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銀英伝考察3-2 ~銀英伝の戦争概念を覆す「要塞」の脅威~
- 投稿者:冒険風ライダー
- 2002年04月14日(日) 15時14分
4.望郷の念に囚われることがない要塞の居住システム
さらに、イゼルローン要塞には200万人の軍人の他に、主にその家族を中心とした300万人ほどの民間人が居住していますが、実はこれも軍事的観点から見れば絶大な利益を味方に対してもたらすものです。というのも、これによって戦場で戦う将兵達が抱きがちな「望郷の念」を完全に消滅させてしまうことができるからです。
古来、戦争を遂行する者にとってしばしば致命的なアキレス腱となったのが、望郷の念に駆られる一般将兵達の心理です。何年にもわたって遠征軍に従軍したり、単身赴任で辺境警備などの任務に従事したりしていると、将兵達は次第に「家族の元に帰りたい」という心理を抑えきれなくなり、やがて自分達を拘束する最大の元凶である(と将兵達が考える)戦争遂行者に対する叛逆やサボタージュを画策するようになるのです。古代のアレクサンドロス大王が意図したインド遠征などは、これが主原因で断念せざるをえなかった典型例でしょう。
しかし、イゼルローン要塞に代表される銀英伝世界の要塞は、その内部の居住区に一般将兵達の家族を住まわせることができるようになっています。しかも要塞内部は絶大な防御力を持つ外壁に守護された絶対的な安全圏であり、社会生活を満足に営めるだけのインフラも充実しています。要塞の軍務に従事する軍人には、常に家族と共に満足な生活を営むことが充分に可能な環境が完備されているわけです。
しかも、軍の管理が隅々まで行き届く要塞の内部に軍人の家族を住まわせることは、外部勢力の脅威から家族の安全を絶対的に保障すると同時に、将兵達の裏切りや造反を防止する効果も併せ持っています。「裏切る際には家族を置き去りにしなければならない」となれば、たとえ軍上層部の基本方針に不満を抱いたとしても、一般将兵達は余程の例外を除いて脱走やサボタージュなどできるはずもないでしょう。これは軍内部の団結力と統制力を著しく高める効果をもたらします。
さらにこれに「無限の自給自足能力」と「移動要塞」の概念を付加すれば、たとえどれほどまで遠くに遠征しても、補給路を気にすることなく、物理的にも精神的にも永遠に戦い続けることができる、まさに夢のような軍団を創設することができるのです。これがどれほどまでの脅威を敵に与え、味方を鼓舞するかは今更言うまでもないでしょう。
にもかかわらず、アレほどまでに「補給の概念」だの「将兵達が抱く望郷の念」だのといったテーマを、銀英伝世界における深刻な軍事問題として滔々と語っていたはずのヤンやラインハルトが、しかも「無限の自給自足能力」と「大都市機能」を併せ持つ要塞の存在価値を充分に認識していたにもかかわらず、シャフトが提言した移動要塞技術の軍事革命的要素に全く気づくことなく、延々と不毛かつ非能率的な戦争を続けていたと言うのですから、全くもって滑稽な話としか言いようがないではありませんか。「永久要塞」と「要塞航行技術」を駆使すれば、銀英伝世界の悩みの種であった「補給の問題」と「将兵の心理的な問題」など瞬時に解決してしまったというのに。
5.コストパフォーマンスの浪費でしかない「要塞特攻」
それどころか、「移動要塞」に関するヤンとラインハルトの認識は、銀英伝3巻で見られるような「要塞自体を要塞にぶつけるための巨大な爆弾として使用する」などという非常にお寒いものでしかありません。前述のように「要塞の使い方」に関しては、軍事革命的要素を持つ、より有効な使用方法が他に存在するのであり、要塞の潜在的能力を全て殺してしまう「要塞特攻」は、戦術的にも戦略的にも政治的にも極めて効率の悪い手段でしかないのです。
しかも要塞の建造には国家予算規模の莫大な予算を必要とします。たとえばイゼルローン要塞の場合、第2次ティアマト会戦で帝国軍が惨敗した後、時の銀河帝国第35代皇帝オトフリート5世が、重臣であったセバスティアン・フォン・リューデリッツ伯爵に命じて建造させたものですが、あまりに建造費用の高さに、皇帝は建造の途中で何度も後悔して建設を中止しようとし、ようやく要塞が完成した時も、その功労者であるはずのリューデリッツ伯爵が、予定よりはるかに建造費用がかかりすぎた責任を取らされて自殺したというのですから、要塞建造には相当に費用がかかることが伺われます。それほどまでの莫大な国家予算を費やしてまで建造した要塞を、たった1回の「要塞特攻」のために潰してしまうのは、普通に考えればコストパフォーマンスの壮大な浪費でしかありえないでしょう。
そもそも、要塞に対抗するために別の要塞の火力と外壁をもって対抗するというのであればまだしも(これでもかなり効率の悪い方法だとは思いますが)、要塞を「破壊」するためにわざわざ「移動要塞」を使用しなければならない理由って一体どこに存在すると言うのでしょうか? 「要塞自体を要塞にぶつけるための巨大な爆弾として使用する」などという戦法は、単に要塞の規模と質量にものを言わせただけの手段でしかなく、それだけであれば別に要塞でなくとも代換可能な他の物質を使って特攻戦術に使用することが簡単にできたはずでしょう。すなわち、巨大要塞の規模と質量に相当する衛星なり小惑星なりに「移動要塞」同様のワープエンジンと通常航行用エンジンを搭載させ、それを要塞にぶつける「小惑星特攻」ないしは「衛星特攻」といった方法を用いれば、遥かに安いコストパフォーマンスで要塞破壊を容易に実行することができるではありませんか。いちいち莫大な国家予算を費やして一から建造しなければならない要塞と違って、衛星や小惑星など広大な宇宙空間のそこかしこにいくらでも転がっているでしょうに。
