3代目掲示板過去ログ

mixiチェック

投稿ログ45 (No.929 - No.941)

親記事No.898スレッドの返信投稿
board3 - No.929

とうちゃん 改め 父親について

投稿者:風狂
2001年03月29日(木) 14時20分

 書き込みをやってるうちに、ふと思ったんですが、
田中芳樹の作品において、父親という存在が肯定的に
扱われたことは(一部例外を除き)、あまりないですね。
 大抵が、侮蔑、否定、恐怖、無視、打倒の対象で、
尊敬と超克の対象としてえががれたことは、一度と
してないのでは?

 彼の私的な事については、自分は何も知りませんが、
昔、父親と何かあったんでしょうか?

親記事No.869スレッドの返信投稿
board3 - No.930

認識度・。

投稿者:TAKA
2001年03月29日(木) 14時53分

どうもTAKAです。レスが長かったのでいま全部読ませていただいたのですが・。
 すみません・とりあえず下記のことを聞きたかったのですが・・。

>今の日本の世界における経済的地位(生産と消費)を認識してそのためにどうすればいいかを考えているという方は日本人の中でどの位おられるかを太郎さんに聞いてみたいですね。

 田中芳樹氏の過激なテーゼの出し方や態度に批判があるのは判っています。

>私が言いたいこととは、日本人が全員立派な国際認識(笑)を持ってそれに基づいて行動してると私自身が思ってるのかどうかということなのではなく、自分の認識を持って他を見下すに田中芳樹氏の態度はいかがなものかということなのです。

 というところで書いておられますから・・。

 私が聞きたかったのは、田中芳樹氏のテーゼのベクトルの方向である日本人や皆様の国際認識度はどうでしょうか?ということですが、この答えはどこに書いておられるのでしょうか?
 実際の日本人の国際認識度は低いことが事実であれば彼の仰ることは正。
 実際の日本人の国際認識度は高いことが事実であれば彼の仰ることは偽。

 しかも民主政治においては国民一人一人の意識が重要なんですけど・・。
だから聞いたのです。もし日本人が田中氏を含めて国際認識度が低いというのであれば、彼の仰ることは正しいと思います。(態度は気に食わないが(笑))何を目的としているのかは皆様の解釈にゆだねます。
 ただ自分の国際認識度が高いなんてどんな定規ではかるのか?という問題もありますけどね・・・。はぁさてさて、自分の国際認識が高いと言える人物がこの世にいるのか?といえば難しいかもね。(太郎さんはそういっていただくことを期待していました・・。)
 まぁ海外の日本の外交政策に対する不満、ロシアとの認識のずれ、こういうのは低いという根拠になると思いますが。
 であるならば田中氏の仰ることには根拠があるなぁ・と思うわけです。
 それに対して反論するというのは皆さんの認識が高いのかな?とおもったのですよ。

 まぁ代表者の意識でもいいですけどね・・いまの総理は国際認識度は高いのかどうか?疑問があるなぁ。
 それと左、右と色々な意見がありますが、政治体制というよりはその時代の民意に沿う事ができる指導者、体制があるというのが一番なのですよ。ファシズムを嫌う人がかなりおられますが、そういう方はスペインのフランコ政権をお調べになられると面白いと思われます。ソ連もブレジネフの時代はよかったらしいし物もそんなには不足していなかったらしいし(東欧への石油の供給がうまくいっていたからなぁ)
 日本がいまの状況でもクーデターや反乱などが起きない理由はやはりみながある程度不満はあれど、そこそこ満足している結果なのでしょうね。
 昔の1930年代の日本はほんとに本で読む限りどん底のような感じでしたからなぁ・(226事件の背景には農家の娘の身売り、そして農家の次男が軍人になって政治を変えるという図式があった。どっかで見たような話だなぁ(笑))

親記事No.898スレッドの返信投稿
board3 - No.931

Re: とうちゃん 改め 父親について

投稿者:日傘
2001年03月29日(木) 19時13分

 横レス失礼します。

>  書き込みをやってるうちに、ふと思ったんですが、
> 田中芳樹の作品において、父親という存在が肯定的に
> 扱われたことは(一部例外を除き)、あまりないですね。
>  大抵が、侮蔑、否定、恐怖、無視、打倒の対象で、
> 尊敬と超克の対象としてえががれたことは、一度と
> してないのでは?
>
>  彼の私的な事については、自分は何も知りませんが、
> 昔、父親と何かあったんでしょうか?

 私はどちらかと言うと母性の方が軽く扱われているような印象を受けます。
 父親に関しては、ヤン・タイロン、ジェラード・アッテンボロー等の、比較的例外とみなすことの出来る人物が存在しますよね。それに対し、幼児期の人格形成に少なからず影響する母親的存在は、作品中に触れられていることはまずありません。(単に私が失念しているだけかもしれませんが)

 まあ、このあたりは田中氏の女性観が影響してくるのでしょうが、少なくとも田中氏が父親を意図的に描写から外しているようなことは無いと思います。むしろ、竜堂司やビュコックなどの賢者の役割を持つ老人が数多く登場しているところを見ると、田中氏の嗜好上、両親というファクターはあまり眼中に入らない性格のものではないでしょうか?

 それと、田中氏のプライベートから関連性を見出すのは、あまり適切でないような気がするんですがどうでしょう?

親記事No.898スレッドの返信投稿
board3 - No.932

わたしが田中氏から学んだ「想像力」。

投稿者:
2001年03月30日(金) 12時00分

こんにちわ、風狂さん。

>  書き込みをやってるうちに、ふと思ったんですが、
> 田中芳樹の作品において、父親という存在が肯定的に
> 扱われたことは(一部例外を除き)、あまりないですね。
>  大抵が、侮蔑、否定、恐怖、無視、打倒の対象で、
> 尊敬と超克の対象としてえががれたことは、一度と
> してないのでは?

ちょっと文章が矛盾していませんか?「(一部例外を除き)」と注意書きされているのに、「一度としてないのでは?」と受けるのはおかしいと思います。(「一部例外」とはいえ、存在しているのならね)
文中からどちらかを削除しないと変ですよ。
あと、日傘さんが例に挙げてくださいましたが、ヤン・タイロン、ジェーラート・アッテンボローなど、例外で片づけるには惜しい人物がちゃんと存在しています。主人公キャラとは言えないかもしれませんが、マヴァール年代記のリドワーン卿(名前、合ってますよね?ドキドキ(^-^;)、銀英伝のミッターマイヤーも父親ですが、「侮蔑、否定、恐怖、無視、打倒の対象」ではありません。No.918のレスで、田中氏の否定的イメージばかり先行させて批判すると、批判自体がご自分に返ってくると、あなたに忠告させていただいたつもりだったのですけど(^-^;)。

>
>  彼の私的な事については、自分は何も知りませんが、
> 昔、父親と何かあったんでしょうか?

