かである、と言うことはできても、
「彼はこういうことを考えなかったから」
という理由で、愚かであると決めるのは、「考えなかった」と小説中に明記されていない限りは、ほとんど不可能だと思います。
冒険風ライダーさんが言われるとおり、銀英伝では「補給」というものが非常に重要視されています。それでは、輸送部隊の指揮をゾンバルトではなくミッターマイヤーに任せなかったことも、ラインハルトの愚かさなのでしょうか?
そうかもしれません。しかし、そうではないかもしれません。ミッターマイヤーが最前線を離れられるような状況であったかどうかで、反対の結論が出ます。そして、それを判断する材料は、読者には与えられておりません。
カール・マチアス・フォン・フォルゲンの殺害に関してヘルマン・フォン・リューネブルグが「有罪」であると(あるいは、そうではないと)証明することは、「千億の星、千億の光」の続編が書かれない限り、不可能です。同様に、ラインハルトやヤンの「愚かさの罪」も。
証明責任について、さらに続けます。
私にとっても、ある現象を解釈する上で、物理理論よりも、一つの「聖典」を優先させる、というのは初めての経験です。そのような制約下で、なにごとかを証明するのが、いかに難しいかという点を整理してみました。
たとえば、「宇宙船は無補給で長期間行動できる」「要塞は移動できる」という2つの観測結果に基づいて、「要塞は無補給で長期間行動できる」という結論へいたるのに、科学者なら次のような検証過程を経ます。
1.宇宙船の持続力を定量化する。(例:無補給で6ヶ月、5千光年の転戦が可能)
2.宇宙船の移動メカニズムを解明する。
3.1と2より、宇宙船の持続力判定法を、数式化する。
4.要塞の移動実績を定量化する。(例:100光年の移動実績あり)
5.要塞の移動メカニズムを解明する。
6.2と5を比較し、3の数式を、要塞にも適用できるか、判定する。
7.(適用できるとして)4の値を3の数式に代入し、要塞の持続力判定法を、数式化する。
この中で、2と5に、物理法則が関わってきます。このような過程を経て7に至り、初めて、要塞がそれまでに経験のないこと、例えば、帝国本土から長躯同盟領を衝くことが可能か、という予測ができるようになります。科学の本質とは、
観測→考察→普遍化(数式化)→予測
を行うことです。
ところが、物理法則を考慮せず、ただ記録に書かれていることのみを判断材料にするとは、上の手順のうち、1と4しかやらないことになります。ということは、直接に観測された結果と、そこから最も直接的に自明のこととして演繹可能な予測しかできません。例えば、燃料タンクを半分だけ満たした自動車が、200キロを走行したという「観測結果」があるとします。この場合、この自動車が、一切の条件が同一なら、同じく半分の燃料を積んだ次の走行で150キロの走行ができるだろう、と相当な確度で予測することは可能です。なぜなら、200キロを走行したということは、そこにいたる途中で、150キロをを走行した時点があったはずだからです。
しかし、それではタンク半分の燃料で200キロを走行したという結果にもとづき、次回の走行で燃料を満タンにすれば、400キロを走行できるという予測が可能でしょうか?
現実の科学者が行うように、物理法則を考慮しての考察があれば、かなりの確度で「走行できる」という予測が可能です。その前提としては、「タンク10分の1の燃料で40キロ走った」「4分の1では100キロ走った」「半分では200キロ走った」という観測結果の積み重ねがあり、そこから、
「燃料の量と走行距離には、線形の比例関係がある」
という、数式化された法則が導かれ、その理論的裏づけとして、
「燃焼した燃料の体積と、発生する燃焼ガスのモル数には、化学式が保証する比例関係があり、内燃機関のピストンに外部から加わる力が一定なら、ガスのモル数とガスの圧力には比例関係があり、シリンダの断面積とピストンのストロークが一定なら、ガスの圧力と一回転あたりのエネルギーには比例関係がある」
という、考察がなされているのです。科学者は、断じて「半分の燃料で200キロ走ったから、満タンなら400キロ走るだろう」などという、いい加減な推測をしているのではありません。
ところが、そのような物理的考察を行わず、ただの観測のみを行えばどうなるでしょうか?