しかも、銀英伝3巻でケンプがヤンに追い詰められた挙句に行った「要塞特攻」が失敗したとはいえ、それは決して「要塞クラスの質量を保有する小惑星や衛星を要塞にぶつけて破壊する」という戦法自体が戦術上無効であることを立証したわけではないのです。あの要塞特攻が失敗したのは、加速距離が短い中で要塞を無理矢理加速させるために通常航行用エンジンを稼動させ続けてしまったことが原因なのであって、欠点を是正した上でもう一度同じ事を行えば、間違いなくイゼルローン要塞を破壊することができたはずではありませんか。
具体的には、イゼルローン要塞クラスの適当な小惑星にガイエスブルク要塞と同じ仕様でエンジンを設置し、同盟軍の火力が届かない遥か彼方からイゼルローン要塞を直撃するコースを取るように小惑星をスタートさせ、ある程度加速がついてきたところで全エンジンを停止し、宇宙空間をひたすら飛行している隕石と同じように慣性で航行させてしまえば良いのです。これだとエンジンがひとつ破壊されたところで移動する小惑星には何の影響もありません。かくしてイゼルローン要塞は破壊され、同盟は生命線である防衛拠点を失ってしまう事態に陥ったことでしょう。
しかも「要塞特攻」を使った「要塞破壊」に関しては、それを考えたついたラインハルト自身が次のように明言しているのです↓
銀英伝3巻 P201上段
<命令を出した後、ラインハルトが、ケンプからの報告書を読みなおしていると、オーベルシュタイン上級大将が顔を出した。
「ケンプ提督からの報告書、なにやらお気に召さぬごようすとうかがいましたが……」
「ケンプがもうすこしやると思っていたが、どうやら敵を苦しめたというあたりが、彼の限界のようだな。目的はイゼルローン要塞を無力化することにあるのだ。必ずしも要塞を攻略、占拠する必要はない。極端なことを言えば、要塞に要塞をぶつけて破壊してしまってもよかったのだ」
オーベルシュタインの義眼が光った。
「ですが、ケンプはガイエスブルク要塞を拠点として、正面から堂々と敵に挑戦したようです」
「だから限界だと言っている」
報告書を、ラインハルトは乱暴にデスクにたたきつけた。>
加えて同じく「要塞特攻」を考案してみせたヤンに至っては、さらに深く次のような戦略構想まで考えています↓
銀英伝3巻 P203上段~下段
<「イゼルローン要塞が外から陥ちることは、けっしてないように思えるのですけど……」
「さて、それはどうかな」
ヤンの表情はほろにがい。
イゼルローン要塞が不落とされてきた理由のひとつは、要塞それ自体の防御能力もさることながら、攻撃する側に完全な自由がなかったことである。イゼルローンを攻撃する目的は、イゼルローン回廊を制圧して帝国・同盟間の航路の制宙権を確保すること、それ以外にない。それが欲しいために、帝国軍はイゼルローン要塞を建設し、それを望んだために、同盟軍は幾度も要塞に攻撃をかけ、無数の死傷者を出した。それほどに重大な価値が、イゼルローン要塞にはあったのだ。
要するに、イゼルローン要塞攻撃の理由は、破壊ではなく占拠にあった。そして、それに成功した歴史上ただひとりの人物がヤン・ウェンリーだったのだ。
しかし、それは過去のことになった。イゼルローンに代わる戦闘と補給の拠点基地を回廊内に設けることが可能なら、破壊を目的とする攻撃を、帝国はイゼルローンに対してかけることができる。それは占拠を目的としたものより、はるかに苛烈で容赦ない攻撃となるであろう。
――そう考えて、じつは悪寒を覚えていたのだが、事実はそうでもないらしい。帝国軍の指揮官は、移動させてきた要塞を、イゼルローン占拠作戦の拠点としてしか活用していないようだ。それは弱体化した同盟軍にとって、せめてもの幸運であろう。>
ここまで「要塞占拠より要塞破壊の方がはるかに効果的である」と明言しているのであれば、「要塞特攻」の欠点を全て是正した新戦術を「イゼルローン要塞破壊」のために考案しても良かったのではないかとすら思うのですけどね。特に私が前の文章で示した「小惑星特攻」戦術を使用すれば、兵士の損傷率から言ってもコストパフォーマンスの観点から見てもはるかに安上がりだったことでしょうに。
しかし実際の銀英伝世界では、銀英伝3巻の要塞特攻失敗以後、「要塞特攻」も「移動要塞戦術」も銀英伝キャラクターの誰ひとりとして2度と顧みなかったばかりか、銀英伝3巻で「ケンプの限界」とやらを酷評していたはずのラインハルトが、銀英伝8巻では自らの個人的矜持とプライドに基づいて、自分がかつて「限界」と蔑視していたはずの「イゼルローン要塞占領」に固執してしまうありさまです。これならまだガイエスブルク要塞を「イゼルローン占拠作戦の拠点としてしか活用していな」かったケンプの方が、ラインハルトやヤンよりも余程まともな用兵家であったとすら言えるではありませんか。「要塞特攻」に対して色々述べておきながら、結局あの2人は要塞対要塞の戦いから何も学んではいなかったことになるわけなのですから。