ここも日傘さんのおっしゃる通り、適切な表現ではないと思います。
風狂さんご自身も、具体的な根拠もない憶測で、
「昔、風狂さんは父親と何かあったんでしょうか?」
などと、プライベートをあげつらわれると気分を害されるでしょう?相手を思いやる想像力を、わたしは田中氏から学んだつもりでいます。田中氏自身も想像力の欠如が著しい昨今ですが、自戒の気持ちを持って批判に取り組みたいものですね、お互い。

(もう、わたしはこれ以上何度も同じことを言いませんから。後はご自分の発言を顧みて、思うことが何もないなら、あなたとは共に語り合えるお方ではないと判断させていただきます。)

親記事No.681スレッドの返信投稿
board3 - No.933

Re: 告

投稿者:不沈戦艦
2001年03月30日(金) 16時00分

 皆さん、ご丁寧なるお言葉ありがとうございました。

 四十九日の法要(若干早めではありますが)も無事終わりましたので、復帰
することに致します。以後もよろしく。

親記事No.19スレッドの返信投稿
board3 - No.934

反銀英伝 大逆転! リップシュタット戦役(55)

投稿者:不沈戦艦
2001年03月30日(金) 16時10分

「しかし、我が軍の将兵たちにとっては、些末事では済みますまい。高級指
揮官クラスはともかく、一般将兵にとって『賊軍』というレッテル貼りは、
精神的負担を伴うものでしょう。何らかの対策が必要ではと考えます。いや
それ以前に、このような宣伝を、我が軍将兵の全てに見せることもなかった
のでは、と思いますが」

 オーベルシュタインの「事態はそう楽観的ではない」との含みを持った物
言いである。

「オーベルシュタイン、奴らは新皇帝の即位とやらを、帝国中にしつこく宣
伝して回るつもりだ。仮に一時的に隠したところで、いずれ我が軍の将兵に
も広まってしまうだろう。情報を統制して疑心暗鬼を引き起こすくらいなら、
最初から知らせてやった方が良い」

 情報をオープンにする方が、兵の信頼を得られるというラインハルトであ
る。隠し立てした場合、隠しきることができれば良いが、そうでない場合は
「上層部が不都合な情報を隠した」と、麾下将兵に不信感を持たれてしまう。
ラインハルトとしては、そちらの方を恐れたのである。

「しかし、私自らが、我が軍の将兵たちに、呼びかけをする必要はありそう
だな。卿の言う通り、麾下将兵たちは不安を抱いたことに間違いはないから
な」

 ラインハルトはすぐに通信回線を開かせると、麾下全艦艇に向かって演説
を始めた。

「我が軍の将兵諸君、私は総司令官のローエングラム元帥である。現在オー
ディンを占領している者たちは、我欲の亡者と化した大貴族どもだ。リッテ
ンハイム公爵もタンネンベルク侯爵も、帝国の統治権と軍権を私物化してい
るというだけである。不正義と不公正を極めた彼らを叩き潰すことは、私と
諸君らとの崇高なる任務であると、私、ローエングラム元帥は信ずる。諸君
らは、何も恐れることはない。今までと同様軍務に邁進し、以て帝国に正義
を取り戻す為の礎となることを、私は期待している」

 ラインハルトの映像と演説が全艦に放送されると、一斉にどよめきが起こ
った。間伐入れずラインハルトが打ったこの手は、さすがに効果はあったよ
うだ。しかし、銀河帝国軍最高司令官直属の軍として「賊軍」を討伐してい
たはずなのに、いつの間にか逆に「賊軍」の汚名を甘受せねばならない立場
になってしまい、司令官自身も単なる叛逆者になったということは、それま
での昂揚した気分とは随分違ってしまっていることは否めないところだろう。
しかし、今のところは、それが表面化してすぐに「このままローエングラム
侯に付いていたら、自分たちはおしまいだ」というところまでは至っていな
い。何しろ、今回の内戦では、ローエングラム軍は今まではまるで敗北は経
験していないのだ。勝利を積み重ねる、ということは軍人にとっては得難く
貴重な体験であることに疑問はないところだろう。その勝利を与えてくれる
司令官に、疑念を持つまでにはそう簡単に至るものではない。

 また、下級指揮官や兵士のレヴェルはともかく、司令官クラスは事態を比
較的冷静に受け止めている。

「ふん。リッテンハイム公もタンネンベルク侯も偉そうな事を言っているよ
うだが、要はあの二人が帝国を私物化した、というだけではないか。全く、
門閥貴族どものやることには品性がない。だいたいきゃつら、まだ勝ったわ
けでもあるまいに、何を勘違いして勝ち誇っているのか」

「正面から戦えば負けるわけがない」との自負を背負ったビッテンフェルト
の悪口が、彼らの気分を代表している。司令官クラスにはまるで動揺はなく、
その影響もあってかローエングラム侯爵軍内部では、新皇帝即位という事態
の急展開についての心理的ストレスは、取り敢えず沈静化していった。しか
し、将兵の心に、不安の種を蒔いてしまったことはどうしようもなかったの
である。

 実際のところ、ローエングラム軍本隊やキルヒアイス、ミッターマイヤー
艦隊などはともかく、辺境宙域で行動していたシュタインメッツ艦隊にとっ
ては、この状況は致命的だった。シュタインメッツ艦隊は周囲に有力な味方
がいない状況で、艦隊の規模もたかだか四千隻と決して大きくはない。しか
も、サビーネ捕獲作戦の際に拿捕したままになっていた「ライプチヒ」「ミ
ュンヘン」「デュッセルドルフ」艦長以下の乗組員たちが、艦内に乗り込ん
で監視にあたっている兵員に対し積極的に懐柔を働きかけた結果として、
「今シュタインメッツ艦隊を脱走して、新皇帝軍に鞍替えすれば安全だ」と
いう気分がウイルス性流行病のように急速に艦隊内に伝搬してしまった。
「賊軍」の不安に陥っていた将兵に、この甘美な誘惑を断るのは困難だった
のである。シュタインメッツが気付いた時には脱走艦が続出しており、あっ
という間に残っている艦が百隻を割り込んでしまう、というような状況にな
ってしまっていた。シュタインメッツとしてはこうなってはどうしようもな
く、せっかく確保していた辺境星域を放棄し、迂回航路を取ってレンテンベ
ルクのローエングラム軍と合流すべく、残存艦を率いて逃避行につかざるを
得ない状況に追い込まれてしまったのである。