タンク半分の燃料で200キロ走ったから、次にタンクを半分満たせば150キロは走るだろう、という予測は、前述のように可能です。しかし、
タンク半分の燃料で200キロ走ったから、タンクを75%満たせば300キロは走るだろう、という予測はできません。なぜなら、そのような観測結果はどこにもないからです。それどころか、
タンク75%の燃料で、200キロプラス1メートルを走れる。
という予測すらできません。物理法則を考えないのなら、直接観測された結果以外のいかなる予測も、根拠のない憶測であります。
ここまで書けば、冒険風ライダーさんが、銀英伝の記述にのみもとづいて証明しようとしていることが、いかに大変なことか、理解していただけるのではないでしょうか?ラインハルトの帝国軍が移動要塞で同盟領へ侵攻することを、現実的な可能性のあることとして、私たち読者が認識しようとすれば、そのものずばり、帝国から同盟へ至るのと等しい距離を、要塞が航行した実績が要求されるからです。
さらには、このことが、ラインハルトたち作中の登場人物と、私たち読者との、決定的な立場の違いも指摘します。すなわち、ラインハルトたちは、彼らの世界の物理法則を(それがどのようなものであれ)知っているから、上に述べた科学的考察となによりも予測が可能です。
しかし、私たち読者には、それは不可能です。私たちが知っている「観測結果」とは、
1.イオン・ファゼカスが、240兆トンの質量を宇宙航行させた
2.ガイエスブルグが、40兆トンの質量をイゼルローンの所在地まで移動させた
3.宇宙艦船が無補給で、数千光年単位の移動を行った
という情報があるのみです。1には距離のデータがなく、2には同盟への侵攻より短い距離をカバーしたというデータしかなく、3は要塞より小さい質量のデータしかありません。
繰り返しますが、物理法則を知っていれば、これだけのデータでも、要塞による同盟領侵攻の可否を判断できることもありえます。
しかし、物理法則を知らなければ、その判断はできません。
以上のことから、私の結論は導かれます。
物理法則を知っていたラインハルトたちが下した決定を、物理法則を知らない私たちが疑問視するには、最も直接的な証拠、この場合は、どこかで、だれかが
要塞と同等以上の質量を、同盟領までと同等以上の距離を航行させた
ことを証明する、作品内の記述が必要です。
<このような命題定義を持ち出したのは、「証明責任」がどちらの側にあるか、という点を明らかにしたかったからです。例えば、犯罪容疑者と司法(警察・検察)の関係で言いますと、司法の側には容疑者が犯罪者であることを証明する責任がありますが、容疑者には自分の無実を証明する責任はありません。容疑者は、司法側が提出する論理に瑕瑾があり、「突っ込み」の余地があることを示せばよいのです。
私は、冒険風ライダーさんの指摘(鋭い指摘であることは重々承知しています)によって、いわば「被告席」に立たされている二人の「英雄」の弁護を引き受けた弁護士であると、今回の議論における自分を位置付けています。厳密に言いますと、被告席に立たされているのはラインハルトとヤンではなく、「彼ら二人が戦略・戦術の天才である」という、銀英伝を構成する最も基本的な設定の一つです。その設定と、「銀英伝は補給を重要視する」というもう一つの基本設定を両立させるべく、両立を崩す論理に瑕瑾を見つけ出し、そこを「突っ込む」のが、今回のジョブであると考えます。>
Kenさんは今回の議論を「刑事裁判」のようなものと据えていたのですか? それに関しては前提そのものが間違っていると申し上げておきましょう。
まず、Kenさんが挙げられていた「近代民主主義における裁判の原則」についてですが、このような形が何故認められるのかというと、刑事裁判では警察・検察の強大な行政権に対して刑事被告人は全く無為無力な存在であり、そのままの状態では被告の権利を守ることができないからです。だからこそ、強大な行政権の暴走を食い止めるためのストッパーとして、そのようなルールが裁判所という司法権によって行政権側に課されているわけです。
しかし、作品論における批判論と擁護論の関係はそうではありません。作品世界を前提条件とした論は、批判・擁護を問わず、作品世界の創造者とも言える作者の意向と、作品設定・作中記述の全てに反しない形で語られなければなりません。そのような前提における作品そのものと作品批判論の力関係は、基本的には「刑事裁判」における刑事被告人と警察・検察に代表される行政権とは全く逆、つまり「作品の方が圧倒的に強く、作品批判論はほとんど無為無力な存在」と(すくなくとも構造的には)ならざるをえないのです。
その圧倒的な強さの根源は、実に皮肉なことに、Kenさん自身が書かれたNo.3566・No.3569・No.3572で示したテーマの中に存在するのですよ。すなわち、