これではせっかく「移動要塞技術」という素晴らしい画期的なアイデアを提唱したシャフトも、それに殉じて戦死してしまったケンプも浮かばれないですね(T_T)。
6.イゼルローン要塞の構造的な独裁権力者、ヤン・ウェンリー
ところで「4.望郷の念に囚われることがない要塞の居住システム」で触れたイゼルローン要塞の居住システムにはさらに重大な問題点があります。それは「要塞内部における政治・行政機構は一体どうなっているのか?」という疑問です。
前述のようにイゼルローン要塞には、軍制上ヤンの直接指揮下に置かれることになる200万人の将兵以外に、主として将兵の家族で構成されている300万人もの民間人が居住しています。そして、この将兵と民間人とを合計した500万人という人口を擁するイゼルローン要塞は、前線の軍事要塞としての顔と同時に、そこらの有人惑星よりも規模が大きい大都市としての側面をも持ち合わせており、ヤンの地位は「この巨大な宇宙都市の最高責任者として将兵を指揮する」と定義されているのです。
これっておかしくありませんか? イゼルローン要塞の軍事面における最高責任者に過ぎないはずのヤンが、500万人もの人口を擁する「大都市イゼルローン」の最高責任者をも兼ねているのです。これは「大都市イゼルローン」の地方行政が、中央から派遣された一軍人によって、住民の自由意思とは無関係に運営されていることを意味します。つまり「大都市イゼルローン」は、たかだか一軍人に過ぎないヤンが都市行政の最高責任者として事実上の政治・行政権力を合法的に掌握しているため、民主主義の基礎である「地方自治の原則」が一切機能していないことになるのです。
銀英伝にもそのことを裏付ける記述が存在します↓
銀英伝8巻 P145上段
<イゼルローン要塞での生活をヤンが気に入ったのは、この辺境の軍事拠点にあっては彼より上位の者がおらず、接客や公的行事のわずらわしさが首都ハイネセンにいたときよりもいちじるしく軽減したからであった。ヤンは要塞都市における事実上の独裁者として、中世の王侯のようにふるまってもよかった。だが、その生活や態度が限界のはるか手前でおさまっていたことには、多数の証言がある。彼が高級軍人にありがちな利権と完全に無縁であった理由は、彼の意思というよりむしろ性格に求められるが、賞賛に値することであるにはちがいない。>
この際「ヤンが高級軍人にありがちな利権と完全に無縁であった」などというヤン個人の資質の問題などどうでも良い話でしかありません。そんなものよりはるかに重大な問題は、ヤンの行動を掣肘すべき政治・行政上の上位者がイゼルローン要塞に存在せず、そのためヤンが「要塞都市における事実上の独裁者として、中世の王侯のようにふるまってもよかった」などといったことが(たとえヤンにその意思がなかったとしても)構造上可能であったという点です。ヤンは事実上の絶対的独裁権力者としてイゼルローン要塞に君臨することが政治システムの構造上許されていたのであり、しかもそれを立場的に掣肘しえる上位者はイゼルローン要塞内にはひとりも存在しなかったのです。これは「地方自治の原則」だけでなく、民主主義国家におけるシビリアン・コントロールの観点から見ても非常におかしな話でしょう。
そもそも、将兵と民間人を合わせて500万人以上もの人口を擁するイゼルローン要塞は、それ自体が一個の行政単位として成立するものです。それほどまでの人口が密集している大都市では必然的に地域社会が形成されることになりますし、政治・行政上のトラブルも少なからず発生することでしょう。しかもイゼルローン要塞は元来帝国の建造物であって同盟に帰属した歴史が浅い上、住民のほとんどが同盟からの移住者であるため、要塞を統治するための政治システムや行政機構などを全て最初から構築しなければならない状態にあったのです。そうであるならば、ヤンがイゼルローン要塞の軍事面における最高責任者として赴任した後、速やかにイゼルローン要塞内における「地方自治」のシステム作りが行わなければならなかったはずではありませんか。
具体的には、アムリッツァの惨敗後、イゼルローン要塞に移住してきた将兵と民間人とを合わせた人口が要塞の収容限界値近くに達し、要塞の内情が一段落したところで、イゼルローン住民による、地方議会の議員及び行政責任者である知事を選出する総選挙を行います。そしてイゼルローンの地方議会及び知事は「大都市イゼルローン」の政治・行政を、ヤンはイゼルローン要塞の軍事・軍政をそれぞれ担当する政治システムを整えるのです。
もちろんこの政治システムの下では、政治・行政責任者と軍事責任者の密接な相互連携が必要不可欠であることは言うまでもありません。政治・行政責任者は、最前線でもある「大都市イゼルローン」の防衛と安全を担う軍事責任者と、人口構成のほとんどが軍関係者によって占められている選挙民の意向を無視することはできませんし、軍事責任者の方も、自分の部下達が自由意志で選出した政治・行政責任者の意見を尊重しなければならないのです。「大都市イゼルローン」の地方議会および知事は、選挙民の民意や要望をヤンに伝え、ヤンが政治的に暴走しないように常にその動向の監視・チェックの目を光らせる。ヤンは地方議会及び知事に軍事的見地に立った助言を行い、必要があれば地方議会や知事に協力を要請してイゼルローン防衛に支障をきたさないようにする。これこそが地方自治であり、またヤンの信奉する「シビリアン・コントロールの原則」というものでしょう。