「リッテンハイムにタンネンベルク、あの恥知らずな裏切り者どもめ!よく
もここまでわしをこけにしてくれたな!!リッテンハイムの娘が皇帝だなど
と、わしは絶対に認めはせぬ!!!おのれおのれおのれ、今に目に物見せて
くれようぞ!!!!」

 ガイエスブルグ要塞では、ブラウンシュヴァイク公の怒号が響いていた。
全帝国に衝撃を与えた新皇帝サビーネの戴冠式と、帝国宰相リッテンハイム
公、帝国軍最高司令官タンネンベルク侯の就任演説。完全生中継で全帝国に
送られた映像は、放送前に「帝国政府より、これから重大発表がある」と朝
から何度も繰り返した後に放映されたので、いわゆる「視聴率」としては、
80%を超えるものとなっていた。それだけではなく、その後も何度もニュ
ース映像として流されたので、最終的にはほとんどの帝国臣民が見た、と言
ってもいいだろう。当然、ここガイエスブルグでもこの映像は受信され、ブ
ラウンシュヴァイク公以下貴族連合のほぼ全員が、このニュースを目にして
いた。

 もちろん、それを聞いて真っ先にブラウンシュヴァイク公自身が激発する。
分派活動のあげくに出ていった相手が、いきなり皇帝だの帝国宰相だの帝国
軍最高司令官だのを言いたて「我が陣営への参加を待つ」などと、高飛車な
態度を取っているのでは、公爵から見れば愉快な訳がない。

「しかし公爵閣下。リッテンハイム公もタンネンベルク侯も、もともとは我
らの同志。敵ではありませぬ。ここは、彼らと一時的にでも共闘すべきでは
ないか、と心得ますが。彼らも、それを望んでいるのですから、共闘の呼び
かけを行っているのではないかと」

 アンスバッハ准将は、ブラウンシュヴァイク公を諭すように提案した。し
かし、この提案自体、公爵の怒りに更に火を付けただけだった。

「アンスバッハ!!お前はわしに、リッテンハイムの下風に立てと言うのか!!
冗談ではない、そんなことは絶対に許せん!!」

「伯父上のおっしゃる通り!あのような抜け駆けを許しては、他の者へに示
しがつきませぬ!!」

 フレーゲル男爵がブラウンシュヴァイク公に賛同すると、公爵も大きく頷
いた。それで、アンスバッハ准将も黙らざるを得なくなる。しかし、ブラウ
ンシュヴァイク公も、その内雰囲気がおかしいことに気が付いた。気まずい
顔をして、不安な様子で周囲を見渡している者が圧倒的に多かったからであ
る。

「公爵閣下。リッテンハイム公もタンネンベルク侯も、我々にとっては敵で
はありませぬ。いや、お二方とも、お見事な戦いぶりを見せてくれた、と心
を強くしたところ。このランズベルク伯アルフレット、感服つかまつりまし
た」

 公爵の怒りを全く気にしていないようなランズベルク伯の脳天気な賞賛に、
更に苛立たしい思いに囚われるブラウンシュヴァイク公である。

「皆の者、よもやリッテンハイムに靡こうなどと考える者はおるまいな?と
にかく、わしは貴族連合軍の盟主として、このようなことは絶対に認めはせ
ぬ!!そうであろう?!誰が帝国と帝室への忠誠を守っていたのか、よく思
い出してみることだ!!」

 ブラウンシュヴァイク公は立ち上がると、フレーゲル男爵とアンスバッハ
准将を伴い、大広間から去って行く。その間、他の者たちは静かにしていた
が、三人の姿が消えるとざわつきが起こる。ブラウンシュヴァイク公の見解
とは隔たりが大きい意見が、誰彼ともなく、怒濤の奔流となって広まり始め
た。

「ブラウンシュヴァイク公はそれは激怒されるのかも知れぬが、正直言って
我らとしては、ブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム公、どちらが皇帝
を擁立し宰相として権力を持つことになろうが、構わぬのだがな。要は金髪
の孺子を叩き潰し帝国に秩序を取り戻すことが目的であって、その為にはお
二方のどちらが盟主であろうと良いのだから」

「しかし、正直リッテンハイム公が軍を割って出ていってしまわれた時は、
一体どうなることかと思ったが、驚くようなことになったものだ。リッテン
ハイム公もなかなかやるものだな」

「いや、それはどちらかと言うと、タンネンベルク侯の方ではないだろうか。
あの男、若いが軍事的才能は卓越していることは確かだ。彼なら、金髪の孺
子を出し抜いて、オーディンを占領することくらいの芸当はやってのけるだ
ろう。リッテンハイム公は、それに便乗しているだけではないのか」

「そこは違う。むしろ、タンネンベルク侯の方が、リッテンハイム公を上手
く乗せているのではないだろうか?リッテンハイム公爵令嬢を皇帝に就け、
公には宰相に就任してもらい、自分は軍の実権を握る。なんとも上手い方法
だ。これでは、リッテンハイム公のタンネンベルク侯への信頼は揺るぎない
ものとなろう。確かにタンネンベルク家は帝国貴族としては重鎮ではあるが、
候自身はまだ若いし、それに自らの力だけで立てられる皇帝候補を仰いでは
おらぬ。誰かの支持は必要であるのだから、タンネンベルク侯がリッテンハ
イム公を盟主として立てるのは、これも至極当然というもの。金髪の孺子と
リヒテンラーデ公などよりは、余程強固な結びつきだ」

「しかし、確かにリッテンハイム公とタンネンベルク侯がオーディンを押さ
え新たな皇帝陛下を擁したとはいえ、お二方の戦力はこちらの半分程度であ
ろう。実戦力としては、あまりに少なく心許ない。それだけではなく、真っ
先にブラウンシュヴァイク公を裏切って、あちらへ鞍替えするというのもい
かがなものか。それではあまりにあざといような気がする。タンネンベルク
侯爵の軍事的才能は驚くほどではあるが、今の戦力のままでは苦しいことに
違いはないしな」

「だが、新皇帝にリッテンハイム公爵令嬢が即位したとなると、帝権の正統
性はリッテンハイム公爵とタンネンベルク侯爵のお二人にあることになる。
今のところは我らを『味方』として扱い、陣営への参加の呼びかけてくれて
いるようだが、あまりにお二方を焦らした場合、逆賊の汚名を甘受せねばな
らぬようになるかも知れぬぞ。それはさすがに願い下げだ」