「書かれていない内容を作り出して作品を正当化する」
↑この手段が簡単に使用できることです。
これを使われてしまったら、たとえどんなに作品の記述内容に基づいた批判論を展開したところで、いつでも作者や擁護派は「実は作中に書かれていないだけで、作品の中にはこんな設定が存在しているし、作中キャラクターはこんなことを考えているのだから、そんな批判は全て無意味です」と無制限にやり返すことで、ありとあらゆる批判を完全に封じることができるのです。タナウツで言うならば、私が作った考察シリーズはもちろんのこと、管理人の本論も、ザ・ベストに収録されている作品論の全てが無意味なものと化してしまう、それほどまでに絶対的かつ強大無比な力を持っているのです。
しかも、「書かれていない内容を作り出して作品を正当化する」ということが無制限に認められてしまうと、作品を構成する設定内容を勝手に上書きしてしまったり、最悪の場合は作品そのものが否定されてしまったりする可能性すらあるのです。前者に関しては、たとえばKenさん自身が出してきた「燃費の問題」が、結果として「アレほどまでに補給を重んじる」銀英伝の作中記述と矛盾をきたしてしまうといった例がありましたし、後者に関しては、このスレッドにおける議論の中に腐るほど実例がありますからいちいち言うまでもないでしょう。
かくのごとく強大な力を行使することが構造的に可能な作品擁護論の愚かな暴走を防ぐためにも、作品批判論に反論するに際して、「書かれていない内容」に基づいた新規設定を作り出す作品擁護論には、それが作品世界の内容と合致することを「客観的に」示す義務と責任が、作品擁護論の暴走を食い止めるための「ストッパー」として当然課されなければなりません。そして、どこからともなく全く新しい裏設定を作り上げて提言し、新規の作品設定として追加していく以上は、当然それの正当性を証明する「立証責任」は作品擁護論側に存在するのです。
もちろん、作品批判側にも、自らの主張の正当性を証明する義務と責任はあります。しかし、作品擁護論には、作品批判論の正当性を否定すると同時に、新規に追加した裏設定の作品世界における整合性や妥当性などが常に「客観的に」問われなければならないわけです。そうでなければ、先に述べた愚劣な作品正当化行為が跳梁跋扈することを許してしまうことになりますし、最悪の場合は作品批判論の存在意義そのものさえも否定されることにもなりかねないでしょう。
これから考えれば、作品批判論と作品擁護論の立証責任は、最大限擁護側に配慮したとしてもせいぜい5分5分、先に述べた「作品論における作者側/擁護側と批判側との圧倒的な力関係」を考えれば、作品擁護側の方にこそ立証責任はより多く課されるべきでしょう。そうでなければ、そもそもこのような場で作品論を語る事自体、全く無意味なこととなってしまうのですから当然のことです。作品擁護論が難しいとされる最大の理由は、まさにここにあるのです。
そんなわけで、刑事裁判の事例は、作品論を語る際にはちょっと当てはまらないのではないかと思うのですが。
<物理法則を知っていたラインハルトたちが下した決定を、物理法則を知らない私たちが疑問視するには、最も直接的な証拠、この場合は、どこかで、だれかが
要塞と同等以上の質量を、同盟領までと同等以上の距離を航行させた
ことを証明する、作品内の記述が必要です。>
銀英伝世界の艦船に燃料無補給の原則がすでに確立している根拠と、なおかつガイエスブルク移動要塞に関しても燃費の問題が全く提示されていないという「作中事実」がすでに証拠として提示されているのですから、それですでに「要塞の燃料無補給」は立派に確立していると考えるのが普通なのではないでしょうか? 第一、あのガイエスブルク移動要塞自体が、最大でもたったの1ヶ月弱ほどで移動用のエンジンが付加され、すぐにヴァルハラ星系外縁部へと出発しているのですから、これ自体が移動要塞実現の容易さをすでに証明しているようにしか思えないのですが。
それにKenさんが主張される「文明衰退論」や「要塞には燃費の問題が存在するはず」は、その根拠が作中記述に基づいたものではなく、「現代世界の物理法則」の論拠をも放棄した今となっては、もはやただの個人的な推測でしかありえなくなっているのですから、あくまで反論として使用するのであれば、私の挙げた証拠に対抗できるだけの「要塞にだけ燃料無補給が成立しえない」という「作中事実の存在」を、ただ「可能性を示す」だけでなく、今度はそちらが理由も含めて立証する義務と責任があるでしょう。私の方はすでに自説の立証責任を果たしているのですから、これは当然のことです。
