- 親記事No.3660スレッドの返信投稿
- board4 - No.3662
Re:亜光速ミサイルシステム
- 投稿者:古典SFファン
- 2003年02月15日(土) 19時48分
>
> どういうものかというと、ヤンが間に合わせで作ったものよりはもう
> 少し上等に製造した亜光速ミサイルと、FTLデータリンクとセンサー
> を積んだ小型軽量で高起動な機体、まあ、新開発しないならスパルタ
> ニアン改造型をたくさん、これだけです。
>
えーと・・・
これも、実を言うと議論しようとすると前提の調整が要ると思いますが(笑)、
まず、われわれの知る物理では、光速近くになると二つの破壊的要素が効き始めます。
一つは星間物質です。
薄くはありますが、光速付近ではウラシマ効果により航行する物体の時間が遅くなるのと相俟って、相対的に、
「一定の時間内に物体前面からぶつかってくる星間物質の量と相対速度は莫大になる」
事になります。
バサード・ラムの場合、機体前方に展開されるラムスクープ場(銀英伝の表現では「バスケット状の磁場」)が星間物質をキャッチし、
言わば真空地帯を作ってくれるのでいいのですが、それなしだと、
光速近くでぶつかってくる星間物質の抵抗で、物体は簡単に破壊されます(実際、プラズマ化するほどの相対速度です)。
もう一つは電磁波です。
星虹と呼ばれる現象ですが、亜光速航行する物体は、次第に波長が短くなる前方からの電磁波にさらされます。
これは探知障害になり得ます。
(いずれも本当に光速に近づいてから顕著になる現象ですが。)
ヤンが使った氷塊は巨大なので、前方からぶつかって来る星間物質を、言わばラムスクープ場で衝角のようにかきわけながら直進できるかも知れませんが、
スクープ場を係留する物体の質量が小さいと、ちょっとした乱流(こんな速度では、星間物質は凄まじく濃い流体も同然です)が生じても、進路は途方もない勢いで跳ね出してしまうはずです。
要するに、小さいミサイルだと進路が予測不能なぶれ方をする可能性が大です。
「誘導が効きづらい」と言う現象については、理由は違うけれどSAIさんも考慮しておられるようですが、
要するにこの種のミサイルは、
・助走距離が要る=いきなり亜光速では撃ち出せない。
(作中でヤンが使った氷塊もかなりの加速距離を取っている)。
・ミサイルも弾頭も、一瞬でもスクープ場が消えたら、星間物質の抵抗で跡形もなくプラズマと化して消滅する=SAIさんが仰るような使い方は難しい。
・誘導が難しい=星間物質の抵抗で、予測困難な進路のブレが生じる。
ブレを補正しようにも、星虹による探知障害でセンサーは使用不能、
ウラシマ効果によりミサイル自身の時間がのろくなっているので
反応も遅くなる。
ましてイゼルローン回廊のように星間物質が航行障害になりかねないほど濃い(とされている)領域があちこちにあるようなところだと、
小型のミサイルが何かにぶつかって爆発する可能性も大です。
(何しろ相対速度が光速ですから・・・(--;;;)
あるいは、近接信管を持つ機雷でスペースデブリをばら撒く手もあります。
ラムスクープ場はミサイル前面に展開しているので、普通の金属探知と
同じく、センサーに引っかかります。
何しろ光速ですから、ミサイルとの衝突速度も凄まじいものです。
ラムスクープ場による遮蔽を失ったミサイルの破片は、星間物質が片付けてくれる・・・と想定する事も可能です。
実を言うと、防衛手段の要件は考えられるものの、
「それで防げるか、防げないか?」
となると、私には答えを出す決定打がありません。
なにぶん、作中ではおそらく、そういう細かいことは考えていないと思われるので・・・。
ヤンが使った氷塊は(偶然かも知れませんが)幾つかの要件をクリアーしています。
まず、かなり大きいという事。
ラムスクープ場を失ったら崩壊蒸発が始まるとは言え、崩壊しながら速度が落ちていくので、
蒸発しきる前に目標をヒットする確率が高いという事です。
それに、細かく砕けると蒸発してしまう氷なので、ある程度距離があるところで迎撃されたら、ハイネセンにぶつかる前に蒸発してしまう可能性が高いこと。
あれが引き起こせる最悪の事態は、「適当な」大きさに砕かれて
誘導不能の状態でハイネセンを襲う事だったと思われますが、
ヤン艦隊が制宙権を奪取していたあの状況では、ほぼその心配はないと
いう事で・・・。
- 親記事No.3660スレッドの返信投稿
- board4 - No.3663
Re:亜光速ミサイルシステム
- 投稿者:古典SFファン
- 2003年02月15日(土) 20時19分
追伸:
これまた物理的な笑える話ですが(笑)、
亜光速で衝突する物体が十分に「小さい」場合、あまり被害を与えずに「通過」してしまう可能性があります。
固体中を衝撃波が伝達しえる速度は、固体中の音速です。
固体はそれより速くは変形できません。
それより早く固体が破壊されるメカニズムは、ぶつかったところに対して運動エネルギーが熱になって解放される事により、
固体が「ガス→プラズマ」になって、「蒸発」して行くような過程をたどるはずです。
光速で襲う物体の場合、その運動エネルギーが熱になりきるより速く、
衝突した物体を「貫通」して突破してしまうのではないか?