「ブラウンシュヴァイク公爵閣下が、意地を張るのをお止めになって下され
ばよいのだが。そうであれば、我らも困ることはなかろうに」


 結局、ガイエスブルグ組の貴族たちの本音は、「リッテンハイム陣営に靡
きたいが、自分が先陣を切ってやるのは嫌だ。できれば、ブラウンシュヴァ
イク公自らにそうして貰いたい。しかしそれは難しいだろうから、しばらく
様子を見て、今後の方針を決めるしかない」ということである。何のことは
ない、日和見気味の模様眺め、ということだ。しかし、「できれば新皇帝の
陣営に付きたい。誰かが先陣を切ってくれないものか」という願望を、ブラ
ウンシュヴァイク公やフレーゲル男爵などを除いて、ほとんどの貴族たちが
持ったことは確かだった。


(以下続く)

親記事No.898スレッドの返信投稿
board3 - No.935

田中芳樹氏の描く女性キャラ。

投稿者:太郎
2001年03月30日(金) 16時32分

風狂さんの投稿を見てちょっと思ったことがあります。
以前、田中芳樹氏の描く女性キャラクターはひどいと言う話題が出てたことがありました。(ザ・ベストにもまとめられております。)

まあ、「ひどい」という一言にまとめて一連の話題を形容してるのは、
あくまで私の便宜上ですので必ずしも的確でないことはお詫びいたします。

それで本題なのですが、
確かに田中芳樹氏の描くヒロイン・クラスの女性(といってもこれも必ずしも明確な境界線があるわけではないのですが)は、
いわゆる「良妻賢母」型とか「優等生」型が多いようです。

しかし、ヒロイン・クラス以外では結構いろんな女性キャラもいるのではないかと思います。
例えば、
 行方不明のわが子にしか興味のない、魔性の女ではなくただの母親でしかない「タハミーネ」さんとか、
 悪女になりきれない「ドミニク」さんとか、
 仇の男に惚れてしまう、ある意味純情な「エルフリーデ」嬢とか、
 どう見てもイドリスより上手で、権力をつかもうとする「テオドーラ」さんとか。
 以上思うままに上げてみましたが、その他にもいるかもしれません。

まあ、いわゆるファンがつくような女性キャラはあまり描けないのかもしれませんが、決してワンパターンではなく結構いろんな女性キャラがいると思うのですが、どうでしょうか。

よく検証せず印象で書いてしまったところがあるのでやや心苦しいのですが・・・

親記事No.898スレッドの返信投稿
board3 - No.938

Re^2: とうちゃん 改め 父親について

投稿者:風狂
2001年03月31日(土) 01時29分

日傘さん。ありがとうございます。

>  私はどちらかと言うと母性の方が軽く扱われているような印象を受けます。
> 父親に関しては、ヤン・タイロン、ジェラード・アッテンボロー等の、比較的例外とみなすことの出来る人物が存在しますよね。それに対し、幼児期の人格形成に少なからず影響する母親的存在は、作品中に触れられていることはまずありません。(単に私が失念しているだけかもしれませんが)
>
> まあ、このあたりは田中氏の女性観が影響してくるのでしょうが、少なくとも田中氏が父親を意図的に描写から外しているようなことは無いと思います。むしろ、竜堂司やビュコックなどの賢者の役割を持つ老人が数多く登場しているところを見ると、田中氏の嗜好上、両親というファクターはあまり眼中に入らない性格のものではないでしょうか?
>

田中氏の作品において、母親に対するものは結構肯定的なものが多いと
思うんですよ。竜堂始には、母親に対する思慕の念を度々語らせてますし、
ルパート・ケッセルリンクの父親に対する憎悪は、ルビンスキーが社会的に
全く無視した母親への、深い愛情の裏返しでしょうから。
 幼児期の人格形成に多大な影響を与えるのは、父親と母親です。
そして、子供の心に重大なトラウマを植え付けるのは、父親だけでなく
母親であることもあります。ですが、田中氏の作品においては、そういう
役割を持つのは父親ばっかりです。この差はなんだろうかというのが、
書き込みしたときの疑問の詳しい説明なんですが、どうでしょう?
 それと、一つ屋根の下で一緒に暮らしていたのにも関わらず、祖父には
多大なる影響を受けたのに、父親からは全くなしというのは、まずありえ
ないでしょう。なのに創竜伝において、祖父と母親については結構書かれて
いますが、父親に関しての描写はほとんどなしというのは、自分としては
不自然に感じました。まあ、竜堂司に比重を置きすぎて眼中に入らなかった
と、言われてしまえばそれまでですけど。


> それと、田中氏のプライベートから関連性を見出すのは、あまり適切でないような気がするんですがどうでしょう?

 いや、これについてはすいません。謝ります。
 自分としては、父親像、母親像の原点は、自分の父親と母親だと思ってたんで、ただそれだけで、よく考えずに書き込んでしまったんですが、誤解受けるだろうなあと、あとから後悔しました。
 私は、「田中芳樹のプライベートを暴け」なんて煽る気は全くないですし、
田中氏の私事をもって、彼の作品を否定する気もありませんので、その点は
ご理解願います。

親記事No.898スレッドの返信投稿
board3 - No.939

Re: わたしが田中氏から学んだ「想像力」。

投稿者:風狂
2001年03月31日(土) 03時26分

恵さん。ありがとうございます。

> ちょっと文章が矛盾していませんか?「(一部例外を除き)」と注意書きされているのに、「一度としてないのでは?」と受けるのはおかしいと思います。(「一部例外」とはいえ、存在しているのならね)
> 文中からどちらかを削除しないと変ですよ。

 あ、いや、自分としては矛盾してないと思うんですけど。
 確かにヤン・タイロンなど、少数ながら父親として肯定的に扱っている
人物もいますが、しかしそのなかでも、超克の対象となった父親はいない
ですよ。
 少々(というかかなり)舌足らずな文章だったようで、申し訳ないです。
 それと自分にとって、尊敬と超克は同一線上のものだったので、
「尊敬されてる父親もいるのに、全くいないとは何事だ」と思わせて
しまったところもあるようですね。すいません。


> あと、日傘さんが例に挙げてくださいましたが、ヤン・タイロン、ジェーラート・アッテンボローなど、例外で片づけるには惜しい人物がちゃんと存在しています。主人公キャラとは言えないかもしれませんが、マヴァール年代記のリドワーン卿(名前、合ってますよね?ドキドキ(^-^;)、銀英伝のミッターマイヤーも父親ですが、「侮蔑、否定、恐怖、無視、打倒の対象」ではありません。