ちなみに余談ですけど、件のガイエスブルク移動要塞は、本来ガイエスブルク要塞が存在した星域から一端ヴァルハラ星系外縁部まで進んだ後にイゼルローンへと向かっており、ガイエスブルク-オーディン間の距離は銀英伝世界における艦艇の通常行程で20日程度、オーディン-イゼルローン間の距離は約6250光年(銀英伝1巻 P113)ですから、この旅程は総計すると最低でも1万光年以上には軽く達するのです。そしてイゼルローン-ハイネセン間の距離は約4000光年、イゼルローンを経由するのであれば、Kenさんの主張に基づいてさえ、移動要塞は悠々とオーディンからハイネセンまで進出することが計算上可能なのです。もちろん「要塞の燃料無補給」説が崩壊しないのであれば、移動要塞の航続距離を云々すること自体が全く無意味な話でしかありません。
これで移動要塞の有効性を示す論拠としては充分だと思うのですが、いかがでしょうか。
読み方が悪いのかもしれませんが、移動要塞肯定論者の方は
移動要塞を肯定して何を主張したいのでしょうか?
移動要塞否定論者はラインハルトとヤンが戦略・戦術の天才である
という基本設定を守るために移動要塞は何らかの理由により実施
出来なかったもしくは移動要塞は不可能という方向に持って行きたいのだと思います。
移動要塞を肯定してもヤンとラインハルトは天才であると言えるのでしょうか?
銀河英雄伝説は実は銀河愚者伝説であったと言う事が主張なのでしょうか?
冒険風ライダーさん、
私の拙い文章を相手に、嫌がりもせず、相手していただいていることを、何よりも感謝いたします。
「作者と批判者の強弱について」
冒険風ライダーさんは、作中に書かれていない設定を持ち出すこと自体に異を唱えておられるのではなく、作者がそれを行った結果、作品世界の設定が崩れることを問題にされているのだと考えてよろしいでしょうか?最初に書かれていない設定の追加でも、書かれている内容と矛盾しなければよいのだと?
作者と批判者の強弱については、ご指摘のような有利さが、作者側にあるというのは分かります。しかし、批判者の方にも作者にない有利な点があるのではないでしょうか?私などには、むしろこちらの方が、フェアな対局を不可能にするほど重大なもののように思われます。
一つは、批判は常に作品よりも後から出てくることです。批判者は、必要に応じて作品を俯瞰することも、細部を綿密に検証することも自由にでき、作者の論点を完全に理解した上で、いくらでも時間をかけて「弱点」を探せるでしょう。しかし、作者の側は、予めすべての批判を予測して防御策を講ずるのは不可能です。
もう一つ、作者と批判者は、例外を除いて、常に一対多の関係にあることも、指摘したいと思います。この点では、一人で多数を相手にするのは非常に疲れることだということを、(私の記憶が正しければ)冒険風ライダーさんご自身が、どこかで発言されていたように思いますが、私の記憶違いでしょうか?
以上の理由で、作者が批判者よりも常に「強者」であるとは限らない、というのが私の考えなのですが。
「証明責任について」
作者には作品を擁護する責任があり、それは自らの作品に矛盾がないことを証明することだ、という考えに私も賛成します。
ただ、冒険風ライダーさんのように、作品批判の掲示板で積極的に発言をされる方には、ぜひとも一考していただきたいことがあります。
それは、作品批判自体も公の場で発表された一つの「作品」ではないか、という点です。今回の場合、いわばライダーさんは「ラインハルトたちは、移動要塞を継続的に使用できることを知りながら、迂闊にも忘れたのである」という仮説をシンポジウムの場で発表されたのだと思います。それ自体は大変にすばらしいことで、私などは「やれ」と言われてもできません。
しかし、シンポジウムで仮説を発表すれば、批判が寄せられます。批判者たちは、発表者(この場合は、冒険風ライダーさん)が提示した仮説に「穴」を見つけようとし、発表者は自分の仮説の正しさを証明する責任を、原則として一人で負わねばなりません。田中氏の作品に対するとき、ライダーさんは「批判者」です。しかし、田中氏の作品を題材にした批判であっても、ひとたび自分の意見を発表すれば、ライダーさんの立場は「批判者」から「作者」に変わり、「銀英伝批判論」という自己の「作品」の正しさを証明する責任を、原則として一人で背負うことになると思うのです。説明足らずであったことは、何重にもお詫びいたしますが、私が、ライダーさんに証明責任がある、と書いたのには、このような考えもあったのです。
移動要塞の可能性に関する議論は、次回以降の発言で続けさせていただいてよろしいでしょうか?このような議題を提供していただいたことを、あらためて感謝させていただきます。
> フフフフフ、帝国側だけですよ。まだ同盟側が残っていますからねぇ。(+ ̄ー ̄)キラーン
この言葉の通り私は帰ってきました。アイシャルリターン! リターンマッチィ!