という疑問があります。
ライフルで言う貫通銃創のようなものです。
弾体が速過ぎて周囲に被害が広がる暇が無いと。
(実際の速度比はライフルの場合よりも遥かに大きい)
動力部に当たればまた別かと思うんですが、戦艦程度の大きさの物体を、比較的小さいミサイルで、
亜光速でピン・ポイント狙撃するのは、先に述べた状況(星間物質の乱流の中)ではまずしんどいんじゃないかと。
つまり、当てづらく、当たったとしても爆散ではなく、「小破」「中破」レベルではないかという事ですね。
(この辺は、ライフルでも、高速で軽いタマは貫通力に優れるが、低速で重いタマは破壊力に優れるのと同じ。また、ライフル弾が風に流されるのと、星間物質の乱流に亜光速の物体が流されるのは少し似ている)
ヤンが使った氷塊と「アルテミスの首飾り」の場合、サイズが違います。
氷塊は砕けながら運動エネルギーの全てを衛星に叩きつけ、また、
砕ける事で抵抗を生んで速度を相殺しています。
形状も、3kmもある棒状?なので、十分に減速しながら運動エネルギーを解放できるのではないかと。
要するにこの兵器、「攻城戦」では切り札として使えるにしても、
まず制宙権を奪って助走距離を確保し、ある程度接近するまでラムスクープ場を失わないようにミサイルを守り、
接近後は的にヒットするまでミサイルを砕かれないようにしないと
完全な効果を発揮しないという事・・・。
つまり「使えるが、それが来ると知っている相手には対応策を立てる事も出来る」ともいえます。
あくまで物理的要件に基づく推定なんで、作中で氷爆弾が使われなかった理由と重なるかどうかは作者のみぞ知るというところでしょうか・・。
- 親記事No.3581スレッドの返信投稿
- board4 - No.3664
Re:またか・・・
- 投稿者:ニダ
- 2003年02月15日(土) 21時04分
> 要塞の無限生産力といっても、せいぜい食料の自給自足ぐらいでしょう。要塞や艦艇の武器弾薬の生産や補修に付いては、要塞内にストックしている鉱物資源が無くなれば、出来なくなるでしょうね。
> 食料プラントから生産された有り余る食料と核融合炉から生み出されたこれまた有り余るエネルギー。こんなところですか。もっとも50年後はどうか?と言われれば確証は持てませんけど。
そうか、そうだよね~。無限に武器や艦艇作れたら作品が崩壊しちゃうものね。単なる疑問だけのアホ質問に答えてくれてありがとう。じゃ。
- 親記事No.3581スレッドの返信投稿
- board4 - No.3665
Re:またか・・・
- 投稿者:ニダ
- 2003年02月15日(土) 23時27分
でもさ、冒険風ライダー氏の読んでるとさ、「こうであるべき」「こうでなければならないはず」って、それこそ教条主義ってーかお前出来んの?と言うか指導的立場に立った事ない人間に限って理想だけの弁垂れんのよねー的な言い方が目立つでしょ。そんでつい揶揄したくなった訳。人間なんて矛盾するもんだし、その程度の当たり前の現実も許容できずに理想押し付けまくってるのがさー。相手には証明せーとか言う割には↑のガキ&日本官僚的評価の仕方してるのが何だかねーと。聞く耳持たない人には反論するだけ無駄よ、サヨ的論理人には話通じ難いしねーと言って去ってみる(藁。
- 親記事No.3660スレッドの返信投稿
- board4 - No.3666
Re:亜光速ミサイルシステム
- 投稿者:SAI
- 2003年02月15日(土) 23時44分
> 追伸:
>
> これまた物理的な笑える話ですが(笑)、
> 亜光速で衝突する物体が十分に「小さい」場合、あまり被害を与えずに「通過」してしまう可能性があります。
>
> 固体中を衝撃波が伝達しえる速度は、固体中の音速です。
> 固体はそれより速くは変形できません。
> それより早く固体が破壊されるメカニズムは、ぶつかったところに対して運動エネルギーが熱になって解放される事により、
> 固体が「ガス→プラズマ」になって、「蒸発」して行くような過程をたどるはずです。
>
> 光速で襲う物体の場合、その運動エネルギーが熱になりきるより速く、
> 衝突した物体を「貫通」して突破してしまうのではないか?