イゼルローン要塞が帝国側の手中に収まっていた時は、軍人が要塞内の政治・行政権力を掌握する統治システムでもそれほど問題ではありませんでした。というのも、そもそもイゼルローン要塞は帝国政府の直轄領である上、「国民による地方自治」という概念自体が存在しない銀河帝国では、帝国政府から派遣された高級軍人が要塞内の行政機構を掌握しても、軍閥化するといった懸念材料などはともかく、制度的・理念的には全く何の問題も生じないからです。むしろ、軍事的な観点から言えば要塞内の権力は集中していた方が良いですし、いつ叛逆を企むかも分からない門閥貴族が最前線の軍事要塞を統治するよりも、中央政府が直接任命した高級軍人の方が信用できるという利点すらあるくらいです。
しかし、いくら最前線のイゼルローン要塞であるとはいえ、仮にも民主主義の理念を謳っている同盟で、ヤンのごとき構造的な独裁権力者の出現が地方行政レベルで許されるのは、民主主義の制度理念上大問題と言わざるをえません。この構造的な独裁体制はヤンの思想信条であるはずの「シビリアン・コントロールの原則」にも著しく反するばかりか、ヤンがその生涯にわたって全否定したはずの「軍事独裁政権」そのものではありませんか。たかが「ヤンが高級軍人にありがちな利権と完全に無縁であった」という程度のことで、その構造的な問題が免罪されるはずがないでしょう。
このような構造的独裁権力者としての側面を持っていた自分の権勢を全く認識することなく、銀英伝2巻における救国軍事会議クーデターを引き起こしたお歴々に対して次のような主張を展開するに至っては、もはや笑止な話でしかないではありませんか↓
銀英伝2巻 P192下段
<「ヤン提督、吾々の目的は民主共和政治を浄化し、銀河帝国の専制政治をこの世から抹殺することにあった。その理想が実現できなかったのは残念だ。ヤン提督、貴官は結果として専制の存続に力を貸したことになるのだぞ」
「専制とはどういうことだ? 市民から選ばれない為政者が、権力と暴力によって市民の自由をうばい、支配しようとすることだろう。それはつまり、ハイネセンにおいて現に貴官たちがやっていることだ」
「…………」
ヤンの声はやわらかいが、言うことには容赦がない。>
今まで述べてきたように、ことイゼルローン要塞に関する限りは、ヤンもまた「市民から選ばれない為政者」だったのであり、また圧倒的な「権力と暴力によって市民の自由をうばい、支配しようとする」ことも構造的には可能だったのです。イゼルローン要塞の構造的な独裁権力者であるヤンは、救国軍事会議やゴールデンバウム王朝と「同じ穴の狢」でしかなく、しかも自分自身がすでに構造的な独裁権力者であったことの重要性を全く認識・自覚できなかったヤンが、救国軍事会議クーデターを批判したり、民主主義の擁護者であると言われたりしているのですから、何かどうしようもなく醜悪な喜劇を見ているような気がするのは私だけでしょうか。
むしろ私は、ヤンが「専制政治の象徴」として全否定してきたルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの方が、シビリアン・コントロールの原則を無自覚に踏みにじったり、個人的独走によって同盟を滅亡に追いやったり、エル・ファシル独立政府だのイゼルローン共和政府だのといった「排他的な独裁体制」の象徴的なシンボルとなったヤンよりも、「国民によって選出された為政者」としては遥かにマシな存在であるようにすら思えるのですけど。
それにしても、SF設定というのは恐ろしいものです。現代の常識では不可能とされているとんでもない戦法を、想像もつかない技術力と理論を駆使することで実現可能にしてしまうのですから。「永久要塞」と「移動要塞技術」を駆使すれば、銀英伝の基本的な戦争概念である「補給の問題」や「将兵の心理的問題」が全て解決してしまうという事実は、SF小説である銀英伝にとって、まさにストーリーのテーマを完全に崩壊させてしまう最悪の大穴でしょう。
まあ「軍事的ハードウェアを無盲目的に信仰しない」というのが銀英伝が訴えるテーマのひとつにあるのですが、それを差し引いても、要塞が持つ驚くべき軍事的ハードウェア技術に対する基礎認識と、それを実際に生かすための知恵がここまで欠如しているというのは大きな問題なのではないですかね。
-
- board4 - No.1728
冒険風ライダーさまの考察を拝見して
- 投稿者:イッチー
- 2002年04月14日(日) 17時23分
ふと思ったのですが、「神々の黄昏」作戦の時に、ヤンはイゼルローン要塞を放棄して、同盟軍救援に向かいましたが、イゼルローン要塞ごとワープして、同盟軍に合流すれば良かったんじゃ・・・。そうすれば、帝国軍はトゥールハンマーで壊滅的な打撃をうけて、撤退せざるを得なくなるんじゃなかったのかと。
第8次イゼルローン要塞攻防戦のあと、要塞ワープの方法について研究を怠った同盟政府国防委員会とヤンは怠慢のそしりをまぬかれないと思います。
- 親記事No.1664スレッドの返信投稿
- board4 - No.1729
Re:反銀英伝ネタかな?