ヤン・タイロンやアレックス・キャゼルヌについてはともかく、リドワーン
やミッターマイヤーについては対象外なのではないかというのが、正直なところですね。何故なら「~の対象」と書いた通り、自分は我々読者からの視点
からではなく、父親に対する子供からの視点ということで述べさせてもらってますので。
 つまり、対象外とした人物は、確かに魅力的な人物として描かれていますが、リドワーンの息子もミッターマイヤーの息子達も、父親にどういう感情
を寄せているか、といった描写はないので判断の仕様がないです。個人と
しては好人物ではあるけれど、だからといってよい父親であるとは限りません。学校の教師としては、たくさんの生徒に慕われたよい先生であっても、
家庭では、息子の素行不良を直すことのできない父親、といった例もありますのから。
 個人として示す父性と、現実の父親としてのものは、同一線上にあるとは
限らないとおもうのですが、どうでしょう。


>No.918のレスで、田中氏の否定的イメージばかり先行させて批判すると、批判自体がご自分に返ってくると、あなたに忠告させていただいたつもりだったのですけど(^-^;)。

 この点については、まだ誤解されたままのようですね。自分は
「作家達がこのような表現を使うのは嫌い」と言った事はありますが、
「このような表現を使う作家達は嫌い」と言った覚えはないですよ。
 私は、田中芳樹に対して否定的なイメージなど持ってはいませんよ。
 私的な感情と批判を混同する愚かさは、承知しているつもりです。


> >  彼の私的な事については、自分は何も知りませんが、
> > 昔、父親と何かあったんでしょうか?
>
> ここも日傘さんのおっしゃる通り、適切な表現ではないと思います。

 この点に関しては、謝ります。
 ですが、日傘さんへの返信でも書いた通り、田中氏のプライベートな面を
あげつらう気も、暴露させようと煽る気も、自分にはありません。
 もう一度確認させていただきますが、自分は田中芳樹を否定する気は、
ありません(批判する気はありますが(笑))。
 悪意を持って書いたものではないということを、ご承知おきください。


P.S
日傘さんと恵さんへの返信で、二重書き込みをやってしまいました。
すいません。
日傘さんへのほうへは、この旨を書き込むことを忘れてしまいました。
この場をかりて、お詫びします。

親記事No.19スレッドの返信投稿
board3 - No.940

反銀英伝 大逆転! リップシュタット戦役(56)

投稿者:不沈戦艦
2001年03月31日(土) 05時27分

「それでは、ヴァルハラ星系外に居座っているミッターマイヤー艦隊と、公爵、
いえ宰相閣下の艦隊を不遜にも追い掛けてきたキルヒアイス艦隊を、これから
撃破して参ります。どうか吉報をお待ち下さい」

 タンネンベルク侯は戴冠式が終わるとリッテンハイム公にこれから出撃する
ことを告げる。もちろん、リッテンハイム公としても異存はない。

「うむ、卿ならやってくれるということを信じている。金髪の孺子の子分ども
に、新皇帝の武威をしっかりと見せつけてくるのだぞ」

 満面の笑みを浮かべながら、頼もしい味方を激励するリッテンハイム公爵で
ある。タンネンベルク侯は笑顔で敬礼を返し、公爵の前から立ち去った。そし
て直ぐに宮殿を去り、宇宙港に向かいシャトルに乗り込む。

「全艦隊、出撃せよ!」

 連絡用シャトルに搭乗して小一時間で宇宙に上がり、「クラウゼヴィッツ」
の艦橋に到達したタンネンベルク侯は、直ちに艦隊に進撃を命じる。すでに、
シュタイナー少将、シュリーフェン准将、クライスト准将、エターリン大佐、
カーレンベルク大佐の五名により、艦隊の再編成は完了していた。なお、今の
ところは正式に辞令が出ていないので、タンネンベルク侯の幕僚たちの階級は
元のままである。タンネンベルク侯としては、この戦闘が終わったあと、彼ら
を昇進させるつもりだった。

「我が艦隊の忠勇なる将兵諸君、私は銀河帝国軍総司令官のエーリッヒ・フォ
ン・タンネンベルク元帥である。今後の方針を伝えよう。我が艦隊は、これか
らヴァルハラ星系外に居座っている、賊軍艦隊を討伐するのだ。敵将はキルヒ
アイス・ミッターマイヤー両提督だが、恐れることはない。私の指揮を信頼し
て欲しい。なお、我が艦隊の編成は、各隊を一万ずつ五隊に分け、本隊一万は
私の直率、最左翼隊はカーレンベルク大佐、左翼隊はシュタイナー少将、右翼
隊はクライスト准将、最右翼隊はエターリン大佐となる。シュリーフェン准将
には、私の旗艦『クラウゼヴィッツ』にて参謀長の役目を果たしてもらう。賊
軍、キルヒアイス・ミッターマイヤー艦隊は、侮ってはならぬ強敵ではあるが、
これを撃破することは決して不可能ではない。私、タンネンベルク元帥は、新
皇帝サビーネ陛下のもと、我が艦隊の将兵の奮闘に期待すること大である!」

 タンネンベルク侯は、マイクを取ると全艦隊に放送した。それと同時に艦隊
の将兵たちほぼ全員にどよめきが起こる。志気は極限まで高まっているようだ。
何しろ、それまではほとんどリッテンハイム公の私兵のような存在だったもの
が、銀河帝国軍総司令官のもと、正統なる皇帝の軍としての地位を得たのであ
る。自由惑星同盟のヤン提督のように、「国家」なるものを快く思っていない、
人類社会全体から見て極少数派になるような「異端者」的な人間はともかく、
そうでもない人間たちには、タンネンベルク侯の志気の鼓舞は効果があったと
いうことだろうか。



「敵艦隊、接近。約五万隻!」

 ヴァルハラ星系外で合流したミッターマイヤー艦隊とキルヒアイス艦隊。ミ
ッターマイヤー艦隊が一万四千、キルヒアイス艦隊が二万四千で、合わせた兵
力は四万に若干足らず三万八千程度である。これに対し、オーディンから出撃
し、接近してきたタンネンベルク艦隊はほぼ五万。兵力的には明らかに劣勢で
あり、しかも軍事的能力が劣るリッテンハイム公爵が直率しているとでもいう
のならともかく、タンネンベルク侯爵が相手では、あまりに不利と言えよう。
しかし、今度の場合は、キルヒアイス提督もミッターマイヤー提督も、どうの
こうのと考えている時間は、あまりなかったのである。いや、というより混乱
の渦中に置かれてしまっていたのだ。結局、タンネンベルク侯の打った手があ
まりに素早かった為、どう対応していいのか困ってしまった、ということであ
る。新皇帝即位の衝撃がまだ収まらない内に、まさかと思っていたオーディン
からの敵艦隊出撃。矢継ぎ早の事態の展開に、ミッターマイヤーやキルヒアイ
スほどの男たちでも、状況に振り回されて冷静に事態を把握し、対処すること
が困難になってしまっていたのだ。