> という疑問があります。
> ライフルで言う貫通銃創のようなものです。
> 弾体が速過ぎて周囲に被害が広がる暇が無いと。
> (実際の速度比はライフルの場合よりも遥かに大きい)
> 動力部に当たればまた別かと思うんですが、戦艦程度の大きさの物体を、比較的小さいミサイルで、
> 亜光速でピン・ポイント狙撃するのは、先に述べた状況(星間物質の乱流の中)ではまずしんどいんじゃないかと。
> つまり、当てづらく、当たったとしても爆散ではなく、「小破」「中破」レベルではないかという事ですね。
> (この辺は、ライフルでも、高速で軽いタマは貫通力に優れるが、低速で重いタマは破壊力に優れるのと同じ。また、ライフル弾が風に流されるのと、星間物質の乱流に亜光速の物体が流されるのは少し似ている)
>
> ヤンが使った氷塊と「アルテミスの首飾り」の場合、サイズが違います。
> 氷塊は砕けながら運動エネルギーの全てを衛星に叩きつけ、また、
> 砕ける事で抵抗を生んで速度を相殺しています。
> 形状も、3kmもある棒状?なので、十分に減速しながら運動エネルギーを解放できるのではないかと。
>
> 要するにこの兵器、「攻城戦」では切り札として使えるにしても、
> まず制宙権を奪って助走距離を確保し、ある程度接近するまでラムスクープ場を失わないようにミサイルを守り、
> 接近後は的にヒットするまでミサイルを砕かれないようにしないと
> 完全な効果を発揮しないという事・・・。
>
> つまり「使えるが、それが来ると知っている相手には対応策を立てる事も出来る」ともいえます。
>
> あくまで物理的要件に基づく推定なんで、作中で氷爆弾が使われなかった理由と重なるかどうかは作者のみぞ知るというところでしょうか・・。\
- 親記事No.3660スレッドの返信投稿
- board4 - No.3667
Re:亜光速ミサイルシステム
- 投稿者:SAI
- 2003年02月16日(日) 01時58分
上のは私の手違いです。管理人さん消してください。
ではどうすべきかの対処方法を。
ミサイルの観測問題は、ミサイル自体には、あまりセンサーをつみ
ません。ミサイルに先行して展開したセンサーにやらせます。
これは実は何でも良いんです。このシステムだけに頼るなら
コストの関係上、センサーがたくさんいるから小型戦闘艇なわけで
艦隊と組み合わせるなら、戦艦でもいい。用は目標の近くで観測
できるハードウェアならなんでもいい。ミサイル自体には観測させま
せん。
小型ではうまくゆかない、加速距離がいる。弾頭ではうまくゆかない。
その問題は、まず大型にする。大型の場合、コストの問題上、敵艦隊
すべての撃破するわけには行かないので、艦隊と組み合わせて、
敵旗艦の撃破、膠着状態の打破、突撃前の制圧攻撃というふうに
使うことになるでしょう。
小型でもうまくゆくくらいに速度を
落とす。別に亜光速まで速度を上げることが目的なわけではなく
ようは敵を撃破できればいい。速度を上げればあげるほど回避率
迎撃率は下がるけど、困難も増える。困難と回避率と迎撃率を
天秤にかけてちょうど良いところにすればいいんです。
その場合は超高速長射程ミサイルという名前になるでしょうが。
加速距離は遠距離で撃てばいいんです。観測の問題はセンサーと
ミサイルを分離すればいい。敵を撃破できるなら亜光速まで
到達しなくてもいいし。
弾頭は10万隻撃破するのに10万発用意するのは面倒だな
というだけです。うまく行かないなら、今までの艦隊と組みあわ
てつかえばいい
スペースデブリの問題は
1無い方向から突入させる
全部有るわけがない。あったら艦隊もろくに行動できなくなりますので
ただ来る方向を制限できるのでそこは工夫しないといけませんが。
2ゼッフル粒子か何かで掃除する
ようはは戦術の問題であり、使い方を考えればいいんです。
古典SFファンさんの言った問題以外にもあるでしょうけど、
それは実戦テストを繰り返して改良すればいい。
- 親記事No.3660スレッドの返信投稿
- board4 - No.3668
Re:亜光速ミサイルシステム
- 投稿者:古典SFファン
- 2003年02月16日(日) 03時16分
> 小型ではうまくゆかない、加速距離がいる。弾頭ではうまくゆかない。
>
> その問題は、まず大型にする。大型の場合、コストの問題上、敵艦隊
> すべての撃破するわけには行かないので、艦隊と組み合わせて、
> 敵旗艦の撃破、膠着状態の打破、突撃前の制圧攻撃というふうに
> 使うことになるでしょう。
> 小型でもうまくゆくくらいに速度を
> 落とす。別に亜光速まで速度を上げることが目的なわけではなく
> ようは敵を撃破できればいい。速度を上げればあげるほど回避率
> 迎撃率は下がるけど、困難も増える。困難と回避率と迎撃率を
> 天秤にかけてちょうど良いところにすればいいんです。
> その場合は超高速長射程ミサイルという名前になるでしょうが。
>
> 加速距離は遠距離で撃てばいいんです。観測の問題はセンサーと
> ミサイルを分離すればいい。敵を撃破できるなら亜光速まで
> 到達しなくてもいいし。
>
物理的には、そのくらいで特に問題ないんじゃないでしょうか。
(細かいことを追求しようとしても、あの世界の技術の詳細がわからない)
そこは兵器ですので、システマティックに改良していくと、どこかで使えるポイントが見つかる可能性はあります。
実際、この種のミサイルが「上手く作るとほとんど迎撃できない」と言うのは、
われわれが知る物理法則上はどうにもならない事実です。
実は(別の作品でですが)この種のミサイルを発案・使用した人は既に居るんです。