- 投稿者:イッチー
- 2002年04月14日(日) 17時41分
> ことの推移を整理してみましょう。トリューニヒトはバーラトの和約で自分と自分の家族の安泰と引き換えに同盟の降伏を申し出ました。仲間も一緒に帝国に逃げられるようとりはからうのならともかく、自分だけの安泰をトリューニヒトははかったのです。
> しかし、ラインハルトはヤンに殺され、和約は反故となります。双璧は無辜の市民を害することもなく整然と帝国に帰っていきます。ラインハルトが殺された以上、トリューニヒトはおいてけぼりです。そのトリュー二ヒトが今度はそしらぬ顔でヤン討伐を命じても、自分たちを見捨てようとしたトリューニヒトの命令を誰が聞くでしょうか?おそらく、トリューニヒト派の軍人たちも言うことをきかないでしょう。ハイネセンポリス市内は市民暴動で騒然となるでしょうし、機を見るに敏なロックウェルあたりがトリューニヒトを始末するかもしれません。仮に殺されなくてもトリューニヒトは外患誘致罪かなにかで裁かれる可能性もあります。
> >
考えてみたら、同盟軍の主力はヤンと共にあって、惑星ハイネセンはがらあきなんですよね。そのうえ、アルテミスの首飾りもないし・・・。仮にトリューニヒトがヤン討伐を命じても、彼にはヤンに対抗する武力はありませんから、ヤン艦隊がハイネセンに近づくにつれて、同盟政府は恐慌状態になり、内紛が始まるでしょう。ちょうど、レベロ政権末期と同じ状態になるわけです。おそらく、ヤン艦隊の報復を恐れたロックウェルあたりがトリュー二ヒトを始末して、自己の安泰をはかろうとするのではないでしょうか?
そのあとはアイランズが後継首班に就任して・・・というシナリオですすむと思います。
ところで、私がビュコックだったら、ラインハルトを討ち取らないでおめおめ戻ってきたヤンに「なんであのとき、ブリュンヒルトを攻撃しなかった!この馬鹿もんが!我々は命などどうでもよかったんじゃ!」と叱り飛ばすと思うのですが・・・。
- 親記事No.1664スレッドの返信投稿
- board4 - No.1730
Re:反銀英伝ネタかな?
- 投稿者:赤の8番
- 2002年04月14日(日) 18時13分
イッチーさま、旅(?)に出ていたので手短に。
> 一・三は専制政治から民主制への揺籃期の出来事とおっしゃるかもしれませんが、二は明らかに近代民主国家で起こった出来事です。トリューニヒト政権が総辞職して、アイランズ政権が誕生するというのは、1960年の日本で岸内閣が総辞職して池田内閣が誕生したというレベルのことです。(政権与党は変わらない)それくらいのことは市民暴動で実行可能でしょう。同盟憲章には抵抗権も認められているそうですし・・・。(コミック版10巻でシャンゴ星市長が言っています)
この程度の政権移譲で「政府の停戦命令を無視してしまった軍司令官」が弾劾を免れえるかというところです。市民の反発が怖くてあからさまな弾劾ができなかったとしても、何らかのペナルティはあるでしょう。また新規に政権を握った側からしても、ヤン司令官は非常に怖い存在です。さて、どう扱うでしょうか。
#市民の力とかこの国の政治に夢も希望も持てない私見がだいぶはいっているかもしれません。トリューニヒトが失脚してももっと保身に走るヘタレ政治家が現れる程度にしかどうしても期待ができないので。岸内閣も池田内閣も結局たいしてかわらない、政権交代してみせただけ・・・うがちすぎですかね?
> あくまでも同盟領併合を目指すか、休戦を目指すかのどちらかだと思います。ラインハルトは全宇宙の統一という壮大な目標を持っていましたが、ラインハルトの幕僚たちはラインハルトに従っていただけで別に同盟を何がなんでも滅ぼそうという考えはないでしょう。それはロイエンタールが反乱を起こしたとき「おれが欲しいのは銀河帝国だ。同盟領は共和主義者にくれてやる」と言っていたことからもうかがえます。ただ、「ラインハルトさまの仇を討ってやる!」と幕僚たちが思い込んでしまったら、あくまでも同盟再侵攻を目指すでしょう。
> ただ、同盟領侵攻のコストが高いと思えば無理に同盟には侵攻しないと思います。ですから、同盟としてはフェザーンで暴動を起こさせて、帝国軍をそっちにかかりきりにさせることとイゼルローン要塞を再奪取して帝国軍の戦意を喪失させることが必要でしょう。
なるほどです、そこで思いましたが帝国の動揺を鎮められたタイミングで、国威掲揚の目的もあって、「ラインハルトの志を達成するために」同盟侵攻は考えるかもしれないですね。(さすがにあだ討ちでは大艦隊を動かせないでしょうから。)
フェザーンへの帝国と同盟の策謀合戦、になるのでしょうか。以外とラインハルト以前の両国のバランスに立ち戻るのかもしれません。
(すみませんコミック版は存じませんのでご容赦を)
ではまた。
- 親記事No.1664スレッドの返信投稿
- board4 - No.1731
Re:反銀英伝ネタかな?
- 投稿者:赤の8番
- 2002年04月14日(日) 18時18分
> 考えてみたら、同盟軍の主力はヤンと共にあって、惑星ハイネセンはがらあきなんですよね。~中略~> そのあとはアイランズが後継首班に就任して・・・というシナリオですすむと思います。
いえてますね、その筋が一番アリかと思います。
>
> ところで、私がビュコックだったら、ラインハルトを討ち取らないでおめおめ戻ってきたヤンに「なんであのとき、ブリュンヒルトを攻撃しなかった!この馬鹿もんが!我々は命などどうでもよかったんじゃ!」と叱り飛ばすと思うのですが・・・。
私も本を読んでいて「なんですとぉ!あんな戦争好きを生かしておいてはいかんじゃないか!!」と激怒しました(笑)。
- 親記事No.1664スレッドの返信投稿
- board4 - No.1732
Re:反銀英伝ネタかな?