 それでも、さすがに練達の指揮官の二人だけに、敵艦隊が射程に接近するま
でには、何とか麾下の艦隊に戦闘態勢を取らせることは済ませていた。しかし、
そこに衝撃的な出来事が発生する。

「敵からの通信です!これは・・・・送信されてきた映像を表示します」

 キルヒアイスの「バルバロッサ」、ミッターマイヤーの「人狼(ベイオウル
フ)」の艦橋のスクリーンに、同時に同じ映像が表示された。いずれも、何人
もの兵士に取り囲まれ銃を突きつけられ床に座り込み、怯えたような顔で見上
げているアンネローゼの姿である。

「アンネローゼさま・・・・」「グリューネワルト伯爵夫人・・・・」

 それだけを呟いて、青ざめた顔になるキルヒアイスとミッターマイヤーであ
った。二人ともそのまま、零下数十度にまで凍てついた氷の彫像のように、全
く動けなくなってしまう。

「敵艦隊、射程距離に入りました!」

 レーダー担当士官の悲鳴のような叫びと同時に、敵艦隊からビームとミサイ
ルの雨が浴びせかけられる。キルヒアイス艦隊もミッターマイヤー艦隊もした
たかに撃ちすえられ、大損害を受けてしまった。しかし、司令官の命令がない
のでまるで反撃できない。キルヒアイス麾下のルッツもワーレンも同じである。

「閣下、反撃を!」

 ベルゲングリューン准将が我に返り、キルヒアイス提督に進言する。しかし、
キルヒアイスは固まったままわなわなと全身を震わせ唸り声をあげているだけ
で、何もできない。キルヒアイスにとってアンネローゼの存在は、あまりに大
きすぎたのだ。しかも、ミッターマイヤーの報告で「タンネンベルク伯がグリ
ューネワルト伯爵夫人の命を楯に取って脅迫してきた」と知っているだけに、
尚更手が出ないのである。

「敵艦隊旗艦、『カール・フォン・クラウゼヴィッツ』のタンネンベルク侯爵
を呼び出せ!」

 ミッターマイヤーはさすがにすぐ気を取り直すと、通信担当士官に命令して
タンネンベルク侯への連絡を付けようとする。交信して相手の意図を探ろうと
したのだ。しかし、相手を呼びだしている間は反撃は何もできない。味方が大
損害を受けているのをどうすることもできないまま、苛々しながら腕を組み足
を踏みならし、「クラウゼヴィッツ」への連絡が付くのを待っていただけであ
る。

「敵旗艦、『クラウゼヴィッツ』からの応答はありません!こちらの呼びかけ
は、意図的に無視されているようです!!」

 何度目かの呼び出しが無反応に終わったのを確認し、通信担当士官がミッタ
ーマイヤーに報告する。これでようやく、ミッターマイヤーも悟った。タンネ
ンベルク侯は、先手を打つ為にアンネローゼの映像を使用したのだ、というこ
とに。相手の目的は、キルヒアイス・ミッターマイヤー艦隊を怯ませておいて
抵抗させず、その間に一気に叩き潰すことだ、ということに。

「糞(シャイセ)!タンネンベルク提督は、我々の手を縛っておいて先制攻撃
を行う為、グリューネワルト伯爵夫人の映像を使ったのか!!心理的負荷を掛
けることでこちらの抗戦意欲を削ぎ、一方的に攻撃する為に!!」

 タンネンベルク侯爵の卑怯な手段に、憤りを覚えるミッターマイヤーだが、
いつまでもそうしている訳にもいかない。麾下の艦隊に反撃を命じ、応戦を開
始させる。ミッターマイヤー艦隊の反撃を見て、ようやくキルヒアイス艦隊も
順次砲撃を開始していった。しかし、それまでの間にも、一方的に撃ちまくら
れた味方艦隊は、かなりの損害を出してしまっている。

「キルヒアイス提督に通信を繋げ!」

 ミッターマイヤーの命令で、直ぐにキルヒアイスとの通信回線がつながった。
FTLの画面に出たキルヒアイスは、沈痛な面もちで、まるで生気がないよう
に見える。紙のような蒼白な顔をしていた。

「キルヒアイス提督、このままでは一方的にやられるだけで惨敗は必至。小官
が麾下艦隊の機動力を生かして迂回攻撃を掛け、側背から敵に打撃を与えます
から、その間に本隊をまとめて撤退させて下さい。『疾風ウォルフ』の真骨頂
を、奴らに見せてやります」

 それを聞いて、キルヒアイスは力無く頷いた。

「解りましたミッターマイヤー提督。貴官の作戦案を採ることにしましょう。
あまり無理はされないようにお願いします」

 もともと少ない数で、しかも敵の一方的な先制攻撃を許してしまった現状で
は、再逆転して勝利を得るのはほとんど不可能と言ってもよい。こうなっては、
いかに戦線を縮小して、少しでも多くの麾下兵力を離脱させるかが司令官の腕
の見せ所だ。

 間もなく、ミッターマイヤーは残存麾下兵力一万二千をまとめ、右翼方向に
進路を取り、旋回しながら急進を開始した。キルヒアイスは残存兵力二万一千
をまとめ、相互支援を密にし防御陣型を取り始めた。僅かの時間で、両艦隊合
わせて五千からの兵力を失っていたが、ミッターマイヤーの兵力が限定的な反
撃を行い、タンネンベルク艦隊の左翼を一時的に突き崩したところで、全体を
撤退させるつもりである。


「ふふん、そう来たか。無駄なあがき、と言いたいところだが捨て置く訳にも
行かぬ。もちろん、対処は用意してあるぞ、ミッターマイヤー提督」

 タンネンベルク侯は楽しそうに呟いていた。ミッターマイヤー艦隊の動きを
見て、即座にその狙いを察知したのである。そして、通信担当士官に命じた。

「最左翼部隊、カーレンベルク大佐を呼び出すのだ!」

 タンネンベルク侯が命じると、待機していたかの如く直ぐにFTLの画面に
カーレンベルク大佐が姿を現した。

「カーレンベルク大佐、卿は麾下部隊を率いて、左翼から迂回してくるミッタ
ーマイヤー提督の部隊を迎撃せよ。そのままでは兵力は若干不利だが、直ぐに
シュタイナー少将の部隊を増援に送るので、しばらく支えておけばよい」