既に20年ほど前の話ですが、相対論的速度のミサイルは、迎撃不能の「準光速ミサイル」として、
あの富野総監督が「伝説巨神イデオン」の中で使用しています。
艦艇を的にするにはミサイルのコストが掛かりすぎるので、主に惑星を目標にして、一発で惑星の防空体制を破壊するのに使用されていました。
上手くヒットするとMV^2に従い、同じトン数の核融合爆弾より巨大な威力を持ち得るので、兵器としては魅力的です。
艦隊相手はコスト上疑問がありますが、惑星や要塞に対し大規模なダメージを与えるつもりなら使えるでしょう。
でもまあ、何故か(笑)銀英伝の世界でこの種のミサイルは実用化されていない、というか登場しない。
理由は、案外くだらない事なのかも知れないし、何か技術的に未知の障害でもあったのかも知れない。
その辺は、「推測が多くなる」と申し上げた通りです。
当方からは例によって、
「それでディフェンス出来る」とは限らないが、防御側で見つけ出せる「隙」となり得るものだけ指摘するにとどめます。
まず、ここ。
>ミサイルの観測問題は、ミサイル自体には、あまりセンサーをつみ
>ません。ミサイルに先行して展開したセンサーにやらせます。
当然ながら防御側としては「センサーを潰せ」ですね。
もちろんセンサーは隠れているでしょうが、そこは「隠す技術」と「見つける技術」の勝負という事になります。
あるいは、FTLを妨害するだけでもミサイルの命中率を落とせます。
艦隊戦の最中は当然、広範囲にFTLが妨害されるのは暗黙の了解と思います(確かそういう描写はあった。妨害しすぎでシャトルで情報を槍としていたケースもあり)。
>加速距離は遠距離で撃てばいいんです。観測の問題はセンサーと
>ミサイルを分離すればいい。敵を撃破できるなら亜光速まで
>到達しなくてもいいし。
バサード・ラムを使う場合、遠距離から電磁探知が可能です。
ミサイル本体より遥かに大きなラムスクープ場を展開しなければならないので(しないと星間物質の抵抗で破壊されます)、
ミサイルが光速より十分低い速度だと、センサーに捕まってから通信するだけの隙が出来てしまいます。
さらにこれですが
>スペースデブリの問題は
>1無い方向から突入させる
>全部有るわけがない。あったら艦隊もろくに行動できなくなりますので
>ただ来る方向を制限できるのでそこは工夫しないといけませんが。
>2ゼッフル粒子か何かで掃除する
これは、防御側がこの種の防御兵器を開発する隙があるという事です。
ラムスクープ場を探知して爆発し、多量のデブリをばら撒く機雷を開発する、と。
ラムスクープ場はミサイル前方に展開していますので、ミサイルが来るよりもわずかに早く、機雷は反応できます。
ちなみに、光速の何分の1かの速度だと、デブリもそう大きいものである必要はなく、「ラムスクープ場で排除できない」ものであれば十分です。
ほとんど顕微鏡サイズのものでも、当たったらミサイルは進路をそれるか、破壊されます(MV^2。運動エネルギーは質量×速度の二乗)。
展開範囲が十分広ければ「濃密なガス」でも同じ働きをします。
要するに完璧な兵器はないという事です。
亜光速とか、光速の何分の1とかのミサイルが防御しづらいのは確かですが、銀英伝の世界設定と技術体系だと(おそらくは、ですが)、防御の可能性は残っていると。
あまり積極的理由はありませんが、この種の兵器があの世界でメジャーでない理由があり得るとしたら、
誘導が難しく、助走距離が必要なため、艦隊戦に使いづらいと考えられること。
敵艦の位置を、かなり近づくまでまともに掴めず、妨害されるとFTLによる誘導がおぼつかない状態では、ミサイルのヒット率は下がるはずです。
その状況下で大型のミサイルで戦艦を狙うと、ミサイルが光速以下だと、戦艦が気づいて自動回避する可能性は残っています(人間の反応速度ではむりっぽだが)。
何よりセンサーを潰す(FTLを妨害して無効化する)技術は発達していそうですし。
この種のミサイルについて完全な否定は出来ません。
実際、固定目標に使うには有効で、大きく重く、光速に近づけるほど迎撃不能性が増大するのはヤンが示した通り。
艦隊相手だと先のような疑問あり(上手く作り、状況を選ばないとヒットできないかも知れない)ですが、イゼルローン要塞に氷をぶつけていけない理由はありません。
まあ作中では大質量ワープの技術を手にしている帝国側にしか出来ないんですが(イゼルローン周辺には手ごろな物体が無いと思われる)、
ワープで適当な物体を運んで来る事は出来たはずです。
・・・もっとも、イゼルローンを破壊してしまったら、ヤンたちは艦隊を抱えて逃げ出し、それこそ新たな長征に出てしまったかも知れませんが。
(移動要塞を連れて行けば有用かも知れないが、逃げ出す事自体に要塞は要らない。ただ逃げてしまえばいいのだ・・どこまでも)。
- 親記事No.3625スレッドの返信投稿
- board4 - No.3669
すくなくとも冒険風ライダーさんに謝罪を
- 投稿者:パンツァー
- 2003年02月16日(日) 03時19分
☆Kenさんの論点の1
Kenさんの記載(No3564)
> パンツァーさんの挙げられたAかBかの二者択一は、すこし単純すぎると思いますが、今回の議論の流れの中では、Bととっていただいても結構です。艦船に比べて、要塞に関する証明のreliability(信憑性と訳すのかな?)が著しく低い、というのが論旨ですから。
この主張は、Kenさんの考え方を示す上で、重要な示唆を与えますね。
「艦船に比べて、要塞に関する証明の信憑性」が高かろうが低かろうが、問題ではないのですよ。「艦船」の証明ができなければ、そもそも「銀英伝を論じる」ということ自体が、「銀英伝の作品設定そのものへの批判を行う場合」を除いて、崩壊するのです。