今回は同盟側です。なぜイゼルローン要塞を移動要塞化されなかったのかです。
ヤン・ウェンリーが移動要塞の価値を気付いていた、いないは関係なく、同盟、エル・ファシル、イゼルローン共和政府では政治的・生産力的に移動要塞化は不可能だったというのが、私の考えです。私は、ヤン側に関してのみは一歩も引く気はありません。勝つまで戦い抜く所存です。
まずガイエスブルク移動要塞撃破後、仮にヤンが要塞改造を同盟軍統合作戦本部に具申したとします。しかし予算を管理する同盟国防委員会は、決して認めないでしょう。
3巻の要塞決戦時に来襲したケンプ艦隊に破壊された監視衛星は、予算不足のまま補充できず、追加予算に必要な監査も鈍重な政治・事務レベルの為行われていませんでした。
監視衛星ですらすぐに作れないほど予算不足で、果たして要塞に付ける巨大エンジンが作れたものでしょうか? 通常航行用とワープエンジンを合わせて32個ぐらいですかね。しかも要塞だから普通の戦艦のエンジンの数倍の大きさが必要ですね。またガイエスブルクをみても分かるように大量の工員も必要とします。早期に終わらせる場合、イゼルローンなら10万人の工員が必要でしょう。いまの同盟にそれだけの工員を招集すれば、同盟の社会システムに致命的な影響も与えそうです。
そして政治的な問題です。当時の同盟の政治家は、帝国打倒よりも自らの権力維持を望んでいます。フェザーン方面からの侵攻はないと確信している政治家たちにとって宇宙艦隊が激減した今、イゼルローンと駐留するヤン艦隊こそ同盟領防衛の最後の砦です。しかし常にヤンへの不信感に揺れている政治家たちにとってヤンからの具申は全て不信感を感じるでしょう。もし移動要塞化して場合、要塞ごと帝国に寝返ったら? 移動要塞をもって独立するのではないか? そして何より仮に帝国領へ移動要塞で攻めたとき、空になった回廊へ帝国艦隊が侵入してきたら、遮るものはなく同盟領になだれ込んできます。そうすればヤンのみ生き残って、同盟は滅亡です。
このため回廊に要塞とヤン艦隊さえあれば同盟の防衛が出来るのに、わざわざ金と人をかけて、そのような無駄な大事業を行う意味はありません。政治家たちは、ヤンの提案を取り上げもしないでしょう。否決されればヤンにそれ以上何かをする権限はありません。現状戦力で戦うのみです。
次にエル・ファシル時代です。ルッツ艦隊からイゼルローン要塞を奪取し帝国軍との間で回廊決戦が戦われるまでの間に、ヤンはイゼルローンを移動要塞に改造するべきだったという冒険風ライダーさんの主張は、どう考えても不可能なのです。
一体どこで、巨大な通常航行用エンジンとワープエンジンを造るのですか? それも合わせて30個以上も。人口300万にすぎないエル・ファシルにはそんな生産力はとてもないでしょう。と言うより昔から帝国と同盟間の最前線に近いエル・ファシルに軍事関連工場があるとはとても思いません。せいぜい食料生産に鉱物生産がすこしあればいい方でしょう。
イゼルローン要塞でも無理です。イゼルローンはあくまも艦隊の補修基地であり、補給基地です。艦隊の生産基地ではありません。装甲の補修は出来るでしょう。調子の悪くなったエンジンの補修も出来るでしょう。ビーム用のエネルギーやレーザー水爆ミサイル、食料の補給も可能です。しかし戦闘艦艇のそのものの生産は出来ません。つまりエンジンの補修は出来てもエンジンの生産は出来ないのです。破壊された監視衛星ですら本国の予算執行を待ち、要塞内で生産しなかったことから見ても、イゼルローンでは巨大エンジン生産はまず不可能ですね。
ならば戦艦を分解して取り出せばいいとは言えませんよ。それは間違っています。アニメを見てもガイエスブルク移動要塞のエンジンは見ためではけっこう大きかったですし。仮にワープエンジンに関しては大型戦艦のものを流用出来ても、通常航行用エンジンは無理です。ガイエスブルクは直径40キロ、質量40兆トンですよ。それをたった12個の大型戦艦用の航行エンジンで動かせると思いますか? 私はどう考えても無理だとしか言えません。