- 投稿者:イッチー
- 2002年04月14日(日) 19時25分
> イッチーさま、旅(?)に出ていたので手短に。
赤の8番さま、おかえりなさい。
>
> この程度の政権移譲で「政府の停戦命令を無視してしまった軍司令官」が弾劾を免れえるかというところです。市民の反発が怖くてあからさまな弾劾ができなかったとしても、何らかのペナルティはあるでしょう。また新規に政権を握った側からしても、ヤン司令官は非常に怖い存在です。さて、どう扱うでしょうか。
>
機を見るに敏なトリュー二ヒトが自分の意のままになる政治家を後継に指名して、総辞職し、生き残りをはかる・・・ということはありそうですね。しかし、それでも、ことは国家の存亡ですから、ハイネセン市民はおさまらず市民暴動。さらに、トリューニヒト派に武力はないわけですから、ロックウェルあたりによるトリューニヒト派の政治家の粛清→アイランズ政権の樹立という方向に向くでしょう。
> #市民の力とかこの国の政治に夢も希望も持てない私見がだいぶはいっているかもしれません。トリューニヒトが失脚してももっと保身に走るヘタレ政治家が現れる程度にしかどうしても期待ができないので。岸内閣も池田内閣も結局たいしてかわらない、政権交代してみせただけ・・・うがちすぎですかね?
>
銀英伝とは話しがずれますが、私は池田内閣行以降、明白な憲法に対する挑戦を時の政府がおこなわなくなったというところに(それが言いか悪いかは別にして)岸から池田への政権交代の意義があったと思います。日本の政治(とマスコミ)がここまでだめだめになったのは良い政治家・良いマスコミ人を養成するのを怠ってきた有権者の責任でしょうね。
>> なるほどです、そこで思いましたが帝国の動揺を鎮められたタイミングで、国威掲揚の目的もあって、「ラインハルトの志を達成するために」同盟侵攻は考えるかもしれないですね。(さすがにあだ討ちでは大艦隊を動かせないでしょうから。)
> フェザーンへの帝国と同盟の策謀合戦、になるのでしょうか。以外とラインハルト以前の両国のバランスに立ち戻るのかもしれません。
おそらく、フェザーンに自治権が付与される以前のバランスに立ち戻るでは?仮にフェザーン暴動を鎮圧しても、同盟との貿易は途絶するは同盟内のフェザーン資本は同盟政府に接収されるではフェザーンはたちまち深刻な経済不況に陥るでしょう。銀河の経済の中心・フェザーン発の経済不況は帝国・同盟を直撃しかねません。ここでイゼルローンが再奪取されれば、帝国も休戦に向かうのでは?そうすれば、イゼルローン回廊も中継貿易の要地として栄えそうです。
もう一つの可能性はあくまでも帝国が弔い合戦に拘泥する場合です。イゼルローン要塞が再奪取されたあと帝国はフェザーンを軍事基地化して同盟再侵攻をうかがいますが、おそらく同盟もフェザーン回廊の出口に艦隊を配置するでしょうから、にらみ合いが続きそうです。その場合、両軍にらみ合った場合、事実上の休戦状態が続きそうです。
>
> (すみませんコミック版は存じませんのでご容赦を)
コミック版は小説で言うところの2巻で終わっています。コミック版10巻では小説ではないセリフをシャンゴ星の市長が次のように言っています。「同盟憲章の条文にある抵抗権『人民が権力の不正に対して実力で行使する権利』を行使しようというわれわれの意志を拒否しようというのですか?」
どうでもいい話ですが、ラインハルト・キルヒアイス・ジェシカの描写はコミック版の方が好きです。(笑)
- 親記事No.1726スレッドの返信投稿
- board4 - No.1734
Re:銀英伝考察3-2 ~銀英伝の戦争概念を覆す「要塞」の脅威~
- 投稿者:せらぴす改
- 2002年04月14日(日) 21時27分
掲示板に書き込みするのは、初めてです。
ふと思ったのですが、本国から遠距離に有る上、絶大な戦闘能力持ち、更には完全な自給自足が可能な要塞なんてのは、政治的にはあまり有り難くないのでは?