「艦船の移動」の証明は終了している、という立場をとらないのであれば、「銀英伝を論じる」ことが無意味である、と言っているに等しいのです。
冒険風ライダーに限らず、この掲示板で一般に論を展開している人は、「作品設定」であるから「艦船の移動」を当然のこと(証明されているもの)、として扱っているのです。
Kenさんが「作品設定を前提とする」という態度をとらないのであれば、「艦船の移動」の証明を独自に行う必要があるのです。
要するにKenさんは、根拠もなく、信じたいもの(艦船の移動)は信じるが、信じたくないもの(移動要塞)は信じない、といっているだけなのです。
Kenさんは、次に述べる「帰納法の場合」を、原則的に取りたくない、といっているわけでしょう。だったら、「艦船の移動」の証明を独自にしない限りは、単に信じたくないから信じない、というだけの話になるのですよ。
Kenさんの記載(No3564)
> >A銀英伝に登場するテクノロジー一般が、
> >「可能であると証明するにも、不可能と証明するにも、不十分である」
>
> という結論になると思われますが、これを持ち出すと、「なにも証明はできない。終わり」と「まったく、面白くない結論」になるので、今はこの立場をとりません。
特に、こんなことを言うのであれば、そもそも冒険風ライダーさん等に絡んだKenさんの態度自体が、非常に身勝手なものではありませんか。
「今はこの立場をとりません」というのであれば、
冒険風ライダーさんに対して、謝罪して欲しいですね。言いがかりであったと。少なくとも自分のやったことを自覚している現時点においては。
☆Kenさんのいう「帰納法」の場合
> そして、艦隊と要塞の差はここで生じます。
>
> 銀英伝の記述では、艦船(質量数万トン以下の構造物)の宇宙航行は、ヤノーシュ博士以後だけ考えても千年以上の歴史があります。また航行の形態も多様です。移動距離を考えても、「一万数千光年の征旅」もあれば、艦隊間のシャトル連絡もあります。
艦船と要塞との違いは、移動に関しては、基本的には質量が相違する、という点ですよね。
「艦船(質量数万トン以下の構造物)」という限定を加えていますが、こんな限定は根拠がありませんよね。Kenさんは、(No3572)等に出てくる「自動車」の例でも、根拠なく勝手に、「半分」より多い燃料の場合を否定していましたが。
艦船の証明が終わっている時点で、
質量とエンジン出力に対する関係が導かれているのです。
同じ艦船であっても、質量の大きなものもあれば、小さなものもあるのです。
したがって、単純に考えれば、「物体の移動」に関する信頼性に値する理論が存在する上で、「質量」に関する一変数が相違するだけなのです。
銀英伝3巻140P
<「新しい技術と言うわけでもない。スケールを大きくしただけのことだろう。それも、どちらかというと、あいた口がふさがらないという類だ」言わずもがなの異論を、シェーンコップが唱える>
シェーンコップでなくても、現代の我々でも、当然の予測ですね。
「艦船の移動」の証明が終わった時点で、「移動要塞」に関しても大半の証明が終わっているのです。
そして、(質量を問わぬ)「物体の移動」に関する理論に、ガイエスブルグ要塞のような大質量を代入してみると、この場合も成立した。つまり、「物体の移動」に関する理論は、大質量の場合でも成立した、ということです。
だから、
「艦船(質量数万トン以下の構造物)」であったにせよ、「物体の移動」に関する理論が構築された段階で、大質量に関しても「原理的に可能」の域に、必然的に達してしまうのですよ。
そこに、大質量の実例としての、ガイエスブルグ要塞が、ほとんど問題もなく実現された記載が存在しています。
他にも、「艦船(質量数万トン以下の構造物)」よりも大質量の例としては、例の氷塊もあれば、イオンファゼカス号もありますよね。
ちなみに、艦船が(質量数万トン以下の構造物)であるっていうのは、作品中のどこかに記載されていますか。参考までに引用個所を知りたいですね。
☆Kenさんの提示する証明の方法
> 私は、何かを証明する方法として、
>
> 1.演繹的に証明する。
> 2.帰納的に証明する。
> 3.現実世界の科学手法を用いる。
> という3案を提案しました。
1の論理の展開が、まったくわかりません。これまでにも私は、演繹法は「前提」に対する「結論」が真であるのだから、まず「前提」が必要だ、と述べましたよね。
どうやったら、そういう都合のよい「前提」が見つけられるのですか?
例えば、「現代の自動車」の証明とやらを、Kenさんのいう「演繹」で説明してみてください。「現代の自動車」すら説明できないのであれば、何を証明することができるというのですか。
「前提」部分を「帰納法」で導くのであれば、「演繹」で説明するってことにならないでしょうし。
3も同じです。論理展開が不明です。これに関しては、これまでの私の投稿でも述べていますよね。
これに関しても、「現代の自動車」の証明を、「現実世界の科学手法」で説明してもらえれば、よいですね。
まあ、(No3572)等に出てくる「自動車」が、Kenさんのいう「現実世界の科学手法」の説明でしたから、この説明において、私が提示した疑問に回答する、という形でも構いませんが。
- 親記事No.3625スレッドの返信投稿
- board4 - No.3671
Re:すくなくとも冒険風ライダーさんに謝罪を
- 投稿者:Ken
- 2003年02月16日(日) 08時04分
パンツァーさん。