最後に深刻な工員不足があります。エル・ファシルのヤン艦隊は、艦艇に乗り込む兵員ですらただでさえ不足気味でした。それなのに工員がいると思いますか? 艦艇の補修を行うだけで手一杯ですよ。一般の兵員に、繊細な作業を要するであろうエンジンの取り付けは無理ですよ。
私は冒険風ライダーさんが提唱された移動要塞は、可能だと思います。戦略的価値もあります。物理法則の問題も、ガイエスブルクが動いた時点で銀英伝世界では可能になっているでしょう。
しかしイゼルローン要塞の移動要塞化は無理だと分かってもらえたのではないでしょうか。ヤン・ウェンリーの移動要塞の価値に気づいた・気づかないの関係なく、同盟が滅亡した時点で移動要塞化は不可能になったのです。そして同盟時代では、政治的・社会的・軍事的にも見ても要塞を移動化をするだけの力が、そして無理に行うだけの意味がないのです。
だから冒険風ライダーさんの言われる「気付かなかったヤンは無能だ」という主張は間違っています。ラインハルト側と違い、ヤン側では価値に気付いたとしてもその実現が不可能なのですから。
> 読み方が悪いのかもしれませんが、移動要塞肯定論者の方は
> 移動要塞を肯定して何を主張したいのでしょうか?
>
> 移動要塞否定論者はラインハルトとヤンが戦略・戦術の天才である
> という基本設定を守るために移動要塞は何らかの理由により実施
> 出来なかったもしくは移動要塞は不可能という方向に持って行きたいのだと思います。
>
> 移動要塞を肯定してもヤンとラインハルトは天才であると言えるのでしょうか?
> 銀河英雄伝説は実は銀河愚者伝説であったと言う事が主張なのでしょうか?
こんにちは、RAMさん。
移動要塞肯定派は「ためにする」議論をされていないと思いますよ。私は…肯定派になるのかなあ(笑) いえ、肯定派ですね、はっきりと。
移動要塞が軍事的に莫大な潜在能力を秘めているのは一目瞭然だと見るほうが素直な見方ではないでしょうか。ここから敷衍して、その可能性を無視した形になっているラインハルトの判断は理解し難いなあ、という結論に到っているのが肯定派の方々であると、私は思います。あらかじめラインハルトを貶めるためにしているのではないことはお分かり下さい。冒険風ライダーさんもそうだと思いますけど、これは私の勝手な観測ですから…。
対して、否定派の方々は「ラインハルトは天才である」という前提を擁護するために、「そのために」議論を展開されているように思われます。何もここで党派根性をむき出しにするつもりはないのですが(^^)、天才=全能と捉えるのが間違いではないでしょうか。
「ハードウェアによって戦争に勝利した例はない」とこれはヤン提督のお言葉ですが、軍人としてのモラールは同盟・帝国双方に共通点が多いことから、これは、ラインハルトを含む、軍人の一般的な信念になっていると思われます。
職人さんは機械よりも自分の腕を信用する傾向がありますからとかく新技術を否定的に見たがるのと、同じことですね。
ヤン提督のこの言葉は、「暗殺によって歴史が動いたことはない」という言葉と並んで、鋭い真実を突いているように見えながら、反証がいくらでも出てくる「格言」の双璧のように思われます。
ラインハルトは軍事的天才にもかかわらず、新技術の運用を考慮することが出来なかった、というよりは、軍事的天才であったがゆえにそれが出来なかったと考えることは出来ないでしょうか。
移動要塞肯定派の人たちは、それによってラインハルトの「無能」を浮かび上がらせたいのではなく、作品の記述を擁護することによって、ラインハルトを神聖視出来なくとも、作品そのものを擁護しようとしているのだと考えますが、いかがでしょうか。