「はっ!諒解しました。直ちにミッターマイヤー艦隊の迎撃に向かいます」

 カーレンベルクは命令を受け取ると、旗艦「ヴァルター・ネーリング」の艦
橋で声を張り上げた。

「麾下全艦隊、左回頭全速前進!左翼から迂回してくる、敵艦隊を迎撃するぞ!」

 その号令とともに、カーレンベルク隊一万は、左翼に回頭すると進発した。
今までは一方的に攻撃していただけだったので、カーレンベルクの麾下兵力は、
ほとんど減じていない。カーレンベルクとしては増援などなくとも、ミッター
マイヤー艦隊を撃破してしまうつもりである。

 しかし、タンネンベルク侯は、カーレンベルクの勇猛だけに全てを任せるつ
もりはない。続いて「ダンツィヒ」艦上のシュタイナー少将を呼び出した。

「シュタイナー少将、卿は頃合いを見て、左翼に迂回しカーレンベルク大佐と
ともにミッターマイヤー艦隊を叩き潰せ。カーレンベルク隊だけでも相当やる
とは思うが、卿の麾下部隊がそれに参加すれば、兵力差は倍近くに開く。圧倒
的な戦勢となろう。更に、そのまま敗走する敵に付け入って、敵の本隊までを
突き崩してしまうのだ。この任務は、卿の高速艦隊にはうってつけだろう」

「諒解しました。タイミングをよく見て、カーレンベルク隊の援護に駆けつけ
るとしましょう。前方の敵との交戦は、本隊に任せてよろしいですな?」

 タンネンベルク侯が無言で頷くと、シュタイナー少将は敬礼し画面から消え
た。

「閣下、右翼のクライスト隊とエターリン隊には、特に指示をお出しにはなら
れないのですか?」

 今回は参謀長を務めているシュリーフェン准将が、タンネンベルク侯に話し
かけてくる。

「いや、今のところは必要ない。差し当たって二人には、現状のまま戦闘を継
続してもらえばよいのでな。敵のキルヒアイス艦隊は二万強、こちらは三隊で
三万だ。例の手で先手も取っているし、普通にやれば負けはしない。むしろそ
れより、左翼方面の戦闘が焦点だろう」

「確かにそうですな。左翼部隊が敵を押し込めれば、そのまま敵の右翼に突っ
込んで敵本隊の陣型も壊乱させることができます。しかし、シュタイナー閣下
の部隊の投入タイミングは、なるべく早い方が良いのではありませぬか?カー
レンベルク大佐は確かに勇猛ではありますが、相手がミッターマイヤー提督で
は楽ではありませぬし、兵力が若干でも少ないのでは、苦戦は必至と心得ます
が」

「なに、シュタイナー少将のことだ。その程度の事は先刻承知であろう。一々
細かに指示せずとも、上手くやってくれると思うぞ」

 タンネンベルク侯は、シュタイナー少将への信頼を口にする。候の方針とし
ては、麾下の提督たちに考えさせながら戦わせる、ということであった。総司
令官の命令を唯々諾々と実行するだけの部下が必要なのではない。自分で戦術
をデザインし、ちゃんと実行する「考える」能力のある部下が必要なのだ。そ
れに、シュタイナー少将はタンネンベルク閥の中でも、もっとも優れた部類の
軍人である。軍歴もタンネンベルク侯より遙かに長いのだ。

「シュタイナー隊、移動を開始しました!」

 そう時間が経たない内に、「クラウゼヴィッツ」の艦橋にレーダー士官の報
告がこだました。カーレンベルク隊とミッターマイヤー隊の距離が詰まり、間
もなく交戦距離になるような状況になってからのことである。

「シュタイナー隊、全速で急進して行きます!」

 艦隊の陣型を表示している戦況スクリーン上では、シュタイナー隊が左翼方
向に急速に移動し、カーレンベルク隊に続行してゆく模様が目に入る。

「よろしい。本隊、クライスト隊、エターリン隊はこのまま敵本隊との交戦を
継続する。左翼部隊が敵の側背から攻撃を開始して、敵が崩れた時に一気に攻
勢に転ずるのだ」

 タンネンベルク侯は笑みを浮かべて命じると、クライスト准将とエターリン
大佐に指示を伝達させた。先ほどは敢えて右翼部隊には指示は出さなかったの
だが、シュタイナー隊移動開始で戦況が変化した為、一応指示を伝達し念を押
しておいたのである。


「敵艦隊より、一部の戦力がこちらへ向かってきます!数、およそ一万!!」

 ミッターマイヤーの旗艦「人狼(ベイオウルフ)」に、敵の一部が分離し、
こちらへ向かってくる、との報が入る。

「ん、一万でこちらを迎撃するというのか?タンネンベルク侯爵ともあろうも
のが、こちらを甘く見ているのか・・・・・」

 ミッターマイヤーはしばし熟考する。一万程度の相手なら、強引に密集隊形
で中央突破を仕掛けて蹴散らし、敵右翼に殺到しても良いところだ。しかし、
タンネンベルク侯ともあろうものが、そう簡単にこちらの思い通りの戦術展開
を許すものだろうか?

「よし、陣型を密集隊形に変更する。敵の中央を突破するぞ!」

 一抹の不安はあるにせよ、せっかくの機会である。ミッターマイヤーとして
は、艦隊を急進させて迎撃に出てきた敵の中央を突破し、敵本隊に迫る戦術を
採ることとした。何しろ、早いところタンネンベルク侯の本隊に打撃を与え、
一時的にでも相手を怯ませねばならないのだ。迎撃に出てきた敵の一部に、い
つまでも関わり合いになってはいられない。ミッターマイヤーには、時間の余
裕があまり与えられていないのである。

 ミッターマイヤー艦隊は、艦と艦の距離を詰め、密集隊形をとり陣型を三角
形に変更しつつ、カーレンベルク隊に接近していった。間もなく、交戦距離に
到達する、と思ったその時である。

「新たなる敵部隊、こちらに接近中!最初の敵と同規模!!」

 レーダー担当士官の、悲鳴のような叫びがあがった。戦況スクリーン上に、
新たなる敵一万が急速に接近してくる姿が目に映る。

「提督、これは・・・!!」

 バイエルライン少将が息を飲む。後から現れた敵部隊は、高速で先行部隊に
追いつくと、横に並ぶような位置に占位した。そして敵の両隊は、左右対称の
斜型陣を取りつつ、三角形に布陣したミッターマイヤー艦隊を、両側から挟み
込むような陣型に移行している。これでは、ミッターマイヤーがこのまま無理
に中央を突破しようとした場合は、両側の敵から集中砲火を浴び、壊滅的な損
害を受けてしまうだろう。しかし、今更戦術を変更し、更に迂回して側方から
攻撃したりできるものではない。敵の移動速度があまりに速すぎたのだ。