>☆Kenさんの論点の1
パンツァーさんのご指摘どおり、一方で演繹証明を必要とする立場をとらない、といいながら、冒険風ライダーさんにのみそれを求めるのは不当に聞こえますね。
でもそれには理由があります。今回の議論に対する私のスタンスは、「恒久移動要塞が可能と断じるにも、不可能と断じるにも、銀英伝の記述は不十分」というものです。これに対して、冒険風ライダーさんのスタンスは、恒久移動要塞の現実性やそのベースとなる「無限の自給自足能力」は銀英伝世界において、存在が「立証」されている、というものです。冒険風ライダーさんは、銀英伝世界では、恒久移動要塞や無限の自給自足システムができるかもしれないという「可能性」を指摘されたのではありません。それ以外に解釈のしようがない、と言われているのです。
そして私は、私が「証明できない」と思う仮説を「証明できる」という人に、「それでは証明をお願いします」と言ったのです。
証明方法としては、物理法則の適用を否定される以上、
演繹:
銀英伝の記述を前提とし、そこから「それ以外には到達しようのない」結論へ到達する。
帰納:
銀英伝の記述から、恒久移動要塞の信憑性を増大させる記述を集めてくる。
のどちらかしかありません。そして、銀英伝の記述中に、移動要塞の実例がガイエスブルグただひとつしかない以上は、帰納法で証明するにはデータ不足です。それなら、データの量に依存しない演繹をやるしかないではありませんか。私は、冒険風ライダーさんとの議論の流れでは、今でも相手に「ピタゴラス型」の証明を求めています。そこまでできなくても、せめて私が「再度整理しました」とタイトルをつけた#3579でいろいろ挙げた「・・・かもしれない」式の疑義の存在を一切許さない証明をです。
恒久移動要塞は「可能性がある」というだけの人には、証明を求めたりなどしません。
>☆Kenさんのいう「帰納法」の場合
>ちなみに、艦船が(質量数万トン以下の構造物)であるっていうのは、作品中のどこかに記載されていますか。
おっしゃるとおり、「数万トン」というのは私の勇み足でした。艦船の質量に関する具体記述は少ないのです。私は本伝10篇と外伝の1、3、4を読みましたが、この中で艦船の質量に言及したのは、黎明篇中の二ヶ所しかなかったと思います。
五〇〇○万人の一八〇日分の食糧といえば、穀物だけでも一〇〇〇万トンに達するであろう。二〇万トン級の輸送船が五〇隻必要である。
(黎明篇、第八章-1)
グレドウィン・スコット提督の率いる同盟軍の輸送艦隊は、一〇万トン級輸送艦一〇〇隻、護衛艦二六隻から成っていた。
(黎明篇、第八章-4)
どちらも輸送艦で、前者は20万トン、後者は10万トンです。艦船の質量に関して、これ以外の記述がある場合は、どうかご教授願います。ただ、これしか記述がないのなら、読者としては、艦船の質量はおおむねその程度と推測する以外にないだろう、と考えた次第です。
はっきりしているのは、要塞は艦船よりも質量が大きいということです。ガイエスブルグの来寇が告げられたとき、オペレータとキャゼルヌの間で交わされた言葉はこうでした。
「質量は、概算四〇兆トン以上です」
「兆だと!?」
(雌伏篇、第六章-1)
キャゼルヌの言葉を、私は次のように解釈しました。
1.40兆トンの移動は例がない
2.そもそも「兆」単位のトン数の移動に例がない。
このことをもって、艦船の質量は、要塞とは「桁」の異なるものだといえるでしょう。
さて、本論ですが、
>したがって、単純に考えれば、「物体の移動」に関する信頼性に値する理論が存在する上で、「質量」に関する一変数が相違するだけなのです。
その「信頼性に値する理論」が、要塞の質量に至るまで通用するという証明はどこにあるのでしょうか?
パンツァーさんの理論を展開すると、「ハンググライダーからエアバスまで、航空機には多種多様な質量があるから、10万トンの航空機でも飛ばせる」と言っているように思われます。
「例の氷塊」は亜光速に達しただけでワープをしていないし、質量は「たったの」10億トンです。イオン・ファゼカスは「無名の一惑星」まで航行しただけで、航行距離に関する何のデータもありません。「恒久移動要塞」は、兆単位の質量を動かすこと、それをワープさせること、「無名の一惑星」より遠くの地へ行くことの「すべて」を求められます。
恒久移動要塞を可能と帰納するための例証は、依然としてガイエスブルグしかありません。例証が一つしかないというのは、一般則を帰納する上で、重大な障害であると思います。
基本的に陸戦兵であるシェーンコップが「新しい技術と言うわけでもない」と言ったたのと、参謀であるムライが「帝国軍は新しい技術を開発させたと見える」と言ったのと、どちらが正しいかで、一つの議論になるでしょう。しかし、仮にシェーンコップが正しいとして、「何をするための」技術を彼らは論じているのか、が問題です。
40兆トンの質量を動かすことですか?40兆トンの質量を帝国本土からイゼルローンまで動かすことですか?それとも40兆トンの質量を恒久的に動かすことですか?
初めの二つが(ある条件のもとで)できたことをもって、三つ目も可能である、と断言できるのでしょうか?私が#3579で例に挙げたように、北朝鮮のミサイルが日本を攻撃できることを誰も疑わないことをもって、同じミサイルがアメリカまで届くことを自明であるとできるのでしょうか?
>☆Kenさんの提示する証明の方法
>1の論理の展開が、まったくわかりません。これまでにも私は、演繹法は「前提」に対する「結論」が真であるのだから、まず「前提」が必要だ、と述べましたよね。
どうやったら、そういう都合のよい「前提」が見つけられるのですか?