特に末期の同盟のように、政府や軍のモラルが低下している状況では、容易に軍閥化への道を辿りそうですし、イゼルローン共和国なんて、まさにそのものですよね。その場合、将兵の家族が在住してることは、分離への追い風になりそうな気がします。
詳しい描写はありませんでしたが、要塞が帝国の手にあった時は、居住者は軍人のみって感じでした、これは反乱を警戒していたと考えられないでしょうか?ましてこれが移動可能だったりすると、とんでもないことになりそうです。にしても、移動要塞の独立国家で某18禁ゲームが浮かんだ俺って・・・
後、イゼルローンは在日米軍基地がイメージとしてありそうな気がします。
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- board4 - No.1735
Re:銀英伝考察3-2 ~銀英伝の戦争概念を覆す「要塞」の脅威~
- 投稿者:tina
- 2002年04月15日(月) 11時55分
どうも。初レス失礼させていただきます。
いやぁ、なんというかすごいっすね。さすがというかなんというか。
精密な検証から非の打ち所のない論の運びまで、素晴らしいと思います。
なんかユーモアの量の差(悪意の差?)を除けば、空想科学読本みたい(笑)
ただ、ここだけは納得いかなかったので書かせて頂きます。
他は大方認めますが。
>これならまだガイエスブルク要塞を「イゼルローン占拠作戦の拠点としてしか活用していな」かったケンプの方が、ラインハルトやヤンよりも余程まともな用兵家であったとすら言えるではありませんか。「要塞特攻」に対して色々述べておきながら、結局あの2人は要塞対要塞の戦いから何も学んではいなかったことになるわけなのですから。
> これではせっかく「移動要塞技術」という素晴らしい画期的なアイデアを提唱したシャフトも、それに殉じて戦死してしまったケンプも浮かばれないですね(T_T)。
>
これは明らかに違うと思います。
ヤンについては、もちろん帝国軍によるフェザーン占領までは自分の要塞を破壊する必要がありません。
フェザーン占領以降はラインハルトと戦っていたためそんな作戦はムリ。
ヤンがハイネセンを脱出してからは、要塞再奪取の勝算もあり、定住する場所もないということで、破壊するよりは占拠した方がよい。
それ以降は死に至るまでイゼルローン回廊を大きく離れて戦ってはいません。
ということで、ヤンには少なくとも要塞を破壊する機会がなかった、と。
というより、ヤンはケンプ以前にアルテミスの首飾りを氷の塊(だっけ?)で破壊しています。
どちらかというと、ケンプの方がヤンに学ばなかったのでは?
ラインハルトはといいますと、ケンプの作戦失敗以降は、内政と謀略を主に行っており、その上もうこのころにはフェザーン占領の作戦が胸中にあったはずです。
フェザーンを占領すれば、ヤンがイゼルローンを離れる事は推測していたはずで、無血占領、ないしは犠牲が極めて少なくイゼルローンを占領できると分かっているのに、破壊するのは得策ではありません。
だから、ラインハルトがイゼルローンに対し、再度手間と暇をかけて破壊するという行為を行わなかったのには正当性があります。
再奪取されるまでは帝国軍の手にあったわけですから置いておいて、問題はその後です。
これから後の戦争は、ラインハルトの矜持によって行われたものであり、「ヤンと艦隊戦において雌雄を決する」という目的があるわけです。
その目的の定め方の是非はともかくとして、目的達成のためにそういう戦術をとらなかったのには正当性があります。
「同盟への侵攻」が目的のケンプの時とは明らかに違うわけです。
ただ、ヤンがイゼルローンから出てきた隙にその戦法を使い、帰る家をなくすというのはつかえたかと。
まぁあくまでも艦隊戦にこだわったのでしょう。
ロイエンタールの時も要塞戦は出てきません。ただ共和政府が通過を断ったらこの戦法が取られたかもしれないですね。
その後のユリアン達との戦闘も偶発的なもので、この戦法を準備する時間がなかったのでしょう。
と、いうことでラインハルトにもこの戦法を取る機会がなかったかと。
矜持で目的を定めること自体が「限界」であるとおっしゃられるかもしれませんが、そうすればこの戦争自体が無意味です。
戦術的には間違っていないということで。
だからやっぱりケンプは限界だと思います。
ただ、これだけ色々と言ったところで、「移動要塞」の可能性に気付かなかったのは確かに大きなミスですね。
ここから書くのは結構今思いついたことなんですが。
ただ、一つ考えられるのは時間やお金がなかったからかも。
ケンプが死んでからフェザーン占領までどのくらいありましたっけ?
同盟の財政は大赤字の上に、あの権力者達がこれを理解するかどうか。
やっぱそこまで実際は時間的・経済的余裕もなかったんじゃないかなぁ。
ってか思ったんですけど、イゼルローンを移動式にするってかなり大規模な工事ですよね。
ガイエスブルグの時は国内だからいいとして、イゼルローンは国境でしょ?
そりゃばれますよ・・・。速攻で死に物狂いで攻撃してきますよ・・・。
でも、なぜラインハルト側がやらなかったか。
もしかしたら、他の要塞は皆そんな自給自足の機能を有していなかった、もしくは規模がとても小さかった、とか。
銀英伝のゲームとかやってもあの二つだけ機能突出してますよね。
特にイゼルローン。補給可能なのがハイネセンとオーディンとイゼルローンとフェザーンだけになってたような気が。
同盟占領以降は、ラインハルトはいつの日か同盟を完全に征服するとしても、確実に勝てたわけで。
わざわざイゼルローンを移動要塞にして後々の問題を作ることもない、と判断したとしても正当です。
再奪取した後が問題ですよね。
なぜヤンは移動要塞にしなかったか。
一、やっぱどうやったって工事はばれる。工事中のイゼルローンで戦闘・・・。そりゃあないっしょ・・・。
二、政治的にも経済的にもまだ始まったばかりであった。
三、やっぱ時間の問題。