「しまった!!後から現れた敵部隊は、キルヒアイス提督の艦隊を翻弄したと
いう高速部隊だ。確かタンネンベルク侯の右腕という、シュタイナー少将が指
揮官だったか。話には聞いていたものの、ここまで速いとは思わなかった。俺
としたことが、とんだ手抜かりだな。百聞は一見にしかずとは、よくもまあ言
ったものだ」

 ミッターマイヤーは舌打ちすると中央突破戦術を中止し、艦隊に後退を命じ
た。更に陣型を変更して、防御戦に移るつもりだったが、シュタイナーとカー
レンベルクはそれを許さない。

「撃て!」
「撃て!」

 射程に達したところで二人の指揮官が同時に命令を発すると、両隊は砲撃を
開始した。両側からの敵に攻撃されたミッターマイヤー艦隊は、集中砲火を浴
びせられ、命中弾を喰らった艦艇が連続的に爆発する。左右両側の敵のどちら
に向いても、一方には無防備な面を晒してしまう状態なので、圧倒的に不利な
状況だ。しかも、密集隊形をしいているので、陣型の中の方の艦はあまり戦闘
に参加できないし、艦と艦の間が詰まっているので、回避もろくにできはしな
い。

「全艦隊、応戦しつつ後退せよ!後退して散開し、陣型を再編するのだ!!」

 ミッターマイヤーは必死になって艦隊を後退させ、陣型の再編を図ろうとす
る。しかし、シュタイナーとカーレンベルクは距離を開けさせず、全速で追撃
してきた。三角形状に布陣する中央の敵を、斜めに構えた両隊が、両側から挟
み込むように攻撃している。両サイドから一度に攻撃された相手は、左右の両
方の敵に同時に対処せねばならず、応戦も困難な状態に陥ってしまうのだ。旧
地球世紀、英海軍のネルソン提督がフランス艦隊を破ったアブキール海戦のよ
うな戦いに持ち込むことができたのだから、シュタイナーとカーレンベルク側
は、その有利を手放しなどはしなかった。

 しかしそれでも、時間が経つにつれ、ミッターマイヤー艦隊の陣型は密集隊
形から分散隊形に移行し、防御用の球形陣に再編されていった。甚大な犠牲を
出しつつではあったのだが、ようやく密集隊形のまま狭い空間に折り重なって、
一方的に両側から攻撃される愚からは逃れることができたのである。

「よろしい。今度はこちらが機動力を発揮させてもらうとしようか。これから、
我が隊は中央突破を掛ける!」

「ダンツィヒ」の艦橋でシュタイナーは力強く命じると、艦隊を集結させつつ
急進を命じた。カーレンベルクはすかさずその後方に付き、シュタイナーの突
入の援護に回っている。今までの戦闘で、ミッターマイヤー艦隊は五千を失い、
残存戦力は七千程度になってしまっていた。そこで若干減じたとはいえ、一万
近くの艦隊が突入して来たのでは、支える方が無理というものだ。しかも、背
後に敵の突入を援護する同数の戦力があり、味方艦隊の陣型は分散されてしま
っている状態である。シュタイナー隊が高速で突入を開始すると、ミッターマ
イヤー艦隊はあっという間に分断され、四分五裂の状態になってしまった。戦
術も何もなく、艦隊の陣型は一瞬で木っ端微塵になり、キルヒアイス艦隊目が
けて潰走する艦が続出する。シュタイナー隊はそれを適当に攻撃しつつ、一緒
になってキルヒアイス艦隊を目指していた。このまま敵の潰走に付け入り、横
合いから敵本隊に突っかけるつもりである。


「何たるざまだ!!全く信じられん。俺ともあろうものが、ここまでの惨敗を
喫するとは・・・・・」

 ミッターマイヤーは、シュタイナーとカーレンベルクに、完全に手玉に取ら
れてしまっていた。すでに麾下の艦隊は潰走状態にあり、旗艦「人狼(ベイオ
ウルフ)」周辺にいた艦艇百隻ほどをまとめて、戦場を離脱するのが精一杯と
いう状況である。ミッターマイヤー艦隊所属の残存艦はそれなりには残っては
いるものの、すでに統制は全く取れていない。初めはちょっとした判断ミスに
過ぎないことから、結局は艦隊の壊滅まで招いてしまう。艦隊戦闘は、時には
このような恐ろしい結果を生むものだ、ということはミッターマイヤーほどの
将帥なら当然熟知していることではあるが、だからといってこの惨状が避けら
れた訳ではなかった。戦力的にはまだ半分近く残ってはいるものの、潰走状態
になってしまっては、もはやその数は何の役にも立たない。むしろ、キルヒア
イス艦隊に向けて無秩序に逃げる艦が多い状況では、健在な味方の妨害にしか
ならないのだ。ミッターマイヤーは歯がみしつつ、何とか逃れた味方艦をかき
集め、戦場から離脱するだけであった。やはり、劣勢の上に先制されたのでは、
あまりに情勢が不利だった、ということであろう。それに敵の戦術、すなわち
シュタイナー隊の速さを読めなかったことが、ミッターマイヤーの敗因である。


(以下続く)

親記事No.898スレッドの返信投稿
board3 - No.941

これはついでなんですが

投稿者:風狂
2001年03月31日(土) 13時13分

 日傘さんも恵さんも、ジェラード・アッテンボローの父親と言う面に
ついて肯定的なようですね。
 ですが自分は、ジェラード個人に対する印象は、確かに魅力的な好人物と
して写るんですが、父親としてはかなりとんでもない様に見えますね。
 いかに信頼できる祖母がいるからといって、何年もいかなる便りを一つも よこさないし、何の知らせもないまま、勝手に結婚してるし、娘の命の危機
を感じる事がなかったら、この人死ぬまで人生の全てを中国に捧げて、帰って
くる事なかったんじゃないかと思いますね(笑)。
 それに、ジェラードはヤン・タイロンのように、父親のエゴ(親族に取られるくらいなら、いかなる所へも一緒に連れて行く)を爆発させた事もないし。

 どうもジェラードの娘に対する視点は、「独立した一個人」ではあっても、「娘」ではないように見受けられるんですが、どうでしょうか?

mixiチェック