「前提」となるのは、銀英伝の記述でしょう。例えば、
*ヤンはフレデリカよりも年長である。
*フレデリカはユリアンよりも年長である。
*ゆえに、ヤンはユリアンよりも年長である。
というような形で証明ができれば、完璧です。
もっとも、私個人に限っていうなら、とりあえず#3579で挙げた点を、完璧に論破していただければ、それでもかまいません。
- 親記事No.3581スレッドの返信投稿
- board4 - No.3672
Re3661:勝算について
- 投稿者:冒険風ライダー
- 2003年02月16日(日) 16時40分
<まず、ラインハルトが停戦を申し出たのは、単に病に倒れたからではありません。8巻P108の記述にある通り、その時に夢に出てきたキルヒアイスに無用な戦について諌められたからです。そのような夢を見た理由については、ヒルダが親切に分析してくれています。>
<病気も夢も、単にきっかけに過ぎません。この時点で、ラインハルトには停戦と会談を申し出るだけの充分な理由はあったわけです。そしてそれは、紛れもなく、ヤンが諦めることなく戦い抜いた結果なのです。
もちろん、ラインハルトが停戦を申し出なかった可能性も充分考えられる以上、ヤンにとって「回廊の戦い」は賭けでもありました。しかし、紛れもなくその「勝算」は0%ではありませんでした。(実際、停戦と会談は申し込まれたのですから)>
その「病気」だの「夢」だのといった「ラインハルトに和平を決断させた要素」自体が、「戦術レベルの勝利を重ねることによってラインハルトを交渉の場に引きずり出す」などという、「戦略構想」と呼ぶことすらおこがましいヤンの杜撰な発想とは全く無関係かつ想定外なところから出てきたものだからこそ「事前予測としてヤンに勝算はない」と評されるのだということがまだ分からないのですか? 「類稀なる僥倖」が起こった「結果」から逆算してヤンを過大評価しても、それは「ほめ殺し」となって却ってキャラクターを不当に貶めることに繋がるだけです。
そもそも、ラインハルトはバーミリオン会戦時に自軍がヤン艦隊に追い詰められて敗色濃くなった状況に陥った時でさえ、「一旦シャトルで脱出して再起を図るべき」という部下の助言を退けていましたし、かの「回廊の戦い」の時でさえ、ラインハルトは出征の際に「ヤンとその一党を討たない限り、オーディンにもフェザーンにも帰らない」などと堂々と宣言すらしていたではありませんか。ラインハルトは最初からヤン一党と「対等の交渉」を行うつもりなどさらさらなく、しかも自らの個人的矜持とプライドのために戦うこと自体が「楽をして勝つ」「自分や部下の身の安全」「帝国の安定」などといったことよりもはるかに優先されるべき最優先事項とすら化している始末だったのです。このような人間に対して「戦術レベルの勝利を重ねることによってラインハルトを交渉の場に引きずり出す」などという「戦略構想」を打ち立てること自体、すでに考え方の根本から誤っていると言わざるをえないでしょう。
また、これは以前にも述べたことなのですけど、「戦術レベルの勝利を重ねることによってラインハルトを交渉の場に引きずり出す」という戦略構想では、ヤンはバーミリオン会戦における唯一の勝機であった「ラインハルトを殺す」という選択肢を全く取ることができず、常に手足を縛られて戦わざるをえないのに対し、ラインハルトはヤンを殺す事もイゼルローン軍を壊滅させる事も可能という状況が出現してしまいます。この格差は、はっきり言って彼我の戦力差と戦略的格差以上に巨大かつ絶望的です。この状況ではヤンの側に一発逆転の可能性すらありえず、彼我の戦力差と戦略的格差によって押し潰される運命が待っているだけであるというのは誰の目にも明らかなのです。これではますますもって「対等の交渉」が行われる可能性は存在しえません。
しかも、仮に万が一その戦略でラインハルトが民主主義の価値を理解してくれたとしても、それによってラインハルトが自動的に和平を結んでくれると考えるのは、ヤンが全否定しているはずの一種の希望的観測ないしは精神論とでも評するべきものでしょう。ラインハルトにしてみれば、和平を結ばずにイゼルローンを陥落させればラインハルトの悲願である銀河統一が達成されるのであり、たかが「民主主義の価値を理解した」などという理由程度でその利益を放棄してヤンと和平を結ぶという事態は、普通ではとても考えられたものではありません。ラインハルト以外の人間であれば絶対和平に応じることなどありえなかったでしょうし、そのラインハルトでさえ、何度も言うようにヤンの杜撰な構想とは全く無関係かつ想定外なところから出てきた「類稀なる僥倖」が勝手に発現するなどという「ご都合主義的な事態」が起こらなければ、そのままヤンを一方的に葬り去っていたことでしょう。
さらに言えば、そもそもラインハルトがわざわざ回廊内に侵入して戦うなどという、あの時点で取りえた策の中でも一番の愚策としか言いようのない戦略など取らず、たとえばエル・ファシル本星を包囲・占領してヤンを回廊外へ誘い出すといった類の戦略を取ったりしたら、ヤンが前提としている「ラインハルト軍を回廊内に誘い込む」という戦略構想自体までもが破綻してしまい、バーミリオン会戦の二番煎じみたいな結末に陥った可能性は極めて高いでしょう。それを「結果として」ラインハルトがやらなかったのは、ラインハルト自身が愚かだったからであってヤンが懸命だったのではありません。そして、これに関する対策を何ら立てなかったこと自体、ヤンは愚かであったと評されて然るべきなのです。
そして、これほどまでに最悪な状況で仮に万が一ラインハルトが交渉に応じたとしても、彼我の戦力差と戦略的格差のために、ヤン側はラインハルト側の要求を全て受け入れざるをえない状況に追い込まれることは火を見るよりも明らかですから、交渉は決して対等なものになどなりえず、最悪交渉が決裂する可能性も濃厚に存在します。たとえば「将兵全員を助命してやるから、今後二度と民主主義思想を掲げないこと」という提言が和平条件として出されたりしたらどうするのでしょうか? 断れば再び絶望的な戦いを行わなければなりませんし、受け入れれば民主主義は滅亡です。これではどちらにせよ、ヤンの目的が達成されることはありえません。こんな要求でさえ、生きるためには受け入れなければならないほどに、ヤンの力は圧倒的に弱小なのです。