それとも、移動要塞にするにはなにか足りない自給物資があるとか!まぁこれは推測ですが(笑)
ラインハルト側は、やっぱラインハルトの矜持の問題では。
ってか結局議論はここに行き着くんですけどね。
ヤン亡き後も、やっぱさっき書いたように後々問題になりますよ。移動要塞にすれば。
そこまで強大な敵がいないので、リスクを犯してまでやる必然性を感じなかったのでしょう。
よーするに、「工事」という概念が抜けている気がしました。
だから、やっぱり銀英伝のなかでそういうプランが行われなかったのには正当性があるのでは。
ヤンやラインハルトがもうちょっと長く生きれば、そういう展開になったかもしれませんね。
と、ここまで弁護しましたが、やっぱ作者的には盲点だったんだろうなぁ・・・。
でも、ヤンやラインハルトはそうやって正当性に基づいて行動していたんじゃないかなぁ。
もうすでに作者を超越しているってことで(笑)
- 親記事No.1726スレッドの返信投稿
- board4 - No.1736
Re1728/1734:要塞あれこれ
- 投稿者:冒険風ライダー
- 2002年04月15日(月) 13時50分
レスする前に、まずはお二方とも、はじめまして。
イッチーさんの投稿はスレッド違いですが、こちらで返答させて頂きます。
>イッチーさん
<ふと思ったのですが、「神々の黄昏」作戦の時に、ヤンはイゼルローン要塞を放棄して、同盟軍救援に向かいましたが、イゼルローン要塞ごとワープして、同盟軍に合流すれば良かったんじゃ・・・。そうすれば、帝国軍はトゥールハンマーで壊滅的な打撃をうけて、撤退せざるを得なくなるんじゃなかったのかと。>
トゥールハンマーにそんな威力はないですよ。1回当たりのトゥールハンマー主砲斉射で敵艦隊に与えられるダメージはせいぜい1500~2000隻ほどしかなく、しかも1回の主砲斉射に時間がかかりすぎるため、エネルギー充填→主砲発射までの過程を2回ほど行った辺りの時間で、敵は完全に主砲の射程圏内から離脱できてしまいます。これでは件の同盟軍救援の際にイゼルローン要塞を持っていったところで、戦果は銀英伝本編と同様に敵に攻撃を止めさせ、後退させるのが関の山であまり意味がありません。
そもそも銀英伝考察3で述べたように、銀英伝における要塞が持つ「最強の武器」は「無限の自給自足能力」を使って敵に無制限の持久戦を強いることにあるのであって、主砲や外壁も、その絶大な攻撃力と防御力で敵をひるませ、自軍に対する攻撃をためらわせるという戦法を駆使するのが一番有効な使用方法です。要塞の主砲や外壁というものはいわゆる「決戦兵器」なのですから、極端なことを言えば「使わないこと」にこそ意義があるのです。
トゥールハンマーは「決戦兵器」ではあっても「万能の武器」などではありません。そのような兵器を前面に押し出して敵を積極的に攻撃するという戦法は、その隙を敵に乗じられてしまう恐れが高い極めて危険な手段であるように思えるのですが。
>せらぴす改さん
<ふと思ったのですが、本国から遠距離に有る上、絶大な戦闘能力持ち、更には完全な自給自足が可能な要塞なんてのは、政治的にはあまり有り難くないのでは?
特に末期の同盟のように、政府や軍のモラルが低下している状況では、容易に軍閥化への道を辿りそうですし、イゼルローン共和国なんて、まさにそのものですよね。その場合、将兵の家族が在住してることは、分離への追い風になりそうな気がします。
詳しい描写はありませんでしたが、要塞が帝国の手にあった時は、居住者は軍人のみって感じでした、これは反乱を警戒していたと考えられないでしょうか?ましてこれが移動可能だったりすると、とんでもないことになりそうです。>
ヤンにイゼルローン要塞を奪取される前の帝国では、それなりに軍閥化を防ぐ方法を考えてはいたように見えますけどね。それはイゼルローン要塞が陥落する主要因となった「要塞司令官と駐留艦隊司令官の並立問題」です。
軍事的には艦隊と要塞の相互連携を損ね、指揮系統に重大な支障をきたす事につながったこの同格司令官の並立問題は、しかし政治的に見ると、並立する司令官同士が互いにいがみ合い、相互に牽制し合うことによって、結果的に要塞の独占とそれに伴う軍閥化が防止されるという皮肉な側面を持っていました。ヤン以前のイゼルローン要塞が軍閥化しなかったのは、これが一番大きな原因と言っても良かったでしょう。
それと、ヤンによる奪取前のイゼルローン要塞に民間人が全く居住していなかったということはないでしょう。イゼルローン要塞に存在する諸々の施設や社会資本は要塞奪取前から存在するものですし、それらの施設の運営を軍から委託されていた民間業者も存在したでしょう。そういった人達だけで最低でも50~100万人ほどは存在していなければ、大都市としての側面も併せ持つイゼルローン要塞の居住環境自体がそもそも維持できないはずなのですが。
また、要塞内に家族を住まわせる手法に関しては、前線の兵士達の不平不満を抑え、司令官の管理下で家族を人質にすることによって、将兵の逃亡やサボタージュを事前に防止するというメリットもありますから、一概に悪いとは言い切れません。門閥貴族と平民階級の対立が激しい帝国では、むしろ貴族出身の司令官が平民出身の将兵に対する統制力を高めるために積極的に採用した可能性の方が高いのではないでしょうか? 特に前線のイゼルローン要塞では、目の前の同盟国境に前線の将兵達が亡命を企む可能性もありますしね。
確かにイゼルローン要塞が帝国側の手中にある時には、民間人についての記述が全くと言っても良いほど存在しませんが(イゼルローン要塞がヤンによって2度陥落した時のいずれも、軍人よりも数が多いはずの民間人の退去に関する記述が存在しない)、イゼルローン要塞のそもそもの成り立ちが帝国側にあることを考えれば、要塞が帝国の手中にあった時も内情はほとんど同じであったと見て良いのではないでしょうか? そうでないと「ではなぜ無用の長物であるはずの生活・娯楽施設や社会資本がイゼルローン要塞内に存在するのか?」という新たな疑問が出てきてしまいますし。