上記で挙げたようなことは、事前予測でも充分に把握することができるものです。ヤンの戦略構想や事前予測とは全く無関係かつ想定外の「類稀なる僥倖」がなかったら、絶対にヤンが敗北していたことは間違いなかったでしょう。だからこそ、事前予測として、ヤンには勝利できる可能性も、民主主義を残すことができる可能性も全くありえなかったと言わざるをえないのです。
<勿論、彼我の戦力差は明らかであり、ラインハルトが何が何でもヤン達を倒すつもりだったら、ヤンがそれに抗することは不可能だったでしょう。その意味で、冒険風ライダーさんが、『敵側のラインハルトの胸先三寸に全てを依存しているだけでしかないヤンの方針』と言うのは全くその通りと申し上げるしかありません。
しかし、そんな事はヤン自身が一番よく分かっていた事です。その上で、彼はその『ラインハルトの胸先三寸』を動かす方法こそを構想し、かつ、実現させたわけです。>
上でも述べたように、ヤンの戦略構想の中には「ラインハルトが病で倒れ、夢の中でキルヒアイスに諌められる」などという予測などどこにも存在しなかったのですし、「病気」や「夢」のような要素は、ラインハルトの脳内妄想で自己完結的に出現したものでしかなく、ヤンの戦略構想とは全く無関係なものでしかありません。「結果」を逆算してヤンを過大評価するのは止めていただきたいですね。
これがヤンによってもたらされたと言うのであれば、「魔術師ヤン」が実は本当の魔術師で、何らかの魔術を使ってラインハルトの健康状態や深層心理をはるか遠方から操ってラインハルトを動かしていた、などといった類のトンデモ裏設定でも作成するしかないでしょう。もちろん、そんなものが一切成立しないことに関しては今更言うまでもないでしょうが。
<まず、例え脅しであっても、民主主義の基盤である無辜の人民を虐殺するという宣言など、ヤン達の因って立つ理想、大義名分を自ら放棄するに等しい所業です。このような脅しをしたが最後、イゼルローンは『民主主義の最後の砦』どころか『邪悪な政治テロリスト達の巣窟』として認識され、ヤン達は全宇宙の人民達からの支持をほとんど全て失うでしょう。それどころか、内部にも多くの離反者を生み出すことになりかねません。
次に、そのような卑劣な脅しをかけられたら、なおのことラインハルトは交渉のテーブルにつくわけにはいかなくなります。それは、政治テロリストの要求に帝国が屈するということを意味するからです。>
心配はいりませんよ。相手は所詮他国民なのですから、ヤン達がわざわざ擁護しなければならない理由など法的にも道義的にも全く存在しませんし、そもそも帝国側も、バーミリオン会戦時にミッターマイヤーとロイエンタールがヒルダの提言に従って惑星ハイネセンを包囲した挙句、「降伏しなければ惑星ハイネセンに無差別攻撃を加える」などといって同盟政府を「脅迫」したという「前科」が立派に存在しますからね。同等報復を行ったところで、帝国臣民はともかく、元同盟市民は(表面はともかく内心では)さぞかし溜飲を下げることでしょうし、報復心や復讐心からむしろ熱狂的に支持さえする可能性もありえます。そもそも、自分達に危害が加わることさえなければ、いくら余所で虐殺が大々的に展開されようが所詮は他人事でしかありませんし。
それに250億の民を全て抹殺することすら可能とされる「移動要塞を使った破壊戦略」というのは、現代で言えば「核抑止力」に近い威圧を敵に与えることができるものです。アメリカ同時多発テロなどで「テロリストとの妥協はありえない」などと強気の姿勢を示しているアメリカでさえ、「核抑止力」に対してどれほどまでに恐怖しているかについては今更言うまでもないでしょう。「人口の大半が死ぬ」という「脅し」は、かの強大国アメリカをすら震え上がらせることができるほどに強大な抑止力たりえるのですし、ラインハルトもまた、そのような「脅し」が実際に実行などされてはたまったものではないでしょう。ラインハルトがルドルフ・フォン・ゴールデンバウムのように「たかだか数十億の人間、死んでも一向にかまわない」などという「鋼鉄の心臓」でも持ち合わせているのであれば話は別ですが。
最初の段階では軍事拠点限定で積極的な破壊活動を展開し、ある程度破壊が進んだところで、惑星オーディンなりどこか適当に人口の多い惑星なりに要塞主砲の照準を定めた上で、「バーミリオンの報復」と称して例の脅迫を行い、期限を定めて和平交渉を要求する、という段取りで行けば、ラインハルト側にも引け目があることですし、核抑止力的な力の論理も働き、そうそう強気な態度に出ることもできなくなるのですから、本当の意味で「対等な和平交渉」を行うことができるようになるでしょう。すくなくとも、「ラインハルト個人の慈悲」などでかろうじて成立し、皇帝の気分次第で明日にでも崩壊しかねない「バーラト自治区」のような弱小民主主義などよりは、はるかに自立しえる民主主義が生き残れる可能性がこちらに存在することは確実です。
移動要塞を使った戦いは、単純なテロリズムというよりは「利用される軍事力のレベルと比較すると、一般に強い影響を及ぼすことの多い伝統的でない戦術を利用しながら、小数の戦闘者や軍事力を行使して、数の少ない比較的困難な特定の目標をめざす戦争活動」と定義される「非対称戦争」と「従来の国家間紛争」の中間くらいのところに位置するものでしょう。やっていることは「非対称戦争」の形態と非常によく似ていますが、移動要塞は同時に「民主主義国家」でもありえますしね。それほどまでの強大な力を持つ移動要塞を「テロリズムの道具」などと定義すること自体、根本的に間違っているのです。